第486話 この世界がやっぱり好きだ

〈Richard〉『しかしはえーな!w』


 エリアが切り替わり、人混みでごった返す薄暗い洞穴の中に逆戻りした開口一番は、今回の功労者であるリチャードさんだった。

 もうすぐ日付が変わる10月22日、23時47分。信じられない人との共闘は、わずか212秒で終わりを迎えた。

 あまりのあっけなさに、勝利直後より何だか非現実感が増してきて、俺は自分の装備欄に増えた新しい装備を見て、ようやくこれが現実だと再実感する。

 新装備の性能は聞いていた通り武器性能の底上げで、攻撃力+3%、スキルダメージ+3%、命中率+3%、クリティカルヒット率+3%、倍撃確率3%、時々MPを消費しない、というものだった。攻撃に関する項目が軒並み3%上昇はこれまでになかった高性能装備だし、倍撃確率付与も今まで銃になかった性能だ。そしておそらく3%の確率であろう時々MPを消費しないというのに至っては、今回の装備で初めて見た。

 もちろん性能としては情報サイトでも、だいが取得したのも見てたから知ってはいたんだけど、自分の装備として確認するのは、やはり別格な気がしたね。


〈Daikon〉『ありがとうございました』


 そんな再び湧き上がってきた勝利の余韻に浸る中、だいがリチャードさんにお礼を言う。

 そのログに、俺の脳も周りを見ろと言い出した。


〈Zero〉『ほんと、ありがとうございました!タイム更新はリチャードさんのおかげですよ!w』


 ってことで、俺も合わせてお礼を言う。

 思わず言葉が弾むのは、それだけ気分がいいからなのは言うまでもない。


〈Richard〉『いやいやw』

〈Richard〉『終わったからこそ言うけど、初めて聞いた時はイかれた作戦だと思ってたからw』

〈Zero〉『え!?』


 だが、始まる前はそんな素振りも見せなかったことを急にカミングアウトされ、俺はモニターの前でもリアルに声を出し、その声を〈Zero〉にも代弁させた。


〈Richard〉『考えた奴意味わかんねーって思ってたw』

〈Zero〉『ま、マジすか・・・』

〈Richard〉『でも単発スキル当てたら敵が移動する仕様はマラソンすることで帳消しだし』

〈Richard〉『今回のボスがトカゲタイプなのに珍しく鈍足タイプなのを利用した、見事な作戦だとだったなって、今なら思うw』

〈Richard〉『くもんも聞いたら驚くと思うぜwその作戦立案能力、うちに欲しいくらいだわw』

〈Zero〉『いやいやw』


 だが、結局は俺の作戦を褒めてくれて、満更でもない気持ちが戻ってくる。

 とはいえ、さすがに褒めすぎだとは思うけど、なんて思ってると。


〈Daikon〉>〈Zero〉『喜んでるくせに』

〈Zero〉>〈Daikon〉『うるせぇw』


 パーティチャットの間隙を縫ってだいからの個別チャットによる冷やかしが入って、俺はそれにツッコんだ。

 でもこれはきっと、だいも嬉しい気分だからこその反応だろうな!


〈Richard〉『しかし空砲かー。セシル使ってんのほとんど見たことなかったから気づかなかったけど、ヘイト上昇スキルの中でもそれって最長射程だろ?』

〈Zero〉『そうですね。通常攻撃よりは短いですけど、なかなかのロングレンジですね』

〈Richard〉『これは新たな基本戦術になるかもな!w』

〈Zero〉『いやいやw普通の戦闘じゃ一度アタッカーに取られたタゲなんか、早々取り戻せませんてw』

〈Zero〉『殴られたらすぐ死にますしw』

〈Richard〉『あ、そりゃそうかwでも報告の時、とにかくすごかったってくもんにドヤるわw』

〈Zero〉『そこはもうご自由にw』


 そして俺の作戦に対する話に戻り、リチャードさんが調子のいいことを言ってきたが、今自分でも言った通り今回の作戦は今回のボスだから何とかなったに過ぎないのだ。

 そもそも【Vinchitore】はボスについて早々に攻略どころか詳細情報もどんどん出してきてたし、真にドヤるべきはリチャードさんたち【Vinchitore】なのだ。 


 だが。


〈Richard〉『でもほんと、二人が上手いってのはルチアーノから聞いてたんだけどさ』

〈Zero〉『え』

〈Richard〉『ゼロさんマラソン中ちょこちょこ止まってボスとの距離調整したり、ルート修正したり、移動速度アップ装備で調整してたろ?』

〈Richard〉『盾もやってんの?ガンナーでマラソン慣れしてるって異常だぞ?w』

〈Zero〉『あー・・・w』

〈Richard〉『だいさんも一個一個の動き正確だったなー。あの戦闘の中でトリックの射程ギリギリ見極めてたし、被ダメ抑えたり使用スキルごとに微妙にアクセとかの装備変更してたろ?作ってるマクロの数エグそうだなーたぶんw』

