第482話 あと少し

〈Zero〉『ごめん!!』

〈Reppy〉『日頃の行いだな!』

〈Daikon〉『惜しかった』

〈Reppy〉『まぁそうな。正直よくこんな編成でやろうと思ったって思うし』

〈Reppy〉『こんな善戦したのに負けたのは、俺が足引っ張たなーって思うわ』

〈Zero〉『いやいや、俺が当ててればだし』

〈Reppy〉『でも俺の与ダメ低くて時間的ゆとりなかったのもあるっしょ』

〈Reppy〉『これはあれだな、俺より強いアタッカー探した方がいいな。ちょっとりさこ聞いてみる』


 22時53分、俺たちのエリアが切り替わり、たくさんの人だかりが出来ている薄暗い洞穴の中へと舞い戻った。

 前回との違いは誰も死んでいないこと。

 勝てなかったから、負けなかった、になったこと。

 しかし勝てなかったことに対してレッピーが責任を感じているようだが、レッピーはよくやってくれたと思う。勝てなかった明確な理由は、俺にある。

 だからこそ俺の胸の中は悔しさでいっぱいなのだった。


 先ほどの戦闘の残り1分半を切った頃、俺は大量のMPを消費して最強スキルのサドンリーデスを使用した。しかしその照準合わせは針の穴に糸を通すレベルの繊細さを求められ、絶妙に照準の中心をずらしてしまい、与ダメージが19000ほどになってしまった。

 そしてそのダメージを遠距離から与えたため、俺の予想通りヘイトリセットが発動し、最も遠くにいた俺へとボスがやってきた。もちろんそこは予定通りで、俺もだいも多少被弾しつつも、だいが俺からヘイトを奪い、再度攻撃体勢を整えた。

 ここでだいのHPが残り3割ほどまで減っていたが、ここまでは及第点だったんだ。

 ちなみにこの段階で、残り時間が55秒ほどだったのを覚えている。たぶんボスの残りHPは、レッピーの攻撃もあったから1万は切っていただろう。

 そして66秒の再使用制限を終えて、俺は再びサドンリーデスを発動し、照準合わせに入った、のだが——終始動く照準と残り20秒を切った時間制限に焦らせられ、ラスト10秒を切ったところで放った攻撃は無残にも敵を捉えられずノーダメージに終わり、タイムアップとなったわけである。

 つまり俺が当てていれば勝てたのだ。


〈Zero〉『レッピーもう一回行こうぜ』

〈Reppy〉『りさこもう落ちるみたいだったわ』

〈Reppy〉『って、俺じゃさっきと同じこと繰り返しかねんって』

〈Zero〉『いやいや、流れ分かってくれてるし2回目ならさっきより上手くいけるだろ』

〈Reppy〉『勝てなくてもしらんぞ?』

〈Zero〉『誘ってるのは俺なんだから、そんなの気にせんて』

〈Zero〉『あ、でもだいまだ寝なくて大丈夫か?』

〈Daikon〉『平気』

〈Daikon〉『負けたままじゃ終われないよね』

〈Reppy〉『さすが愛だなー』

〈Daikon〉『付き合ってくれてるのはレッピーさんも一緒でしょ』

〈Reppy〉『そらたしかに』


 ということで、もう少しで勝てた、その思いからなんだかんだで俺たちは再戦を決定した。

 しかしほんと、だいもレッピーも付き合ってくれてありがたいね。

 次の突入が最短で23時8分。割ともう遅い時間だってのに。


 そんなことを思いつつ、先ほどの戦闘の反省点を洗い出しながら時間を潰し、俺たちは再戦へと向かった。





 21minute later《後》。


〈Reppy〉『1戦目ってヘイトバランス良かったんだなー』

〈Zero〉『うむ。そのようだ』

〈Daikon〉『レッピーさんから取ったら取ったでああなっちゃうわけね・・・』

〈Zero〉『空砲のヘイトは盾のチアアップみたいに高いわけじゃねーからな』


 経過時間と排出後の会話からも分かっただろうが、15分の再突入待ち時間を過ごした後の2戦目は、時間切れまで持たずの6分での敗戦となった。

 要因は前回の時間切れを自分の与ダメ不足と判断していたレッピーが今度は与ダメを与え過ぎて、まだ30%も削っていない段階でヘイトを高め過ぎてしまったこと。

 その結果俺の空砲ではタゲを取り返し切れず、だいがトリックでレッピーからタゲを奪った時、レッピーの残りHPは既に2割を切っていて、さらにだいも1発被弾してしまったわけである。

