第404話 確率に祈り効果ってあるのかな

〈Zero〉『む、混んでるな。もうちょっと奥移動しよう』

〈Rei〉『はーい』

〈Ikasumi〉『うぃ!』


 狩場へ移動し、さぁスキル上げ、と思った矢先。山脈エリアのギヌン山脈で、俺がいつも行く狩場は、金曜夜という条件のせいか、いつもより混んでいた。

 そのため俺はいつもより遠くの、セーフティゾーンが少なめにはなるが獲物が潤沢な噴火口付近にみんなを誘導した。

 そこでレイさんから強化をもらいつつ、連携の確認なんかをするその裏で。


〈Zero〉>〈Rei〉『妹さん、通常モードなりましたよ。連絡ありがとうございました!』


 と、レイさんにこそっとメッセージを送ると。


〈Rei〉>〈Zero〉『おー、それはよかったですー』

〈Rei〉>〈Zero〉『あ、明日応援行きますねー』


 バフ魔法の間隙に打ってくれたのだろう。

 俺のメッセージ送信から十数秒後、レイさんから返信がやってくる。

 しかしそうか、市原のお姉さんだもんな。そりゃ地元戻ってきてるなら、妹の応援くらい来てもおかしくないか。


〈Zero〉>〈Rei〉『ありがとうございます、きっと市原も喜びますよ!』

〈Rei〉>〈Zero〉『私も市原ですけどねー』


 応援に来てくれてるという彼女へ謝意を伝えた時に、返ってきたツッコミは、全くもってその通り。


〈Zero〉>〈Rei〉『そうでしたw』


 そんなやりとりをしつつ、俺はこれ以上会話が広がらないように、レイさんのツッコミに素直に返すだけのメッセージを送信する。そしてそれは、相手も察したのだと思う。

 何故なら、見慣れた手順で唱えられるレイさんのいつものバフ魔法が、ちょうど終わったから。

 だから俺はそのパーティ強化の終わったタイミングで、何も言わずにいつものように山脈エリアを駆け出して、手近な恐竜モンスターを釣りに行った。

 そして見つけた一匹を釣ろうとして……あることに気付きはしたのだが、あえてそのまま、俺はそのモンスターに一撃を当てた。

 きっとみんな、多少驚くだろうな。

 そんなことを考えながら、足早に追ってくるモンスターを引き連れながら、仲間たちの所へ。

 すると、予想通りに。


〈Ikasumi〉『おい待てw』

〈Rei〉『お、黒衣ちゃんだー』

〈Reppy〉『こいつ動きはえーんだよなー』


 と、みんなからこれが通常通りのモンスターではないことを示す反応が。

 いや、一人だけ無反応だけど、まぁこれも予想通り——


「こいつ、ゼロやんの着てる装備落とす奴よね」

「うむ」


 ではなく、一人はリアルで反応してくれました。


「俺らの前にスキル上げやってたパーティが帰った後、丁度ポップしたんだろうな」

「あの服、私も欲しい」

「ガンナーにはいい装備だもんな。風見さんも着てたし」


 そんなだいと、コントローラーを操作しながら簡単に会話したけれど、私も欲しいって言った後のだいは集中し出したのか、急に静かになってしまった。

 まぁ、よそ見して倒せるほど弱い相手ってわけではないもんな。


 ということで俺も切り替えて、目の前の敵に集中する。

 俺が前回こいつに出会ったのは、さっきレッピーが話題に出した奴とか、【Mocomococlub】の面々と一緒にスキル上げにやってきた時。

 その時の戦いの記憶を、記憶から呼び起こす。

 あの時は、こいつの不意な登場に、パーティの態勢が整わないまま戦闘になったが、今は違う。

 もちろん戦力的には前回のメンバーが何枚も上手だが、初手からガンガンいけるならきっとそう苦戦はしないだろう、と思う。


〈Ikasumi〉『攻撃はえーなw』

〈Reppy〉『うむ、回避もたけー』

〈Reppy〉『レイ回復がんばー』

〈Rei〉『あいあいさー』


 そして開戦直後、二本足で立つ恐竜の左右の腕から振り下ろされるサーベル攻撃をイカさんが捌くのに四苦八苦し、回避性能が高く、アタッカーが攻撃を当てられるターゲットマークの出現時間が短いことにレッピーが苦戦する。

 だが、そんな中一名のみ、与える一撃は強くないものの、攻撃間隔の短い短剣で点滅レベルで現れるターゲットマークの出現攻撃チャンスを逃さずに、コンスタンスにダメージを与え続けていく。


〈Reppy〉『相変わらずだいはすげーなー』


 そんなアタッカーの姿を見て、素直に賞賛するレッピーだが、たぶんみんな同じことを思っただろう。

 なかなか上手くダメージを与えられないモンスターのHPを、一人だけ着実に削っていく。

 でもちょっとヘイトが心配だな……って思ったら、まるで俺の思考を読むように飛んでいく、レイさんからだいへのヘイト軽減魔法。いや、ほんとこの人天才的だな!

