第450話 団体戦からの個人戦

「ちゃんと撮れたかー?」

「お〜」

「何だ倫? どうかしたのか?」

「なんでもねーよ……」


 時刻は18時24分。

 既に開始から1時間半弱が経過し、食べ物を食べる手が動かなくなり、飲み物ばかりを消費する、そんな時間。

 俺たちは先ほどの写真タイムを終えて、それぞれまたテーブルの向こう側と向き合う形に座り直していた。

 そう、座り直しただけだ。それだけなのに、なぜか何か心配するように大和が俺に声をかけるから、俺はそれにそっけない返事をする。

 いや、誰が言えるかって話なんだよ。さっきのゆめの写真に色々反応してるとかさ。

 ……はぁ。

 こんな時はだいの写真でも見て落ち着きたい、そんなことを思いながらスマホを開けば。


上村大地>【Teachers】『上村大地が写真を送信しました。』18:09

上村大地『あーんて食べさせてくれる人待ってまーす☆』18:09

上村大地>【Teachers】『あれ?みんないなくなったー??』18:15


 と、イケメンの無駄遣いな写真が15分前に送られてきていたことに、今気づく。

 いやしかし、静止画だとマジでイケメンなのに——


「黙ってればカッコいいのになー」

「ほんとにね〜」


 どうやら俺と同じくその写真に気づいた女性陣が、ものすごい真顔で、俺と同じことを呟いた。

 どんまいあーす……!


「とりあえずあたしが一気に流すから、全員あたしに写真送って」


 そして数秒ほどのあーすの写真を見る時間も終わり、ぴょんの指示が出たので、みんなそれぞれ指示に従い、手元で操作を行い出す。

 

「うし! じゃあ一気にいくぞー」


 みんなからの写真を受け取ったぴょんはさらに手元の操作を行って。


山村愛理>【Teachers】『おまた!』18:27

山村愛理>【Teachers】『ゆっきーに続く新たなエントリー作品だ!』18:27

山村愛理>【Teachers】『投票先変えたかったら連絡よろ!』18:27

山村愛理>【Teachers】『山村愛理が写真を送信しました。』18:28

山村愛理>【Teachers】『山村愛理が写真を送信しました。』18:28

山村愛理>【Teachers】『山村愛理が写真を送信しました。』18:28

山村愛理>【Teachers】『山村愛理が写真を送信しました。』18:28

山村愛理>【Teachers】『山村愛理が写真を送信しました。』18:28

山村愛理>【Teachers】『山村愛理が写真を送信しました。』18:28

山村愛理>【Teachers】『山村愛理が写真を送信しました。』18:28

山村愛理>【Teachers】『山村愛理が写真を送信しました。』18:28


 と、ものすごい連投が続く。

 ちなみに1枚目から順にぴょんがあーんしてもらう写真、してあげる写真で、そこから大和、ゆめ、俺と同じ展開の写真が並ぶ。

 いや、しかしすごい絵面だぞこの写真ラッシュ。

 そんなぴょんの投稿を受け。


上村大地>【Teachers】『この写真撮るとこ僕もいたかった!!』18:29


 という魂の叫びや。


神宮寺優姫>【Teachers】『ありがとうございます』18:30


 という、何に対するものか分からない返事が来た。

 ……いや、文脈の流れとしてゆきむらの言葉の意味はわかるけど、ここは考えないようにしよう。うん。

 そんなことを考えているとぴょんのスマホが揺れたので、また誰かが投票をしたのだろう。

 すると。


「3対1対1対1対1になりました」


 と、わざとらしく淡々とぴょんが投票数を告げてきた。

 ふむ、現状誰かの一人勝ち、なのか。

 となるとまぁ、可愛さでゆめかゆきむらか、だろうが——


「分かれたね〜」

「ちなみに得票数は全部個人に変更な!」

「わたしたち二人写ってるやつは〜?」

「それぞれに1票計算!」

「なるほど〜」

「ってなると、得票数が7ってことは、ここまで反応してるのがリダと嫁キング、ジャックにあーすにゆきむらだから、俺と倫、ぴょんたちの写真に投票してるのが一人ずつか」

「お〜、せんかん計算早いな〜」

「まぁな!」

「ドヤ顔うざ。あ、そういやこれ、俺らも投票すんの?」

「あー、まぁそうすっか。あたしに投票したい相手送りたまえ!」

「わたしはこの照れたぴょんが可愛いから、ぴょんにいれるでありま〜す」

「いや送れって言われた直後に口頭て——」

「3対2対1対1対1!」

「カウントするんかい!」

「ふむ。ゆめがぴょんに入れて1が一つ2になったってことは、つまり今ぴょんが2票。ってことは、二人に票が入る写真へはそれぞれ1票ずつしか入っていないはずなので、ゆめはまだ1票ってことが確定か。つまりここまでの情報から3票入ってるのは」

「ゼロやん確定だね〜」

「はぁ!?」

「うむ。あのリクエスト出したんだ、ゆっきーは倫にいれるだろうしな!」

「残る1票はあーすだろね〜。やったじゃんゼロや〜ん」


 そして、ゆめの投票直後のぴょんの得点発表を受けて、それを無駄に早口な大和とニコニコしっぱなしのゆめが分析し、何やら俺が一位だと言われる始末。

 それに俺は「いやいや」と思うも——


「正解!」

「いや、秘密投票してる意味!?」


 ぴょんまで二人に乗っかって、ここまでの得票数の打ち分け一部が判明する。

 いやしかし、俺と大和、ぴょんとゆめのチーム戦だと思ってたのに、まさかの個人戦になるなんて。

 なんかこれ……負けるより勝った方がいじられる気がしてならないな……!

 ってことは俺もぴょんに投票して勝ちを誘導してみるか……?


 と、ノリノリな3人をよそに割と冷静に頭を働かせる俺の脳がそんなことを考えていると、向かいに座った大和がスマホで何かの操作していて、その直後ぴょんのスマホが何かの通知を受けて振動し。


「1位が同率になりました!」

「口頭でよくない!?」

「やったなぴょん!」

「いやなんだこの茶番!? 一応秘密投票だよね!?」


 分かるけど!!


 とまぁ、意気揚々と一位が二人になったこと、つまり自分が一位になったことを宣言するぴょんと、その投票を自分でやったくせに、嘘くさく喜ぶ大和へ俺は即座にツッコミを入れる。

 ええいこのバカップルめ。無駄なハイタッチとかしてんじゃねえ。

 そんな二人を見てゆめはゆめで、爆笑していた。

 というかゆめはほんとにさっきからずっと楽しそうというか、ニコニコしっぱなしで、いつもより酔ってるのは間違いない。

 うわ、今冷静なの、俺だけか……?

 完全に周りが酔っ払いだけになると、自分の中のセーフティモードが発動するというあの状態になり、俺は残り半分の飲み会の時間に、大きな不安を抱きだす。

 

 今日の会

   まともに終わる

        気がしない


 心の中でそんな句を詠みながら、俺は早くだいから連絡来ないかなと、半ば現実逃避的に最愛の彼女のことを想うのだった。

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