第342話 さらなる追撃
「……むぅ」
表情を失っていたような様子から一転、不機嫌そうな目つきで唇をとがらせる風見さんは、俺に向けてその不機嫌さ訴えているようだった。
そんな彼女に向かって、既に和解し終戦を迎えたと思われる二人もそちらに視線を送り。
「ま、あたしと違ってリリは菜月ちゃんにいい感情持ってなかったみたいだし、無理にフレンドなる必要はないっしょ」
早速頼もしい援軍へと切り替わった太田さんが風見さんの方へ近づき、その頬をつつく。
それを受けた風見さんは鬱陶しそうにその手を振り払いながら……睨む先は俺。
「太田さんの言う通り、風見さんに無理にだいと仲良くしてもらうことを強要したりしないよ。それは俺のわがままっていうか、そうなったらいいな程度の願望だっただけなんだし、優先すべきは二人の気持ちだからさ」
なので俺は彼女を落ち着かせるように、優しい口調で太田さんに続き風見さんにどうして欲しいかを伝えたわけだが……腕の中でじっとしているだいは何も言わずに、真っ直ぐ風見さんの方へ視線を向けるだけだった。
そりゃまぁそうだよな。元々だいはこの子に物申したいとこがあってここまで来たんだし、俺が見切り発車で「仲良くして欲しい」って口にしちゃったけど、前にも「何言ってるの?」って言われたくらいだし、そう簡単に受け入れるのは難しいよな。
風見さんも気まずそうな気持ちを抱えてるみたいだし……さすがにこの二人は難しい、か……。
「まっ、これだけ見せつけられちゃったら付け入る隙なさそうだし、ハンパに付きまとう方がダサいしね。あたしが代表して北条くんのわがまま聞いてあげるから、リリは大人しく引き下がったら?」
だが、俺が風見さんとはこれまでだなって結論付けた矢先、太田さんがちょっと挑発めいた口調でそう言い放つと——
「むぅ……なんか、そう言われるのも腑に落ちないっすね……」
と、まるで天邪鬼のようなことを言いながら、納得した様子を見せはしない風見さん。
っていうか、何だよ「そう言われるのも」って。どの部分に対して思ったんだそれ?
そもそも君がしたがってたのはだいに対する
でも、あの手この手で俺に悪魔の誘いをしかけようとしても、俺がそれに乗るような人間じゃないってのは分かってくれたと思う。
だからこそここは溜飲を下げて、大人しく仲良くするか諦めるかって選択肢を腑に落として欲しいんだけど。
「ほらほら、変な気持つなって言われたばっかなんだし、そんな風に睨まないの」
……は?
いや、たしかに俺さっき「変な気持たないで欲しい」なんて、怪しい関係になろうとするこの子にそういう言い方したけど……今の太田さんの言葉に加えてさっき言ってた「付け入る隙」って、なんかまるで……あれ?
「なんだなんだー? そんなにあたしの元カレに惹かれてたのかー?」
……んんっ!?
まるで……な想像をした俺に、なんともドンピシャな言葉を口にする太田さんのせいで、俺は驚き目を丸くする。
ちなみにそんな言葉を耳にしただいからは、小さくボソッと「私の彼氏だし」って呟くのが聞こえました。
でも、そんなだいの可愛さを堪能する間もなく——
「ちっ、違うっすよ!? ……そりゃ初対面の時にまさか褒められたりするなんて思ってなかったし、あたしの人生を認めてくれたのは嬉しかったっすけど! でもそれとこれとは違うっす! ……たぶん……」
と、これまでニヤニヤか不機嫌かみたいな表情ばかりだった風見さんが、顔を赤くし焦った様子で、顔の前で両手をパーにしながら首を振りつつ否定する。
でも、最後の「たぶん」はものすごく自信なさげだったように聞こえたんだけど……というか、いや、そんなことどうでもいい!!
