第478話 そして日常へ
「うぃ!」
「おかえり」
「おかえりなさい」
「お、倫起きたかっ。体調大丈夫か?」
「おかげさまでな。悪いな、ベッドずっと借りてたみたいで」
「いやいや、俺こそ借り作ってたんだから、これくらいなんのそのだよ」
ひとしきりお互いを補充し合った後、流石にずっとベッドの上にいるのも申し訳ないし、眠気に関しては完全に抜けたので、俺はだいと大和んちのテーブルを囲んで話をしながら大和たちの帰宅を待っていた。
ちなみに大和とぴょんが両手に何か大きなものやら、買い物袋を持って帰宅したのは15時過ぎで、中途半端な時間ながらここからご飯にしようと誘われたわけである。
そう言われて、俺は昨日の夜中の宅飲み以降約半日何も食べていないことに気づいたし、だいも7時頃の朝食以降何も食べてないらしかったので、せっかくのお誘いを俺たちは受けることにした。
ちなみに何を作るかったら、お好み焼きパーティとのこと。
そのために大和は今ホットプレートを買ってきたって言うんだから、頭が下がったね。
大和たちが戻ってくるまでの間は、だいとゆっくり話をした。
その内容は不穏だった昨晩の話はそこそこに、基本はだいの実家での話。
だいからの連絡が少なめだったわけだが、やはり案の定姪っ子の真琴ちゃんがだいにべったりだったようで、ずっとくっついてきて離れなかったらしい。
可愛い姪っ子と、可愛い愛猫に囲まれて、昨日はとても幸せだったとのことで、俺は改めてだいを送り出して正解だったと確信した。その様子は見せてもらった写真からも伝わったし、だいをそのまま小さくさせたような美少女が猫と戯れている写真とか、最早国宝級だったと言っても過言ではなかったね。
ただまぁ、そんな幸せな時間も、ぴょんから俺が気を失ってるって連絡がいったことで、台無しにさせてしまったわけだけど。
だいがその連絡に気づいたのは朝食を食べた後だったようで、そこからは離れたくないとアピールする真琴ちゃんに今度一緒に千葉と神奈川を繋ぐ海上道路の途中にあるサービスエリアに行く約束をすることで離れてもらったらしい。
しかし、まだ小さいのに夢の国とかじゃなくサービスエリアて……なかなか面白いチョイスだよな、なんて思ったのは俺の内心で留めたけど。
で、そうやって実家を慌てて出発しただいは、在来線を乗り継いで大和んちの最寄りまでやってきて、ぴょんのお迎えで俺の眠る大和んちにやってきたとのことだった。
そこで色々ぴょんから事の経緯を聞き、ゆめにも話を聞く流れになり、ゆめとの会話に繋がった、というのが、だいがこっちに来てからの流れらしい。
この話を聞きながら俺は時折だいの頭をポンポンと撫でて安心させてあげたりしていたので、ちょいちょい甘い空気で話を進められたのは幸いだ。
あ、ちなみにサービスエリアでの約束を果たすための移動は俺とのドライブデートも兼ねたいってわがままも頂いたから、うん、概ね穏やかに話は出来たと言っていいだろう。
そんな時を過ごし、現在に至る。
「お好み焼き作るとか、実家以来だな」
「あ、ゼロやんは実家にいた時に作ったことあるんだ」
「おう。真実が小さい頃とか、割と家族でワイワイ作ってた記憶あるな」
「俺の実家もお好み焼きとかパンケーキとか餃子とか、ホットプレートで色々作ってたぜ」
「ホットプレートで作る時くらいホットケーキでいいだろー」
「たしかに最近ホットケーキって呼ばなくなった気がするね」
「だいの実家は?」
「私の実家はほとんど粉物は作らなかったから、こういうの初めてなの」
「おー、そりゃよかったじゃねぇか! やったなゼロやん、だいの初物ゲットだぜ?」
「なんのドヤ顔なんだそれ……」
戻ってきて準備をする大和やぴょんは、なんかもう夫婦みたいな空気感だった。
穏やかな大和と、ボケるぴょん。いいバランスがそこにはあった。
俺とだいもそれに近い空気があるといいなぁなんて、一人こっそり思ったり。
とはいえ、ぴょんもすっかり通常運転なってるみたいだし、昨晩の不安は拭えたようで何よりだ。
