第387話 試される愛④

〈Yume〉『次はだいだよ〜』

〈Daikon〉『うん。今考えてるから、待っててね』


 現在時刻は22時02分。

 さっきの大和やロキロキの問題から始まった、夜だから許してねレベルのマル秘トークもひと段落した、そんな時間。

 21時過ぎから始まった今日のイベントは、移動も戦闘も他のギルドメンバーとパーティを組むことも顔を合わせることもなく、ただひたすら文字ログだけが増えていくことで進行していた。

 だから俺は終始プレイヤーハウスの中に〈Zero〉を置いたまま。

 エリア移動でログが途切れるのも嫌だし、外に出たら他プレイヤーのアクションとか声とかが入ってくることもある。しかしこうして他プレイヤーの入れない自分のプレイヤーホームなら、ログの邪魔をされることもない。

 つまり今日は意図的な引きこもり。

 その甲斐あって、さっきからの会話で俺のログ画面はギルドチャット一色なのである。

 

 そんな緑をさらに追加してくる次の相手は、我が愛しのだい。

 でもだいもこのイベントについて、今日来ていきなり言われたわけだから、問題を作る心構えなんてしてなかっただろう。

 ちょっと時間かかるんじゃないかなー。


〈Pyonkichi〉『だいからの問題は文字通り愛の試練だな!』

〈Jack〉『ひゅーひゅーーーーw』

〈Zero〉『茶化し方が昭和w』

〈Yume〉『でもだいを最後にしてもよかったかもね〜』

〈Senkan〉『たしかにw』

〈Pyonkichi〉『いや、ここはギルドリーダーを立てるのが筋』

〈Gen〉『おお・・・ぴょん!』

〈Gen〉『この個性派ギルドを束ねるリーダーの偉大さに気付いたか・・・!』

〈Hitotsu〉『たしかに皆さん個性的・・・』

〈Loki〉『兄妹でギルドにいるのもなかなかっすよw』

〈Yume〉『このギルドの存在自体が個性的だけどね〜』

〈Pyonkichi〉『だいはかますときかますけど、固いとき激固だからな!』

〈Pyonkichi〉『リダなら安定して・・・いや、確実に笑いに走ってくれる!』

〈Pyonkichi〉『だからこれが筋!』

〈Gen〉『!?』

〈Jack〉『ハードル上げたーーーーw』

〈Senkan〉『まぁでも、リダなら!』

〈Yume〉『リダなら☆』

〈Zero〉『南無』

〈Yukimura〉『むむ?リダは期待されているのでは?』

〈Yume〉『ゆっきーラストも面白いかもだけどね〜w』

〈Pyonkichi〉『ピンかパーの爆弾だけどな!』

〈Yukimura〉『むむむ・・・?』

〈Hitotsu〉『大丈夫!ゆっきーは十分面白いよw』

〈Yukimura〉『ありがとうございます・・・?』

〈Senkan〉『まとめると、計算してオチ任せられるのはリダってことだなw』

〈Jack〉『ゼロやんの試練なんだけどねーーーーw』

〈Zero〉『既に集団コントだわw』

〈Pyonkichi〉『ここまで全問正解だからって油断すんなよ!月のない晩は背中に気をつけろよ!』

〈Loki〉『急にサスペンス!』

〈Yume〉『このくらいのボケはもうぴょんの呼吸レベルに見えちゃうよね〜』

〈Senkan〉『むしろ普通なこと言う方が面白い説ある』

〈Zero〉『ボケるか下ネタかだもんな』

〈Jack〉『ゼロやんいない時はそれもあんまりなかったけどねーーーーw』

〈Yume〉『ツッコミ不足は消化不良なんだって〜』

〈Pyonkichi〉『あ!おい!』

〈Zero〉『おい!大和くん仕事しなさいよ!』

〈Senkan〉『いやー・・・w』

〈Pyonkichi〉『せんかんのツッコミはキレがない。ヌルってる』

〈Senkan〉『ヌル!?』

〈Yume〉『ヌルってるって何www』

〈Yukimura〉『ヌルヌルってことですか?』

〈Pyonkichi〉『いやいやゆっきー、そんなお風呂屋さんじゃあるまいし』

〈Yukimura〉『お風呂屋さん?』

〈Zero〉『ゆきむら、反応したら負けだ』

〈Hitotsu〉『お、大人になったら分かるよ!』

〈Yukimura〉『むむ・・・分からない私は大人ではなくて、分かるいっちゃんは大人・・・?』

〈Pyonkichi〉『おお!?いっちゃんまさか!?』

〈Hitotsu〉『ええ!?ち、違いますよ!』

〈Zero〉『すみません。俺がいる時にそこにこういうネタ振るのは勘弁してください』

〈Loki〉『リアル兄貴!w』

〈Yume〉『きっと心の中で黙っとけセクハラババアって思ってそう』

〈Pyonkichi〉『あん!?』

〈Zero〉『言ってねぇよ!!濡れ衣濡れ衣!!』

〈Jack〉『じゃあゼロやんはヌレヌレだねーーーーw』

〈Zero〉『!?』

〈Pyonkichi〉『おいおいマジかよ・・・』

〈Zero〉『ジャックの方がタチ悪くね!?』

〈Pyonkichi〉『ヌレヌレなのにたちが悪いなんて・・・生殺し!』

〈Zero〉『変なこと言うな!!』

〈Zero〉『つーか、戻りたての俺へのあたりヤバくない!?』

〈Gen〉『見慣れた光景がかえってきたなぁ』

〈Yume〉『最古参の言葉は重みあるね〜w』

〈Senkan〉『愛されてんなー』

〈Jack〉『愛されてるねーーーーw』

〈Loki〉『愛されてるっすね!』

〈Hitotsu〉『お兄ちゃん愛されキャラっ』

〈Yukimura〉『なるほど、これが愛され方。メモメモ』

〈Zero〉『読み取りバグってんだろ!』


 ……と、だいの問題を待つ間に繰り広げられたのは、何も生み出しはしないが、誰かを傷つけるという、それって純然たる悪って奴じゃないの? って言いたくなるような会話だった。

