第455話 王位が埋まる時

「1位は……!」


 だい、だい、だい……!


 そう呼ばれることを願いながら、やたら言葉を溜めるぴょんの発表を待つ。

 ちなみにその発表をドキドキ待っているのは俺くらいなもので、ゆめはポチポチしながらスマホを見ているし、大和はもうすぐ退店時間のためか、テーブルの上に残った食べ物を片付けている。なんかもう、自由な娘とパパみたいだなこいつら。


「獲得票、ジャック、嫁キング、いっちゃん、ゆめ、ゼロやんで……」


 と、よそ見をしている間に、誰が投票したのかが告げられて——


「だい!!」


 気合いの入った声で、俺の期待通りの言葉が登場した。

 1位、だい。

 その言葉に俺はホッと胸を撫で下ろした、のだが——


「その5人がだいに投票してて、ぴょんとせんかんはお互いに投票してて、リダとあーすはゼロやんに投票してるんでしょ〜」

「うむ。ってことは、だいとゆっきーとロキロキ票がまだあるってことだよな」

「……ん?」


 誰が誰に投票したとかそこまでちゃんと記憶してなかった俺だったが、ちゃんと聞いてないようでしっかり聞いていたゆめと大和が述べた言葉に、俺は思わず首を傾げた。

 あれ? それって、つまり……。

 そんな二人の発言に。


「んだよ、気づいちまったかー」


 ぴょんがずっと見ていた紙をくしゃくしゃに握りつぶしながら、頭の後ろで両手を組む。


「やっぱりギルドの中心人物は強いな〜」

「うむ。あの盛大な復帰イベントが開かれるだけあるわな」


 そのぴょんの様子に確信を得た二人の視線が、俺に向く。

 それはつまり、そういうことなのだろう。


「でも地味にさ、ゼロやんのこの絶妙に照れてる感じとか、写真としてもポイント高いんだよね〜」

「お、たしかに! ナチュラルな笑顔派もいるけど、恥じらいながらもなんだかんだあーんしてくれるのが好きって派閥もあるもんなぁ。これはそういう論争を生む引き金になるかもしれん!」

「まぁ今回ゼロやん票いれたメンバーは、そこが理由じゃない気がするけどね〜」

「へ?」

「愛故の倫の勝利か。それで5票も取るってやっぱ倫はすげぇなぁ」

「はい! ってことで、ゼロやん優勝おめ! ホントはあたしが101票でぶっちぎりのはずなんだけど、今日は譲ってやらぁ!」

「お、おう……」


 そしてよく分からないゆめと大和の解説を聞かされた後、よく分からないまとめを聞かされて、最終的にぴょんからの結果報告を受ける。

 でも何だろうか、あんまりこう、勝った実感がない。


「ちなみにほれ、みんなからこんな風にメッセ来てたんだぜー」


 だが、ぴょんが俺に見えるように出してきたスマホの画面を見れば。


久門しずる>山村愛理『女の子たちが可愛いから、ぴょんゆめ写真に投票するねーーーー』17:35

上村大地>山村愛理『せんかんいいなー。僕もゼロやんにあーんしたい!だからゼロやんたちの写真に投票するね!』17:41

石神玄一郎>山村愛理『敗戦濃厚なメンズに投票する俺の親心(・ω・)ノゼロせん票』17:48

石神美香>山村愛理『ゆっきー尊い・・・可愛い・・・ゆっきーに100票っ』18:05

神宮寺優姫>山村愛理『ゼロさんに投票します』18:31

上村大地>山村愛理『このゼロやん可愛すぎない!?ゼロやんのあーんしてもらう写真に投票変更する!』18:33

田村大和>山村愛理『君の美しさに清き1票を☆』18:40

北条真実>山村愛理『可愛いゆっきーに投票します!本当にみなさん楽しそうで、羨ましいですー。お兄ちゃんのことよろしくお願いしますね!』18:46

北条倫>山村愛理『ぴょんとゆめの写真に1票』18:47

岩倉亜紀>山村愛理『恥じらうゼロさん可愛いっすね!兄貴っぽいのに可愛いとこあるなんてズルいなぁ。ということで、ゼロさんに1票いれるっす!』19:21

久門しずる>山村愛理『だいと姪っ子ちゃん可愛すぎるーーーー。ごめんねーーーー、だいの写真に投票変更するーーーー』19:33

北条真実>山村愛理『だいさん可愛いすぎる!姪っ子ちゃん可愛すぎる!ごめんなさい、だいさんに変更します!』19:33

石神美香>山村愛理『だいが尊過ぎる死ぬ・・・だいに100万票・・・』19:33

平澤夢華>山村愛理『ごめ☆だい可愛過ぎるから投票変更☆ミ』19:36

里見菜月>山村愛理『もうみんな投票したんだよね。ゼロやんって今何票?』19:37

北条倫>山村愛理『投票先をだいに変更します!』19:38

里見菜月>山村愛理『なるほど。私の投票先は、ゼロやんにします。これでゼロやん1位なれるかな?』19:39

里見菜月>山村愛理『すごく楽しそうだし、私も行きたかったな。次は絶対参加するからね』19:40


 と、それぞれのコメントや投票の変遷がしっかりと書かれていて、しっかりと俺に投票してくれたみんなの声も見てとれた。

 リダの愛ある投票も、ゆきむらの淡々とした投票も、あーすの悪寒が走る投票も、ロキロキの反応に困る投票も、なんかみんならしい投票だったんだなって、投票の裏側を見て、よく伝わってきた。

 でもやっぱり目を引いたのは何よりもだいのメッセージで、ちゃっかり俺の得票数を聞いた上で、俺を一位にするために投票してくれたなんて……なんて深い愛なのか。

 しかも奇しくもだいが投票する前に俺がだいに投票変更したから単独一位じゃなくなったわけだろ?

 なんかもう、運命的な何かを感じるよね……!


「ニヤケてんぞー?」

「え、あー、うん。なんか嬉しくて」

「お。そんなに王様なれて嬉しいのか倫!」

「へ?」

「いつもいじられのゼロやんが王様なって、どんなこと言ってくるのかドキドキだね〜」

「え? いやいや、ドキドキすんなよ!?」

「分かりましたドキドキしないようにします〜」

「えぇ!?」

「じゃあ王様、二次会カラオケへ移動してもよろしいでしょうか?」

「うわ、ぴょんの敬語とか背中ムズムズするって!」

「おっけ。敬語やめるわ!」

「え、だる! 一々そんな反応なってくの、だる!」

「それが王様の特権ですからね!」

「大和も敬語やめろ! キモい!」

「おっけ。敬語やめるわ!」

「同じこと言ってんじゃねぇ!?」

「分かった!敬語やめるにゃん!」

「それもきめぇ!」


 しかし、だいとの同率一位を密かに喜んでいたのも束の間、みんなのボケとも言いづらい言葉たちに、俺はあっという間に現実に引き戻された。

 何でだろう、王様権を獲得したはずなのに、既に逆に面倒くさい。

 王様ってなんだ? 偉いんじゃないのか?

 むしろいつもより、面倒なのか……!?


 そんな気配が漂う20時過ぎ、どう考えても前途多難な様相が見え出すオフ会後編のカラオケへ、俺たちは移動するのだった。

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