第462話 明かされる作戦
「いやー、そのコスプレのチョイスゆめがしたのか?」
「そうだよ」
「センスあんなー」
「笑ってんじゃねえかっ」
「まっ、王様ならぬ王子様でいんじゃねーか?」
「大和も笑うなっ」
時刻は既に22時を回った22時20分ほど。
俺とゆめの事件発生からおよそ50分ほどが経過した頃である。
大和とぴょんと合流してからだと約30分。
この時間の間に二人と話したり、ぴょんの提案を受け、ゆめの酔い覚まし作戦準備を進めたりしたわけだけど、この間も眠り姫は起きる気配を見せず、穏やかな寝顔を俺たちに見せてくれていた。
ほんと、よくもまぁここまで無防備に熟睡出来るもんだ。
ゆめのイメージといえばギルドの中で一番あざとい、というか、行動を計算するタイプなんだけど、その面影が現在は皆無。家猫のように、甘やかされて育ってきた子感しか伝わってこないのだ。
あ、ちなみにチアガール姿は見ていてちょっと寒そうだったので、ぴょんが上着に着ていた薄手のジャケットやら俺や大和の服をかけてあげている。
ん? なぜ着ていたものをかけているのかって?
それはもちろん俺たちが今それを着ていないから。
じゃあ俺たちが何を着ているかと言えば、もちろんそう、コスプレ衣装です。
ハロウィン時期だからか、俺がゆめと衣装を見に行った時もバリエーション豊富だったけど、それらの商品の中から大和が選んだのは囚人服のようで、たぶん身体のサイズ的にオーバーサイズも売ってたそれを選ばざるを得なかったように思われた。まぁ、爽やかな顔立ちのせいで全く囚人感は出てきてない。キャラ設定を考えるとしたら、冤罪で捕まった好青年で、同じく冤罪で捕まった主人公の脱獄に喜んで今日はする奴、だろうか。
とりあえずまぁ、似合う似合わないなら、普通、ってとこだろう。
そしてその隣に立って俺のことを笑ってきたぴょんは……まさかまさかのメイド服。
白黒を貴重としたクラシックなメイド服姿は、ぴょんの日焼けした肌と合わさってかなり違和感があるのだが、白のカチューシャをつけたことにより何故かそれが色黒系メイドというジャンルにも見えてくるから不思議である。
ぴょんの振る舞いと合わせて見ると、ゲームとか漫画とかに出てくる一切敬語を使わないタイプのメイド的な感じ。
もちろん何だかんだ素がいいぴょんが着ているのだから、様になっていないわけでもない。
もちろん横から見た時の凹凸はいつも通りないんだけど、いつものラフな格好に比べればそれも目立たないし、あれ? 案外悪くない……かもしれない。
ちなみに着替え終わったぴょんへのスーパー賞賛タイムはおよそ5分間、俺と大和2:8の比率で行われた。
俺としては、たぶん一生分のぴょんに対する「可愛い」をこれで使い切ったろう。
写真も撮らされたから、あとでだいに送っておこっと。
あ、もちろん、メイド服に身を包んだバーサーカー設定ありそうだなとか、こっそり思っていたのは秘密である。
とまぁ、二人はそんな格好なわけだが、現在は最後に着替えた俺が、椅子に座る二人を前に目下絶賛いじられ中。
この二人に対して俺が何を着ているのかというと——
「いっそ仮面もつけたらよかったのになっ」
「やかましい、月に代わっておしおきされてろっ」
聡明な読者諸君ならこの会話で想像つくと思うがそう、タキシードである!
