第437話 定時上がりは難しい

北条倫>里見菜月『学校出たよ』17:28


 大和と一緒に学校を出た直後、俺はスマホをポチポチしてだいに連絡を送る。

 その辺は大和も同じみたいで、誰かに何か送ってたから、たぶん相手はぴょんだろう。

 

「しかし平日デートとは、羨ましいねぇ」

「否定しない。でも割とぴょん、大和んち泊まりに来てんじゃないの?」

「そうでもないぞ? お前らみたいにお互いの家からもログイン出来る環境は俺らにはないから、土曜インするならそれぞれ家にいなきゃだし」

「あー、じゃあ金曜をお泊まりの日にするとかは?」

「部活なきゃそれでいいけどさ、うちからぴょんちくそ遠いからな。それに金曜は割とぴょんが職場の人と飲みに行くこと多いからなー」

「あー、それは想像つくな」

「で、たまに金曜泊まりをすれば、帰りたくなーい、って言い出して、この前みたいになる、と」

「え、何それ可愛いじゃん」

「あんまり見せないようにしてるんだと思うけど、可愛いとこ多いぜ? ぴょん」


 で、駅までの数分の道中の俺たちの会話は、島田先生あたりに聞かせたら「爆発しろ」と言われかねないというか、間違いなく言われる会話だった。

 でも、いいね。こうやって親友の幸せな話を聞くのは。俺も幸せな気分になれる感じ。


「でもそっか。だいも俺の前だと、みんなの前じゃ見せない可愛いとこ見せてくれるもんな」

「だいがそういうタイプなのは想像つくけどな!」

「でも想像と目にするのは、全然違うじゃん?」

「そうな。それは倫の特権だな。やー、改めて復帰してよかったわー」

「俺もお前が戻ってきてくれて嬉しかったよ」

「お? 倫デレ?」

「いやなんだよそれ……男が足りねーんだって、オフ会」

「オフ会ありきの思考してるMMOユーザーとか相当レアだぞそれ」

「いや、そりゃそうだけど……でも実際そうなわけだし」

「てっきりハーレムがよかったのかと思ってたぜ?」

「いやいや、ハーレムってのは全員から矢印出てないと成り立たないんだぞ? フィクションの世界以外あり得んて……」

「争奪戦だったのにかー?」

「それこそただのネタだろうがっ」

「いやぁ、どうだかねー?」


 しかし幸せな気持ちで話してたと思ったのに、いつの間にか結局茶化されいじられ、最終的に俺が大和にガルルと牙を向く会話になっていくのは何故なのか。

 

「ま、土曜楽しみにしてるぜ?」

「はいはい。でもあれだな、ゆめが来たらこの前の夢の国の最後のメンバーと同じだな」

「あー、倫の悲しいセリフが飛び出たあの日か」

「そこを掘り起こすなっ」

「一生いじるぜ俺は?」

「どんだけだよっ」

「つまりこれは一生友達宣言と同義」

「とっ……いや怒りづれぇなっ」

「ふっふっふ。ま、だいほどじゃないにせよ、俺だって割と奇跡的に倫と出会ってんだ。一生仲良くやってこうぜ兄弟ブラザー?」

「いや、お前の弟はやだな……」

「じゃあ俺が弟でも」

「やだわこんなでかい弟っ! 戸◯呂兄弟かっ」

「頑張れば肩に……いやー、流石に肩車が限界だな……」

「真面目に考えんなっ」


 そして、結局はボケる大和にツッコむ俺という構図に落ち着くのは、もう百を超える回数やってきた大和との鉄板だ。

 でも、たしかに「はじめまして」はLAで、お互い知らずに同じ職場で働いていたなんて、奇跡的な関係ってのは間違ってないだろう。

 しかもそれでいて、タメな上に波長が合うなんて。

 まぁ、大事にしてやらんこともないとか、俺だって思わなくはないけど……、とかそんなことを考えているうちに。


「じゃ、また明日! だいによろしく!」

「ん、じゃあな」


 東中野駅に到着したので、俺と大和は改札を抜け、あっさりした別れの挨拶をして、それぞれ反対方向のホームへと移動していく。

 こうやってふざけたこと話しながら一緒に帰れる友達が同僚ってのは、きっと世の中ではあんまり多くないんだろうなぁとか思うから、3月であいつが異動になるのは、ちょっと寂しい。

 でもま、まだ5ヶ月半くらいは一緒だし、いっか。


 そんなことを考えながら、俺は下り電車を待ちながら改めてスマホを確認してみたが、いつもなら既に定時後だから何かしらの連絡がありそうなだいから、何の返事もきていなかった。

 さらに言えば、既読もついていない。

 今日は遅くなるとは言ってなかったけど、どうしたんだろうか?

 と思ってたら。


里見菜月>北条倫『ごめんね、もうちょっと時間かかりそう』17:41


 あら。

 残業か、水曜日のだいにしては珍しい。


北条倫>里見菜月『けっこうかかりそうか?』17:42

里見菜月>北条倫『ちょっとテスト作りで、他の先生と意見合わなくて』17:42

里見菜月>北条倫『今はお互いクールダウン中』17:42

 

 おっと、これはさらに珍しい。

 だいが人とぶつかるなんて。

 でもたしかに、自分の教科にはそれぞれプライドかあるだろうし、数学科とか習熟度での展開授業するから、一人で全クラス教えるわけじゃないもんな。となるとテストは共同作成で、どんな問題出したいかは人によって違うってことか。

 いやぁ、社会科は一人で全クラス持ちが多いから、そこらへん楽でよかったなー。

 星見台なら倫理=俺、だからな!


 となれば……これはきっとちょっとじゃなく遅くなるだろう。そしてせっかくの水曜日にこの展開は、だいの不機嫌待ったなしだろう。

 ならせめてゆっくりできる時間取れるように、なんか家で作って待ってようかな。


北条倫>里見菜月『分かった。がんばれ!』17:43

北条倫>里見菜月『何か食べたいものあるか?』17:43


 ということで、俺はやって来た電車に乗り込みながら、だいの意見を聞いたわけだが——


里見菜月>北条倫『栄養のあるもの』17:44


 なるほど、これはかなりカッカしてますな。

 となると……あれか。


北条倫>里見菜月『分かった。作って待ってるよ』17:44


 どちらかがイライラしているなら、もう片方が支えればいい。

 って、なんかこれだとまるで夫婦みたいだけど、まぁ彼氏彼女でもそうだろう!

 

 ということで、俺に作れて、栄養があって元気が出るものは間違いなくあの料理。


里見菜月>北条倫『早く会いたい』17:45


 そんな可愛らしいメッセージに応援スタンプを送って応えて、俺は買い出しに必要なものをスマホにメモしながら、数分間電車に揺られるのだった。

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