第14章

第394話 大会1週間前

「いやぁ今日も疲れたなー」

「お疲れ様。今日はちょっとノック多めだったし、ゆっくりお風呂入って休んだら?」

「ん、そうするよ。……あ、一緒に入る?」

「今日はだめです」

「え……あ、そうだった」

「うん。だから先に入っちゃいなよ」

「ん、分かった」


 10月3日、土曜日夕方。

 【Teachers】への感動的(?)な復帰をした木曜日の翌日、金曜日昨日の仕事は、前日の夜更かしの影響もなく、溌剌と働くことができた。やはりメンタルが身体に与える影響が大きかったのだろう。大和からも、何だかご機嫌だなって言われたくらいだし。

 そんな元気さで金曜日の仕事を突破し、夜からはだいと合流してスキル上げをしたりイチャイチャしたりと、非常に有意義な時間を過ごすことができた。

 あ、ちなみにイチャイチャって言ってもあれね、だいが毎月のものが来る時期だったから、ほんと純粋に年齢制限なしのイチャイチャだからね。

 で、そんな幸せな金曜日を過ごした翌日土曜日、つまり今日は、午後からうちの学校で合同練習だったので、お泊まり明けのだいと一緒に仕事に向かい、一緒に帰ってきた、ってわけである。

 そんな今日の一緒の仕事では、守備中心の練習で連携プレーなんかを確認した。正直バッテリーはもちろん内野の守備が比較的安定しているから、安心感はなかなかのもの、って感じだったね。

 佐竹先生には悪いが、夏の大会の結果を考えれば、たぶん練商には負けないだろう。もちろん外野には経験不足な二人が入るから、そこに一抹の不安は残るが、そういった高校からソフトボールスタートの部員を抱えるのはどの学校も同じなんだし、これはそこまで大きな不利ではないはずだし、生徒を信じる他はない。

 ちなみにライトの守備には戸倉さんと比較して多少守備が上手い南川さんを入れ、レフトには人間性には疑問符が残るものの、やはり運動神経が良く、ここ最近の成長が著しいという石丸さんを入れる方向でだいとは話がまとまった。

1.遊 柴田(星見台1年・右投左打)

2.二 木本(星見台1年・右投右打)

3.捕 国見(月見ヶ丘1年・右投右打)

4.一 飯田(月見ヶ丘2年・左投左打)

5.中 萩原(星見台1年・左投左打)

6.三 三宅(月見ヶ丘1年・右投左打)

7.投 市原(星見台2年・右投右打)

8.左 石丸(月見ヶ丘1年・右投左打)

9.右 南川(月見ヶ丘2年・右投左打)

 って感じのオーダーで大会に臨む予定である。1年生主体のオーダーだが、経験者が多いし、うちの1年ズはもちろん、月見ヶ丘の1年ズもけっこうバッティングセンスがありそうだから、正直攻撃面にもあまり不安はない。左バッターが多いのも、他校からすれば嫌な打線だろう。

 強いて言えば引退した赤城や真田さんみたいな足の速い子が減ったのが痛いくらい。石丸さんは確かに足速いけど、まだ走塁を理解しきれてないみたいだし、この辺はこれから少しずつ覚えていってもらうしかないからね。

 

 てな感じで、来週の大会に向けても抜かりなし。

 いやぁ順調かな順調かな。

 なんて、風呂の準備をしながら俺が今日のことを振り返り、来週のことを考えたりしていると。


「そういえば、市原さん何かあった?」

「へ? 市原?」


 不意にだいから、意図のわからぬ質問が投げかけられる。

 でも市原に何があったかなんて、どういうことだろう?

 俺からすれば何も変わらず、相変わらず倫ちゃん倫ちゃん言ってきてたようにしか見えなかったのだが……。


「あいつ、なんか変だったか?」


 もしかしたらピッチングのことだろうか?

 だいは俺と違ってピッチャー上がりだし、そこら辺の話かと思ったら。


「なんか、たまに上の空じゃなかった?」

「……へ?」


 どうやら俺の見立ては全く見当違いだったようで、だいの言葉の意味はやっぱり分からないものだった。

 そんな俺の表情から察するところがあったのだろう、だいは小さくため息をつき、少しだけ首を傾げながら。


「気のせいならいいんだけど、いつもと違ったような気がするのよね」

 

 と、何とも俺を不安にさせるようなことを言ってきた。

 でも、担任を務める俺からすれば、そんな気配は全く感じていない。昨日も朝と帰りのHRに授業と部活と、何回も顔を合わせたが、いつもの市原だったようにしか見えなかったのだが……。


「うーん、俺には分かんなかったけど……週明けだいが気にしてたって言ってみるよ」

「ううん、ゼロやんが気にならないなら別にいいよ。私より市原さんのこと、長く見てるんだし」

「ふむ……」

「そういえば佐竹先生から、濱口先生がゼロやんによろしくお伝えくださいって言ってました、って連絡あったよ」

「おー、懐かしい。練商の時の副顧問の先生だ」


 俺が市原の様子を確認しようと思った提案はだいに気にしなくていいと断られ、話題が変えられる。

 その話題転換は何だか少しぎこちなくも思えたが、聞こえてきた名前の懐かしさや、佐竹先生からの連絡、という話の方が気になり、俺も新たな話題へと切り替えた。


「佐竹先生とけっこう連絡取ってるの?」


 そして、ちょっとだけ気になったことを聞いてみたら。


「うん。連絡先交換した日から、料理の話とか、仕事の話したりしてるよ」

「おー、ホントに仲良くなったなぁ」

「そうね。空気が合うのかな、佐竹先生ってすごく話しやすいの」

「ほうほう。ま、何にせよ友達増えたのはいいことだ」


 と、ちょっと目を細める感じの嬉しそうな表情になっただいが、嬉しそうに語ってくれて、俺もその表情にほっこりする。

 さらには。


「今度うちで一緒にご飯食べましょうってお話もしてるんだよ」

「マジに仲良いな」

「ふふ、すごいでしょ」


 なんて、ドヤ顔をすることじゃなさそうな話をドヤ顔でしてきたり。


「いや、それをすごいって……いや、ううん、すごいじゃんっ」

「……馬鹿にした?」

「いや振ってきたのそっちな!?」


 そのドヤ顔をついついいじってみたら、今度向けられたのは、ジトっとした目線。

 ああ、もう……可愛いなこいつ。


 ドヤ顔なったりじと目になったり、忙しないだいの表情の変化が楽しい。他の人がいたらたぶんここまではっきりは変化させないであろう表情も、俺の前なら七変化。

 そんなやりとりに俺はさっきの市原の話も、そこまで気にするところではなかったのだろうと思うことが出来たし、だいも楽しそうで何よりです。


 そんなこんなで風呂の準備が終わり、俺が先に風呂に入って、だいが続いて、二人とも風呂を終えて少しゆっくりしてから、一緒に夕飯作ってを食べ、迎えた20時45分頃。

 俺たちは【Teachers】の活動日の時間を迎えるのだった。

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