第444話 勝負に忖度は、あることもある

「刻みたくあんっておもしれーな、これ」

「うちの実家で母さんがよく作ってくれたやつなんだよ、それ」

「おー、今度あたしもやってみっかな」


「ゆめさ、パンにバターとか塗ったか?」

「え〜? BLTってベーコンとレタスとトマト挟めばいいんじゃないの〜?」

「バター塗らないと、パンが野菜の水分吸ってべしょべしょになるんだなこれが」

「なんと〜。せんかんは博識だね〜。てへっ」

「ああ、ぴょんにはない可愛さ……って、違う違う落ち着けぴょんっ」


「普段料理しない奴こそ、なぜか自分で作る時調べなかったりするからなぁ」

「だいに準備手伝ってもらった人に言われたくありませ〜ん」

「な、なぜそれを!?」


「今度ゆめもだいから料理教わるかー?」

「え〜、今から頑張っても敵わないしなぁ〜」

「いやなんで教わる側なのにだいに勝とうとしてんだよっ」

「勝てない戦いはしない主義なのさ〜」

「おいおい、戦いは当たって砕けてナンボだろ?」

「何の話になってんだお前ら……」


 と、それぞれお互いに食事をしながらみんなと色々話して、時間はあっという間に過ぎていった。

 楽しい時間はあっという間というのは、本当にどうしてなのだろう?

 そんな気持ちで迎えた、15時4分。


「うし、じゃあ散歩行くか!」

「散歩〜?」

「おう! 二人一組で散策して、いい写真撮ったチームの勝ちだ!」


 みんなで持ち寄った食べ物を食べ切って、一息ついた頃合いに、勢いよく急なぴょんの提案が現れる。

 その表情は、完全にいつものオフ会のぴょんのもので、もうすっかり復活したことが見てとれた。

 何より何より。


「二人一組って、ぴょんがせんかんとデートしたいだけじゃないの〜?」

「おいおいそれじゃせんかんにあたしの可愛いピンショット撮らせて勝ち確じゃねーか?」

「そだね〜」

「おいツッコミ仕事しろっ!」

「えぇ!? 俺!?」


 ぴょんの様子に一安心したのも束の間、ぴょんがダダ滑りしたのは絶対俺のせいじゃないのに、理不尽にも俺にぴょんの叱責が飛んできて、結局俺が仕事するツッコミを入れる羽目になる。

 つか、ぴょんのボケならツッコミは大和でいいじゃんな!

 そう思って俺は大和に仕事しろと視線を送るが。


「ってことは、ここは公平にジャンケンか?」

「うむ。その通り!」


 俺がツッコミを期待した大和がぴょん側の支援に回ってしまったので、俺の大和への視線は何の意味もなくなった。

 しかしどっかに進行台本でもあんのかね? 見事すぎだろ大和の軌道修正。


 でも、そうか。ジャンケンか……。

 勝ち負けで分けるか、グーパーで分けるのか、どっちかだろうけど……オフ会とジャンケンでチーム分けをするのは……ううむ、いい思い出が出てこない。

 いや、もちろん今日のメンツなら誰と組んでもいいんだけどさ。

 うん、思い出しても意味ないことを考えのはやめやめ。


「勝ちチームと負けチームでそれぞれチームってことでいいのか?」

「おうよ! 恨みっこなしの一回勝負だっ」

「なるほど〜。そうやってナチュラルにデートの可能性も残すわけだね〜」

「うむ。こういうとこ可愛いだろ?」

「なーっ! やかましいっ」


 ルールを確認するため俺がぴょんに質問すると力強くぴょんが同意してくれたが、そのぴょんにゆめと大和のいじりが発生し、ぴょんが吠える。

 これはあれだな、さっき俺にツッコミを求めた罰だな! へっ!