 下ネタから脱したと思ったのに、気づけば最後にはまた下ネタと俺いじり。

 ……まぁでも、何も生み出していない、わけでもないか。

 ……ちょっと、やっぱり楽しいもんな。

 って、なんかこれじゃ俺Mみたいじゃん。うーん、違うはずなんだが。


 なんて、やっぱりこのギルドに戻って来れてよかったな、ってすこーーーーし思いながら、みんなと話しつつイベントの本編進行を待ったのは10分くらいだろうか。

 時計を見ると割と時間経過があるのが分かったが、体感でそれを思わないのは、まぁ結局俺がこの会話も楽しんでいたからだろう。

 そんな盛り上がりを見せた中で。


〈Daikon〉『愛されててよかったね』

〈Jack〉『お、久々のだいだーーーーw』

〈Yume〉『問題できた〜?』

〈Daikon〉『うん。お待たせ』

〈Pyonkichi〉『っし!ゼロやんへの試練再開だな!』


 じっくりゆっくり問題を作ったであろうだいが登場。

 たぶんに、会話の流れを把握できてないだろうけど、最後の流れだけを見て会話の流れに乗ったんだろう、さすがの律儀さだな。


〈Daikon〉『ちょっと問題打つから、もうちょっと待ってね』

〈Pyonkichi〉『よしみんな、お口にチャックだ!』

〈Yume〉『よーい、スタ〜ト〜』

〈Pyonkichi〉『ああ、言いたかったのに!』


 そして、だいの言葉から仲良しメンバーたちが反応し、ぴょんとゆめなんか相変わらず、みたいな反応を見せたけど、ぴょんの悔しそうなログに対しゆめがスルーしたことから、たぶんみんなも無言を開始したのだろう。

 さて、だいの問題は何だろうか?


〈Daikon〉『基準はリダです』

〈Daikon〉『リダ:7514』

〈Daikon〉『=26』

〈Daikon〉『ex)嫁キング=55』

〈Daikon〉『ex)ジャック=14』

〈Daikon〉『【私たち】=x』

〈Daikon〉『問:以上の式が成り立つ時のxの値を求めよ』

〈Daikon〉『はい、どうぞ』


 ……どうぞ、って言われても……へ?


〈Hitotsu〉『す、数学ですか・・・?』

〈Daikon〉『うーん、そんな大層なものじゃないよ』

〈Yukimura〉『何かの暗号ですか?』

〈Daikon〉『そうね、簡単な謎解きかな』

〈Daikon〉『すぐ解けるレベルだと思う』

〈Pyonkichi〉『っしゃあ!名探偵ぴょんの出番だな!』

〈Yume〉『頑張れゆいぴょん〜』

〈Pyonkichi〉『おい!?』

〈Senkan〉『まだ引っ張るのかよw』

〈Hitotsu〉『でもゆいぴょん可愛いですっ』

〈Jack〉『悪意がないなーーーーwww』

〈Gen〉『みんな解いてるのか?w』

〈Loki〉『今考え中っす!』

〈Yume〉『わたしはわかった〜』

〈Jack〉『同じくーーーー』

〈Pyonkichi〉『おいおいマジかよワトソンくんズ』

〈Senkan〉『ズwww』

〈Gen〉『二人もいねーだろ!w』

〈Gen〉『しかし、はえーな!w』

〈Yume〉『ふっふっふ〜。答え合わせメッセ送っていい〜?』

〈Daikon〉『うん、いいよ』

〈Yume〉『どう〜?』

〈Daikon〉『うん、正解』

〈Daikon〉『ジャックも正解』

〈Senkan〉『となると、いよいよ倫が間違えたら奴隷ってことだな!w』

〈Zero〉『いや、ゆめはともかく、ジャックに買える装備なんかねーよ・・・』

〈Zero〉『つーか、え・・・?』

〈Daikon〉『制限時間は5分ね』

〈Pyonkichi〉『裏でやりとりとかすんなよー?w』

〈Daikon〉『無視するから平気よ』

〈Jack〉『辛辣ーーーーw』

〈Yume〉『何買ってもらおうかな〜』

〈Gen〉『ゼロやん不正解前提w』


 出題した人、解けた人、解けなくても問題がない人、それぞれの反応が見られるが、解かなくてはならない人である俺からすれば、正直笑ってはいられない。

 しかもだいからの問題なんだから、彼氏の沽券にかけて間違えるわけにはいかない、んだけど。


 ……え、これどういうこと……?

 リダが基準? 基準ってなんだ? あの数字なんだ? 【私たち】?


 ?????????


 長い5分が幕を開けるのだった。



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