 そんな称賛を胸の内で唱えながら。


「両方のサーベル落としたら、イカさんにスタンしてもらうから、予定通りレッピー、だい、俺の順で連携いこう」

「わかった」

「だいは——」

「2回目、カラドリウス最強スキルでいくね」

「さすがっ」


 ゲーム上では、ちょうど俺が左手のサーベルを撃ち落としたところ。

 普通なら射撃体勢になってる時に会話なんかできないけど、こういう時リアルが一緒だと楽でいいな!

 ……だいにボイスチャットのこと、教えてもらおうかなぁ。


〈Reppy〉『おー、釣ってきたくせにDPS低い外道かと思ったら、やるじゃーん』

〈Ikasumi〉『ゼロさんナイス!w』


 そんなことを思いつつ、ダメージを与えるよりもこの攻撃阻害を狙い続けていた俺の攻撃に、二人からの賞賛(?)が。


 そしてその後間もなく、予定通りに——


〈Rei〉『うまーい』

〈Ikasumi〉『GJ!じゃ、いきますか!』

〈Reppy〉『ういおー』

〈Zero〉『k』

〈Daikon〉『k』


 俺の武器破壊を起点として、パーティの雰囲気が一気に明るくなり、押せ押せモードに変化した。


〈Ikasumi〉『一↑刀↓両→断↓』


 そして放たれる、イカさんの一刀両断硬直スキル

 まぁ、矢印の意味はよく分からんけど、イカさんなりのなんかがあるんだろう。

 こうして連携開始の狼煙が上がれば——


〈Reppy〉『ぶち殺すにゃん☆』

〈Ikasumi〉『www』


 ツッコミ不可避なログと共に放たれる、レッピーのグラウンドスラッシュ大剣スキル

 ほんと、普段絶対そんなキャラじゃないのに、なぜか攻撃スキルを使う時だけ物騒な言葉と共に猫耳獣人アピールをするのは、アタッカー時のレッピーの特徴だったりするんだよね。

 とまぁ、そんな攻撃に続いて——


〈Daikon〉『3番』


 比較対象との差が尋常じゃない淡白なセリフとともに放たれるシャドウスタッブ短剣スキル

 そしてそれに続く俺が——


〈Reppy〉『んだよノリわりぃなー』


 と、さっきにゃんって言ってたとは思えない奴のぼやきを受けたが、俺は無言でマルチプルショットを食らわせて、見事に連携が決まりモンスターのHPが残り6〜7割まで減少する。

 うん、いい感じだ。

 前回は暴力に暴力を重ねてカンストダメージの連弾を喰らわせたが、今日のメンバーで同じことは出来ない。

 たしかにだいの武器も強く、短剣の最強スキルを使えるとはいえ、カンストダメージは出ないのだ。

 おまけに今戦ってる敵はHP5割以下から頻繁に走り回るという特性を発揮するせいで、物理アタッカーの俺たちだけでは分が悪い。

 ゆえに、1連携目はほどよくHPを減らす、これが最適だったのである。


〈Zero〉『イカさんいける時に次よろ!』

〈Ikasumi〉『おうよ!』


 そしてそう間を置かずして、2連携目が開始され——


〈Ikasumi〉『一↑刀↓両→断↓』

〈Reppy〉『ぶっ潰すにゃん★』

 

 と、芸の細かいことに同じスキルを使いつつセリフを分けるレッピーに続き——


〈Daikon〉『3番』

〈Rei〉『おお?』

〈Ikasumi〉『マジ!?』

〈Reppy〉『おー、かっけー』


 同じセリフながら、だいのカラドリウスエッジが発動し、その姿が無数に分身し、一気に攻撃するようなエフェクトが現れ——


〈Rei〉『わーお』

〈Reppy〉『ぶっ壊れてね?その技』

〈Ikasumi〉『いやー、さすがw』


 だいの短剣がモンスターに突き刺さったように見えた直後、闇の奔流が包み込み……ネームドモンスターは他に伏せ、俺たちが撃破した旨のログが現れた。

 だいの与えたダメージが、52682で、俺が与えたのが99999のカンストダメージ。ちなみにレッピーの技が8639だから、いかに俺たちが使った技が強いか分かるだろう。

