第488話 たまには違うメンバーで

 10月24日土曜日、午後8時24分。


〈Zero〉『ちっす』

〈Daikon〉『こんばんは』


 予定通り昨夜は割と遅くまでだいと一緒にスキル上げに勤しみ、寝て起きてちょっとでかけたりして、戻ってきた我が家で一緒に夕飯を食べて迎えた、土曜夜。

 俺たちは二人揃ってログインし、いつものようにみんなに挨拶をした。


〈Jack〉『やっほーーーーw』

〈Gen〉『おうwいやぁ話題の人の登場だなw』

〈Loki〉『一昨日はゼロさん祭りでしたね!w』

〈Yukimura〉『さすがゼロさん』

〈Senkan〉『学校でも生徒に言われてたなw』

〈Zero〉『いやぁ、それほどでもw』

〈Daikon〉『調子乗らないの』


 そしてログインして早々、今ちょっとした時の人となっている俺に、分かる者が声をかけてきて——


〈Yume〉『ゼロやんなんかあったの〜?』

〈Pyonkichi〉『ついに炎上したのか?』

〈Hitotsu〉『ええっ!?お兄ちゃん何やったの!?』

〈Earth〉『いつかやると思ってたよ☆』

〈Zero〉『ええい!適当なこと言うな!それについにってなんだついに!』

〈Zero〉『そしてやると思うなおい!』


 分からない者は分からない者なりに聞いたりボケたりしてくるわけだが、なんで大和が分かっててぴょんが分かってないんだろうとは、思っても口には出しません。


 と、後ろでだいがくすくす笑ってしまうようなそんなやりとりをしつつ、丁寧にロキロキが俺の功績を伝えてくれて、みんなに俺がいかに偉大かが伝わった。


 あ、ちなみに先日色々あったゆめだけど、この前の火曜日も今日もご覧の通り割と普通な感じなので、俺は密かに安心してたりなんかする。

 ギスギスしたりとか、気まずかったりとか、そういうのあるのかなってちょっと思ったりもしたんだけど、そこはやはり大人だからか、変に拗れたりはしてなさそう。

 だから俺もあまり意識せずにゆめとは話すことができていた。

 たぶんぴょんが上手く立ち回ってくれてんだろうな。ここは感謝。


 っと、話が逸れたが、ロキロキが俺の功績を伝えて終わったところで。


〈Yukimura〉『さすがゼロさん』

〈Jack〉『ゆっきーそれさっきも言ってたよーーーーw』

〈Yukimura〉『むむ?』

〈Earth〉『でもすごいね☆僕らのゼロやんがLAのヒーローか☆』


 改めての感想か、安定のゆきむらからのお褒めの言葉がやってきて、あーすがそこに便乗する。

 だがここであーすが入ってきたことを深読みしたロキロキが——


〈Loki〉『あ、でもまだアーチャー入り編成は攻略出来てないんすよね・・・』


 なんて、明らかにあーすを気遣うように歯切れの悪い言い方をしたのだが——


〈Earth〉『そうなのー?』


 と、当の本人はそれが気遣いということにも気づいていないというか、本当に何にも感じていない様子を見せ、俺はモニターの前で苦笑い。

 もちろんこれがあーすという奴なのは、ある程度付き合いが長くなれば分かるだろう。

 〈Earth〉あーちゃんの可愛さを堪能することが、あーすにとってのLAの醍醐味なのだから。

 MMOへの意識は千差万別。強くなることを目的にしてゲームとして満喫するもよし、コミュニケーションツールとして満喫するもよし、何かしらの自己満足のために遊ぶもよし。

 そこは人が口を挟むところではないのだ。

 だから。


〈Zero〉『気遣うのはやめとけロキロキ。あーすはそれを言われてもショックを受けたりしないっつーか、そもそも気遣われる必要性が分かってないから』


 豚に真珠、猫に小判、あーすに強さ。俺はあーすとロキロキとではLAに対する意識が違うことを教えてやろうとした。

 もちろん俺の発言の意図を理解できないだろうあーすは——


〈Earth〉『んー?』


 と、どういうこと、みたいなリアクションを示してくる。

 うん、予想通り。

 これでロキロキにも、何となく伝わるんじゃなかろうか。


〈Senkan〉『装備とか興味ねーのかよw』

〈Earth〉『可愛いやつ?』

〈Zero〉『アクセサリーだから見た目反映なし』

〈Earth〉『じゃあいいかな☆』

〈Loki〉『ええ!?』

〈Zero〉『まぁこういうやつだって諦めろロキロキ』


 そしてロキロキがあーすを理解するにお誂え向きの流れが展開された。

 ちなみに俺の背後では少し前から何かしらだいがカタカタとキーボードを叩いているのだが、ギルドチャットには何も表示されないから、誰かと個別で話しているのだろう。

 少しだけその音に意識を送り、その音が止まったタイミングで——


〈Pyonkichi〉『あ、諦めロキロキ!?面白い;;』

〈Hitotsu〉『!!』

〈Zero〉『無駄なログやめい!!』


 驚くほどくそしょうもない発言が飛び出して、俺は思わずツッコミを入れざるを得なくなってしまったわけである。

 なるほど、だいの音が止まったってことはぴょんと喋ってたってことなのかな。

 っていうか、なんでうちの妹は今の発言にハッとしてんだ……。

 はぁ、なんか、真実がぴょんみたいになってったら……やだなぁ。

 

