第343話 終わりよければ全てよし
「愛されてるし、愛してるんだよ」
背後から受けた衝撃と言葉。
その言葉を受け止まったような時間の中で、さらに続けられたこの言葉。
その言葉の意味が、俺は一瞬脳が硬直したせいで理解できなかった。
いや、正直それがどういう意味なのか、それは至極明快なもので、迷うようなものじゃなかったんだけど。
その声は少し弾んだ、聞き慣れた声の聞き慣れない言い方で——
「うわっ、そんな顔もできんのかー」
「……むかつくくらい可愛い顔してるっすね……」
えっ!? 何それ超見たい!
そんな思いが俺の脳裏を支配して、俺は何とか振り向けないかと少しじたばたしてみたけど、思いのほかさっきのお返しとばかりに背後から俺を抱きしめる俺の彼女の力が強く、そうすること能わず……!
でも、俺には見えなかっただいの表情を前に、太田さんも風見さんもさっきまでの驚きの表情を落ち着かせ、いつの間にか二人して「やれやれ」的な苦笑いを浮かべている。
「これでもまだ戦いを挑もうと思うなら望むところよ。二人の心が折れるまで戦ってあげるわ」
「だ、だいさん!?」
だがさらに続いたその言葉は、苛烈に聞こえる内容とは裏腹に、先ほどと同じくなぜか少し楽しそうな、弾んだ声。
そんな言葉を前に言い放たれた側の反応は——
「いやいや菜月ってそんなキャラじゃなかったじゃんっ!?」
「高校卒業してもう何年も経ってるし、私だってずっと同じじゃないもの」
「歳月は人を変える、かー。そりゃ北条くんも変わるわけだねー」
驚きとノスタルジーと、そんな風に二極化してるようだったけど……たしかに高校生の頃のだいってほんとに大人しいタイプだった頃だろうし、今みたいに人前で感情を露わにするようなタイプではなかったのだろう。
しかも今回はこれ、いわゆる見せつける、ってのをやってのけたわけだし。
……でもあれか? だいからすれば、あーすと色々あって失った
だとすれば……これはやっぱり俺にとっても嬉しいことだ。
抱きしめてあげたいのに今はされるがままなのかもどかしい。
「ぬぅ……あーいいなー! あたしもそんな風に大事にしてくれる彼氏欲しいなー」
「うん、私大事にしてもらってます」
「うわっ、うざいうざいうざいっ! 笑顔で言うとかうざっ」
「んー、でもほんと、言葉通りなんだろうねー。どんまいリリ」
「え、カナさんこれうざくないの!?」
「んー……こんだけ可愛い顔して堂々と言われると、お姉さんはもうなーんも言えませーん」
「いや……むぅ、いいなぁ北条さんみたいな彼氏」
「でも、北条くんみたいなの探すのは大変だぞー? こーれはほんと、相当な希少種だからね」
「そうすっよねー……あの菜月をこんな風に変える人だもんなー……」
「じゃ、リリもそんな手法教わるために、あたしと一緒に北条くんのわがまま聞き入れて、菜月ちゃんとフレンドから始めてみたら? あ、それであたしの復帰を祝って足りない装備取りとかさ、二人が手伝ってよっ」
「ええっ!?」
「うん、ゼロやんみたいな人の見つけ方は教えられないけど、カナちゃんの復帰のお手伝いするよ」
「ぬぅ……もう、分かりましたよっ。しょうがないっすから、あたしも手伝うっすよ! あ、じゃあさっちゃんにも手伝ってもらおっと」
「じゃあ私は都合がつけば真実ちゃんも連れてこうかな」
なんて、気付けばあんなにバチバチしてた頃が懐かしいレベルで、なぜか不思議と和気あいあいと進む会話ですよこれ。
しかもだいは口調に変化はないものの、普段見せないハイテンションなご様子で、「人前でこんな姿見せるの!?」ってレベルの可愛さ大放出だし。
惜しむらくはそのだいの表情が見えないことと……俺をバックハグするだいを一角とし、太田さんと風見さんで三角形フォーメーションだからさ、俺が真ん中に置き去りにされてる感じで恥ずかしいってことですかね!
結果的にこの結末は悪くないけど……ほんと恥ずかしいですこれ!
「真実ちゃん……て、北条さんの妹さんでしたっけ?」
「だね。北条くんに似て可愛いんだよー」
「うん、ゼロやんに似て可愛い子。LAだとサポーターやってるよ」
「なるほど、北条さんに似てたらそりゃ可愛いでしょうね! しかもサポーターとは、これはあたしらだけで良編成組めそだなー」
そしてさらに続く話の中で3人ともから「俺に似て可愛い」って言われてるとこは無視しつつ、真実のことが話題になって思い出す。
既に時刻は午前6時を回っている。
今から帰ったら、午前7時も近いだろう。
そしたらさすがに真実も起きてるような気がするよね。
だから——
「あ、あの。盛り上がってるとこ悪いんだけど、真実のやつ今一人なんだろ? さすがに人んちで起きた時に一人は可哀想だし、そろそろ俺ら帰ってもいいですか?」
恐る恐るね、俺は盛り上がる三人に切り出した。
実際真実のとこに帰るのはだいだけだけど、だいは真実のこと可愛がってくれてるし、うん、きっとこれで帰ってくれるはずだよね!
