第428話 DoNKaNバンザイ
「私は今日休んでるから、ゼロやんだけでもインしなよ」
「え、うーん……」
「レッピーさんにも、ちゃんと謝らないとだし」
「あ、そっか。たしかに」
あまり食欲のないだいのためにおかゆを作り、俺は冷蔵庫にあったもので適当に夕飯を食べ、迎えた21時前。
具合の良くないをベッドに寝かせたまま、俺はいつものPCデスクではなく、ベッドのそばのテーブルにノートPCを移動して、だいにも画面が見えるように、ちょっと気を遣ってLAへログインした。
それと同時に、もぞもぞとだいも動いて、俺の画面が見える位置に移動してくる。
振り返るとすぐだいの顔があるような感じになり、可愛い。
そしてログインしてまずはフレンド検索。
「知ってたけど、そんなにフレンド登録してる人いるんだね」
「ん? でも、もう引退した奴もいるから、見た目ほどじゃないぞ?」
「それ、私に言うの?」
「すいやせんっした」
検索してる俺の画面にずらっと並ぶフレンドたちは、スクロールするのもそれなりに時間がかかるもので、どうやらだいはその画面をまじまじと見ていたらしい。
さっき話した会話からも分かる通り、俺は自分の考えから色んな人と遊んできたので比較的フレンド登録されてる人が多いわけだが、だいのフレンド数は、想像するに難くない。
俺の謙遜がだいへの皮肉になってしまい、謝った俺にだいがクスクス笑う。
うん、胃に何か入れたからなのか、少しは体調が回復したようだ。
良かった良かった。
「あ、ライスさんだ。昔よく組んでたよね」
「ん? あー、でも今はたしか、27サーバーに移転したんじゃなかったかな」
「そうなんだ」
「うん、ギルドメンバーとまとめて移籍するって、冗談混じりに一緒にどうって引き抜きされた時に聞いたよ」
「さすがライスさん。ゼロやんを引き抜こうとするとはお目が高い」
「いや、それ何目線だよ」
そんな俺のツッコミに、だいがまた笑う。
ちなみに〈Rice〉さんの名前は俺が〈Reppy〉を探してる時に目に入ったのだと思うけど、だいとともにスキル250〜300を駆け抜ける時によく一緒にスキル上げをしたプレイヤーのことで、かつてはギルド【Bread】のリーダーでもあった人だ。
01サーバーじゃ大手ギルドになれないからと、鶏口牛後、別サーバーに移転していったのは、もうだいぶ前のことになる。
もちろんサーバーが変わってもアカウントメッセージを送ることは出来るが、一緒に遊ぶことが出来なくなってからは話すこともなくなり、そこからは全く連絡を取り合っていないので、今どうなっているのかは全く分からない。
まぁ、今はどうでもいいか。
〈Zero〉>〈Reppy〉『よっす。昨日は急に落ちて悪かったな!』
そしてようやく本題、俺はログインしていたレッピーに個別チャットを送信すると、割とすぐに。
〈Reppy〉>〈Zero〉『修羅場報告はよ!』
と、危うく吹き出しかけるセリフが返って来た。
〈Zero〉>〈Reppy〉『なんで確定みたいに言ってんの!?』
〈Reppy〉>〈Zero〉『昨日レイと予想して、そういう結論になっただけやって』
〈Reppy〉>〈Zero〉『せやかてゼロやん、なんやそのツッコミ、図星かいな?w』
〈Zero〉>〈Reppy〉『やめろエセ関西弁w』
〈Zero〉>〈Reppy〉『それにそんなんじゃねぇよ!w』
嘘だけどな!
そんなんなんだけどな!!
しかし、いきなり核心を突くような言葉をかけられたせいで、俺はちょっと心臓がドキドキした。
だいも、やはりちょっと苦笑い、といった様子である。
〈Reppy〉>〈Zero〉『ま、別にお前らが男女の仲だろうがなんだろうが、ご自由にだけどなー』
〈Zero〉>〈Reppy〉『は?』
〈Zero〉>〈Reppy〉『なんでそんな性別断定するようなこと言ってんのw』
〈Reppy〉>〈Zero〉『え、ボケ?』
〈Zero〉>〈Reppy〉『は?』
〈Reppy〉>〈Zero〉『今更そんなこと言うのかね君は?』
〈Reppy〉>〈Zero〉『だいが女なんて、お前が俺にだいを紹介してきて何回か組んだ時から分かっとるわい』
〈Reppy〉>〈Zero〉『・・・もしやお主、マジにリアルで会うまで気づいてなかったでござるか?』
〈Zero〉>〈Reppy〉『ござるうざ!w』
えぇー!?
