第457話 飲み過ぎなのか
「ハロウィンか! たしかにハロウィン近いな! てか、ハロウィンオフはなくていいのか!?」
「それはそれでやってくれたら嬉しいけど、たぶん王様はお妃様と二人でハロパするみたいなんだよね〜。なので、ここで参加してもらいま〜す」
「あー、王やんコスプレ好きだもんなー」
「おいっ!?」
「まぁまぁ。ここは【Teachers】のチームアダルティしかいねーから、落ち着けって王」
「いや、なんだよそのチーム!?」
「そのくくりなんかやだな〜」
ゆめの切り出しを受けて生まれた話は、流れの中で露骨に話題が変な方向に行きかけたが、つまりは俺とゆめが遅刻する大和とぴょんを待つ間に話していたことを本当にしようというものだった。
そう、つまりはコスプレカラオケ。
そして俺とゆめは既に、このイベントに対応するための衣装を用意済み。
俺も共犯なのだから、たしかにある意味俺とゆめのサプライズ企画か。
「それで、具体的にはコスプレしようってことでいいのか?」
「うん〜」
「でもここ、レンタル衣装とかなそうだけど……もしや調達ミッション発生か?」
「さすがせんかん鋭いな〜。ということで、二人にはこれから衣装を探してきてもらいま〜す」
「マジかよっ」
「なるほど相分かり申した! あたしとせんかんで衣装探してきて、二人の衣装と勝負ってこったな!」
「さすぴょん〜」
そして大和がゆめに詳細を尋ね、ゆめがそれに答えると、大和は笑い、色々察したっぽいぴょんが大きく頷いて、その姿にゆめが親指を立てた。
しかしまた勝負……だと?
俺そこまで聞いてないんだけど……。
まぁたぶんこの辺は、ゆめも今決めたんだろうな。
「ちなみにこれも個人戦ね〜」
「了解したぜぃ!」
というわけで、そんなこんなで——
「っしゃあ! 行くぞせんかん! 衣装狩りじゃー!」
「おいおい酔ってんだから走ると転ぶぞー? 気をつけろよー」
「行ってきっ!」
「なる早で決めてくるなー」
「行ってらっしゃ〜い」
「行ってら」
ノリノリな雰囲気で手ぶらのぴょんとリュックを背負った大和が俺らに手を振り、二人が出発していった。
こうして室内には、俺とゆめが残される。
うるさいのがいなくなった室内には、カラオケの機器から流れてくる音が響くばかりで、むしろ不思議な静けさが感じられるような、そんな気もした。
「ぴょんいないから、王様扱いしなくてもい〜い?」
そんな穏やかになった空気の中で、隣に座るゆめが小首を傾げてそう尋ねてくる。
しかしほんと、いつでも所作が可愛いとか流石だなぁ。
「もち。つーかもう普通にやめてもらって構わんし」
「え〜。困らせるのが楽しいんじゃ〜ん」
「本音が露骨! つーか、その考えが既に王様に対するものじゃねぇ!」
「あはは〜。たしかに〜」
そんなゆめに俺は普通なトーンで返したが、今度は悪戯っぽい笑みを浮かべるゆめが出てきて、結局俺のツッコミモードが再起動。
しかしほんと、今日のゆめはよく笑うなー。
まぁけっこう飲んでたし、そのせいもあるのかな。
「てか今日飲み過ぎじゃねーか? いつもよりだいぶ飲んでる気がするけど」
そんなアルコールのせいか、いつも以上にふわふわしている気がするゆめを心配してみれば——
「お〜? 心配してくれるの〜?」
と、少し目を大きくして、露骨に意外そうな顔をされた。
その表情にはちょっと不服だったわけだが、いちいちそこを気にする俺ではない。
「そりゃそうだろ。ゆめっていつもそんな飲んでないじゃんか」
なので俺が心配する理由を伝えると——
「お〜。よく見てるね〜。でもまだ平気だよ〜っとわっ」
「おいおいっ!?」
大丈夫アピールをするためか、立ち上がってくるっと回ろうとしたゆめが思いっきり足をもつれさせて背中からテーブルの方に転びかけた、が、間一髪背中を支えるように差し出した俺の腕が間に合って、腕力に任せ華奢なゆめの身体ごと俺の身体の方に引き寄せることで、ギリギリゆめを受け止めることに成功する。
うん、今の転び方は危なかった。転んでたらテーブルの上にガッチャンで、グラスを頭で割る羽目になってたかもしれないし。
「ご、ごめんね……」
「ういうい。やっぱ酔ってんだから気をつけろよ」
「う、うん……」
そんなあわやのシーンを演出してくれたゆめに年長者として注意しつつ、赤ら顔のゆめをちゃんと立たせ、腕を離す。
そしてだいから何か連絡来てないかなーと、自分のスマホを操作し出したところで——
「ねぇねぇ」
「ん?」
俺の隣に座り直したゆめが肩をつついてきたので、スマホチェックをやめてテーブルの上に置き、そちらの方に顔を向けると。
「ゼロやんが選んでくれたの、今着てもいいかな〜?」
「あー。そうか、先に俺らが着てるのも、サプライズなるか」
「うん〜。それにせっかく選んでくれたんだし、選んでくれた王様には先に見せたいじゃん?」
「いやこのタイミングで王様使うんかいっ。てか王様関係なく、別にそれは気にしなくていいだろって。遅かれ早かれ見るんだし」
「え〜、早く見たいって思ってくれないの〜?」
「いや何キャラだよそれ? まぁ、見たくないわけじゃないけど」
「お〜。じゃあ着替えるからこっち見ないでね〜」
「は? え、ちょまっ!?」
あーだこーだ言いながら、つまり先に着替えよう的な提案が来たと思えば、俺が隣にいるというのに自分のリュックから例のコスチュームを取り出したゆめが、着替えのために躊躇いもなく今着ている服を脱ぎ出すではありませんか!
「出る! 俺部屋出るから! 待て! ステイ!」
そのあまりに唐突な大胆さに、俺は一瞬見えてしまった白い背中の記憶を消そうと必死になりながら、ゆめの方を見ないように部屋の中を移動し、扉の外へ抜け出した。
そして外から中が見えてしまわぬよう、細長いガラス面に背中を当てて、室内を隠す。
いやしかし何だってんだゆめのやつ?
今の着替えだしのタイミングとか、ゆきむらじゃあるまいし!
天然で堂々と着替え出しそうな奴のことを思い浮かべながら、俺はまだ焦ってドキドキする胸の鼓動を、何とか収めようと息を整える。
ほんともう、どうしてこうなるまで飲んでしまったのか、そんなゆめを脳内で責めながら、俺は脳内の別ゾーンでこう判断を下す。
今日のゆめは、危険だぞ……!
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