第372話 こちらの世界では「はじめまして」と「おひさしぶり」
ボス恐竜の場所だから、まず山脈か。
LAの世界に降り立って、前回ログアウトした場所であるプレイヤーハウスを出て、俺は早速転移魔法を使用する。
ログインからこの魔法使用に至るまで、およそ1分もなかったと思うのだが、俺のログインに気づいた風見さんからは神速とも言えるレベルでパーティの誘いが届き、俺は
そしてパーティに入るやすぐに。
〈Hideyoshi〉『あざっす!』
〈Kanachan〉『ありがとねー』
と二人のログが出ていたのだが、とりあえず俺は移動を優先し、山脈エリアに転移してから。
〈Zero〉『こんばんは』
と、当たり障りなく俺も挨拶を二人に返す。
しかしまぁ、昔は何回もパーティを組んだ〈Kanachan〉だったけど、実は元カノでしたってことが分かってから組むのは……この感情をどう表せばいいのだろう。
しかもこの光景を
そんな何とも言えない状況の中、一人モニターへ苦笑いを浮かべていると。
「その服はネームドラプターのドロップですか?」
「あ、お気付きですか」
「莉々亜もそれを着てますから」
「まー、遠隔アタッカー装備としては優秀っすからね。遠隔ダメージ上昇もだけど、ダメージカットついてる分心配が少し減りますし」
「……いいなぁ」
山脈エリアを移動支援アイテムを使いつつ移動し始め、赤茶けた大地が目立つ山脈エリアを駆け抜ける〈Zero〉の姿に、ある気付きをしたのは佐竹先生だった。
俺がよく着ている黒装束のような装備はD.エアリアルジャケットという装備で、今話にも出た通り、山脈エリアにいるラプターモンスターの上位種であるネームドモンスターがごく稀にドロップする譲渡不可の装備なのだ。
ステータス上昇は製作で作れる装備と遜色ないが、特殊性能としてのバフがなかなか優れていて、銃や弓でのダメージに+8%の補正が入るだけでなく、紙装甲のガンナーやアーチャーにとってはヘイトを上げ過ぎた際に役立つダメージカット8%つき。しかも色合いが真っ黒でカッコいい……まぁ、これは俺の主観だけど。
「あ、ほんとだ」
そしてモニター越しに合流を果たしたパーティメンバーを見て、俺は今しがたの佐竹先生の言葉の意味を理解した。
〈Hideyoshi〉『あ、おそろ!』
〈Kanachan〉『うわー、その顔なつかしーw』
「お揃い……」
俺のモニターに現れた2つのログと……1つの声。最後の声は当然だいの声だったわけだけど、佐竹先生から聞いた通り、モニターには俺と同じ服を着た黒髪の少年キャラが映っていた。
そういや風見さんのキャラを見るのは初めてだけど、そりゃ〈Hideyoshi〉って名前付けるくらいだもんな、当然男キャラだよな。
〈Zero〉も割と童顔というか、そういう風に作られているけど、風見さんの〈Hideyoshi〉は童顔どころか少年と呼ぶのが適切なキャラクターで、寝ぐせでぼさぼさになっている感じに見える黒髪で、キャラの身長が〈Zero〉の胸の高さくらいと小さい。顔立ちも純朴そうな少年で……何と言うか、中身を知らなかったら面倒を見てあげてもいいかなと思うような、弟キャラのような見た目である。
〈Kanachan〉『なんか二人兄弟みたいだねー』
〈Hideyoshi〉『あ、たしかに!となると……ゼロお兄ちゃん?』
〈Zero〉『やめい!』
密かに弟キャラだなって思った俺の心を読んだかのように、その見た目からちょっと懐かしい気持ちにさせてくれる赤いローブをまとった小人族の女キャラの〈Kanachan〉が俺と風見さんのことを茶化してきたわけだが、そういえば
〈Hideyoshi〉『あ、もしやお兄様派っすか?』
〈Kanachan〉『妹ちゃんは、お兄ちゃん呼びだった気がするかなー』
〈Zero〉『いや、そんなんどうでもいいから!』
赤茶けた大地を駆け抜けた先の、少し開けたエリアにあるストーンヘイジのようなオブジェクトの前、ストーリーボスとの戦闘エリアへの転移場所まで来たというのに、合流直後からこれとはね……。
既にリアルの時刻は21:36。佐竹先生が帰る時にだいも帰るだろうから、俺としてはそのだいを家まで送る予定なので、だらだらとしているわけにはいかないのだ。
〈Zero〉『それよりほら!さっさとボス倒しちまおうぜ!』
〈Hideyoshi〉『えー、いきなり本題を急ぐ男はモテないっすよー?』
〈Zero〉『やかましい!』
〈Kanachan〉『まー、既に彼女いるわけだしねー』
〈Hideyoshi〉『それはたしかに!ってか、さっちゃんと菜月は後ろで見てる感じなんすか?』
〈Zero〉『そうだけど』
〈Hideyoshi〉『じゃあ、いいとこ見せないとっすね!』
〈Kanachan〉『しかし、家に女二人連れ込んで、その相手もしないでゲームやるとは……ゼロくんもなかなかやりますなぁ?w』
〈Zero〉『あーもう!いいからさっさと倒しに行こうぜって!』
だが、俺の願い悲しく、女集まれば何とやら、ザ・雑談が展開されて俺には為す術がない。しかもパーティリーダーが風見さんだから、コンテンツ開始の手続きは俺には出来ないのだから質が悪い。
あ、ちなみに風見さんが俺の後ろにいる二人が見ているのか確認した時ゲームの中で〈Hideyoshi〉に手を振らせてたのだけど、ちらっと後ろを確認したら、しっかりと画面を見ていただいが小さく手を振り返していたりもした。うん、でもそれ、絶対向こうには分かんないやつだからね?
「北条先生は、本当に二人と仲が良いんですね」
「え、そう見えますっ!?」
「ほんと、どこにいても誰とでも仲良く出来るスキルがあるわよね、ゼロやんは」
「いや……そうか……?」
急ぎたい俺に対して、見ている二人はこんな感じで何ともまったりした様子なわけだけど、もしやあれか? 俺今味方なし?
〈Zero〉『とりあえず作戦としては、俺と・・・〈Hideyoshi〉でタゲシーソーしながら削って、カナちゃんに移動阻害してもらう感じでいいか?』
〈Hideyoshi〉『え、あたしの方がよそよそしい!いつも通りリリアでいいのにっ』
〈Kanachan〉『まー、本人ならまだしもその見た目だと呼びづらいでしょ』
〈Zero〉『そもそも呼んだことねぇだろ!』
〈Hideyoshi〉『ちぇー。じゃあとりあえず作戦はそれでいっすよー』
〈Hideyoshi〉『でもお兄ちゃん、あたしとシーソーいけるんすか?』
〈Zero〉『ええい、お兄ちゃんはやめい!』
〈Zero〉『しかもこっちのこと舐めたこと言うじゃないか』
〈Hideyoshi〉『いやー、あたし強いんで?』
〈Zero〉『ほお。じゃあ目にもの見せてやるよ』
今俺が出来るのは、俺の強さを見せることだけ。会話の主導権はずっと周りの人たちに持たれたままな感じだけど、とりあえずもうそれは置いておいて、俺はLAに集中することを決める。
なんだか風見さんが偉そうなこと言ってるけどさ、俺だって伊達にずっとLAをやってきたわけじゃない。
となれば、ね。
そんな気持ちを抱きつつ、俺は画面上で弟みたいなキャラを見下ろしながら、コンテンツへの侵入が始まった画面のロード画面を眺めるのだった。
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