「あ、そうだね、うん。風見さんもカナちゃんも、さっきはいきなり来て喧嘩売るみたいなことしちゃってごめんね」
「いや、今も十分……って、まぁもういいや。それにリリアでいいよ。あたしは菜月って呼んでんだし、年上のカナさんのことちゃん付けであたしのことさん呼びは変っしょ」
「あ……うん。リリアもごめんね。でも、分かってくれてよかったよ」
「……ま、そりゃ思うとこはあるけど、あたしも大人げなかったとこあるし、いいよ。とりあえず今度インしたらメッセ送るから……あ、
「それは……出来ればやめて欲しいけど、でも本当にピンチだったら、許してあげる」
「おー。これはいわゆる仲直りってやつ、なのかな? いいねー。この年なってそんなやり取り見れるとは、なんか久々に女の子って感じ見せてもらったよー。あ、じゃあ菜月ちゃんはあたしとも連絡先交換ね」
「うん、わかった」
とまぁ、だいが俺の意図を汲んでくれたところでバイバイ前にちょっとした気まずかった二人の雪解けが見られ、ちゃっかり三人が連絡先を交換し合う。
そして何と言うかね、俺の必殺攻撃で始まった流れだったはずなのに、気づけば俺はおいてけぼり。まぁいいんだけどね!
しかし……この友達になるって展開は
それを分かった上での友達……ならぬフレンドスタート。
だからこそ、あいつの二の舞みたいなことにはならないだろうし、俺もさせる気もないから……うん、大丈夫だろう。
仲良くしてもらうのはさ、俺の望むところなわけだしね。
でも……あいつにも同じ形で理解させてれば……って思うのはやめとくか。
あれがあったから今があるとも言えるんだし……冷酷かもしれないが、必要な犠牲だった、そう思おう。
そんなことをね、ようやく俺から離れて仲良くスマホの連絡先を交換し合うだいを見つつ、俺はそんなことを考える。
「さて、と」
帰るとなれば、俺にはやるべきことがある。
「おら帰んぞ、起きろ」
ということで、俺はずっとすやすやと眠り続けるあーすのとこに移動し、その肩を揺する。
だがなかなか起きる気配を見せないので、もう引きずってこうかなって思ったんだけど……今の今の原因を作ったのは新宿に行きたいって言ったあーすのせいであり、あーすのおかげ、でもあるから。
結果オーライで捉えていいのかよく分かんないけど……まぁ、今だいが笑ってるから、それに免じて許してやる、か。
「ゆきむらと違ってお前は社会人だろーが……っと!」
そして全然起きないあーすを起こすのも面倒になったので、俺は腕力に物を言わせて自分の背に乗せて、いつぞやゆきむらを背負った時と同様におんぶして。
「じゃ、帰るか」
だいに帰るよう促すと。
「うん、ごめんね、大地くんのこと任せちゃって」
「おー。北条くんもやっぱ男だねー」
「上村さんにもよろしくお伝えくださーい」
ようやくこの長かった夜に終わりの時がやってくるようである。
つかあれよな、風見さんの閉店作業邪魔する形になった気もするけど、まぁいいよね……?
うん、色々相殺、ってことにしておこう!
そんなことを思いつつ、段々と身体の疲労とは裏腹に晴れやかな気持ちになった俺は、隣にきただい共々改めて二人に向き直り——
「おう。太田さんも、久々に会ったのにまさかのお願いする形なったし、風見さんもまだモヤモヤする部分あるかもしれないけどさ、とりあえずフレンドからってことで、俺の可愛い菜月のことよろしくっ」
ってね!
最後にトドメの一押しを、俺は笑いながら伝えてやったぜ!
「もうっ……!」
「はいはい」
「あー、もう分かったっすからっ」
そんな俺の言葉に一人は照れて二人は苦笑いだけど、俺にとってはそれがベスト。
「じゃあな」
「またね」
「ん、またね」
「LAでも会うけど、また来てくださいね!」
そして最後は笑顔を浮かべてくれた二人からの言葉を背中に受けつつ、俺は今日二度目となる、この店からの退店のための扉を開き……朝の光が眩しい外へ向かって足を踏み出して、だい——とあーすもいるけど——と一緒に激戦地となった風見さんのバーを後にするのだった。
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以下
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そして戦士たちはホームへと……。
ぼちぼち新展開!
ゲームパートを挟んでいきます……!
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!
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