第353話 やっぱりメインの方が落ち着くね


〈Seed〉『今日はありがとうございました』

〈Nkroze〉『いえいえ』

〈Doremifa〉『ありがと!』


 23時15分、俺たちは見事ドラキュラ伯爵を討伐し、再びコタンの丘のフィールドエリアへと戻ってきた。

 コンテンツ自体はもう数年前のものだから難易度は低く、戦闘も何の不安もなく行うことが出来たのだが……思ったより時間がかかったのは、当然道中の移動のせいだった。

 中が薄暗い要塞内部という仕様の前に、ドレミが迷子になった回数は片手では数えきれない。

 あまりの状況にあわや時間制限オーバーも覚悟したものだが、途中からシドさんからドレミへのログもドレミからのログも一切見なくなったことで状況は一変した。おそらくだが、あのタイミングから二人は通話しながらのプレイに切り替えたのではないかと踏んでいる。

 事実ログがなくなってからは迷子になる回数も格段に減ったし、戦闘の時のドレミの動きも無駄な動きがなくなったからである。

 ちなみに無駄な動きは文字通りの意味で、意味もなく右往左往せずに、突っ立ってることが増えたって意味ね。


〈Seed〉『私たちは今日はここで落ちますので、よかったらまたお手伝いしてくださると幸いです』

〈Nkroze〉『はい、お疲れさまでした。私もギルドの件、探してみますね』

〈Seed〉『ありがとうございます』

〈Nkroze〉『ドレミも、がんばってね』

〈Doremifa〉『のばらちゃんまたね!』

〈Nkroze〉『うん、またね』


 そしてもういい時間だからということで、俺は二人に手を振るモーションをしてから、パーティを抜けて転移アイテムを発動させ、ひょんな出会いとなった二人の前から消え、久々のホームタウンである、エスポーワ共和国へとワープするのだった。


「いや~……疲れた~……」


 で、画面がコタンの丘の物寂しいエリアから、石作りの街であるエスポーワ共和国の画面に切り替わったところで、俺は寄りかかった椅子に背をもたらせながら伸びをした。

 ド素人のドレミをいれたパーティでの進行は、進行するにつれ多少はマシになっていったが、3人パーティでの攻略というよりも、NPCを護衛しながら進める2人パーティのクエストのようで、普通にプレイするよりも疲労度が高かった。

 あの子と基本一緒に動くシドさんを思うと、ほんと同情というか、応援する気持ちが湧いて来る。


「……初心者歓迎ギルド、か」

 

 だからこそ、疲れた身体にもう少しだけ喝を入れ、俺は〈Nkroze〉をログアウトさせ、机の脇に寄せていたノートPCを起動する。

 ギルド募集の掲示板自体は各プレイヤータウンにもないわけではないが、その掲示板はその街で募集がかけられたギルドしか掲載されていないため、現在はほとんど機能していない。もちろんサービス開始当初は活気のある掲示板だったが、今普段使われるのは、全募集が自動的に集約される機能を持つ、海上都市ワラザリアの掲示板なのだが……まだ〈Nkroze〉はその街に行けるほどストーリーが進んでいないので——


「今日は活動日でもないし、この時間、さすがにいてもジャックとかゆきむらくらいだろ」


 俺はそう自分に言い訳するように独り言ちながら、起動したノートPCでログイン作業を進め、少し久々となる長年に渡る相棒、〈Zero〉で再びLAへログインする。

 とはいえ月内ギルド活動謹慎の立場でもあるので、ログインしてすぐ誰がログインしているかも確認せず、自身のギルドステータスをオフにし、ギルドメンバーリストには表示されないように変更するのも忘れない。


「って、そういやだいは今日は連絡ないけど、まだ太田さんとかとなんかやってんのかなー?」


 そしてそんなことをつぶやきながら、〈Zero〉を移動させ、海上都市ワラザリアへと転移し、まずはシドさんからの頼みだった掲示板を確認へ。

 ギルド募集とかを見るのはもういつぶりか分からないレベルだったけど、久しぶりに見たギルド募集は、思っていたよりも募集に溢れていた。

 その中で初心者歓迎の文言があったのは……7つほど。

 で、その中で見たことがある名前のギルドリーダーは……3人。とはいえどのギルドリーダーの人もどんな人かまでは覚えてないから、おススメできるかと言われれば、何とも言えない。

 こういう時は、人数の多い最大手の初心者歓迎ギルドがいいのだろうか? ……いや、でも人は多ければ多いほど、トラブルは起こるもの。ドレミは何するか分からないから、シドさんにそこまでの心労をかけるのは……ううむ。

 というか、そもそも俺自身はかつて廃ギルドに身を置いたくらいなんだから、初心者歓迎のアットホームなギルド募集とか、無縁だったわけだし。

 ああ、分からん!!


