第460話 なんだかんだタメの仲間って頼りになる
「大丈夫か倫? 何があった?」
肩を揺さぶる声には、安心感があった。
この声はいつも俺の味方、そんな感覚のする声に、ゆっくり目を開けていけば——
「やま、と……?」
身体はずしりと重く、額のあたりもズキズキ痛むが、よく日に焼けた見慣れた顔が目に入ったことで、俺は本当に安心した。
何だかさっきまで、人の顔をよく思い出せなくなっていたような、そんな気がするから。
「おー。ゼロやん無事でよかった! で、ちょっとマジで状況が見えねーんだけど……何があってお前らそこで寝てたんだ?」
「え?」
そして大和の背中から、ぴょこっと顔を出してきたぴょんが、怪訝そうに俺に問う。
そこで初めて、俺も気づく。
俺の身体が重いのは、上にゆめが乗っているからだった。
記憶を辿れば……たしかにゆめがソファーの上から降ってきた記憶は、残っている。
で、どうやらそのままゆめは意識を失ったというか、寝落ちしてしまっているらしい。
しかもこうやって俺が起きて二人と話してるのに、全然起きる気配がない。
意識すれば小さな寝息が微かに聞こえるほどだった。
「転んだゆめを庇おうとして、倫が頭から落ちた、とかか?」
「え? あー、ううん。そんなもんじゃないよ。ゆめが落ちてきたとこに元々俺がいて、思いっきり頭突きを食らっただけ」
「ゆめが落ちてきたー?」
「それはそれで災難だろうけど……落ちてきたとこに倫がいたって、なんだ? お前は元から床にいたのかよ?」
「いやー……ははは」
「んー……ゆめに着衣の乱れがあるわけじゃないから、何か二人でアウトなことしてたわけじゃなさそうなのは分かるけどさー、でもなー……さすがに男女が床で重なり合ってんのは、どうなのかね君たちよ」
「いや……あー、うん。ごめん……ちょっと俺も意味分かってないとこあるんだけど……とりあえず大和さ、ごめんついでにゆめのこと引っ張り上げてもらえるか?」
「ん? おお、待ってろ。すぐ起こす」
「いやいや、完全に寝て脱力してる人間って、けっこう重いからさ」
で、ゆめの下敷きになった俺と、心配そうに見てくる大和、呆れ混じりのぴょんの3人で少し話してから、大和の力を借りて眠ったままのゆめをソファーに座らせてもらって、俺も久々に床から起き上がることに成功した。
そしてゆめの身体を起こした大和が、一度部屋の外へ出て行った。
しかしぴょんの「どうなのかね」って言葉、ほんと何も言い返せねぇな……。
「ってぇなぁ……」
何故か部屋から出て行った大和を見送り、ぴょんに言われた言葉を反芻しながら、テーブルとゆめと、二度の攻撃を受けた自分の額をそっと触れば、明らかにぷくっと
しかしまさかこのダメージで気まで失うとは、ううむ、不覚。
触れてみた名誉の負傷……ならぬ不名誉な負傷はちょっと触れるだけでも割と痛くて、正直けっこう気が滅入る。
だが見た感じゆめに目立った怪我はなさそうなのが救いだろうか。目を閉じてソファーに座らされている寝顔は、無邪気な感じがしてやはり可愛い。
でも今ばかりは、その可愛さに免じてやる気持ちはさすがにない。
起きたらガツンと言ってやる。
そんなことを思っているうちにバタバタと大和が戻ってきて——
「ほれ。これ使って冷やせよ」
と、珍しく少し焦った表情の大和から薄手のハンカチかナプキンに包まれた、何か冷たいものが渡された。
「え」
「ピクニック用のジップロックあったからさ、ドリンクバーのとこの氷借りて、いれてきた」
「おいおいせんかんの手当、女子力たけーなっ」
「水もとってきたから、飲みたかったら飲めよ?」
「あー……さんきゃ」
大和から渡されたものに正直俺もぴょん同様に驚きはしたのだが、でも今はそれがありがたくて、俺は大和から渡されたジップロックを額に当てて患部の痛みを和らげた。
しかし何という頼り甲斐。
何ていい奴。
表情から割と本気で心配してくれてるのが伝わってくるし、うん、本当こいつが友達でよかったわ。
俺もかくありたい、そう思いながら改めてソファーに座らされている女性を見れば——
「ゆめー? 起きれるかー?」
ぴょんに肩をトントンされているものの……眠りチアガールに起きる気配なし。
その様子にぴょんもけっこう困惑した様子で——
「ゆめのセルフコントロール力、たけーはずなんだけどなー」
と頭に手を当てていたが、正直そのイメージは、俺も同感だった。
「うん、俺もそういうイメージだったからビビったよ」
「俺らが買い物行ってから、寝ちゃったのか?」
「え、あー、ううん。そういうわけじゃないんだけど……というか、むしろ、ちょっと二人が買い物行ってた間のことで、聞いてほしいことがあるんだけど……」
「なんだ?」
「えーっと、とりあえず、順を追って話してくな」
共有してたイメージが、ぴょんと同じだったから。
ゆめはなんだかんだでしっかりしていて、周りをよく見てて、頼りになるって、思ってたから。
さっきのゆめの取った行動が理解できなかった俺は、歯切れ良くとはいかなかったが、頼れる同世代の二人にまるっと相談するべく、つい先程に起きた出来事を伝えるのだった。
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