第443話 愛があれば何でもできる
小さな白い雲がちらほら浮かぶ見事な秋晴れの御苑内には、多くの人々が集まっていた。
苑内の木々は青々しく深緑を掲げるものから、美しく色付いたものまで様々で、まるで目から癒されていくような、そんな光景が広がる。
集まる人々も皆が穏やかになり、楽しそうだった。あー、だいも一緒に来たかったなー。
そんな人々の中に混ざるように、俺たちも芝生の広場にレジャーシートを広げ陣を取る。
大和が用意したレジャーシートはなかなかに大きくて、2メートル×2メートルはありそうなサイズだった。
「いい天気だね〜」
「だなぁ」
あたしが盛り上げる、そう宣言したぴょんが率先して準備をしているので、俺とゆめはシートの端の方で体育座りをしながら、バタバタ動くぴょんと、その指示で動く大和を眺めている。
「せんかん、色々持ってきたんだね〜」
「だなぁ」
そして今ゆめが言ったように、大和のリュックからはレジャーシートだけでなく、紙コップやら紙皿やら割り箸やらミニテーブルやら、至れり尽くせりのピクニック用品が現れた。
すごいな大和、どんだけ細かく用意したんだろ?
「わたしたち出番ないね〜」
「だなぁ」
反面バタバタ動く二人を眺める俺たちは暇そのもので、さっきからずっと似たような会話を続けているわけだが——
「おにぎり班!」
「あ、はい」
不意にぴょんから指示が飛んできたので、俺は持ってきたリュックから保冷剤を底に敷いた風呂敷に包んだおにぎりを取り出して、ぴょんに渡す。
その直後。
「サンドイッチ班!」
「は〜い」
今度はゆめが呼ばれて、ゆめもリュックの中から紙袋を取り出してぴょんに渡す。
そしてそれらをいい感じに並べて、最後にぴょんのリュックから複数のお弁当袋が出てきて、その中からさらに複数のタッパーたちが現れる。
そしてそれらを並べ終わって——
「よっしゃ準備完了じゃい!」
「ありがと〜」
「さんきゅー」
ぴょんのやり切った! と言わんばかりの大声に、ゆめと俺は感謝を伝えて、ようやく端の方から中央部へ移動する。
それと同時に大和から冷たいお茶の入った紙コップが手渡され——
「では、満を辞してここにオペレーション:
「おー」「お〜」パチパチパチッ
高らかなぴょんの宣言が発せられ、俺たちは紙コップで乾杯する。あ、ちなみに全員中身はお茶だからね? 苑内は禁酒です。ルール守るの大事。
っと、そんなこんなでスタートまで紆余曲折あったオフ会が、こうして幕開けしたのだった。
……いや、俺が一人でゆめの演奏会に行ったのもオフ会になるんだったら、既に俺とゆめが合流した段階で始まってたと思うんだけどね!
まぁ、これを口にするのは野暮ってものだから、口にしたりはしないけど。
さて。
開幕し、乾杯し、俺は目の前に並べられた料理たちに目を移す。
バリエーション豊富な料理たちは、彩りはそこまで意識されず、ところどころ形が崩れたりしているところこそあれ、非常にいい匂いを漂わせてくれて、食欲を刺激した。
まぁ、遅刻で焦ってダッシュしたら色々崩れたりもあるだろうし、形だって上手くいくのもあれば、いかないのもあるから、全て上手く作ることを求めるなんて方が間違ってるのだ。……そう考えると、毎度見た目にも綺麗な料理を作り上げるだいの凄さが改めて分かってしまうのだが。
もちろん今日のこれらの料理は全て、ぴょんが担当してくれた。本来だったらだいと半々の割り当てだったと思うのだが、欠員となってしまったため、全てをぴょんが引き受ける形になったのだ。
もちろんこれは押し付けではなく、各々料理を用意する、というアイデアもあった。だが、張り切ったぴょんが「あたしに任せろ!」と断言したため、こうなった。
ちなみに用意された料理たちは、唐揚げやら卵焼きやら、いわゆるお弁当の定番メニューから、肉巻きおにぎりとか、生姜焼きとか、ガッツリ系のメニューに、ポテトサラダや枝豆、チヂミなどの居酒屋メニューに、リンゴや梨などのカットフルーツと、バリエーションが見事に豊かだった。……いや、肉巻きおにぎりっておにぎりじゃんな!? あぶねー、被んなくてよかった……!
「ぴょん頑張ったね〜」
「まぁな!」
そんな素晴らしい料理たちの準備をしてくれたぴょんへ、ゆめが素直な驚きをもって賞賛し、料理たちの写真を撮ると、ぴょんが胸を張ってドヤ顔を浮かべた。
まぁ、胸張っても……おっと、何でもないぞ?
「うまっ」
しょうもないことを考えつつ、俺は近くにあった唐揚げに手を出し口に頬張ってみたら、なかなか濃いめの味付けながら、スパイスの香りが鼻を抜ける香ばしさが伴って、思わず驚きの声をあげてしまうほどだった。
「ゼロやんからその反応もらえるってことは、あたしの勝ちだな!」
「めっちゃ美味い」
「頑張って作った甲斐あったな!」
「どれどれ〜? あ、ほんとだおいし〜」
俺の反応にやたらとぴょんが喜んで、それに大和も呼応する。
そんな様子を見て、ゆめも一口食べて笑顔を浮かべる。
いやぁ、しかしやるなぁぴょん。
だいの味付けにも似た美味しさじゃんな。
何に対しての勝ちなのかはよくわからんが、俺はドヤるぴょんにとりあえずの拍手を送る。
「いやぁ、試作に付き合った甲斐があるぜ」
「おいっ!? それは秘密って言ったろうがっ!」
「あ、いっけね!」
ドヤるぴょんに思うところがあったのだろう、額を自分でペシっとしながら、確信犯的な表情で笑う大和に、俺とゆめも笑ってしまう。
でもつまりそれは、ぴょんが本当に頑張ってくれたということで、つまりつまりそれは——
「ここ最近の上達具合、マジにすごいと思うよ。ありがとな」
ネタバレをした大和に噛み付こうとしていたぴょんに、大和が穏やかな笑みを浮かべて感謝を述べる。そして優しく、ぴょんの頭を撫でる。
それだけで——
「べ、別に……」
「ぴょんがだいみたいなった〜」
ノンアルなのに顔を赤くして大人しくなったぴょんが、紙コップを両手で持って大和から顔を逸らし、これ以上なく分かりやすい反応を示す。
そんなぴょんを面白がるように、今度はゆめがぴょんの頬をつつく。
うん、でも、そういうことだよな。
好きな人のためだから、頑張った。
結局何かの上達のために、これに勝る原動力なんかないのだろう。
「いやぁ、愛だなぁ」
そんな二人を見ていると、なんだか楽しくなってきて、俺は少し二人を茶化すように、自分の本音を言ってみた。
すると——
「まぁな!」「うるせぇ!」
正面から受け止めて笑う男と、恥ずかしそうに噛み付く女の二人が現れて——
「仲良しだね〜」
それを見てまたゆめが笑う。
そんな、穏やかで楽しい時間を過ごしながら、初の試みだったピクニックは、見事なまでの大成功を収めるのだった。
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