〈Daikon〉『よく分かりましたね』

〈Richard〉『元【Mocomococlub】なんだっけか。いやー、今更ながらもこさん悔しいだろうなー』

〈Zero〉『そこまで過大評価されるほどじゃないですって』

〈Richard〉『いやいや。しかしほんと、たまには外の奴と遊ぶのも面白いって思い知らされたわ』


 と、本当にこれでもかと褒めてくれたので、俺はまたしても自分の頬の筋肉が緩むのを感じていた。

 褒められるのは、嬉しい。

 まして格上の人からとなれば、尚更だ。


 ……そういや、【Vinchitore】の人って一部を除いて基本的に相手を称賛する力が高い人多いよな。

 ……そういうとこも、幹部の素養に入ってんのかな。

 と、そんなことを思っていると。


〈Richard〉『セシルのこと悪く言えねーや』

〈Zero〉『セシルのこと悪く言う?』


 不意に予想外の名前が出てきて、俺は思わず聞き返した。

 その名を俺のログに載せるのは、やはりまだ少し違和感があった。


〈Richard〉『ああ。最近ちょくちょく野良募集とかに行くようなっててさ、色んな人と遊ぶと新たな発見があるんだよーなんて、よく言ってんだよな』

〈Zero〉『へー・・・そうなんですね』


 でもそんな違和感を伝えられるわけもなく、俺は適当な相槌で会話を濁そうとしたのだが。


〈Richard〉『なんかあれだろ?知り合いなんだろ?とりあえず、お先にってドヤっときなよw』

〈Zero〉『いやいや、それは悪いですって』

〈Richard〉『ま、俺がセシルにもドヤってくるけどな!w』


 と、何とも言えないことを言われ、一人気まずい気持ちになったりした。

 でもあれか、リチャードさんの口ぶり的に俺とあいつの関係は、詳しくは知らないみたいだな。

 ……まぁ、さすがに中の人の個人情報だし、そこまで詳細には伝えてないか。

 とはいえ、ルチアーノさんとくもんさんとやまちゃんと、他の幹部勢は割と知ってんだよなぁ……。

 うん、やはり【Vinchitore】には、触らぬ神に祟りなし。


 そう思った、矢先だった。


〈Richard〉『大剣・銃・短剣の編成で勝ったぞー!!!!!』

「なっ!?」


 それまでの青い文字パーティチャットから、急にリチャードさんの名前と言葉がオレンジ色エリア内全体告知になる。

 その発言に、俺は思わずリアルで椅子から立ち上がって驚いた。

 

〈Richard〉『実際の攻略動画と攻略の流れは戦闘分析後、LACにアップするからな!!!』

〈Richard〉『ガンナー共よ、待ってろよ!!!w』


 そしてこのリチャードさんの叫び声に、声こそ聞こえないのに、明らかにみんながざわつき出したのが、何故か分かった。

 そして名前を出されたわけじゃないのに、どんどん募る気恥ずかしさ。

 戦う前は俺が新たな攻略法を世界に刻むんだとか思ってたのに、いざその時が来たと思ったら、恥ずかしさが噴水のように溢れてくる。

 そんな中——


〈Reppy〉『ゼロやんおめ!!!www』


 と、リチャードさんと同じ色でのチャットが現れたのを皮切りに——


〈Limon〉『おめでとー!!!w』

〈Kodama〉『☆祝・撃破☆』

〈Rei〉『おめでとですー』

〈Yamuimo〉『おめっとー!!!w』

〈Yakob〉『ゼロやんかよ!wおめwwwww』

〈Topgun〉『ガンナー朗報きたーーーおめでとありがとーーー\(^o^)/』

〈Taro〉『その話直接聞かせろーーーwwwでもおめでと!!』

〈Loki〉『おめでとうございますっす!』

〈Sabakan〉『おめでとーーー!』

〈Ikasumi〉『その編成意味わかんねーぞー!!おめでとー!!w』

〈Star〉『☆お☆め☆で☆と☆う☆』

〈Honeysoda〉『さすがだなーwおめでと!』


 と、ちょっとした祭りのように、断続的に叫び声が溢れていって、このエリアにいる人たちみんなの画面が、オレンジに染まっていった。

 この声の主たちはフレンドだったり知り合いだったりギルメンだったり知らない人だったり、その種類は多様だったけど、いつの間にか恥ずかしさより嬉しさが上回りだしてきて——


 俺は気付けば、キーボードを叩いていた。

 そして——


〈Zero〉『勝ったぞー!!リチャードさんとだいに感謝!!!みんなもありがとー!!!!!』


 と、叫んでいたのだった。

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