第391話 試される愛⑧
〈Yukimura〉『ゼロさんが【Teachers】のことがお好きなのを前提にお聞きします』
〈Yukimura〉『問:好き、と、愛している、の違いを詳細に述べなさい』
〈Yukimura〉『です』
……ん?
あれ? それ、何と言うか……【Teachers】関係なくね?
ゆめもなかなかに個人的な問題だったけど、あっちはゆめ自身がギルドメンバーの一員なのでギリセーフな問だった、と言えるだろう。でもゆきむらのこれ、ただ単に国語の問題なのでは……?
〈Pyonkichi〉『なるほど、論述問題かー』
〈Senkan〉『倫理の先生が語る愛か、たしかに興味あるなw』
〈Gen〉『一見問題設定がズレているように見せかけて、ゆっきーを納得させるためのゆっきー理解が求められる高度な問題だな!』
〈Jack〉『こじつけたーーーーw』
〈Yume〉『でもリダのお墨付きなら問題なしだね〜w』
〈Hitotsu〉『ゆっきー理解・・・!』
〈Loki〉『そう言われると、たしかに【Teachers】に関わりのある問題っすね!』
〈Soulking〉『普通にゼロやんがどんな答え出すのか気になるねっ』
な、なるほど!
ってなるかーーーーい!!!
これはもうみんなの悪ノリというか、
まぁそれもたしかにいつもの流れと言えば流れなんだが。
そんなこんなで、怪しいと思った問題についても、みんなリダの見解に引っ張られる形になり、無事問題が受理される。
しかしゆっきー理解、ゆきむら理解か……そこだぞ、この問題の難しいところは……。何をどう言えば分かるのか、そもそもが難しいテーマなのに、さらに難しくなってるわけだもんな。
んー……シンプルに[愛してる:俺→だい]で、[好き:俺→みんな]、が俺の考えなんだけど、これだけじゃダメだよなぁ、きっと。
さて、どうしたものか。
なんて風に思っていたら。
〈Daikon〉『うん、面白い問題だね。いい答えがもらえるといいね』
〈Jack〉『プレッシャーかかったーーーーw』
ゆきむらに激甘な
たぶん本人は何も意図してないのだろうが、これは間違いなく天然発言に違いない。
やってくれたなおい……!
〈Zero〉『あー、そうだな・・・』
〈Pyonkichi〉『よし、みんな聞くぞー!』
〈Zero〉『え、そんな改まって聞くような話じゃないよ!?』
〈Yume〉『け〜ちゅ〜w』
〈Zero〉『えー・・・』
まさかの自分の言葉を真面目に聞かれる展開の連続に、俺はもう片手じゃ済まないほど浮かべた苦笑いを、またしても浮かべる羽目になる。
だが、みんなの発言がゆめのログ以降止まってしまったので、これはもう逃げられないって感覚が高まる。
さて。
〈Zero〉『あー、じゃあ』
〈Zero〉『思うに、だ』
自分の頭の中にある考えを、少しずつ言語化しながら、俺はキーボードを叩き出す。
思考を言語化し、視覚化し、大丈夫だなって思ってから、
そうやって少しずつ少しずつ、俺はゆきむらに自分の考えを伝えていく。
〈Zero〉『たぶんみんなは、俺にとって愛してるがだいで、好きがみんな、とかって想像してると思うんだけど』
〈Zero〉『大枠として、その理解は間違ってない』
〈Zero〉『そもそも、好きも愛してるも、俺は好意を伝える表現って点では同じだと思うんだよね』
〈Zero〉『よく見返りを求めるのが好きで、求めないのが愛だとか言ったりするけど』
〈Zero〉『俺はみんなが好きだけど』
〈Zero〉『みんなから見返りを求めてるわけじゃないし』
〈Zero〉『この見返り云々は、個人的にはあんまり納得してないんだ』
〈Zero〉『じゃあ結局言葉が違うだけなのかって話に戻るんだけど』
〈Zero〉『だいを愛してると、みんなが好きは、好意を伝える点は同じだけど、中身は当然同じじゃない』
〈Zero〉『なんて言うのかな、基本属性は同じなんだけど』
〈Zero〉『性能が違うっていうか』
〈Zero〉『好きの最上位が、愛してる、なんだと思う』
〈Zero〉『だからみんなが思ってるだろう、俺がだいを愛してるは間違ってないんだよね』
〈Zero〉『みんなの中で、俺が一番好きなのがだいだから』
〈Zero〉『もちろんこれは俺の考えで、さっき言った見返り云々がしっくりくる人もいるかもしんないけど』
〈Zero〉『自分はこんなにも愛してるのに、って暴走したりする人もいる世の中なんだから』
〈Zero〉『俺は、好きと愛してるの違いは、対象の順位によって変わるもの、って認識だと思ってるよ』
〈Zero〉『とりあえず、こんなんでどうだ?』
さっきも自分のログで画面が埋まっていたが、またしても同じ光景が目の前に広がる。
でも、俺なりにゆきむらにも伝わるように言語化した、つもりなんだが……どうだろう?