「それじゃ、お客人はゆっくり待ってろよ」
「え、なんか手伝うよ」
「ダメよ。ゼロやんは病み上がりなんだから。手伝うのは私」
「だいも客人に決まってんだろーが、大人しくしてろって」
「え……」
で、なんだかんだ世話焼きの二人の前に俺もだいもやることを失って……二人並んでなぜか体育座りをしながら、キッチンに向かった二人の背中を眺めることに。
そんな状況が十数秒続き——
「「ぷっ」」
どちらからともなく——
「なんだよこれっ」「なにしてるんだろうねっ」
お互いこの状況の不自然さに笑いだす。
そのタイミングはほんとにほぼ一緒で、変な状況は変わらないのに、すごく居心地がよかった。
「あの二人、ホントに仲良くて素敵よね」
「だな。でも俺たちも負けてないさ」
「……うん。好きだよ」
「知ってるよ」
そんな居心地のよさの中、体育座りをしながら肩を寄せ合う俺たちも、今自分で言った通り仲良しなのは間違いない。
例え誰に何を言われようと、今の気持ちがある限り俺とだいの関係は変わらない。
昨夜の大和が見せた、断固として相手を突き放す姿勢や態度、あそこまで苛烈なものが必要とは思わないが、俺もハッキリとノーと言うところはノーを言う。
そんな気持ちが、俺と肩を触れ合わせている、俺を心配して千葉から駆けつけてくれただいの姿を見るたびに強くなる。
そんなことを思いながら俺はだいと共にやっぱり手伝うよとキッチンの方に手伝いに向かって、「狭いんだよ!」なんて笑って言ってくるぴょんや手際よく準備する大和と共に、俺たちは穏やかな時を過ごすのだった。
☆
「なんだかんだ遅くまで居座って悪かったな」
「いやいや、また明日から仕事頑張ろうぜ」
「連絡くれてありがとね。お好み焼きも美味しかったし、楽しかったよ」
「おうー。まぁ、そのなんだ、ゆめと気まずかったら、あたしに相談してな」
「ううん、大丈夫と思う。でも、もしそうなったら板挟みにさせちゃうかもしれないけど、よろしくね」
「そこは年の功でちゃんと間に立ってやるさ。じゃ、ゼロやんちゃんとだいのこと送ってやれよ?」
「おう。ほんと、色々さんきゅーな。次はだいも来れる時にオフ会やろうぜ」
「おうよ」
「じゃあまたね」
「またな」
「気をつけてなー」
「帰るまでがオフ会だからなっ」
こんな会話をして、お互い手を振り合って帰路に着く。
時刻は午後6時12分、まだ大和んちに残ると言うぴょんを置いて、俺とだいは一足先に帰ることにした。
当然明日からまた平日になるんだから二人の時間も欲しいだろうし、そこは大人としての配慮である。
ホント今回のオフ会も色々あったけど、終わってみればだいと一緒に帰るって、いつものオフ会のパターンなんだよな。
あ、でもなんか、二人で帰るは久しぶり、か?
そんなことを思いながら、俺とだいは手を振って見送り続けてくれた大和たちの姿が見えなくなってから、どちらからともなく手を繋いで板橋駅へと歩を進める。
この時間は、やはり恋人同士の特権だ。
「今週末は全然スキル上げ出来なかったから、どっかで追い込まないとね」
そんな甘い空気かと思ったら、道中切り出された話題は思いっきり
まぁ、これこそ俺たちらしいったららしいんだけど。
「そだなー」
「でも来週の水曜日に大型バージョンアップ前の新装備ドロップモンスターの追加だから、そっちも頑張らないと」
「あー、そうか。どんな装備かって結局詳細出たの?」
「ゼロやんを守ってくれた雑誌に、各武器の性能底上げって書いてたよ」
「ほうほう。って、ちゃっかり読んでたのか」
「全然起きないんだもん」
「その節は申し訳ない」
「いーえ。ただね」
「ん?」
そんな俺たちらしい会話をテンポよく続ける中、不意にだいが言い淀む。
何だろうと、俺が聞き返すと——
「3人パーティコンテンツ、何だって」
「……マジ?」
伝えられた話に、俺の経験則が嫌な予感を告げるのだった。
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