 と、超不確定な想像に俺が一人げんなりしていると——


〈Yume〉『調べたらけっこういい装備なんだね〜』


 さらっと話題を変えるように、ゆめがゲームの話に戻してきた。

 ほんともう、これまでの話題に対して斧を振り下ろして、真っ二つにするくらい清々しい転換だ。

 そんなゆめの発言に対し——


〈Daikon〉『うん。いい装備。ゆめまだ取ってない?』

〈Yume〉『うん〜、インするの火曜ぶりなの〜』

〈Jack〉『ゆめならすぐ取れるんじゃないかなーーーー』

〈Loki〉『そっすね!リダとジャックさんとゆめさんで行けば、1戦5,6分で周回出来ると思うっす!』

〈Yume〉『お〜』

〈Gen〉『いくか!w』

〈Jack〉『りょうかーーーーいw』

〈Yume〉『あざま〜す』


 ゲームの話題になって活気づいたロキロキが戻ってきて、リダがじゃあ行くかと提案し、リダ・ジャック・ゆめのパーティが結成する。

 となると、今日はみんなこの流れ、か?


 そう俺が思っていると。


〈Senkan〉『グラップラー編成は?w』


 便乗するように大和がこの話に乗ってきたので、俺もこの流れを守るように、大和の質問に対する答えをカタカタキーボードに打ち込んで。


〈Zero〉『グラップラーなら武士とタゲシーソーして、ヒーラー寄りのウィザードに攻撃と回復兼ねてもらえば、割と安定して倒せる』


 と、あえて個人名を外して言ってみた。


〈Pyonkichi〉『つまりあたしとゆっきーか!』


 だが、予想通り自分の役割に気づいたぴょんが現れて、俺は狙い通りと心の中でドヤ顔です。


〈Yume〉『ヒーラー寄り・・・?』

〈Yukimura〉『私はもう取りましたけど、手伝いますか?』

〈Senkan〉『さんきゅーゆっきー!助かる!』


 で、しれっと疑問を浮かべていたゆめは置いておき、大和たちもパーティ結成が決定する。

 こうなると、今日の活動は俄然これ、だな。


 あ、でも今日嫁キングいないから、2人余る……真実はレベル的にまだ厳しいし、これはだいとロキロキがあーす盾で頑張るのかなー、となると、久々に妹となんかする流れかなー、と、そう思った矢先——


〈Loki〉『あ、じゃあゼロさん編成のロバー役、俺やってみたいんすけど、付き合ってもらえるっすか!?』


 予想外にもロキロキから俺にお誘いが。

 これを受けて俺はちらっと後ろを振り返ると——


「行ってらっしゃい」


 と、寂しそうでもなんでもなく、ものすごーく淡々とした感じのだいのコメントが返ってきたので、俺は軽く苦笑い。

 でもまぁ今日はギルドの活動日だもんな。だいとはここ数日ずっと一緒だったんだし、たまにはいいか。

 そう判断して。


〈Zero〉『いいけど、あと一人アタッカー枠どうする?』


 と、ロキロキの提案に応えつつ、俺は残る一人を尋ねてみた。

 俺のガンナー&ロバー作戦は、残り1枠は保険的に盾役ほどではないにせよ、多少は殴られても平気なファイターが望ましいのだ。

 まぁだいなら装備充実してるから、アタッカーロバーで万一のマラソン要員として申し分はないのだけど、それだと全員既に装備は取得済みだから、ロキロキの経験が稼げるだけで、正直あまりうまみがない。

 ならば誰か未取得の奴を、と思ったが、真実はサポーターしか出来ない上にレベルが低くて厳しいし、あーすはたぶん装備に興味ないだろう。

 となると、結局だいしかいないのか、と思ったのだが——


〈Loki〉『あーすさんいきましょ!!』


 高らかに宣言された、残り一枠の指名宣言。


〈Zero〉『え』

〈Jack〉『おーーーー、やってみてよーーーーw』

〈Gen〉『動画撮ってw』

〈Earth〉『う?あーちゃんをご指名?』


 そんなロキロキの宣言を受けて、俺は驚き、あーすを誘う意味を悟ったジャックとリダが盛り上がり、あーすがおそらくきょとんとした様子を見せた。

 なぜあーすを誘ってそんな反応が起きるのかというと——


〈Loki〉『そっす!さっき言った通りアーチャー編成はまだ未攻略ですし、やりましょ!』


 ってことである。

 しかし風見さんみたいなアーチャーガチ勢ならまだしも、あーすだぞ? 正直厳しいだろうというのが、俺の判断だった。


〈Zero〉『いやー、厳しくないか?』


 そんな思いで俺は柔らかめに無謀だと伝えてみたが——


〈Loki〉『ガンナー編成の立役者のゼロさんがいれば、きっと解法見つかるっすよ!w』


 と、おだてるように、あおるように、ロキロキがそんなことを言ってきて——


義妹いもうとの面倒は私が見ておくよ」


 なんて、だいから気の早い言葉が告げられた。

 でもまぁ、ここまで言われたらダメ元か。


〈Zero〉『しゃーねぇ、やるかー』

〈Earth〉『お?おー?』

〈Daikon〉『じゃあ、いっちゃんは私とデートしよっか』

〈Hitotsu〉『いいんですか?やったー!』

〈Pyonkichi〉『で、どこいきゃいんだ?』

〈Jack〉『そっからかーーーーw』

〈Gen〉『みんなで集まって移動しようw』


 と、さすが【Teachers】のノリというか、そんな感じでさらっと本日の活動が決定した。


「頑張ってね」

「おう、真実のことよろしく」

「ん、任された」


 そしてオンライン上でもオフライン上でも会話が出来る愛しき人と軽く言葉を交わし、俺はロキロキからの誘いを受け、あーすとの3人パーティを結成するのだった。

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