表面上は軽く会話を続けているが、俺は正直にレッピーのログに驚いていた。
そんな驚きとともにだいの方を振り返れば……あれ? 当の本人はあまり驚いてる様子がなく——
「やっぱりそうなんだ」
「へ?」
「お互い様、なのかも」
「え?」
「だから、お互い様」
「……へ? それって、え?」
「まぁそうよね、ゼロやんじゃ気付けてなくてもしょうがないよね。ジャックもぴょんもゆっきーも、みんな気づけてなかったんだし」
「いやいや、さすがに……え? マジ?」
「うん。レッピーさん、女の人だと思うよ」
「素で!?」
なんだどうしたなんでなんだ?
え、君らどこで気づいてんの?
あのレッピーが、女?
いやいやいや、この雑な感じとか、適当な感じとか、女らしさなんかどこにもないじゃんか?
俄には信じられない発言に、俺は完全に絶句する。
〈Reppy〉>〈Zero〉『お前本当にオフ会で、「はじめましてー、え、女だったの!?」をやったんだろw』
〈Zero〉>〈Reppy〉『え、あ、いや』
〈Reppy〉>〈Zero〉『マジにおるんだな、そんな奴w』
こんな奴だよ!?
レッピーってこんな奴なのに、え、女なの!?
ノリとか大和と似たようなもんじゃんね!?
マジで、だいさんどこで気づくんよこれ……。
〈Reppy〉>〈Zero〉『ま、ゼロやんらしいったららしいけどな』
〈Reppy〉>〈Zero〉『そこら辺があれだろ、お前にフレンドが多い理由だろw』
……だが、今だいに言われたことを照らし合わせると、今のこの発言なんかが、急にそれっぽく見えてくるわけなんだが……ううむ。
やばい、急にどうリアクションすればいいのか分かんなくなってきたぞ……!?
〈Reppy〉>〈Zero〉『ま、鈍感力は人生で役に立つって言うからなー』
「なるほど、鈍感力」
〈Zero〉>〈Reppy〉『やかましい!w』
「そして乗っかるな!」
だが、ここで急に対応を変えるのも変な話なので、俺はさらっとレッピーにツッコミつつ、リアルではだいにもツッコミもいれ、脳内ではこの話題を流すことへ目的をシフトする。
というか、当初の目的であるレッピーへの謝罪はもう済んだんだから、これ以上こいつと話してる必要もないんだよな。
よし、じゃあ会話はこの辺で切り上げて、早いとこギルドの方に顔出そう、と思ったのだが——
〈Reppy〉>〈Zero〉『今日お前んとこ、活動日だっけ?』
不意に向こうから話題の切り替えが行われ、軽く肩透かしを食らった格好となり、俺の手が止まる。
もちろん聞かれたことに反応しないのは不義理なので、俺は聞かれた問いに回答するために手を動かし。
〈Zero〉>〈Reppy〉『うむ。火・土だからな』
〈Reppy〉>〈Zero〉『だよなー。でもさー、バージョンアップ前にキングサウルス周回したいんじゃけど、ちょっと誰か人貸してくれん?』
〈Zero〉>〈Reppy〉『ふむ。とはいえ俺の一存で決められることじゃないんだが、そっちの編成は?』
〈Reppy〉『盾槍剣メ錫樫。ま、ヒーラー俺だから、他にも回れんだけど、火力の関係で持久戦なるから、サブ盾できる奴1枚欲しいとこ』
〈Zero〉>〈Reppy〉『なる』
俺の回答から続いた会話は、つまりお手伝いの依頼だったわけだが、途中に出てきたレッピーの呪文のような言葉は、
正直漢字変換がだるいので、役割の頭文字を並べる——今のであれば、
「遠隔アタッカーなしの編成、久々に見たね」
そんなレッピーの依頼を見て、さすがゲーマー、ゲームの話なら加わりやすいのか、俺の画面を見ているであろうだいの声が後ろから聞こえてくる。
「まー、うちは俺がいるもんなぁ」
「うん。でも、たしかにレッピーさんの編成ならサブ盾欲しいね」
「うむー……とはいえ、俺が出来るわけじゃねーからなー」
昨日の今日だから、ちょっとなんとかしてやりたい、そんな思いを抱いたそんな時——
〈Senkan〉『俺様!☆大☆参☆上☆』
我が目を疑うログが、目に入ったのだった。
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