第373話 初めての共闘
エリアが切り替わり、
リアルタイムは絶賛夜だが、ゲーム内の現在時刻が夕方のため、赤茶けた大地を照らしていた。
そんなエリアに降り立って、とりあえずルート確認やらの準備をしようと思った矢先――
〈Hideyoshi〉『レッツゴー!』
マジかっ!?
バフをかけるとか、ボスまでの道のりの打ち合わせもなく、いきなり走り出す黒髪の少年の姿に、俺はあやうくリアルで声を出しかけるくらいびっくりした。
そもそも〈Hideyoshi〉はアーチャーで、
「いきなり走り出すのね」
「莉々亜はいつもこうですよ。メシアやスター、私も何回か言いましたけど、「でもみんなついてこれてるじゃん?」の一点張りで、もう私たちが諦めたくらいです」
「あー……何と言うか、莉々亜らしいですね」
走り出す〈Hideyoshi〉を懸命に追いかける俺と〈Kanachan〉を見ながらだろう、背中側から聞こえた二人の呆れるような声。
だいが俺の思いを代弁してくれなければ、俺は画面越しに舌打ちしてたかもしれないな。
とはいえ、お手伝いを依頼され、エリアに侵入した以上見殺しにするわけにもいかないから、
〈Zero〉『突っ走りすぎだろ!』
〈Kanachan〉『さっきもこうやって始まったんだよねぇ』
〈Zero〉『さっきって失敗したんだよな!?』
〈Hideyoshi〉『でも今回はお兄様がいるっすから!』
〈Zero〉『その呼び方はやめい!』
先頭を行く少年を追いかける俺の注意に、同じく追いかけながら太田さんが諦めを示す。そんな俺たちのヘイトを浴びながら、怯むこともなくふざけ倒してくる風見さんなわけだが。
「このカステラふわふわで美味しいですよね」
「うんっ。あ、生クリームつけても美味しいんですよ? 用意しますね」
「ほうほう。ありがとうございます」
毒づく俺をよそに、背後から聞こえたのは何とも平和な会話ですよ。
というかだいさん、生クリームとかいつの間に用意してたの? って感じなんだけど。
っと!
〈Hideyoshi〉『とりあえず5体くらいならいけるっしょ!』
俺のモニター上では、先行していたはずの
っと、とりあえずそんなことは置いておいて、状況を把握するとつまりあれだな。さすがに一気にボスまで駆け抜けると雑魚を処理しきれなくなるから、とりあえずこの数くらいをまとめて殲滅しようって寸法なわけだな。
いつぞやルチアーノさんたちとコンテンツ挑んだ時もそうだったけど、風見さんも雑魚についてはまとめ狩りを選択したってことか。……うちのギルドで何かやる時って、割と安全マージンを優先させて1体ずつ撃破することが多いけど、リダも十分上手い盾だしな。今後何かやる時は初めからこういう方針でやってみてもいいかもしれないな。
そんなことを思いつつ。
〈Zero〉『ロック!』
〈Kanachan〉『やってまーす』
〈Zero〉『1745 氷』
〈Kanachan〉『k』
俺が指示するよりも早くモンスターが魔法の射程範囲内に入った瞬間、太田さんは5体まとめて範囲に入るようにモンスターへの
その隙に俺は慣れた動作で
〈Hideyoshi〉『わたしは!?』
予想外にも指示を聞いてきたので。
〈Zero〉『スタダ』
〈Hideyoshi〉『りょ!』
簡潔に指示を出し、その2秒後ほど、俺たちはタイミングを合わせて同時にそれぞれがスキルと魔法を行使する。
俺の銃からは氷の塊が乱発され、〈Kanachan〉からは吹雪がモンスターに向かって発生し、〈Hideyoshi〉は天に向かって矢を放ち、モンスターたちの頭上から無数の矢を降り落ろす範囲攻撃スキルのスターダストアローを発動。
モンスターへの着弾はタイミングばっちり。俺が指定したゲーム内時刻に、指示を出してから発動までほぼ時間がなかったはずの風見さんまで合わせきったのは正直驚きだが、それを賞賛するにはまだ早い。
モンスターへのダメージログに一応目は向けたが、あくまで向けただけ。この攻撃の結果はほぼほぼ予想がついていたので、俺は一人ラピッドショットのスキルを発動し――
〈Kanachan〉『あと1体!』
そのログが出るのとほぼ同時に移動停止魔法が切れて、こちらへ向かって来ていた赤色の個体へ銃スキルの中では珍しい即時発動型の攻撃スキルを発動させ、その個体を
〈Hideyoshi〉『おー!生き残るって予想してたんすか!?』
〈Zero〉『カナちゃんのスキルレベル的にな』
〈Kanachan〉『むかつくけど大正解だったねー』
〈Kanachan〉『でも、ゼロからの指示懐かしいw』
〈Hideyoshi〉『指示早かったっすね!』
〈Zero〉『釣り方がうまかったし、あの指示のタイミングから攻撃合わせたのもすげーけどな』
〈Hideyoshi〉『それほどでも!』
〈Hideyoshi〉『じゃ、この調子でれっつごー!』
そして戦闘終わりに俺の指示やら行動に対する称賛やらがきたけど、俺は俺で風見さんへの称賛を送り、再び
正直一緒にプレイするまで苦手意識が強かったけど、LAプレイヤーとしては確かに上手いことが分かり、俺の中の彼女に対する評価が多少なりとも上方修正されたのは事実だった。
ま、悪い子でもないんだよな。
前を走る少年の背中を見ながらそんなことを思いつつ、俺は次なる戦闘と、その先で待つボスへの道を進むのだった。
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