「のばらで潜入してみるか……?」


 もういっそ……と、そんなことも思ったけど、さすがにいくら何でもそこまで世話を焼く必要があるだろうかと、俺は自分の考えに一人で首を振る。

 ってか、今さらっと自分で〈Nkroze〉のこと「のばら」って呼んでしまったけど、いつのまにやら俺の中でもその呼び名が定着していることが自分の中で驚きだった。

 ううむ、ドレミ恐るべしだな……!


「さて」


 そんなことも思いつつ、俺はとりあえず自分なりに義理は果たしたことにして、〈Zero〉のフレンドリストを表示すると……あ、やっぱりまだいました。

 えっと、だいの現在地は……空中都市か。

 ふむふむ。ってことは太田さんのストーリー進行手伝い中ってとこかな。

 でももう23時半回ってるし、けっこう遅い時間だけどだいの奴寝なくて平気なんだろうか。


 そんな心配を密かにしていると――


〈Daikon〉>〈Zero〉『いつの間にそっちでログインしたの?』


 と、今丁度考えていた相手からのメッセージが来るではありませんか。

 いやぁ、あれか? 以心伝心ってやつか?

 なんて思ったりしつつ——


〈Zero〉>〈Daikon〉『今さっきだよ。ってか、だいもお手伝い終わったのか?』


 気にかけてくれた相手に、俺もメッセ―ジを送り返す。

 そして密かにだいの位置を再確認すると、プレイヤータウンに戻りパーティも解散しているのが見て取れた。


〈Daikon〉>〈Zero〉『うん。丁度終わった所』

〈Daikon〉>〈Zero〉『でもやっぱりカナちゃんは上手だね。基本がしっかりしてるし、あれならすぐ上位層に追いつけるんじゃないかな』

〈Zero〉>〈Daikon〉『ほうほう』

〈Daikon〉>〈Zero〉『でもリリアも上手だったよ。あんなに強いアーチャー初めて見たかも』

〈Zero〉>〈Daikon〉『ほほう。俺とどっちが上手かった?』

〈Daikon〉>〈Zero〉『んー……攻撃力は同じくらいかもだけど、防御力はリリアが上かも。私とタゲはシーソーしてたんだけど、うまくバランス取ってくれてたし』

〈Zero〉>〈Daikon〉『防御力? あれ、〈Cider〉さんて盾も呼ぶって言ってなかったか?』

〈Daikon〉>〈Zero〉『あ、その人は今日はインしてなかったみたいでさ、真実ちゃんもいなかったから、3人だったんだけど』

〈Zero〉>〈Daikon〉『え、じゃあだいとシーソーでタゲ取りしてたら、太田さんウィザードだし、回復きつかったんじゃないのか?』

〈Daikon〉>〈Zero〉『ううん、3人だったんだけど、4人にはなったの。空中庭園のストーリー進行と装備取り両方やるためにどうするかってリリアたちと話し合ってたら、野良サポーターの人が手伝ってくれるって話しかけてきて、4人でやってたの』

〈Zero〉>〈Daikon〉『あ、そうなんだ』

〈Daikon〉>〈Zero〉『うん。上手かったしいい人だったよ。スキルはまだ340いかないくらいって言ってたから、もしかしたらスキル上げとかも誘ったら来てくれるかも』

〈Zero〉>〈Daikon〉『おお、それは熱いな』

〈Daikon〉>〈Zero〉『うん。明日いたら私から声かけてみるね』

〈Zero〉>〈Daikon〉『え、だいが!?』

〈Daikon〉>〈Zero〉『別に私だってそれくらいできます』

〈Zero〉>〈Daikon〉『あははw悪い悪いw』

〈Zero〉>〈Daikon〉『ってかもう寝る時間だよな。色んな話はまた今度聞かせてよ』

〈Daikon〉>〈Zero〉『うん。分かった。じゃあ明日もまた頑張ろうね』

〈Zero〉>〈Daikon〉『おうよ。おやすみ!』

〈Daikon〉>〈Zero〉『うん、おやすみ』


 で、こんな感じでどうやらパーティを解散しただいとテンポよく会話をしたわけだが……何気にそこまで気にしてないフリしたけど、俺と風見さんの比較はあれだよね。俺より風見さんの方が実力は上ってだいは判断してるよね、これ。

 ……なんていうか……スキル差あるのは分かるけど、ちょっと悔しいよね!

 でも、〈Cider〉さんの話を聞けなかったのは残念だけど、それ以上にだいがあの二人とちゃんと仲良くできたことは嬉しいし、今日会ったばかりの人に、明日も声かけてみようかと思ったりするようになったことに驚きだ。

 ……波長が合ったのか? ううむ、どんな人か気になるね。

 明日もいてくれるといいなぁ。


 寝る前のだいとの会話から思ったことはこんな感じ。

 でもやっと明日は久々にだいと一緒にパーティが組める。

 ちょっとした嬉しさも感じながら、俺はこの日のログインを終え、明日に備えるのだった。

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