第485話 早過ぎた終わり
〈Zero〉『いきます!』
〈Daikon〉『よろしく』
〈Richard〉『っしゃい!』
突入直後、俺たちは威勢のいい言葉を発しながら即戦闘を開始した。
事前打ち合わせは良好……というか、俺の伝えた戦略に対してリチャードさんはいくつかの確認と相槌を打つのみで、作戦に対して自分の意見を言うことも、疑問を呈することも、驚きを見せることも何もなかった。
言ってくれたのは『それじゃあ俺はこうするな』という自分の予定プレイのみ。
そのため打ち合わせはものすごくスムーズに進んだからこそ、10分程度の確認で突入出来ているわけだが……何というか、このスムーズな突入が俺には気持ち悪かった。
俺の考えた作戦はどう考えたって異端な作戦だ。回復を考慮せず、ヘイトバランスが崩れれば立て直しはかなり困難。
本当に出来るのか?
そう問い返されて当然の作戦なのに、リチャードさんはそれをしなかった。
まるでこの作戦なら勝てると分かっているような、勝ち馬に乗りにきたのだと自信を持っているような、そんな様子なのだ。
こうも信頼されると、逆なむず痒いというか、不安になるな……でも、見せつけないと……!
リチャードさんの様子に、俺は不安と高揚感の二つの感情を抱きながら、コントローラーを持つ手に力をいれた。
〈Richard〉『9時完了!』
〈Daikon〉『3時
そして一発目の空砲をいれ、ギリギリまでボスを引きつけて、二回目の空砲をいれて——
〈Zero〉『9時から!』
これまでやっていたように6時の方角から時計回りに俺は走り始めた。
先に攻撃チャンスを待つのは刃が燃えるような紅色をした斧を構えるリチャードさんから。
その特徴的な武器は、【Teachers】でもゆめが所持している現状最高峰の斧武器であるグラムロックだった。
だが美人エルフのゆめが待つ姿と、体格のいいスキンヘッドの男が、重厚感ある鎧を纏って構える斧はその迫力が段違い。
何というかもう、見た目からしてリチャードさん強そうだわ。
そんなことを思いながら俺はボスを引き連れリチャードさんの前を通過した直後——
〈Richard〉『ボディブレイク>>> Feroz Lagartija』
というログともに。
〈Richard〉のボディブレイク>>>>>>Feroz Lagartijaに2437のダメージ!
と、初手から着実に与ダメを稼ぐのが確認できた。動く敵に対して決定から発動まで絶妙なラグがあるスキル行使においてもさすがの安定感。
そのプレイにも選択したスキルにも、俺は流石と舌を巻く。
これと比較するのは、さすがにレッピーに申し訳ないよな。
そんなことを思いつつ、俺はしっかり空砲でヘイトを上げて、今度はだいのいる3時方向に向かうと——
〈Daikon〉『トゥワイススティング』
と予定通りのログが現れて——
〈Daikon〉のトゥワイススティング>>>>> Feroz Lagartijaに1859のダメージ!
と、これまた着実なダメージが刻まれた。
ちなみに前回と同じスキルを使ってるのに絶妙に今回のだいの方が威力が高いのは、さっきリチャードさんが使ったスキルのおかげ。ボディブレイクは斧の初期スキルではあるが、相手に防御ダウンのデバフを与えるスキルなのである。
重装備系アタッカーの中でも大剣は高威力の技が多いが、斧はこうしたデバフ付きのスキルも多いのが特徴だぞ。
おかげでこれで5%弱を削れたわけだし、これは……!
だいのスキルの後もしっかり空砲を入れながら、俺は自分の想像より早く戦闘が進むことを予感する。
そして2周目——
〈Richard〉『タイフーンアタック>>> Feroz Lagartija』
〈Richard〉のタイフーンアタック>>>>>>Feroz Lagartijaに3476のダメージ!
〈Zero〉の空砲>>>>> Feroz Lagartijaにヘイト上昇の効果!
〈Daikon〉『ゴージアウト』
〈Daikon〉のゴージアウト>>>>> Feroz Lagartijaに2435のダメージ!
〈Zero〉の空砲>>>>> Feroz Lagartijaにヘイト上昇の効果!
と、またしてもいい塩梅での攻撃が入る。
おそらくこれは二人とも、どのスキルがどの程度のダメージを与えるか予測した上でのチョイスだろう。
そしてリチャードさんがヘイト管理をしながらも、比較的強めの攻撃をしてくれるから、だいも遠慮なくスキルを行使できる、理想的な状況が揃っていた。
〈Zero〉『10%!』
そして俺は3周目を走り出しながら、ここまで削っただいのHP量を伝達する。
まだ戦闘開始30秒ほどでこれは、正直かなりの早さだった。
〈Richard〉『空砲よろ!』
そして3回目の攻撃チャンスを迎える前、リチャードさんから指示が来る。
〈Richard〉の攻撃>>>>> Feroz Lagartijaに891のダメージ!