〈Yukimura〉『つまり私がゼロさんを愛していたとしても、ゼロさんは私を愛していない、ということで』
〈Yukimura〉『私が愛してもらうには、ゼロさんの一番になるしかない、ということでしょうか?』
〈Zero〉『え、あー・・・まぁ、順位って感覚を使うなら、そうだな』
〈Yukimura〉『では、愛していると、愛し合う、でも違うということですね』
〈Zero〉『そう、だな。愛し合うだと、双方向だもんな』
〈Yukimura〉『ゼロさんの順位の考えでいけば、好き<愛してる<愛し合う、ということですよね』
〈Zero〉『お、おう』
〈Yukimura〉『そして今はだいさんと愛し合う状態』
〈Zero〉『まぁ、うん。愛し合ってる、だな』
〈Yukimura〉『ならばやはりまずはその状態を変えるために、ゼロさんの一番になるしかないですね』
〈Yukimura〉『目指せ愛し合う、です』
〈Zero〉『ん? んー・・・』
これは、結局伝わっているのだろうか? そしてゆきむらの納得のいく形になっているのだろうか?
正直、ゆきむらの反応からだとそこは読み取れず。
そもそもたぶんだけど、ゆきむらの俺を愛してる、ってところが正しいかどうか分からないんだよな。
好きの順位付けができるくらい、ゆきむらは誰かを好きって思ったことがないみたいだから。
まぁここらへんは経験というか、そういうのも影響するところだから、適切に判断する材料もないのかもしれないが……あれ? そうなってくると、俺の順位理論ってゆきむらには通じないのではなかろうか?
ってなると、あ、俺の答えじゃ納得いく答えになっていないのでは……!?
と、ちょっと焦り出した、矢先。
〈Pyonkichi〉『いやぁ、なんかすげぇログが飛び交ってんなーwww』
〈Yume〉『せんせ〜、大好きはどこに入るでありますか〜?w』
〈Gen〉『それはきっと好きと愛してるの間だろうw』
〈Pyonkichi〉『じゃあ、しゅきしゅき!はどこに入りますか?☆』
〈Yukimura〉『むむ?しゅきしゅき?』
〈Zero〉『ええい、人が真面目に話した後にふざけるんじゃねぇ!』
なんかもう、お約束のボケラッシュの参上に、俺は抱いた焦りも忘れツッコミを禁じ得なかった。
ほんともう、茶化し賑やかしの天才か、こいつら。
〈Pyonkichi〉『いやー、でもあれだなー』
〈Zero〉『なんだよ?』
〈Pyonkichi〉『真面目なとこさ』
〈Zero〉『うん』
〈Pyonkichi〉『だい大丈夫かなーって』
〈Zero〉『え?』
ふざけてたと思ったら、急にちょっと真面目な感じのぴょんの発言に、俺は思わずきょとんとしてしまう。
でも、これまでの流れの中で、どこにだいに影響が出るところがあったというのか?
