第350話 誰もが初めは初心者だからね

〈Nkroze〉『え、えーっと・・・のばらさんって、どうして?』

〈Doremifa〉『あっ、のばらちゃんですか?』

〈Nkroze〉『いや、そう言う意味じゃ・・・』

〈Doremifa〉『あれ?でもrozeってばらって意味ですよね


 いやいや!? それはroseだろ!?

 たしかにrozeロゼにはフランス語の薔薇色とかって意味もあるけど、この子絶対そこと間違えてるよな!?

 

 ……いや、呼び名の決まり方なんてほんとこんな感じで、自分でこう呼んでくれって言わない限り適当に決まったりするもんだし……。

 元々呼び方にこだわりがあったわけでもないし、何でもいいったらいいんだけど、のばらちゃん、か。

 ふむ。


 ……あ、ちなみに元々このキャラは〈Zero〉の反対で、〈Roze〉にしようとしてたからさ、俺はロゼって頭の中で呼んでたんだけど、そのキャラ名は誰かと被ってたみたいだから……頭文字にNkを、ふざけた冠みたいだけど、作りたてなのに持ってる装備の値段が高い、Nkの意味でそう付け足しただけなのだ。

 なのでフルスペルで考えるなら、成金ロゼ? でも流石にこの呼び名は〈Zero〉の知り合いならともかく、自分から初対面の人には言いづらいし……。

 kどこ行ったって思うけど、のばら……野薔薇ちゃんか。

 たしかに薔薇って言葉はこの美しい〈Nkroze〉に相応しい気がするし……。


〈Nkroze〉『分かりました。好きに呼んでください』


 甘んじてその名を受け入れよう、そんな気持ちで俺が〈Doremifa〉さんの呼び名を受け入れると——


〈Doremifa〉『はい!私はドレミでかまいません!』


 と、待つこと15秒ほどのテンポでこの返事が返ってきましたよ。

 ……あ、そうだ。


〈Nkroze〉『敬語だと、打つ文字数増えて大変でしょう?タメ口でいいですよ』

〈Doremifa〉『え?でも教えてもらうのは私なのに』

〈Nkroze〉『気にしないでいいですよ』

〈Doremifa〉『え、えと、わかった!のばらちゃんありがとう1』


 あ、また「!」ミスってるじゃん。

 っていうか……ちゃん? あ、まぁそうか。女キャラだしな……。

 と、なると……えっと……。


〈Nkroze〉『私も敬語やめるね』

〈Doremifa〉『うん!』


 ……うわ、これ恥ずかしい! めっちゃ恥ずかしい!

 けど、「俺」って言って「え、中身男なの!?」って思われるのもそれはそれでつらいから……うん、どうせ会うこともない相手なんだ!

 ここは割り切って……!


〈Nkroze〉『じゃあ、ドレミのことパーティ誘うね』

〈Doremifa〉『どうやて入るんだっけ』

〈Nkroze〉『誘いがきたらyesでOKだよ』

〈Doremifa〉『わかった!』


 ってな感じで、なんかまるでキャラの見た目通りだいみたいな話し方だなと思いつつも、俺は〈Doremifa〉さん改め、ドレミをパーティに誘う。

 あ、ちなみにここまでの会話に数分かかってるからね、ものすごいテンポで話してるからね、俺たち。


 まぁそれは置いといて。


 そこからは俺の初心者講習としてマップの見方を教えようとして——


〈Nkroze〉『そっちじゃない!』

〈Doremifa〉『あれ?』


 とか。

 改めて戦闘の仕方を教えようとして——


〈Doremifa〉『攻撃できない!』

〈Nkroze〉『構えないとタゲマでないよ!?』


 とか。

 ヒーラーの役割を教えようとして——


〈〈Doremifa〉『魔法できない!』

〈Nkroze〉『MPないとダメだよ!?』


 ってね。

 ……まぁ、かなり――俺が――しんどいレクチャータイムを過ごし、23時少し手前まで、俺はドレミに対し基本のキを教えたのだった。





〈Doremifa〉『のばらちゃん今日はありがとね!』

〈Nkroze〉『う、うん。頑張ったね、おつかれさま』

〈Doremifa〉『うん!今度は私の友達も一緒に遊ぼうね!』

〈Nkroze〉『うん。早く強くなれるように、頑張ってね』

〈Doremifa〉『うん!じゃあバイバイ!おやすみ!』

〈Nkroze〉『うん、バイバイ』


 ……ってな具合で、もう寝る時間だというドレミの言葉に合わせ、俺たちは街に戻って、プレイヤーホーム前で彼女を見送り、パーティを解散した。


 最初はまぁ大変だなって思った、というか、ずっとほんとゲーム初心者だなーって動きでしかなかったけど、とりあえずはどうやったら戦闘できるかは理解させることができたと思うし、女の子っぽい話し方も含めて……うん。頑張ったぞ俺!


 でも……彼女の友達がどんな人かは分かんないけど、もしかして昨日誘ったけどその動きの残念さに付き合うのがしんどくて今日はログインしなかったんじゃないか、とかも地味に思う。

 頑張れドレミの友達。

 誘った以上はちゃんと鍛えてあげるんだぞ!