 もちろん俺は350という膨大すぎるMPを消費し、だいもこの戦闘で4割近いMPを消費しているのだが、まぁ、ハイリスクハイリターンな攻撃だった、ってことだよね。


〈Rei〉『やっぱりロバーいるとドロップ率がいいですねー』

〈Ikasumi〉『だなw』


 そして、見事勝利のご褒美がやってきた。

 ネームドモンスターを倒す特典と言えば、もちろん希少性の高いアイテム。

 ドロップしたのは、出現率10%くらいという低確率ドロップの胴装備。

 そう、俺が今着ているもので、見た目はやや厨二臭い黒衣のような装備である。だが性能はもちろん、遠隔アタッカーには垂涎のもの。

 俺としては、ガンナーを育て始めているだいにこの装備をあげたいのだが……。


〈Reppy〉『欲しい人ー?ノ』

〈Rei〉『はーい』

〈Daikon〉『はい』

〈Ikasumi〉『はいwって言いたいけど、銃も弓もスキルないから俺はいらないw』

〈Zero〉『ふむ』


 レイさんもレイさんでガンナーは育ててるんだもんな。

 師匠のようなことをさせてもらっている俺からすれば、たしかにレイさんにももらって欲しいと思う。

 でもまさかレッピーもとは思ったが、まぁこいつは色んな武器をほどよく遊んでるから、遠隔攻撃系のスキルも育てていないわけではないのだろう。


〈Ikasumi〉『ま、ここは運に任せて、もらった人はラッキーってことだなw』

〈Zero〉『そうするっきゃないな。でも欲しい人多いなら、次回からまたこの辺で狩るか』


 みんなが希望しているのなら……さすがにここでだいを優遇させてあげたいとは、言い出せない。

 いや、もし俺が言い出したらレイさんもレッピーも、なんだかんだ譲ってくれるとは思う。でもそうすると、間違いなくだいはそれを引け目に感じてしまうだろう。

 それはこれまで積み重ねてきた、だいとレイさん、だいとレッピーのフラットな関係に、きっと歪みを生んでしまう。

 レイさんもレッピーもそれを気にするような人ではないだろうけど、だいがそうはいかないのだ。

 だからここは、運勝負。


「頑張れよ!」

「頑張っても頑張らなくても、確率は33%よ」

「いや、そこはほら、気持ち入れるとかさ?」

「じゃあ、私の分も取れるように祈っててね」

「お、おう! 任せろ!」


 そして、欲しいと思う三人がドロップしたアイテムに取得希望を出し、イカさんの放棄を確認し、最後に俺が放棄を選択する。

 これによってシステムが自動で取得者を割り振り、ドロップ品が誰のものになるか決定する。

 そして運良くアイテムを手に入れたのは——


〈Rei〉『おめですー』

〈Ikasumi〉『おめ!』

〈Daikon〉『おめでとう』

〈Zero〉『おめー』


 ってログからも分かるように——


〈Reppy〉『あざー』


 ……まぁ、しょうがない。


「また取りに来ような」

「うん」


 ログではレッピーにおめでとうを送るが、口では振り返ってだいを慰める。

 確率だって言ってはいたけど、まぁ、うん、振り返って見ただいはやっぱりちょっと悔しそうというか、拗ねた感じの表情だった。

 その表情に堪らず。


「取れるまで付き合うって」

「……うん。早く一緒の着たい」


 ささっと席を立ち、少し屈んでだいの頭をポンポンと。

 そんな俺にだいは座ったまま上目遣いに俺を見て、ようやく素直な言葉を出してくれた。

 そんなだいがあまりにも可愛くて、短くギュッと抱きしめてから、俺は席に戻り、〈Zero〉の画面へ復帰する。

 しかしまぁ、一緒の着たいって言うけど……ゲームの中だと俺もだいも男キャラなんだけどな……!

 なんて考えは、もちろん胸に留めておく。


〈Zero〉『じゃ、切り替えて狩りを頑張るか!』

〈Rei〉『はーい』

〈Reppy〉『ういおー』

〈Ikasumi〉『おっす!w』


 そんなスキル上げ開始までの紆余曲折がありながら、22時31分、俺たちはようやく本題であるスキル上げを開始するのだった。

 


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