ちなみにあれね、金の刺繍の入った白タキシードね。
どこの男性アイドルだって感じが、正直すごいからね。
「しかし優男な倫には似合うねぇ、それ」
「うむ。生地は安っぽいけど、ゼロやんのビジュパワーで様なってるし、ゆめの見立てさすがだなー」
「さっきまで笑ってたくせに今更上げんなっ」
そんな俺の装いを明らかにネタにしてくる二人に俺は当然怒ったのだが——
「ほらほら、怒ると笑顔が台無しだぜ?」
「やめいっ」
立ち上がって寄ってきた大和が、俺の顎をくいっと指先で持ち上げて、謎のドヤ顔を見せてきた。
そのキモさに俺は秒速でその手を振り払う。
「おいおい、囚人が王子を顎クイとか身分違いエモいなっ」
「悪ノリすんなっ」
そんな俺と大和の自宅のトイレットペーパーを三角に折るくらい無駄なやりとりに、全くもって慎みのないメイドが乱入してくる始末。
というかいかん、これは進まん。
「とりあえず! ぴょんの言う通り着替えたんだから、作戦の次の段階教えてくれよっ」
ということで、俺は一人座ったままのぴょんに向かって、強引に話の流れを引き戻すよう伝えてみた。
なんたってぴょん発案の作戦とやらは、まだ全貌が明かされておらず、とりあえず全員用意した衣装に着替えろ、ということが作戦の前段階だったわけだから。
しかしこれだけ騒いでも起きないとか、ゆめの熟睡具合恐るべし。
……これ本当に起きるのか?
「あー? あー、そういやそんな話だったっけ」
「おいっ!?」
俺が段々と不安に駆られてくる中で、それに追い打ちをかけてきたぴょんの言葉に俺は思わず食いかかる。
「いやいや冗談だって。でもま、今のせんかんの顎クイは悪くなかったなー」
「は?」
だがそんな俺にぴょんは悪びれることなく、それどころか全くもって意味のわからないことを言い出す始末。
なんだこれ、結局ただコスプレしたかっただけなのか?
そんな疑惑も浮かんできたのだが。
「そもそもあたしらが着替えてることで、既に作戦の7割は完了してっからな」
「いや、それどういう意味だよ……?」
俺の疑惑を決定づけるような発言まで出てきた、俺の不信感が激増する。
ゆめは穏やかに寝ている。
頼りになるかと思った仲間は当てにならない。
……こうなったら、俺一人でもゆめを起こして何とか話をつけるしかないか。
そう腹をくくったところ——
「だから、着替えた時点で8割完了してるんだって」
「は? てか1割増えてんじゃねーかっ!?」
またしても無責任というか、意味の分からない言葉がやってきたわけだが——
「だからさ、最初は見た目が9割って言うだろ? でもあたしらの顔はゆめが知ってるから1割減だろ?」
「……は?」
「だからあとは、何をしてるかなんだって」
「……すまん大和、黙ってないで翻訳してくれないか?」
「ん? んー……」
結局やっぱりよく分かんなくて、俺は俺とぴょんの会話を黙って聞いていた、腰に手を当て横に立ったままだった大和を見上げて助けを乞う。
「まぁ、こういうことだろ」
そして俺の言葉を聞いた大和が、なぜか大きく腕を広げて——
「はぁっ!? おいっ!?」
ガバっと俺に抱きついてきて、その力の強さに俺は脱出しようともがくのだが、巨人大和との体格差を覆せず、俺にはただジダバタすることしか出来なかった。
ってか、なんだこいつ!? こいつも意味分からん!
と、信頼した友に裏切られたような、そんな心地に陥ったのだが——
「そう、そういうこった!」
笑いながら俺と大和の写真を撮りつつ、ぴょんも立ち上がってサムズアップ。
いやほんと、どういうこっちゃねん!
「今このシーン! 今ゆめが起きたら、意味分かんなくてフリーズするだろ!」
「はぁ!?」
「だからー、知ってるあたしらが、意味分かんないことしてたら、その整合性を取ろうと脳が動くだろって」
「……は?」
「酔っ払いモードで甘えられる状態を吹き飛ばすには、そんな状態じゃないって焦らせるのがベストだろ!」
……は?
何だかとてつもない理屈を聞かされた気がしてならないのだが、自信満々な顔を浮かべるぴょんの前に、俺は大和の腕の中で、ただただ唖然とするしか出来なかったのだった。
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