「え? えっ!?」
「おいおい相変わらずの
「いや、でも風見さんはだいに嫌がらせしたいから俺につっかかってきてたんじゃ……!?」
「はぁ!? その気持ちもゼロじゃないっすけど、だからってさすがにあたしだって誰とでも寝ようと思うほど痴女じゃないんすけど!?」
「……は? 誰とでも何ですって?」
ふぁーーー!!!
カ、カオス……!!
太田さんの指摘から俺がそれを否定しようとすると、連鎖的に風見さんがかましてくれた爆弾発言は、導火線の長さが1ミリもなく速攻大爆発。
それによって変わらず俺の腕の中に収まってただいが、抑え込んでいた氷の波動を即時発動で放出開始。
そしてぶつかり合う
この2つが混ざりあったとなればそこで起きるのは……!?
「……まぁでも、あたしだってさすがにこれは諦めつくってもんすよ。人前だってのにそんな惜しげもなくラブラブされたら、見てるこっちが恥ずかしいですし」
「「え」」
二次大戦の勃発かー! って焦った俺をよそに風見さんはご自慢の八重歯をちらつかせつつ苦笑いを浮かべていた。
でもその返しがあまりにも予想外だったせいか、俺とだいは二人して間の抜けた声を出してしまい——
「うわ、ハモってんじゃーん」
って、ケタケタ笑う太田さんにツッコまれる始末である。
「あー、おかしっ。でもさ、ほんとあの北条くんにそこまで他を寄せ付けさせないように、線引きちゃんとさせるように躾けるとは、菜月ちゃん恐れ入るよ」
「……北条さんてそんな誰にでも手を出す人だったんすか?」
「あ、そういうわけじゃないけど、ちゃんと一人を選ぼうって気はあっても、なんだかんだ優しさに付け込まれる隙だらけだったって感じ?」
「あー……なるほど。あたしもその隙に騙されたかー」
「そうかもね。でも菜月ちゃんほんとに愛されてんねー」
そして目の前では何ともリアクションしづらい会話が繰り広げられるのだが……。
ほんとあれだな、元カノってのはいつだって特大の地雷なんだな……!
とりあえずここはスルー、そう、スルー……!
いや、待てよ?
視点を変えて今のこの状況を冷静に考えれば……これは俺の作戦成功と言えるんじゃないか?
結果的に二人の前で俺がだいとラブラブして見せることにより俺の気持ちを伝えまくれたわけだし、それで二人はだいに敵わないってことも言っている。
つまりこれ以上俺とだいの平和が脅かされる心配なし。
俺の相手の心を折る作戦の大成功じゃないか!!
え? 最初からそのために切り出した話なんじゃないかって?
あ、あーね! まぁそうなんだけどね!
うん、元からここが狙い。そう、これは予定調和のパーフェクトミッションコンプリート。勝てば官軍俺の勝ち!!
「ねぇゼロやん、そろそろ離してもらえる?」
と、俺が脳内であれこれと今回の作戦の結果を確認していると、これまでずっと俺の腕の中で抱きしめられ、今さっきの太田さんの「愛されてんねー」に照れていただいが、静かな声音で俺にそう言ってきた。
その声は静かな声音だからと言って冷たいわけじゃなく、むしろすごく普通のトーン。
まぁたしかにもう決着ついた感じだし、うん。名残惜しいけどもういいか。
そう思って俺がだいの身体に回していた腕を離すと。
「ん?」
俺のバックハグから解放されただいは、くるっと半回転し俺の方に向いて笑顔を見せたかと思うと、そのまま数歩移動し、俺の視界から消える。
そんなだいの行動に、諦めというか、やれやれって感じの顔を浮かべてる二人も気づいたのだろう、二人ともだいの動きに目線を送るわけだが——
「うおっ!?」
突如訪れた、背後からの軽い衝撃。
いや、その衝撃は部分的には何かすごい弾力あるものがぶつかってきたような、そんな感じもあるんだけど——
「これは私のです」
その柔らかな衝撃とともに聞こえた声に、俺の前に立つ二人の目が大きく見開かれたのが見えるのだった。
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以下
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何か、二人が進化したような感じもありますね……!
間もなく新宿の戦いも終着です!
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!
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