第16章

第479話 ゲーマーの行動はだいたい似てる

〈Zero〉『くっそーーーー』

〈Daikon〉『どんまい』

〈Rei〉『申し訳ないですー』


 10月22日木曜日、夜22時17分。

 俺の画面が一度暗転した後、薄暗い洞穴の中に転がる男が二人、女が一人。薄暗い中でも金髪や水色の髪は目立ったが、黒を基調とした格好の黒髪の男は、暗がりの中では最早転がっているのすら気付かれないのではないかと思えるほどだった。

 とはいえ、程なく光に包まれ、水色、金髪、黒髪の順に起き上がり。


〈Rei〉『ありがとですー』

〈Daikon〉『ありがとうございます』

〈Zero〉『蘇生感謝!』


 と、倒れていた三人が白色の文字オープンチャットで感謝を告げる。

 そんな俺たちの言葉に蘇生魔法をかけてくれた人たちが笑顔を見せたり手を振ったり、そんなモーションを取るログが出て、俺たちの感謝が伝わったのが確認できた。

 そして三人は薄暗い洞穴の中の隅の方に移動した。

 辺りを見渡せば、薄暗い洞穴の中に現在おそらく100人近い人たちが集まっている。

 この洞穴はギヌン山脈の中腹辺りに元からあった場所ではあるが、一昨日までは、ここはただの洞穴で、何もなかった。

 だがそれが昨日一変した。

 そう、新コンテンツの入口実装である。

 もちろん大規模なバージョンアップデートではなく、定例のパッチの一貫のものだが、新しいものが実装されたとなれば、こぞってゲーマーたちは動き出す。

 そんなわけで俺とだいもゲーマーの矜持を持って新コンテンツに挑戦を始めたわけである。


〈Zero〉『レイさんありがとなー』

〈Daikon〉『ありがとうございました』

〈Rei〉『いえいえー。お力なれず申し訳ないですー』

〈Zero〉『いやいや、またサポーター入り編成で糸口掴めそうな気がしたら連絡する!』

〈Rei〉『はーい』


 そして今回の挑戦では、助っ人でレイさんに来てもらった。そう、今回の挑戦では、だ。


〈Daikon〉『ほんと、ガンナーとアーチャーの天敵みたいなコンテンツね』

〈Zero〉『うむ。だがこうも狙い澄ましたようにハードだと、むしろやる気になるな』

〈Daikon〉『でもお手軽コンテンツだからこそ、流行もそんなに続かないだろうし、早めに何とかしないとね』

〈Zero〉『それは、そうだな』

〈Daikon〉『私はずっと手伝うけど、全武器使えなくてごめんね』

〈Zero〉『・・・素で言ってる?』


 そんな今回の挑戦を振り返り改めてしんどさを感じたりやる気を出したり最後にだいが言った発言に軽く引いたりしながら、俺は一度ギィと音を出す椅子の背もたれに体重を預け、天を仰いだ。

 見上げた天井は、見知った天井だ。

 だがなんだか今はその天井がやたらと高く見えるような、そんな錯覚も覚えた。

 だってまぁ、やる気と可能性は必ずしも一致しないのだから。


 今回実装されたコンテンツは3人パーティ限定コンテンツで、コンテンツエリアを探索してからボスを撃破するコンテンツエリア侵入型ではなく、入場後即ボス戦となるバトルフィールド侵入型コンテンツで、戦闘時間はパーティリーダーの入場直後から7分間、再入場はエリア排出15分後以降という、1日1回縛りのあるキングサウルスと比べれば、25分ほどあれば無限周回ができる良心的な設定だった。

 相対するのは地面を這いつくばるトカゲ型のモンスターで、HP設定は高くないがタゲマが見づらく、あまりプレイヤーに好かれていないタイプのボスだった。

 キングサウルスと戦うコンテンツだと、2体目に戦うことになる中ボスの強化版って感じだな。

 ちなみにどの辺が強化されているかというと、まず移動速度は速くないのだが移動頻度が高く、硬直スキルなしで攻撃スキルを当てると100%の確率で15秒ほどの移動時間が発生するという、アタッカー泣かせの行動をするところが挙げられる。これはつまり通常攻撃削りをメインにすることが前提になってるんだと思う。

 そしてさらに厄介なのがそこそこに高い攻撃力と、全攻撃にプレイヤーの行動や魔法をキャンセルさせる硬直のバステが付与されていること。硬直時間は一瞬だが、俺のようなガンナーからすれば行動キャンセルは銃を構えて照準を合わせている状態もキャンセルされてしまうため、DPSが激落ちしてしまうのだ。