 なんて、そんなことも思ったりする俺である。


 しかし、やろうと思ってたストーリー進行は出来なかったし、休みの日なのに教えるなんて普段の仕事みたいなことしちゃったけど、まぁ……何だかんだ楽しかった、かな。

 彼女のゲームに対するセンスは絶望的かもしれないけど、でも素直でいい子だったし……継続は力なりだろ。

 頑張って欲しいもんだ。


 と、俺がそんな感想を抱きながらログアウトの準備をしてると——


〈Daikon〉>〈Nkroze〉『やっぱりそっちで入ったのね』


 やってきた特別な名前からのメッセージ。

 

 なんだと!? 見つかった!?

 だが、そのメッセージが来ることを予想してなかった俺はただただ驚き、謹慎中なのにログインしたことを怒られるのでは……と身構える。


 でも。


〈Daikon〉>〈Nkroze〉『パーティ組んでたみたいだけど、今日は何してたの?』


 何だか注意される、っていう空気でもなさそうなだいのメッセージに、俺は密かに安堵です。

 もしかして、気にしててくれたのかな……?


〈Nkroze〉>〈Daikon〉『初心者の子と会っちゃってさ、色々教えてた』


 だからね、焦りを隠して素直に今日の活動報告を返す俺。


〈Daikon〉>〈Nkroze〉『初心者?珍しいね、最近だと』

〈Nkroze〉>〈Daikon〉『そうなー。でもまぁ、俺も初心に返った気分で遊べたよ』

〈Daikon〉>〈Nkroze〉『そっか。よかったね、楽しかったみたいで』


 そしてそのまま今日の俺の活動について聞かれたから、これにも素直に答えたのだ。

 もちろん逆にだいは今日みんなと何をしたのか気になったので。


〈Nkroze〉>〈Daikon〉『でもやっぱみんなと遊びたいけどな』

〈Nkroze〉>〈Daikon〉『オフ会の話題とかでた?』


 こう尋ねてみたら――


〈Daikon〉>〈Nkroze〉『ゼロやんは謹慎中なので秘密です』

〈Nkroze〉>〈Daikon〉『ええ!?』


 なんて、ちょっと悲しい返事に俺はしょんぼり。

 ……でも、この送ったらすぐ返事来る感じ、これが普通だと思うけど……やっぱテンポって大事だな!


〈Daikon〉>〈Nkroze〉『そして残念なお知らせがあります』


 そんなこんなで、話してて落ち着くなぁと思った矢先、何とも不穏なメッセージが送られてきて、何だろうと思ってたら――


〈Daikon〉>〈Nkroze〉『明日カナちゃんが復帰するって連絡きたから、ちょっと色々手伝ってくるね』

〈Nkroze〉>〈Daikon〉『マジかっ』


 あれ!? 俺とスキル上げは!? って思うようなお知らせが告げられるではありませんか。

 と、なると俺一人でスキル上げ行くの? いや、そうすると元々俺の方がスキル高いのに、さらにだいと差がついちゃうから……ううむ。これは明日も〈Zero〉で活動できないか……!


〈Daikon〉>〈Nkroze〉『スキル上げは木曜日にしましょ』

〈Nkroze〉>〈Daikon〉『まぁ、復帰祝いならしょうがないか。わかったよ』

〈Daikon〉>〈Nkroze〉『うん。だから明日のご飯は外食にしよ』

〈Nkroze〉>〈Daikon〉『うん、分かった。行きたい店見つかったのか?』

〈Daikon〉>〈Nkroze〉『元々いっぱいあるからね』

〈Nkroze〉>〈Daikon〉『おお・・・さすがだな』


 と、いうことで残念なお知らせを受けつつも、だいと二人で外食ってのも久々だなーってね、それはそれで楽しみな俺である。

 まぁ流石に太田さんの復帰に合わせて〈Zero〉が行くのも変な感じだから……ここは素直にだいに任せよう。

 風見さんもいるだろうしな、うん、尚更ここはだい任せ、だな!


〈Daikon〉>〈Nkroze〉『じゃあ、明日からまたお仕事頑張ろうね』

〈Nkroze〉>〈Daikon〉『おう。大会も近いしな。ゆっくり休めよ』

〈Daikon〉>〈Nkroze〉『うん、ありがと。じゃあ落ちるね』

〈Nkroze〉>〈Daikon〉『うん、俺も落ちる!おやすみ!』

〈Daikon〉>〈Nkroze〉『おやすみ』


 で、その後もちょっとだいと話して、俺もログアウト処理を完了、と。

 そして明日こそ〈Nkroze〉……のばらのストーリーでもやるかな、なんてそんなことを思ってると——


里見菜月>北条倫『おやすみ。明日のご飯楽しみにしてるね。大好きだよ』23:14


 と、ブブっと揺れたスマホを見ればLA内でも『おやすみ』を交わしたのに、改めてだいからTalkでメッセージが来るじゃないですか!

 しかもほら、『大好き』付き。

 いやぁ、こういうのって嬉しいよね、やっぱ。

 だから。


北条倫>里見菜月『俺も楽しみにしてるよ。大好き、おやすみ!』23:15


 と、愛に応えて返信完了、っと!


 いやぁ、うん。

 なんだかんだいい日、いい連休だったなホント。

 終わりよければってよく言うけど、ほんとその通り。

 これで明日からも頑張れる。


 電気を消し、ボフッとベッドに倒れつつ、俺は小さな満足感を胸にそんなことを思いながら……明日はどんな日になるのか、不思議なワクワク感を持って、長いようで短かった4連休を終えるのだった。






☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 たくさんの予想ありがとうございました。笑

 ゆっくり続けながら、いずれ答え合わせをしていきましょう……!




 ウマ娘のアニメ見たんですけど、あれは泣きますね……!

 

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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!



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