第463話 助けられるのはヒロインの専売特許
「でももうちょっとインパクト欲しいかなー」
大和に抱きつかれ、なんだったら若干持ち上げられている状況なのに、俺は先ほど聞かされたぴょんの言葉の意味が分からなくて、もはや脱力状態だ。
そんな俺の足がぶらぶらー、ぶらぶらーと揺れてるのは、大和に揺られてるからだろうか。
だが、そんな状態も今は気にならない。
ぴょんの言った言葉が、分からなかったから。
……いわ、ぴょんの言いたいことは分かった。でも、分かったけど、分からないのだ。
言っている言葉の意味は分かったけど、言っている言葉の意義が、可能性が分からない。
だって、そのプランって……確実性なくね……?
「あ、あの……それだったらいっそ普通に起こして水飲まして、ある程度ゆめが回復してから話した方が確実じゃないですかね?」
半ば呆然としてしまったため、俺はここで謎に敬語を発揮してしまったわけですが、そんな俺にぴょんさんが一瞥を送り——
「そらその方が確実だろ」
さらっと、この作戦の存在価値そのものを問いたくなる返事がやってくる。
その言葉を受け、俺のもやもやが高まったのは言うまでもなく。
「え、いや、だったらそれで——」
「——それでいいじゃん、って言うんだろうけど、その時は倫がゆめと1対1で話すことなるぞ?」
「え?」
俺がぴょんに反論しようとしたところで、スッと宙ぶらりんだった足が久々に自重を支える役目を取り戻した。いや、取り戻したというよりは、役目を返してもらった、が適切か。
つまりそれは大和が俺を下ろしたということなわけだが、それと同時に聞こえた大和の声は、これまでのちょったおふざけの入ったトーンではなき、落ち着いたマジトーンだった。
「完全に酔いが覚めるまでどれくらいかかるかなんて、大人だから分かんだろ? でも今何時だ? もちろん付き合ってやりたいとこだけどさ、さすがに俺らもオールで倫に付き合えんのよ」
「え……あ、それは、そうだよな」
そして告げられた言葉に、俺は無意識に肩を落とす。
確かにゆめの酔いが覚めるのを自然に待っていたら、終電を逃す可能性が高いだろう。そんな時間まで二人に手伝ってもらうことを無理強いは出来ない。
とはいえこのままゆめが起きるまで、ゆめと二人で待つのは得策ではない。
……ふむ。
なら文句なんか言えないか。
そう思って俺は無茶な提案をしたことを謝ろうとした、のだが——
「ごめ——」
「おいおい友達甲斐のねーやつだなー」
俺が謝罪を言い終わるより早く、立ち上がったぴょんが俺と大和の間に割って入るようにやって来て、大和が一歩後方に下がった。
そのまま、ぴょんと大和が向き合う形になる。
「いやいや、友達甲斐とかじゃなくてさ、現実的な話だろって」
「でもお前この状況のゼロやんとゆめ放っておけんのかよ?」
「そら確かに気になるけど、俺らだって明日の予定があるだろうが」
「おーおー? 自分の予定を友情より優先かー?」
「いやいや。たしかにゆめの話聞きたいとこは分かるけど、別に今絶対に聞かなきゃいけないことでもないだろって」
「お、おい二人とも……」
そして向き合った二人は、まるで対峙するようにそれぞれの主張を言い合いだす。
その雰囲気は誰の目から見ても明らかに険悪で、ぴょんの背中側に立つ俺はまさか大和とぴょんがこんな雰囲気になるなんて思ってもいなかったから、正直に困惑した。
そんな二人を何とか止めようと俺は口を挟もうとしたのだが、どこまで自分のわがままを言っていいのか迷い、結局言葉を言い淀む。
だが、そんな俺のことなんか目に入らないように——
「明日の予定は前から決まってただろって」
「予定は未定っつーだろうがよ。それにだ、しっかりゆめが覚醒しちまったら、たぶんあいつ、忘れたふりして誤魔化すんじゃねーか? そうなった時ゼロやん一人で何とか出来ると思うのかよ?」
「倫だってもう子どもじゃないんだから、そこまで甘やかす必要ねーだろって」
「おいおい、買い物から戻ってきた時、一番焦ってたのはどこのどいつだよって話じゃね?」
「それとこれとじゃ話がちげーだろ」
「あれはあれ、これはこれって、そんな都合良く物事は進んでねーんだって。それにあたしからしたら、これは親友同士の問題でもあるわけだしよ」
バチバチバチバチ。
そんな音が聞こえるように、俺の目の前では囚人とメイドが対峙する。
正直この二人の仲の良さは相当なものだと思っていたので、こんなことになるなんて思ってもいなかった。
それがまさか俺が時間かかっても確実性高い方でいいのではなんて言ったばかりに、ここまでなるとは。
……え、この空気、マジ?
と、とりあえず大和の口ぶり的に大和とぴょんには明日の予定があるのだろう。それを大事にしたい大和、だろ。
うん、分かる。俺が大和の立場だったら、だいとの予定が翌日にあるんだったら、きっと同じことを思うだろう。
でもぴょんもぴょんで親友のゆめを気にかけていて、だいとゆめの関係がどうなるかを心配してる故の言動だ。その気持ちだって分かる。
でもでも俺のせいでこの二人が喧嘩になるのは、全くもって俺の本意ではない!
「いや、あの、そんな二人ともさ、熱くならないでくれって……」
強い気持ちで本意じゃない、そう思ったのに、発した言葉はしどろもどろ。
生徒同士の言い争いなら笑いながらだろうが間に入れるのに、タメ同士のぶつかりあいとなると、何でこうも割って入りづらいのか。
そんな心地で間に入った俺わけだが——
「もういいさ! あとはあたしとゼロやんで対処する! 朝までには帰ってやるから、せんかんは先に帰ってろよ!」
「あぁ!? んだよそれ!?」
「しょーがねーだろ! ゆめが起きねぇんだからよ!」
「しょーがねーってなんだよ!?」
二人は俺をガン無視で、両者睨み合いだんだんとヒートアップしていく始末。
こ、この状況を何とかするには——
「ゆ、ゆめ! そろそろヤバいって!? マジ、起きてっ!!」
やめて俺のために争わないで!
だからお願い、起きてよゆめ○もん!
そんな気持ちで俺はもうすぐ手が出るのではないかと見ていて不安になる二人へ右往左往と視線を彷徨わせながら、すやすや眠る眠り姫へ大きな声で呼びかける。
起きてくれないと、まずいぞ……!?
そんな思いでチアガール姿の眠り姫に視線を送る。
その時、ゆめにかけていた俺の服が、パサっと床に落ちるのが、目に入ったのだった。
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