 そしてその後だいが予定より早めのマラソンスタートをしたわけだが、被弾するわけにいかなくなったレッピーは与ダメに気を使いすぎた結果火力をかなり落としてしまった。その分マラソン中の敵の位置取りを気にせず攻撃できる俺がその穴埋めをしたわけだが、途中でヘイトを上げれないだいから俺がボスのヘイトを上げ過ぎてしまい、残り時間3分ほど、ボスのHPが残り55%くらいの時に今度は俺がだいからターゲットを奪い、少し被弾する羽目になった。

 そこでそのまま俺がマラソン役に入ればよかったのだが、ここでだいが再びトリックを使って俺からタゲを奪い、タゲを移す過程の中でまた被弾。この段階でだいの残りHPは6割ほどまで減ってしまった。

 そしてだいのマラソンが再開し、レッピーにタゲがいかないようにレッピー側にボスがいる時に50%を切らなければならなくなったわけだが、ここの調整でも俺たちは失敗を重ねた。

 俺がおそらく4500出せば大丈夫と伝えたのも災いし、前半戦でそれに近しいダメージを出したスキルをレッピーが使ったのだが、与ダメとして4621を計上したのに、その攻撃では50%以下に届かなかったのだ。

 だが、HPバーを見ても限りなく50%近くまで減っているのは確実だったので、俺は自分の近くで攻撃出来ず、だいがもう一周マラソンを続けるのを見守ることになった。ちなみにこの時点で残り時間が2分ちょいまで減っていた。

 そして約15秒のマラソンの末、レッピーのところにボスが来たところで、焦ってしまったのだろう、レッピーの通常攻撃がミス。

 そのミスを俺が想定していればすぐにカバー出来たのに、俺の頭はこの後のサドンリーデスを当てることを考え出していて、対応出来ず。

 だがもう一周マラソンしようものなら、ほぼ間違いなくタイムアップ濃厚という状況にだいも焦ったようで、だいがマラソンをやめ立ち止まり、ボスに攻撃をしかけようとした。だが、ここでボスの通常攻撃に付与されている、こちらの攻撃をキャンセルする硬直効果が抜群に影響してくれて、だいの仕掛けた攻撃が止められた。ここで俺やレッピーがすぐだいのフォローに動けてればまた違ったのかもしれないが、ここまで予想外や失敗を重ねていた頭は冷静な対処を見失ったようで、だいがボスのHPを50%以下に削るまでの間に、だいのHPは残り3割を切るくらいまで削られた。

 そして迎えたヘイトリセットによりタゲが俺に移った直後、残り時間が1分20秒ほどだったこともあり、俺はだいに駆け寄る予定をキャンセルし、66秒という再使用時間を考慮してサドンリーデスを発動し、これを適切に命中させ、3万ジャストの与ダメを与えることに成功した。しかしその分だいにタゲを奪ってもらうのが遅れ、割とボコボコに殴られた結果俺のHPも残り3割ほどまで減少し、そんな俺からヘイトを奪って俺のピンチを救っただいは、不運にもボスの通常攻撃一発とクリティカルヒットを受けてしまい、死んだ。

 そうなったらもう次のターゲットは近くにいた俺で、だいの死亡後まもなく俺も死亡。そして為す術なくなったレッピーもほどなく死亡して、残り時間56秒を残して俺たちはパーティ全滅となったわけである。

 何というか、噛み合わないと本当にダメってのがよく分かる戦いだったね。


〈Reppy〉『まだ時間平気なら、来れるかわかんねーけど、次の挑戦に向けて俺より格上のアタッカーに声かけていいか?』


 そんな敗戦を踏まえ、おそらく割と凹んでそうな気もするレッピーから3戦目についての意見が出る。


〈Zero〉『レッピーもう時間厳しいか?』


 だが俺としてはこのメンバーで勝ちたかったので、出来ればレッピーと行きたい旨を伝えたつもりだったのだが——


〈Reppy〉『勝てる編成だと思うよ、これ』

〈Zero〉『ん?』

〈Reppy〉『アタッカーがヘイト管理や与ダメを的確に出せれば割と余裕もありそうだし』

〈Reppy〉『まず一回その勝てる確認をしてこいや』

〈Zero〉『え』

〈Reppy〉『だいも、まだいけるよな?』

〈Daikon〉『うん』

〈Reppy〉『じゃあちょっと待ってな、フレンドってわけじゃないんだが、ちょっと直談判してくっから』

〈Zero〉『ふむ』


 俺としてはやはりレッピーと勝ちたかったのだが、こいつも何だかんだ生真面目なところがあるんだよな。

 そんな割と頑ななレッピーに押し切られた23時16分、俺とだいはレッピーが声をかけているという人物を待つのだった。

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