第487話 ドヤドヤ
『……疲れた。馬鹿』
「あ、あはは……でもなんつーか嬉しくてさ」
『それは分かるけど、ちょっと人気者すぎじゃない?』
「いやー、俺もあんなに囲まれるとは思わなくてさ」
『これで明日私が寝坊したら、明日ゼロやん私に何かスイーツ買ってきてね?』
「それはもうお任せあれ。でも寝坊しちゃダメだぞ?」
『ん、分かってるよ。……でもほんと、勝ててよかったね』
「だなぁ。手伝ってくれて感謝感謝」
『ううん、リチャードさんの力と、ゼロやんの作戦がよかったからだよ』
「いやいや、1番はだいが俺の作戦信じて完璧に動いてくれたからだよ」
『いつだって信じてるよ?』
「あ……うん。だな。知ってた」
『でしょー?』
「うん。……でも、ほんとありがとな」
『ううん。じゃあ明日はー……私のスキル上げね?』
「おうよ」
『じゃー……またあした、ね』
「ん、おやすみ。寝坊しないようにな?」
『うん……おやすみ。大好き……』
「ん、俺も好きだよ」
『うん……』
10月22日25時14分、つまり10月23日午前1時14分。
曜日が木曜日から週末金曜日に変わったばかりの夜の中、俺とだいの通話が終了した。
最後の方なんかは完全に睡魔に負けて舌足らずな可愛い声を出すだいになってたけど、こんなに遅くまで付き合ってくれただいへ、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
なお、リチャードさんとの共闘を終え、リチャードさんの叫び声に呼応した奴らが俺を讃えだし、俺もそれに応えた後、俺はしばらく称賛してぬる声や質問してくる声に囲まれた。
その多くは俺の知り合いだったけど、中には見たことあるけど話したことない奴や、ほんとに知らない人もいて、そういった人たちとのオープンチャットによる会話が生まれたら、なかなか抜け出せなくなってしまったのである。
無論俺の知り合いが多かったけど、だいだって色んな人に話しかけられ囲まれて、簡単にログアウト出来なくなったのは言うまでもない。
で、そんなメンバーたちとの話は1時間ほど続いたわけだが、だいにこっそり『眠い』とメッセージをもらった俺がようやく時間に気づき、俺が「流石にもうこれ以上は」と盛り上がる会話をぶった斬って、ようやくログアウトするに至ったわけである。
もちろんそのまま寝ることは出来たんだけど、LAの中で何度もありがとうも伝えていたものの、直接だいにお礼を言いたかったから、夜遅く、だいが眠いのは分かっていたが電話をかけてみた次第である。
そんな電話が、さっきの内容だ。
いやしかし眠くて無意識に甘えた声になってただいの声も可愛かったな……。
明日は週末だから、仕事終わればリアルでも……。
あー、いい日だった!
