第468話 夜更かしが楽しいお年頃?

「しっかし、少人数だと色々機動力高いオフ会なるもんだなー」

「今回は対応力値高いメンツだからじゃねーか?」

「え〜、わたし足速くないよ〜?」

「教員やってりゃ、嫌でも対応力は上がるからだろ」


 大和んちのそんなに大きくないテーブルを四方から囲み、だらだらとアルコールを飲みながら話す空気は、まるで学生に戻ったかのような感覚を与えてくれた。

 現在時刻は午前1時27分。

 普段なら寝ている時間だが、今日ばかりは特別だ。

 ちなみに大和んちに行くことを伝えた連絡に対し、だいからの返事はここまでなし。

 これは本格的に姪っ子ちゃんとべったりしている予想が立つ。その辺の話は、明日だいが帰ってきたら聞いてみよう。


「せんかんは今年異動なんだっけ〜?」

「うむ。卒業生出したら異動だろうな」

「ゼロやん寂しいでしょ〜」

「そりゃそうだろ。同僚っつーより、友達なわけだし」

「お、珍しく照れ隠しなく素直じゃん?」

「お前、俺のことを思春期の中高生とでも思ってないか……?」

「まぁゼロやん変なとこで、そんな感じ出すからなー。せんかんの気持ちは分からんでもないなっ」

「おお、これが彼女フォローか〜」


 そしてまったりとした雰囲気の中、俺たちの会話は続く。

 しかしほんと、一日中一緒にいる感じなのに話題が尽きないって、ほんとすげーよな。

 まぁそれだけ付き合い長くなったってことか、俺たちも。


「そういや、昨日ぴょんが掃除しに来たって言ってたけど、この家全然掃除のしがいなさそうだよな」

「あ、それわたしも思った〜」

「いやいや、あたしいないとこの家はダメダメだぞ?」

「そうなの〜?」

「そうだな。ぶっちゃけ昨日初めてぴょんが掃除っすかー、って言い出したくらいには、いないとダメかな」

「は? 初めて?」

「あっ! おいっ」

「ラブラブってことだね〜」


 そんな穏やかな流れだからか、今日は俺とゆめでぴょんをいじるなんて、割とレアケースな展開もやってきた。

 冷やかされたぴょんは軽く頬を赤くしていたが、そんなぴょんを見てみんなが笑う。

 うん、いい時間だなぁ。


「でもさ〜、これだけ物がないと、ぴょんとせんかんはおうちデートの時何してるの〜?」

「んー、これってなく、色々かな。誰かさんたちと違って、別世界デートはしてないけど」

「むしろLAがデートスポットみたいになるのがすげーよ、あたしからすると」

「え、そうか? やることなんかいっぱいあるけど……」

「それは倫たちがガチゲーマーだからだろって」

「だいはゼロやんの影響受けまくりってとこだと思うけどね〜」

「いやいや、ちゃんとだいだって楽しんでるぜ?」

「そりゃ自分の彼氏が楽しそうな姿見せてくれりゃ、自分だって楽しくなるもんだろ」

「ほ〜ほ〜。つまり、せんかんが何かしてるのを、ぴょんが見てるのが二人のおうちデートってこと〜?」

「たしかにっ。意外とぴょんが大和に合わせてんのか」

「意外とは何だ意外とは。これでもあたしは、一家に三人は欲しくなる尽くせる女だぜ?」

「いや、三人もいらねーよっ」

「うちにもいりませ〜ん」

「たしかに三人もいたら、文字通り姦しいだろなー」

「うっせーわ! っつーか、マジレスするとのんびりしたお家デートとかほとんどねーぞ?」

「あ、そうなの〜?」

「実際な。割とどっか行ったりするデートが多いから、うちに戻ってくると寝るだけってのが多いかな」

「せんかん色々都内の史跡巡りとか連れてってくれっからな。あたしも割と歴史詳しくなってきたぜ?」

「うへ〜。わたしはそういうの先生みたいで苦手だな〜」

「でもなるほど、大和がそういうの好きだから、解説してる大和をみてぴょんは楽しんでるってことか」

「そういうこったろーな!」

「おお、せんかんドヤ顔だ〜。幸せだね〜」

「あたしについてきてもらってる分で、持ちつ持たれつだけどな!」


 で、こんな穏やかな時の中で明かされた大和たちのデートについて。

 しかし史跡かー……楽しそうだけど、うーん、俺がそこまで詳しくないからな。こういう時日本史専門の奴は強いなぁ。

 色々ツッコむところはあったが、そこら辺は幸せそうな二人に免じて無視しながら、俺はそんな感想を抱く。

 あ、ちなみに俺が楽しんでるからだいも楽しいんだとかって言われたけど、絶対だいも普通に楽しんでるのは、ちゃんと主張しておくからな!


 と、そんなことを思った時——


 コンコンッコン


 室内に響いた、不思議なリズムの乾いた音。

 盛り上がって話していたら聞こえなかったかもしれない。だが、その音が響く時は偶然か必然か、俺たちの会話がちょうど止まったところだった。

 そしてその音がした玄関の方へ、何気なく全員が顔を向けたことが、その音が聞き間違いでないことを明確に示していた。

 だからこそ、そのお互いの行動に気づいた時、俺たちの世界は氷のように固まった。

 だがそんな世界を無慈悲にも打ち破るように——


 コンコンッコン


 紛れもなく聞こえてきた音は、先ほどよりも少し大きく、強い力で生み出されたように聞こえた。


「え、なになに〜……」


 全員が同じ方向を向き、2回目の音が聞こえ、これは全員が共有している体験だと確信を持ったからだろう、怯えた様子でゆめが左隣にいたぴょんの右腕に抱きついた。

 そんなゆめにぴょんは空いた左腕でゆめの頭をポンポンと軽く撫で安心させるようにしていたが、当の本人もさすがに今ばかりは表情が強張っている。

 だってそうだろ? 1回だけ聞こえたなら、聞き間違いかもしれないし、何かしらのものが偶発的に音を響かせたと自分を誤魔化せるが、同じリズムが、音量の大小を上げて、2回聞こえたのだ。

 それに非常識な時間でこそあれ、誰かの来訪だとするならば、インターホンが普通だろう。

 つまりこれは人為的なものか、あるいは——

 現在時刻は午前2時12分。この時間って、色々ドンピシャなんだよな……!


 そんな冷や汗ものの展開を前に、俺はチラッと横目に大和を見る。

 家主としてこの展開をどう見るか、もしかして大和なら何か分かるかも、そんな期待を、俺は大和を窺う視線に込めたのだ。

 すると——


「……え?」


 そこには物凄く真剣に、そしていつもより目を見開いて、ジッと音が聞こえた方角に顔を向ける大和の姿があるのだった。

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