第481話 非常識な編成でも

 エリアが切り替わる、それと同時に——


〈Zero〉『作戦開始!』

〈Reppy〉『9時行く!』

〈Daikon〉『3時了解』


 残り時間6分59秒。


 戦闘開始前のバフタイムも必要ない編成故、俺たちは左上の残り戦闘時間のタイマーが動き出すと同時にだだっ広い赤褐色の岩場のようなエリアを走り出した。

 俺がボスに向かって一直線、だいが俺の右手に、レッピーが左手に、それぞれ予定されたポイントへ移動する。

 しかしなんつーか、盾スキルは上げてるからやったことない動きじゃないが、それでもガンナーの格好のまま敵に突っ込むとか、普段なら絶対やらないことだからちょっとワクワクしちゃうよね。

 そんなことを思いながら俺は即時発動型ヘイト上昇スキルの空砲を使用して、ボスとの交戦を開始した。

 そのスキルに応え、トカゲ型のボスモンスターが俺の方に地を張って接近してくる。

 その動きを確認しながら、リキャストタイムを迎えた空砲をもう一回使って、ボスから殴られない距離を取り、6時の方向から時計回りに走り出す。


〈Zero〉『レッピー!』

〈Reppy〉『あいあい』


 そして数秒走ってレッピーの前を通過する時——


〈Reppy〉の攻撃>>>>>Feroz Lagartija に726のダメージ!


 とのログが出た。

 いつでも空砲を打てるように俺はボスにカーソルを合わせているので、そのHPバーの変化も見れるわけだが、今の一撃で何かバーに変化があったようには見えなかった。

 でもまぁ、今の一撃はたぶんレッピーなりの様子見だろう。

 さて次は——


 スキルを使う様子がなかったから、俺はヘイト上昇は不要と判断しそのままマラソンを継続する。

 そして9時から12時、そして3時へ至った時——


〈Daikon〉『トゥワイススティング』


 とのログが現れたので——


〈Daikon〉のトゥワイススティング>>>>> Feroz Lagartijaに1698のダメージ!

〈Zero〉の空砲>>>>> Feroz Lagartijaにヘイト上昇効果!


 だいのダメージログとほぼ同時、スキル発動のタイミングはだいの技の直後、タゲをキープするようにスキルを発動する。

 おかげで敵は俺からはダメージを受けていないけれども、変わらず俺を狙ってくる。

 うん、想定通り!


 ちなみにだいが使った技は短剣スキルの中でも初期スキルに該当するもので、もうめっきり最近の戦闘では使わなくなった技だった。

 しかしそんな技までマクロで用意するとは、これはだいのやつ、たぶん全ての技を用意してそうだな……!


 今の攻撃でボスのHPバーにも少し減少が見られたし、その減少量から概算して、おそらくボスのHPは9万くらいってとこだろう。

 一周するのに約15秒。平均1周で3000くらいボスを削るとして、1分で12000、50%の45000に至るには約4分か。

 うん、このまま被ダメ0でいければ、勝てるかも……!


 あくまで希望値だが、俺の脳内には勝利への道筋が浮かび上がる。


 そして2周目、レッピーの前を通過する時——


〈Reppy〉『死ねにゃん☆』

 

 と、言い方と内容のギャップのエグいログが出たのだが——


〈Reppy〉『わりミス』


 何かのスキルは使おうとしたのだろうが、スキルの発動とタゲマの出現タイミングがズレたのだろう。その攻撃は不発となり、結果としてただレッピーの前を通過しただけという形となった。

 とはいえこれは想定内。

 そもそもボス系モンスターは攻撃チャンスであるターゲットマークが出ている時間が短いし、通常攻撃や軽装備アタッカーのスキルと違って、重装備系アタッカーの攻撃スキルは決定から発動まで絶妙なラグがあり、その間に敵が離れると不発になることがあるのだ。

 だからこそレッピーのスキルが不発になるのは十分に予見されていた。

 もちろん何回も続けられると、タイムオーバーになってしまうだろうが。


 そんなレッピーのミスをだいがカバーし、中級スキルであるバタフライエッジを使って2400ほどのダメージを与えていた。

 俺の予定した平均ダメージよりは少ないが、これにレッピーが加われば平均3000は超えるだろう。


 そんなことを思いながら俺は3周目、4周目、5周目……とぐるぐるぐるぐる走り続ける。

 時折ボスが何かしかの攻撃技を発動しようとして立ち止まり、走らせたいコースがズレたりして攻撃チャンスを失うこともありながら、予定通りのノーダメージ戦法で4分で35%ほどのボスのHPを削っていた。