〈Zero〉の空砲>>>>> Feroz Lagartijaにヘイト上昇の効果!
〈Zero〉『k』
敵の位置どりを気にしながらだったので俺は事後承諾する形で予定通りヘイトを上昇させたが、これはきっとリチャードさんの肌感覚によるヘイト調整なのだろう。
次いでだいは——
〈Daikon〉『ピアシングスパイク』
〈Daikon〉のピアシングスパイク>>>>> Feroz Lagartijaに2847のダメージ!
〈Zero〉の空砲>>>>> Feroz Lagartijaにヘイト上昇の効果!
と、変わらずスキルを行使していたが——
〈Richard〉『GJ!見えてるねぇ!w』
と上機嫌なログが現れた。
たぶん、リチャードさんに傾きかけてたヘイトバランスの調整は必要だったけど、だいには必要性なかった、ってことなのだろう。
ヘイトなんて数値で見えるものじゃないのに、流石である。
〈Richard〉『後はリピートする!』
〈Daikon〉『k』
そして4周目スタートと同時にリチャードさんの行動予定が伝えられ、だいがそれに了解する。
何というか、物理アタッカーだからこそ見える世界がそこにはありそうだった。
3周で13%ってことは、9周で約40%。
前半戦を2分ちょいでいけるペース、やっぱり早いな……!
そんな理想的な展開の前に、俺は楽しくて思わずモニターの前で一人ニヤニヤが止まらない。
そして4,5,6,7,8,9周目と何の不安もなくダメージを与えていき、迎えた10周目——
〈Daikon〉『11周目で削ります』
〈Richard〉『タイフーン>ボディブレでいく!』
二人の呼吸が整って、先ほどと少し順番を入れ替えた攻撃で10周目に5%ほどを削り残り55%ほどのボスの残HPで迎えた11周目。
リチャードさんがボディブレイクでデバフを与えた後——
〈Daikon〉『カラドリウスエッジ』
そのログと共に優雅に舞うように分裂しただいが、一斉にボスに向かって短剣を突き刺すエフェクトが現れ——
〈Daikon〉のカラドリウスエッジ>>>>>Feroz Lagartijaに13426のダメージ!
一気に15%ほどを削り取るだいの最強の一撃が炸裂した。これでボスのHPが残り40%程度の、おそらく36000ほどまで減ったところでボスのヘイトリセットが発生する。
ちなみにこの段階で残り時間は約4分。あまりに余裕のある残り時間。
そんな余裕を感じながら、ボスに目を移せば、予定通りヘイトリセット直後、最も遠くにいたリチャードさんの方へボスが走り出す姿が目に入った。そして当然それを硬直が解けただいが追いかけ、二発ほどの攻撃を受けたリチャードさんからトリックでヘイトを強奪する。
そしてヘイト交換のどさくさの中、一発だけ被弾しただいのマラソンが始まって、俺はだいに代わって3時の方角に陣取った。
そして一回俺の横をだいが通り過ぎ、リチャードさんのそばに近づいただいが被弾覚悟で立ち止まる。
当然そのタイミングはリチャードさんによる斧の最強スキル天地開闢の発動タイミングなわけだが、俺は密かに立ち止まってだいに殴りかかるボスを討つべく、サドンリーデスを発動する。
そして——
〈Richard〉『天地開闢>>>Feroz Lagartija』
〈Richard〉の天地開闢>>>>>Feroz Lagartijaに17396のダメージ!
と、リチャードさんが斧を棍棒のように振り回し、これでもかとトカゲに連打を繰り出すモーションを繰り出した後大ダメージが与えられ、ボスの残HPが20%ほどまで減少した。
それと同時にだいからヘイトを奪ったリチャードさんがボスの攻撃を喰らい、あっという間に残りHP50%ほどまで削られたが、だいのトリックが発生し、再びボスの向きがだいへと向き直った、その時——
俺の右手が、コントローラーの決定ボタンを押し込んだ。
そして、闇の奔流がボスを貫いて——
〈Zero〉のサドンリーデス>>>>>Feroz Lagartijaに30000のダメージ!
〈Zero〉はFeroz Lagartijaを倒した。
〈Zero〉のパーティがFeroz Lagartijaの討伐タイムベストスコアを更新しました(撃破タイム:3分32秒)。
と、ダメージログ、撃破ログ、おまけの記録更新ログ、そして——
〈Daikon〉『おめでとう』
〈Richard〉『GJ!w』
Feroz Lagartijaはソウルオブガンを持っていた。
と、称賛を受けつつ、止めボーナスか何かがあったのか、見事に俺の欲しかった装備もドロップしたではありませんか!
〈Zero〉『あざす!GJ!』
そんなログを確認し、俺はみんなにお礼を言いつつそのアイテムに入手希望を出して——
〈Richard〉『おめ!w』
〈Daikon〉『おめでとう』
欲しかった装備を手に入れつつ、二人の祝福を受けながら、俺たちは元いたエリアに転移するのだった。
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