そんな幸福な余韻に包まれながら、俺は明日も無条件にいい日になるだろうと決め込んで、眠りの世界へ向かうのだった。
☆
「ってことで良い週末を!」
「「「はーい」」」
「じゃ挨拶して終わるぞー」
「きりーつ、きょーつけー、れー」
「「「さよーならー」」」
いつもの流れで終わった、2年E組の6限後の帰りのHR。このゆるい雰囲気すら、最早慣れきって何も違和感はないし——
「倫ちゃん1週間おつかれさまっ」
「おう。市原もおつかれさん」
「私も疲れたー」
「はいはい、十河もお疲れ様でした」
「あたしに対して言い方冷たくなーい?」
「ふっふっふ。そこは私への愛と菜々花ちゃんへの愛の差だよっ」
「起きてる時に寝言言うなバカ」
「ふぇぇぇ!? あ、でも知ってる倫ちゃん? バカっていう方がバカなんだよ?」
「すごいな市原博識の天才だな」
「ふっふっふ、まぁね! でもはくしきってなーに?」
「やっぱりバカじゃねーか」
「倫ちゃんあたしは博識分かるよー?」
「やめとけ十河。こいつと肩を並べるのは自分の格を落とすだけだぞ」
なんて感じで、HRが終わった後、教卓の前の二人がすぐに帰ったり部活に行ったりせず、俺に話しかけてくるのも最早普段通り過ぎて、最早何かを思うこともなくなっていた。
……なんか最早だらけだけど、つまるところ全くもっていつも通り、って感じだったのだ。
こんな話をしても結局市原は相変わらず可愛い顔に笑顔を浮かべていて、たぶん週末というのに全然疲れはないんだと思う。……まぁ元々体力オバケなのに加え、授業中によく
で、対する十河は市原と違って本当に眠そうな顔を浮かべているけど、こいつの場合はたぶん夜更かしが原因に違いない。授業についてきてるし、授業内容の理解はあるみたいだが、授業中もウトウトしてる場面は多い。
……あれ? この二人がそうってことは、うちのクラス、最前線の生徒が寝てる無礼クラスってことじゃね?
とか、目の前のJK二人と話しつつ、そんなことを思っていると——
「先生っ先生っ北条先生っ!」
「ん?」
俺たちのティッシュで折り鶴を作るより生産性のない会話に割り込むように駆け込んできたのは、他クラスの生徒ながらLAをプレイしている生徒たちだった。
俺が名のあるプレイヤーなのは最早こいつらには周知の事実で、何かあるごとに俺に質問したり俺を褒め称えたりする素晴らしい生徒たちなのだが、そいつらの表情が、何か慌てた色を浮かべていた。
「今更新されたLAC見た!?」
そして伝えられた第一声に、俺はちょっと呆れた顔を浮かべてしまった。
「ご覧の通り今俺は絶賛仕事中だったのに、見たと思うか?」
「えっ、あっ、そりゃそうか! じゃあこれ見てよっ」
「ん?」
スマホを職員室の自席に置いてきた俺に不可能なことを言ってきた生徒へ俺が冷静に突き返すと、走ってきたうちの一人が俺に自分のスマホの画面を提示する。
そこには——
『New!! 魂取り ガンナー入り編成攻略について』
と題されたトピックがLACのスマホ版サイトに挙げられていた。
あ、ちなみに魂ってのは昨日俺が取ったアクセサリーの名前で、俺が取ったソウルオブガンのように、全武器対応の相場がソウルオブ〜となってるためにユーザーたちに付けられた装備の呼称だぞ。
で、そのトピックを開いた先のページには、昨日俺が示した戦い方が文字起こしされる形で載せられていて、〈Richard〉、〈Kumon〉、〈Cecil〉の3人パーティによる攻略動画も載っていたのだが、今回の記事の書き方は、いつもの【Vinchitore】の情報の載せ方とは少し書き方が異なっていた。
何故なら——
『※作戦提供は【Teachers】の〈Zero〉氏』
『※動画は【Vinchitore】による検証動画』
との書き方が、されていたから。
「先生これ考えたの!?」
「まぁな」
そしてそう聞かれたから、シンプルにちょっとドヤって答えたら——
「この戦い方とか、記事読んでても意味わかんねーんだけど!?」
「なのに動画だと上手くいってるのもっと意味わかんないんだけど!?」
「どうやって考えたの!?」
とまぁ、怒涛のようにあれこれ聞かれて、結局はめっちゃ称賛される、いつもの流れがやってきた。
そしてなんのこっちゃな顔を見せる市原と十河をよそに、俺はとりあえず思いっきりドヤってみせる。
しかしまぁ、【Vinchitore】にもこうもしっかり俺の功績を讃えられるとは……頑張ってよかったな!!
そんな愉悦に浸る俺。
だがこの一件がこの後あんなことを引き起こすなんて、この時の俺は夢にも思っていなかったのだった。
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