 1分で約4周、つまりここまでおよそ16周し、削ったボスのHPが、おそらく31500ほど。

 攻撃失敗やボスの移動ルートズレも含めて32回ほどの攻撃チャンスがあったことを考えると、一人当たりの平均与ダメージは1000に届かないくらい。

 やはり短剣に比べて発動までにラグのある両手アタッカーは難しいようで、当たればいい数字を出してくれるけど、当たらないことが思ったよりも多かった。

 このペースでは正直マズいのはみんな分かっていただろう。

 そんな思いで俺は左手で17周目の周回を〈Zero〉にやらせながら、右手でキーボードを叩き——


〈Zero〉『カラドリウスの予想は』


 と、名前を呼ばないまま、だいへの質問を投げかけた。


〈Daikon〉『単発14000』


 そしてそれに答えるだいのログに、俺は頭を動かし出す。

 画面上ではレッピーの前を通過し、通常攻撃を当ててくれて、624のダメージを与えてくれた。

 つまりこれで32000くらい。だいの大技を入れれば残り2分強を残して50%は切れるだろう。

 そう判断して——


〈Zero〉『次の周回でカラドリウスいこう』

〈Daikon〉『k』


 と、だいの攻撃前に指示を出し、通常攻撃を入れただいの前を通過した。

 そして18周目、レッピーの攻撃はスカッたが、概算で俺たちの与ダメ合計が32500を超えたと思われた。

 そしてだいの前を通過せんとし——


〈Daikon〉『カラドリウスエッジ』


 そのログと共にだいの姿が無数に分裂し、一斉にボスに向かって短剣を突き刺すエフェクトが現れ——

 

〈Daikon〉のカラドリウスエッジ>>>>>Feroz Lagartijaに12147のダメージ!


 とのログが現れ——


〈Zero〉『そのままマラソン!』

〈Daikon〉『読み違えごめん』

〈Reppy〉『もうちょいでどうせリセットだろ』

〈Reppy〉『連れてこいや』


 俺から完全にターゲットが移り変わった〈Daikon〉が、二発ほど攻撃を受けた後、這いつくばるトカゲを引き連れて走り出す。

 ログから想像がついたが、俺の概算通りの与ダメ程度しか与えられていなかったようで、まだ範囲ヘイトリセット技はこなかった。つまりまだギリギリHP50%ラインは切れていないらしい。しかしだいの予想よりダメージ出てなかったけど、大ダメージに対する割合軽減でもあんのか?

 とはいえ、そんな予想外に対して冷静に対処したのはさすがだい。

 一発目に殴られたのはスキル使用後の移動不可状態だったからだけど、二発目は被ダメが減って、その後はボスの攻撃が届かなくなってるから、武器以外の装備をダメージ軽減・移動速度アップの装備に変えたんだろう。ほんと、見事な準備としか言いようがない。

 まともにくらった攻撃がHPの2割を奪い、二発目が1割くらいだから、俺が被ダメを受けた時の予想もついた。

 うん、むしろナイスだったぞだい。


 と、愛するだいの活躍を内心で称賛しつつ、今度は俺がだいのいたポジションに入り、走り回るトカゲに照準を合わせ出す。


〈Zero〉『呼ぶ!』


 そしてきっとこれで伝わるだろうと思う言葉を発し——


〈Reppy〉『死に晒せにゃん☆』

〈Zero〉『ビックバンショット!』


 普段よりも遠くから小さく動くターゲットマークを捉え切るのは正直なかなか酷だったが、それでも何とか照準を合わせた俺は、レッピーのスキルと同時にボスへ銃撃を敢行した。

 しれっと俺だけでなくレッピーも上位スキルを発動していたけど、そりゃどうせタゲとってもリセットされるってなったら高威力のスキルを使うよな。

 そんな俺とレッピー二人合わせて与ダメージは7200ほど。そしてそれを受けてボスが一度動きを止め、何か溜めるような動作を見せた直後——


〈Zero〉『あと38000くらい!』

〈Reppy〉『りょ』

〈Daikon〉『k』


 フィールド全体に電流のようなエフェクトが広がり、予定通り2秒ほどの硬直が訪れたので、何も出来ない間に俺たちは現状を確認し合った。

 そしてこれも予定通りに俺に向かってきたトカゲが見え、俺は硬直直後マクロによるダメージ軽減アクセサリーへ装備の切り替えを行いながら、レッピーのいた方から走ってくるだいの方に向かって駆け出した。

 

〈Daikon〉『トリック>>>〈Zero〉』


 そして俺がボスから殴られる前にだいが俺からヘイトをぶんどっていき、ボスの通常攻撃がだいに炸裂する。それによってだいのHPが残り5割ほどまで減少したが、これも想定内のダメージだ。

 よほど上手いタイミングでだいがトリックを使えば大丈夫かもしれないが、基本的に攻撃体勢に入ったボスのターゲットが変わることはあってもモーションが止まることはないから、このターゲットを引き渡すタイミングでの被弾は基本的に避けられないのだ。


〈Zero〉『このままだいはマラソン継続』

〈Zero〉『俺はサドンリー当てにいく』

〈Reppy〉『頼むぜ大将』

〈Daikon〉『よろしく』


 残り時間は1分48秒。

 うん、だいのスキルで巻いたおかげで、かなり時間のゆとりはある。

 落ち着いてやれば、いける!


 そう自分の心に言い聞かせ、俺はコントローラーを握る手に力を込めるのだった。



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