「とりあえず! いくぞー!? 最初はグーっ!」


 そして有無を言わせぬぴょんの仕切りで、勝負が開始され——


「ジャン! ケンっ!」


 掛け声に合わせ、それぞれがそれぞれの勝負手を出し——


「ポンっ!」


 たった数秒で、勝負が決まる。


「なるほど〜平和的な組み合わせかな〜?」

「だな。夢の国の時みたいにまたゆめと一緒だったらどうしようかとちょっとドキドキしたけど、これはある意味平和的だ」

「まぁ、うん。同意する」

「おいおい、この組み合わせだとあたしらのツーショ撮っただけで御苑内じゃなくても、新宿の路地裏だろうがなんだろうが圧勝で勝っちゃうけどなー。ま、せいぜいいい写真撮ってこいやっ」

「わたしのピンでもいんだよ〜?」

「おい! あたしも写らせろっ」


 ということで、もうお察しいただけただろう。俺のチームはwith大和。残る一方はガールズチーム。……いや、レディーチーム? まぁいいや。

 俺としては、一番気楽なチームになったわけである。

 

「じゃあ中央休憩所に移動して、そこで東エリアと西エリア、どっちに行くか決めっぞっ」

「あ、スタートここじゃないんだ」

「エリア占有は厳密に真ん中から始める!」

「荷物は〜?」

「貴重品は自己管理!」

「ま、おっきなリュックはちょっと置かせてもらっておいていいべ。負傷者がでたらここが療養所な」

「いや、さすがに怪我人はでねーだろ……」

「うしっ! じゃあ移動すっぞ! 移動がてら地図でどっちのエリア取りたいか作戦会議だっ」


 ということで、ぴょんの仕切りと大和のフォローでさらに進行が進むのだが、これほんと、チーム分けは別として、イベントとしては色々先に決まってたんじゃないかな。

 まぁ、面白そうだからいいけど。


 二人の指示に従って俺は財布とスマホだけを持って、入り口で取った御苑のマップを大和と確認しながら先に歩き出したぴょんとゆめの後ろに続く。

 でも、正直俺は西も東もどっちでもいいのだが……。


「倫はどっちがいいとかあるか?」

「別にないよ。つーか華のある二人と華のない俺らじゃ比べるまでもねーし、4人の投票制で勝ち負け決めるとして、絶対ぴょんとゆめは自分の写真に、大和はぴょんの方に票いれるだろ? つまり負け確イベントなんだから、なんか面白そうな写真撮ってだいに送れれば、何でもいいさ」

「おいおい倫くん。だいに写真送るなら、いい写真にしないとダメだろっ」

「いや、でも良すぎてもダメなんだって。向こうでだいがやっぱり行きたかった……ってしょんぼりしちゃうから。ほどよく、楽しそうだね、って社交辞令的に言われるくらいがちょうどいいの」

「はー……なかなか難しいんだな、だいと付き合うの」

「昔よりはよくなったけど、基本属性は自分に自信ない、だからな。でも俺と一緒にいたいが感情のベースだから、可愛いもんだよ」

「慣れてんなー」

「いや、むしろ大和の方がぴょんと息ぴったりじゃね? まだそこまで付き合い長くないのに」

「まぁ、その辺はぴょんのことよく見るようにしてる賜物かね」

「ほほう?」

「どんな時にどんなこと思って、行動して、どんな顔すんのか見てれば、何となく分かってくるものあるじゃん?」

「あー、それは、あるな」

「それを頑張ろうってしてるだけさ。頑張らなくても分かるくらいに早くなりたいけど」

「それはだいぶかかりそうだなー」

「でもそこを理解していく過程も、愛だろ?」

「さらっとそれ言えるお前、すげーわ……」


 エリアの東西を決める話をしていたと思えば、いつの間にかこんな会話になっていたわけだけど、つまりまぁ、この勝負中はぴょんが近くにいないから、どっちでもいいってことなのかな。

 あ、じゃあむしろ俺たちは、ぴょんたちが選びそうな方の逆を選べばいんじゃね?

 そう考えて俺はマップに目を落とすと——


「東だ」

「ん?」

「だから、西だ」

「いや、どういう——」

「ぴょんとゆめはバラ園のある東に行くだろうから、俺たちはその反対の西を選ぼう」

「お? おぉ!」


 ふと気づいた、東側にあるバラ花壇の存在に、俺は急に話題を変えてそれを大和に伝えてみる。


「なるほど、さすが星見台の孔明」

「それ今思いついただろ」

「バレたか!」


 と、何とも無駄なやりとりも生まれたが、俺の提案に大和も納得の表情を見せてくれて、これで俺たちのエリアが決定する。

 

「じゃあ美しき姫と薔薇の共演を楽しみにしつつ、俺らはなんか面白写真狙いますかっ」

「おう!」


 本当はだいと薔薇の写真がいいけれど、今日のいい思いは大和に譲ろう。

 そう決めて、俺たちは足取り軽く、曰く「美しき姫」たちの後ろに続くのだった。

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