第336話 圧倒的強者
「……ってなわけなんですよ!」
「……あー……」
「ん〜……」
風見さんが話し出すこと約10分。
密かに刻一刻と進む時間を気にしつつ、改めて俺も彼女の話を聞いたわけだけど……この話を聞いた感じのお二方の反応はいまいち。
一生懸命身振り手振りも混じえながら話してた風見さんも、そんな二人の反応に——
「あれ? あたし可哀想じゃないっすか?」
なんて、ちょっとおどけた感じで聞いたりしてるけど……たぶん手応えのなさに「あれ?」ってとこが本音なんだろうな。
いやでもそもそもさ——
「菜月ちゃんだっけ? リンの彼女さんが何かしてきて男取られたならまだしもさ、別に向こうが何かしてきたわけじゃないんでしょ? それを根に持つのはー……さすがにリリがダサくなく?」
そう! そんなんだよ!
だいは悪くない。本人も覚えてないくらいなんだし、あの反応からして悪意などあったはずもない。
そこのところを理解してくれた太田さんに、俺は内心で拍手喝采。
まぁ取られた側からすれば、自分の男を見る目がなかったって反省するよりも、どこかに恨みどころを作った方が楽かもしれないけど……それってものすごく虚しいことだよね……って思ってたら。
「彼女のこと大切にしない悪い男なんて別れられてよかったんだよっ」
伝え方は別として、あーすも見事に風見さんの話から悪いのは誰だってのを指摘してくれたよね。
そんな二人の感想を聞いて、風見さんは旗色が悪くなったのを感じたのかちょっとバツの悪そうな表情を浮かべているけど……。
「でもまぁリリがダサいかどうかはおいといて、嫌いってか、好きじゃない理由としては分からなくはないけどね」
「カナさんそんなダサいダサい言わないでくださいよーっ」
「でも自分の男につきまとってくる女に比べたら全然マシじゃん? むしろその話であたしは見た目だけでコロッと男を転がしちゃうリンの彼女がどんな女なのか気になったけど」
ってなことを言いながら太田さんは太田さんで一定の共感も伝えつつ、意味ありげに俺を見てきたり。
その何とも言えない、心の中を探ってくるような視線からは、アルコールによる酔いは感じられない。
ってことは記憶も言動も定かってことだから……。
つまり……自分の男につきまとってくる女って……たぶんあの頃の松田さんの話、だよな……!
いやいや、いつまで覚えてんのさ!?
その話題はリスク有りすぎるからね! スルー確定!
それにだいのこと気になるって言われても——
「あっ、僕みんなとの写真ならありますよっ」
「あっ、見たい見たいっ」
なんですって!?
「いや、勝手に見せるもんじゃねぇだろって——」
「写真くらい別によくない? それとも何か? あたしより可愛くないからとか、そんなこと思ってんのー?」
「はぁ!? そんなことないし!」
「その全力否定うぜー。……ま、じゃあ別にいいじゃん、自慢の今カノさんなんでしょ? 上村さん見せて見せてっ」
何だかやり込められた気がしてならないが、自分より可愛いならいいじゃんっていう謎の理論を展開する太田さんに反論出来ず、結局俺はあーすがスマホを操作するのを止められなかったのだが……。
「……むかつくけど、マジ美人っすよ。カナさんも綺麗だけど比じゃないっす」
そんな風にボソッと呟く風見さんも、何だかんだあーすが操作する手元に視線はやってるっていうね。
いや、君はだいの見た目は知ってんだろって思ったけど。
「この子ですよー」
「うわっ、マジっ!? こっちの可愛い系の子じゃなく? うわ、思ってたタイプと違うけどめっちゃ綺麗じゃん! てかこのレベルの子がなんでリンなの!?」
「何これ男4人に女6人? 女多いっすねー、あ、子持ちもいるんすか?」
あーすが見せたのは宇都宮オフの時の集合写真だったみたいだけど、それを見た二人の反応はこんな感じ。しかし「この子のレベルでなんでリンなの」って、それは俺だって思う時あるけど……そんなハッキリ言われると辛いねこれ!
で、でもまぁそれはさておき、太田さんはきっと見た目で俺のタイプはゆめだろうって思ったんだろうな!
昔好きだった松田さんの系統はゆめタイプだったから、そう思うのも致し方ないと思うけど……いやぁ、今この場に【
で、風見さんはうちが女多いって言ってるけど……いや、
まぁうちはこの頃よりも女増えてるけど——
「今はこの6人にプラスして、ゼロやんの妹のいっちゃんとロキロキっていう見た目は女の子、中身は男の子の子も増えてるんだよっ」
あ、それも教えるのね。
しかしその情報は……。
「へ? え、待ってリンの妹に、見た目女の中身男? え、ごめ、ちょっと整理したいっ」
「妹も同じギルドって……すごいっすね、兄妹で教師やってんすかー」
「あっ、いっちゃんは先生じゃないらしいよー。他にも学校司書とか、先生志望の子とかもいるし、全員が現役の先生ってわけじゃないんだよー」
「あっ、そうなんすか?」
案の定ね、真実のことを知る太田さんは混乱してるみたいですよ。
それに対して風見さんは違うところに反応し、それに対しあーすが言わんくてもいい情報をべらべらと話してしまうが、一応そこは、【Teachers】の加入条件ってことなってんだからもう少し気にしてあげて欲しかったね……!