俺が分からないでいると。
〈Yume〉『・・・ガチ?』
〈Senkan〉『倫くんは天然かね?w』
〈Zero〉『いや、だからなんでだよ?』
〈Yume〉『そかそか〜。いや〜、若いってキラキラですな〜』
〈Zero〉『いや、ゆめのが年下ですけど!?』
〈Soulking〉『いやはや、でもなんか、ちょっと羨ましい気もするかもっw』
〈Hitotsu〉『読んでる方が照れちゃいますねっ』
〈Zero〉『・・・へ?』
〈Gen〉『いや、その、なんだ。俺は好きだぞ、ゼロやんのそういうとこw』
〈Loki〉『素敵っすね!』
〈Zero〉『いや、みんなして何なんだよ・・・』
〈Pyonkichi〉『こっちのセリフだわwログ見返せログw』
いや、ホントみんな何なの? って感じなんだけど、何やら茶化されてる感じがすごいので、とりあえず原因を知るべく、俺はログを遡ってゆきむらとのやり取りと、その前の俺の説明を読み返してみる。
読み返してみて——
〈Yume〉『きっと今頃だいのお顔でお湯沸かせそ〜w』
〈Jack〉『鉄も溶かせるくらいかもねーーーーw』
〈Pyonkichi〉『さすがのあたしも、ここまでどストレートに何回も言われたら照れちゃうかもなー?』
〈Senkan〉『愛してるぜ?』
〈Senkan〉『愛してるぜ?』
〈Senkan〉『愛してるぜ?』
〈Senkan〉『愛してるぜ?』
〈Pyonkichi〉『逆にうぜぇ!』
〈Senkan〉『しどい!w』
〈Yume〉『はいは〜い、あとは二人でやってくださ〜い』
〈Gen〉『月が綺麗ですね』
〈Soulking〉『今日曇りだよ?』
〈Jack〉『クロスカウンターーーーwww』
そ、そういうことかぁぁぁぁ!!!
何これ、え、これ俺が書いたんだっけ!?
書いてる時はゆきむらの問に答えるのに全力だったから気づかなかったけど……え、うわ、マジ?
え、マジのマジに……これははずい!!!
まるで思春期に作った自作のポエムを読み返したような。そんな、自分で書いた文章に自分で恥ずかしくなった、そんな時。
Prrrrr.Prrrrr.
机上の物体が、音と共にブブブッと踊り出す。
その音が告げるのは誰かからの電話なわけだが、もうその相手が誰かなんて、このタイミングでは一人だろう。
「も、もしもし?」
本気なのかふざけてるのか分からない夫婦とカップルのログを尻目に、俺はその電話に出て、恐る恐る声を出す。
だが、電話の相手はかけてきたくせに、なかなか口を開かない。
「あ、あの? もしもーし……?」
そんな相手へ、俺は変わらず恐る恐るに声をかけ続けた、数十秒後——
「……バカっ」
ツーツーツー……。
たった一言聞こえた、その声に。
危うく夜にも関わらず非常識な声量出しかけるほど、俺の気持ちが一瞬で昂る。
いや、だって、今の声、さ!
めっっっっっちゃ、可愛かったんですけど!!!!!
叱責の言葉のはずなのに、中身は嬉しさと恥ずかしさの純粋ブレンド。
いや、もう今の言葉だけで、俺はあと5年は戦えるって感じ。
あー、これは間違いなく、愛し合ってるですわ。
好き。
そんな多幸感が、自分の中に湧き上がる。
いや、マジで俺の彼女可愛すぎだろ。
そんな風に思っていると、改めてまた電話が来たりして。
「私も好きだけど、恥ずかしかった」
「好き、なのか?」
「……愛してるもん」
「うん、知ってる」
「ねぇ、私には?」
「んー? 何が?」
「……いじわる……」
「嘘。……俺も、愛してるよ」
「……会いたいな」
「明日、仕事終わったらそっち行こっか?」
「ううん。私が行く」
「ん、分かった」
なんて会話が、みんなには分からないところで行われたりしたのは、当然秘密です。
でもこれが愛してるってことでしょう。
ありがとうゆきむら。
君の問題のおかげで、幸せな気持ちになれました。
そんな想いを抱きながら、俺はおそらく次でラストとなるであろう、最後の試練を待つのだった。
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