 またボスモンスターなので当然攻撃時のターゲットマークの出現時間は短いし、ガンナーやアーチャーの照準マークも常時移動しているため、通常攻撃削りが推奨されていたとしても、ノーストレスで攻撃が出来るわけじゃないこともポイントだろう。

 他にもHP50%以下からはノーダメージではあるが時折フィールド全てが効果範囲の全キャラヘイトリセット&2秒ほどの硬直技が解禁される。

 ちなみにLAC攻略サイトによればこの技はボスから一番遠いプレイヤーを最初のターゲットに指定するという、かなりウザい技であることも書かれていたし、一定量以上のダメージには与ダメ上限がありそうだということも書かれていた。

 ダメージカットということはサドンリーデスで押し切るパワープレイは出来ないことを意味するし、ガンナーとしては本当にやりづらい相手なのだった。


「どうすっかなー……」


 この状況で、どう倒すか。

 俺は天井を見上げたまま一人ぽつりと呟いた。

 実際編成を固めれば、倒すことは難しくない。

 盾役と物理アタッカーとサポーターの三人の攻略動画は、昨日のバージョンアップ終了後、2時間ほどで編集済みの動画がLACに上げられた。

 その後も続々と撃破情報は飛び交って、俺も昨日ゆきむらの武士、だいのロバー、俺のサポーターという編成で撃破して、この時ちゃっかりだいは装備している短剣の性能を底上げするアクセサリー装備の指輪を一発で手に入れ、今回のコンテンツの目的は果たしてしまった。

 だが、指輪のドロップ率はどうやら侵入時の装備に依存するようで、俺が欲しい銃用の装備が欲しければ、ガンナーを入れた編成で倒さなければならないらしい。

 じゃあガンナーで侵入して、エリアに入ってから武器を変更すればって思ったのだが、これをやるとボスの特殊ギミックが発動し、プレイヤーの3分間のスキル使用不可だけでなく、ボスの移動速度倍、移動頻度率増加、通常攻撃範囲攻撃化、全範囲ヘイトリセット技がHP100%時から解禁され、回復が相当しんどくなってパーティ半壊待ったなしらしい。

 ホントもうね、逆の意味での至れり尽せりなんだよね。

 LACにもガンナーやアーチャー込みの編成での撃破報告はまだ上がってないから、つまりあの猫耳ガンナーも倒せてないってことなのだろう。

 そしてだいに風見さんにどうなってるか聞いてみてもらったところ、【The】の方でもアーチャーの風見さん入り編成では倒せてないらしい。

 もちろん俺もまだ倒せてないわけだし、うちのサーバー屈指の遠隔アタッカーたちを持ってしてもこれということは、本当に厳しいのがお分かり頂けただろう。


〈Daikon〉『やっぱり私が他の人と変わった方がいいんじゃないかな』


 そんな悩む俺の前に、ふとモニターを見れば何ともいじらしいだいの発言が出ていたが、ここでだいをパーティから外すというのは、個人的にしたくなかった。

 二人で勝ちたいし、そもそも——


〈Zero〉『ロバー抜いて盾役かサポーターと組んだって、その編成で勝ててる奴いないんだから、だいが抜ける必要ないよ』


 ってことなのだよ。

 もちろん俺だってその編成は頭にあった。

 だがジャック情報によればあの猫耳ガンナーに最強の盾と言って過言ではないルチアーノさんと最高峰のサポーターなのは間違いない〈Ume〉さんで挑んでもタイムオーバーになったらしいし、ルチアーノさんをもこさんに替えてもタイムオーバーになったらしい。

 風見さんも彼女曰く一流の盾っつー話の佐竹先生……〈Cider〉さんと、同じく腕が確からしい水上さん……〈Messiah〉さんと組んでもダメだったらしいからな。

 たぶん攻略の鍵はそこじゃないのだ。

 そう、常識に囚われずに色々考えだしてみて、ちょっと一つ、思いついた。


〈Zero〉『いっそオールアタッカーでいってみるか』

〈Daikon〉『それは無茶じゃない?』

〈Zero〉『ダメ元だって。なんだっけ、他のプレイヤーのヘイト奪うスキル使って、何か出来ないかやってみようぜ』

〈Daikon〉『トリックのこと?それ使ってどうするの?』

〈Zero〉『今ちょっと思いついたことあるから、とりあえず暇そうなアタッカー拉致するわ』


 正攻法の編成で無理ならあえて、そんな発想に至った俺はダメ元の攻略だからこそ協力してくれそうなフレンドを誘うべく、フレンドリストからあの名前を探すのだった。

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