第461話 三人寄らば文殊の知恵……?
「はー……ゆめがキスねぇ」
「まー、ゆめは倫のこと嫌いか好きかなら、好きよりだとは思ってたけど」
「でも俺、
「そんなん言ったって、ゆめがどう考えてるかだろ? あたしだって意味わかんねーんだし、ここであーだこーだ考えたってしょうがねーだろ。起こったことは起こったこと。とりあえずこの件をゼロやんがどうしたいかじゃん?」
「あー……うん。俺は……」
大和から渡された簡易氷嚢で自分の頭を冷やしながら聞いてもらった、ゆめとの話。
大和とぴょんは「はぁ〜」と最初は信じてなさそうな顔をしていたけど、俺がこんな話をでっちあげる意味がないことにも気づいてくれたようで、結局二人とも苦笑いしながら俺の話を信じてくれたようだった。
そして話すだけ話して、ぴょんから言われた言葉に結局俺は思案する。
俺がどうしたい、か。
俺が一番大事にしたいとこは、だいに隠し事をしないこと、なんだけど……それと同等にだいとゆめ、ぴょんっていう三人組の友情を守りたいとも思う。
もちろんゆめの行為が俺への好意から来るものとかだったら話は変わってくるけど、やっぱりここまで酔ったゆめの姿は見たことがないわけだから、なんだってあんなことをしてきたのか、理由を知りたいとこもある。
万が一ゆめが俺に特別な感情を持ってたりするようなら……うーん、これはやっぱり想像つかないんだよな。
でも万が一があったら……ううむ……だいとはずっと仲良くしてほしいけど、俺としては……ううむ。
あー……つまりどうしたいのか、上手く言語化出来ん……!
と、俺が自分にモヤモヤを抱えていると——
「だいにとって一番良い方向に持っていきたい、だろ?」
「へ?」
俺以外が言ってきた言葉に、俺は思いっきり唖然とした顔をしてしまったと思うのだが、俺が問われた問いに答えてくれたのは、大和だった。
そしてその答えは、「そうそれ!」と言いたくなるようなもので——
「うん、そう。そんな感じっ」
俺は水を得た魚のように大和の言葉に何回も首を縦に振る。
さすが大和、我が友だ!
「あー、でもそれって博打じゃね?」
しかし俺が大和に羨望の眼差しを送っていたところ、後頭部を気まずそうに掻きながら、ぴょんが口を開いた。
「結局ゆめがどういう意図でゼロやんにキスしたかじゃん? モテやんお得意の多角形関係構築に実は加わったりするならさ、だいとゆめは戦争だぜ? ゆきむら相手とはわけが違うことになんぞそれ」
「いやモテやんて……」
「だからだいのため、って曖昧な目的はやめた方がいんじゃねーかな」
「ふむ……」
「ちなみにぴょん的な予想だと、ゆめの行動はなんでだと思うんだ?」
「ノリ」
「……へ?」
「酔っ払うとスキンシップ取りたくなることってあるじゃん? たぶんゆめは今までセーブして飲み会参加してたんだろうけど、今日のメンツだと最年少じゃん? だからちょっと悪ノリしちゃったんじゃねーかなー」
「ほう。ぴょん姉さんの見識はこうらしいぞ」
「いや、らしいぞったって……」
「まー、ゆめの本心ってあんま分かんねーからなー。少なくともあたしらのこと友達って思ってんのは間違いねーけど、異性としてのゼロやんをどう思ってんのかは話すことねーからな」
「まぁ、友達の彼氏のことどう思ってるとか、そんな話になることないもんな」
「そういうこった」
「ふむ……」
「だからだいのためとかふわふわしたこと言ってねーで、バシッとゼロやんが今回の件にどうケリを付けるのか決めた方がいいと思うぞ」
そしてぴょんの発言に結局俺は結論を出せず。
ゆめが俺をどう思ってるかなんて、俺に分かるはずがない。
たしかにいつぞやの説教を受けた時と比較すれば、あの頃よりは信頼を勝ち取ってる気はするんだけど、それはあくまで信頼の話で、キスされるようなことに繋がる話じゃないと思うのだ。
となれば、うーん……。
いかん、俺が決めるべきって言われてんのに、結局どうするべきなのか思いつかん。
ぴょんには色々言われてるけど、だいのために何が一番なのか……そうするためには……ううむ。
あーだこーだ考えて、浮かんできた考えが、一つあった。
というかたぶん、結局それ以外ない気もする。
そう、だいのために何が一番か、そのために俺が何をすべきか、分かんないなら聞くしかあるまい。
直接聞く。
うん、これしかないな。
「分かった。分かった上で分かんないから、もう直接本人に聞いてみよう」
「分かった上で分かんないって、日本語めちゃくちゃだぞ?」
「いや、でも結局それっきゃねーだろってあたしも思うわー」
そして俺はこの問題に対してどうするか、自分の考えを二人に伝えると、大和は苦笑いだったが、ぴょんは頭の後ろで腕を組みながら、大きく頷いてくれた。
「聞いてぴょんの言う通りノリだったら、注意する。もしそうじゃなかったら、ちゃんと話す。これでいこうと思うよ」
よし、これでいこう。
そう決めて、俺は額に当てていた氷嚢を下ろして、二人に向かってこう告げた、のだが——
「でもま、今話しても酔っ払いゆめだからちゃんと話せるかわかんねーけどな!」
「そりゃごもっとも!」
俺の決意虚しく、ぴょんが言ってくれた言葉に俺はガクッと肩を落とし、大和が笑う。
そうだった。
酔っ払いだからこそ、今こうなってんだった。
それにさっき少し話した感じ、ゆめの記憶は今かなり曖昧みたいだし……うん、たしかに今聞いたとしても、ちゃんと話が出来るか分からんな……!
「ってことで、あたしらの方向性は決まった。そのために今必要なのは、ゆめの酔いを覚ますことだな!」
そんな落胆した俺をよそに、ここでなぜかぴょんが盛り上がる。
「よし、それじゃあ王やんの願いを叶えるため、ゆめの酔い覚まし作戦決行すっぞ!」
「酔い覚まし」「作戦?」
そして俺と大和を置き去りに、有無を言わさぬ断言で、この後の何かが決定する。
そういえば俺王だったんだっけとかも思ったが、協力しようとしてくれるのはありがたい。
でも——
ろくでもない提案な気がしてならないのは、何故なんだろうな……!
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