第354話 メインキャラを動かすのは楽しい
〈Zero〉『昨日言ってた人、ログインしてるか?』
〈Daikon〉『今サーチしてみるね』
仕事を終えて帰宅した9月24日の木曜日。
今日は俺もだいも直帰で夕飯を一緒にすごしたわけではないが、それでも夕食後から寝る前を過ごす場所は同じ。
一足先に〈Zero〉でログインしていた俺がだいのログインを確認し、何も言わずにパーティの誘いを送り、だいがそれに対して何も言わずにパーティ参加。
もう何百回も繰り返してきた俺とだいのやりとり。
でもこのやりとりのスムーズさが、今日は何だか嬉しかった。
俺とだいの目的はもちろんスキル上げで、目指せ今月内スキルキャップ……なわけだけど、実際間に合うかどうかはけっこうギリギリだとは思ってる。
とはいえ良編成のパーティが組めたら一気に稼ぐこともできるから、募集の際に俺の知名度の真価が発揮されるかどうかだろう。だいより俺の方が知名度高いのはさすがに自覚してるからね。
あ、ちなみに今日はドレミもシドさんもログインはしていないようだった。……え、気にしてるのかって?
いや、それはまぁ、ね。何だかんだ二日連続で組んだ初心者ともなると、続いてるかなーって心配もあるじゃん?
とはいえ学生っぽい感じでもあったから、それぞれの予定があるんだろう。たぶん。
それよりも、今日は久々に
〈Nkroze〉はもちろん可愛いけど、やっぱ慣れた顔は
だいには風見さんの方が強いかもなんて言われた昨日だけど、改めて俺も強いってことを見せてやりたいね……!
なんて、そんなことを考えながら待つことちょっと。
〈Daikon〉『いたよ』
〈Zero〉『お、いいね。ちなみになんて人?』
〈Daikon〉『〈Rei〉さん。知ってる?』
〈Zero〉『んー・・・なんか街中で見たことくらいはあるかな?くらいだな』
だいがお目当ての人をサーチしてくれて、そういえば聞いてなかった名前も教えてくれた。
しかし〈Rei〉、か。……ふむ。
その名前は俺が1回キャラの名付けをする時の候補だったので、街中で見かけた時に「お」って思ったことがあるものだった。
とはいえ面識があるわけではないし、いきなり「その名前いいですね」なんて声をかけるのも変な話だから、本当に見たことがある、くらいの記憶なんだけど。
キャラの見た目も記憶にないくらいだしな。
〈Daikon〉『今空中都市でソロみたいだから、声かけてみる?』
〈Zero〉『おう。よろしく!その人の返事待って掲示板に募集かけるな』
〈Daikon〉『うん、わかった』
そしてその件の人物は誰ともパーティを組むこともなく、ソロでいらっしゃるらしい。
で、だいが声をかけてくれるのを待つことになったわけだが……いやぁ、ほんと、だいから昨日会ったばっかりの人に声かけにいくなんて、少なくとも俺の知る限り初めてなんだよな。
……これも成長という名の変化、か。
しかし空中都市でソロ、か。あの街は職人ギルドも掲示板もないし、そこにいる理由ったら、あれかな。景観が好きだから、とかかな?
となると、純粋にゲーム攻略とかそういうのをがつがつやるってよりも、世界観含めてLA好きなプレイヤーだったりするのかも。
個人的に俺はそういう人の方が好感持てるから、会う前から好感度がプラスだね。
そりゃもちろん効率とかそういうのも大事だし、スキル上げの効率を追求しまくってた頃もあるけど、やっぱりこの世界は綺麗だからなぁ。トータルで楽しみたいよね、うん。
〈Daikon〉『OKだって』
〈Zero〉『お』
〈Daikon〉『ゼロやんから誘いいくって伝えたよ』
〈Zero〉『
そして待つこと1,2分、だいから色よい返事が返って来て俺はさらにテンションアップ。
そしてさっそく〈Rei〉さんにパーティ申請を出し――
〈Rei〉『こんばんはー。お誘いのご指名頂きありがとうございますー。レイですー』
と、見慣れない名前が発する
話し方は……割とフランクだな。
〈Zero〉『はじめまして、ゼロっす。昨日はだいがお世話になったみたいで』
〈Daikon〉『よろしくお願いします』
そのログに俺は当たり障りない挨拶をしつつ、ちょっと〈Rei〉……レイさんと話そうとしたところ、だいが言ってきた『よろしくお願いします』にちょっと吹き出しかけたよね!
なんか仲良くなった感があったから声かけたのかと思ったら、まさかのその無味無臭な感じの対応ね!
……昨日のパーティ、どんな様子だったんだろうか……。
〈Rei〉『あ、いえいえー。昨日まだスキル338なんですよーって言ったの、だいさんが覚えててくれたのに感謝ですー』
〈Rei〉『でも、だいさんからお声かけしてもらえるなんてちょっとびっくりでした』
〈Rei〉『すごい静かな方だなーって思ってたので・・・あ、失礼だったらごめんなさい!』
……ん? あれ?
……なんか、思ってたのと違うぞ……?
……あいつ、仲良くなったから声かけてみようって思ったわけではないのか……!
……いや、だとしてもね、だいから声をかけることができた。
うん、これだけでも大きな変化なんだよな、うん。
〈Zero〉『やっぱりこいつ静かでしたかw』
〈Daikon〉『そうだったかな・・・』
〈Rei〉『んー、昨日はほら、ひでよしさんがたくさん喋ってた分のギャップもあるかも?』
〈Rei〉『でも、だいさんはゼロさんとフレンドだったんですねー』
そんなだいが静かだったという予想通りすぎるコメントに笑っていると、なぜか俺のことを知っているかのような発言がレイさんから出て、俺は少し首を傾げた。
……あれ、どっかで組んだことあったっけ……?
〈Daikon〉『レイさんゼロやんとお知り合いなんですか?』
そして俺が抱いた疑問は、どうやらだいも同じく思ってくれたみたいで、今日はだいが俺の思ったことを先に代弁する。
俺も『どこかでお会いしましたっけ?』って打ってる最中だったけど、とりあえずそれは一旦削除して、返事を待つと――
〈Rei〉『あ、一方的に私が知ってるだけですー』
〈Rei〉『私銃も趣味で上げてるんですけど、ガンナーの動きの勉強したいなら【Teachers】の動画見てゼロさんの動きを見てみるといいって、おじーちゃんが言ってたのでー』
おお! ガンナー仲間なのか!
……って……はい!?
お、おじーちゃん!?
え、おじーちゃんLAやってんの!? となると、この人いくつ!?
なんて予想外すぎる発言に焦りつつ。
〈Zero〉『おじーちゃん!?』
と俺が聞き返すと――
〈Rei〉『あ、〈Semimaru〉のことですー。フレンドなんですよー私』
あ、なんだ。【Vinchitore】のせみまるのことか。
たしかにあの人は老人のロールプレイしてるから、おじーちゃんっぽい話し方するけど……って、えっ!?
〈Zero〉『せみまるさんとフレって、え、レイさん【Vinchitore】の人なんですか!?』
なんだ、で流せるレベルじゃない人の名を聞いて、俺は思わず聞き返す。
もしレイさんが【Vinchitore】だとしたら……あいつのギルドなわけだから、そりゃ上手いのは当然だろとは思うけど、ちょっとお近づきにはなりたくない。
そんな思いも抱いてしまった、のだが。
〈Rei〉『いやいやー。個人的におじーちゃんとフレンドなだけですー。ガンナーソロでスキル上げしてた時に死にかけたら、ちょうど通りすがったおじーちゃんに助けてもらったことがありまして』
〈Rei〉『そこからフレンドになったんですよー』
〈Zero〉『あ、なるほど・・・』
そうか、それならちょっと一安心。
……って、でもせみまるさんってそんなフランクに人助けしたくらいの相手とフレンドになったりする人なんだ……意外。
〈Rei〉『あの人おじーちゃんって呼ばれるの、けっこう好きみたいなんですよねー』
〈Zero〉『そうなんだw』
うん、意外すぎる情報だなこれ。
しかも動きの参考にあいつじゃなくて、俺を紹介するなんて。
せみまるさんとは話したことないけど、俺のことどう思ってんだろう?
……今度ジャックにも聞いてみよう。
〈Rei〉『あとは、個人的に〈Zero〉って名前つけようかなって思ってたとこもあるので、使えなかったから誰か使ってるのかなーって検索したことがあったりもしますー』
〈Zero〉『あ、そうなの?』
〈Rei〉『ですー。ゼロさんっていつからLAやってるんですか?』
〈Zero〉『あー、俺はサービス開始から』
〈Rei〉『おー。それじゃ使えないわけですねー。私まだ5年目なので』
〈Zero〉『いやいや、5年も十分長いって。・・・人のこと言える長さじゃないけどw』
そしてもう一つ俺の名前を知っていた理由を知り、改めて自分のプレイ期間の長さを思い出す。
レイさんが始める前から俺とだいはフレンドでもあったわけだし、いやぁ……うん。長いよね!
〈Rei〉『ということで、今日はゼロさんの動きも勉強させてもらいますねー』
〈Zero〉『それはもうご自由どうぞw』
〈Zero〉『あ、ちなみに誰か誘いたいフレンドとかギルメンっています?』
〈Rei〉『いませーん』
〈Zero〉『了解。じゃあさくっと募集かけますね。ちなみに、後衛1になっても平気っすか?』
〈Rei〉『問題ないかとー』
〈Zero〉『それは頼もしいw』
〈Rei〉『募集よろしくですー』
ということで、俺は新たな知り合いとなったレイさんとの会話もそこそこに、掲示板にスキル上げ募集を募り出す。
募集枠は俺とだいがアタッカーでレイさんがサポーターだから、盾役1名と後衛1名かなって思ったとこだったが後衛1でも問題ないというので、盾1とフリー枠1で募集をかけた。
いやぁ、でも後衛1でも即答で問題ないって言ってくれるとは、これはほんとに期待できる人なのかもな。
だいもいい人と知り合ってくれたもんだ。
……って、そういやあいつ全然喋んなくなってんじゃん。
……まぁ、もう見慣れた光景ではあるんだけど。
やっぱり変わった部分もあれば、変わらない部分もある、ってことか。
そんなことも思いつつ、募集かけて2,3分で――
〈
と、何回か野良PTで組んだ記憶があるパラディンと――
〈
これまた過去に何回か俺の募集に来てくれたことのある武士の人がきて、パーティ募集完了です。
ちなみにだいがレイさんに俺と知り合いなのかを聞いて以降、あいつの発言ログは2人に対する『よろしくお願いします』×2のみ。
うん、成長したなぁと思ったけど、やっぱりあいつはあいつだわ。
そんな変わらない部分にちょっと苦笑いもしつつ、俺たちは早速狩場となる山脈エリアへと移動するのだった。
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