まぁ、ジャックがいる時点で疑わしいって思ってる奴はいっぱいいたと思うけど……。
「あのさ、リンの妹ってマミちゃんじゃなかったっけ?」
「あ、うん。そうだよ」
「なんでいっちゃんなの?」
と、あーすが風見さんにギルドの秘密を暴露してしまってる間に太田さんが自分なりに整理つけたようで、まずは真実のことを俺に確認してきた。
もちろん昔付き合ってた頃に二人は面識もあるわけだが、正直真実はあんまり太田さんには懐かなかったんだよな。
……見た目ギャルだったし、中学生の頃からしたら怖がってたのかなー、って思うね、うん。
「あーすが真実と知り合ったのはLAだからさ。ギルド内の呼び方で覚えてんだよこいつは」
「〈Zero〉の妹だから〈Hitotsu〉って言うんですよー」
「うわっ、ガチ兄妹プレーヤーなんだっ」
「なるほどねー。懐かしいなぁマミちゃん。リンとよく似てたよねー。マミちゃんも今上京してんの?」
で、俺が太田さんの質問に答えると、またしても言わなくてもいいことをあーすが追加情報として提示するが、それを聞いた風見さんは物珍しいものを見たようにちょっと笑って、太田さんは太田さんで納得した表情を見せる。
「いや、あいつは地元の市役所で働いてるよ。この四連休使って一昨日からこっち来てて、明日……ってか、今日向こうに戻るんだけどね」
で、そんな太田さんに、俺が「そういうわけだからホントは早く帰りたいんだよ?」的な気持ちを込めて苦笑いで答えると。
「公務員兄妹! うわっ、超安泰じゃんっ」
「オフ会来てくれたおかげで会えたけど、いい子だったよっ」
「んー……仕事はそうなんだって感じだけど……え、妹来てんのに、なんでリンここにいんの?」
「いやいやカナさん、何歳か知らないっすけどもう社会人の妹さんでしょ? 上京した同年代の友達んとこ泊まったりも出来るじゃないすか?」
「あっ、それもそっか……いやぁ、すごいお兄ちゃん子だった記憶あるからさ、当然リンのとこに泊まるとばっかり」
「いっちゃんは今日はなっちゃんちにお泊まりですよっ。僕が無理言ってゼロやんちに泊めてってお願いしたからなんですけどね!」
もうやめられない止まらない笑顔のあーすくんは無限発車モードなんだけど……ほんとこいつ何でも喋るなおい。
「わっ、彼女さんと二人!? あの子を手懐けるとは、やるなぁ菜月ちゃん……」
だがそんなあーすの言葉で太田さんが少し驚きの表情に変化したけど……待てよ?
俺と真実が仲良いってのを太田さんが知ってるなら、逆にこれで真実がいるから始発で帰るって理由にもなる、か!
となると、このチャンスは逃せない……!
「うん。ってことで、俺は預けた妹がうち戻ってくる前に帰って、少しでも仮眠しときたいから始発で帰るぞ」
「えー。5時閉店なんでそこまではいてくださいよっ」
「いやだわ」
「けちっ」
「つーかもう新規入店受け入れてないんだったら閉店してるようなもんだろ」
「えー、もうすぐ帰るのー?」
「帰るに決まってんだろっ」
閃いた俺がもうすぐ帰るぞ、ってアピールをかまし、それに対する風見さんの要求を蹴飛ばし、なぜか送られてきたあーすの要望も当然一蹴。
しかしなんであーすにまで足を引っ張られにゃならんのだって思いもあるけど、そもそもあーすはここに来るにあたってわがまま聞いてやったんだからね! 今度は俺の番ってことで嫌とは言わせないよね!
「いやぁ、そっかそっか。なるほどね」
そんな風に俺が足にしがみつこうとする奴らを振り解こうとしていると聞こえてきた太田さんの、何か納得したような声。
その声の不思議さに俺ら3人がそれぞれ視線を向けると、太田さんはそれはもう清々しい笑顔を浮かべていて——
「あれだけの美人で、あのブラコンの妹が懐くってことは人格者でもあるんだろうね! うん、そんな子相手じゃリリにゃ分が悪かったってことっしょ!」
そう、あっけらかんとした感じで360mm砲級の一撃を風見さんのど真ん中に撃ち込む太田さん。
その言葉を聞いた風見さんは一瞬フリーズした後——
「ひどくないすか!?」
とまぁ、硬直解除後は猛攻状態でジタバタと暴れたりしてくれました。
でもそれもね、太田さんは「しょうがないってー」って笑いながら慰めにならない慰めをしてあげてたけど……。
風見さんだって見た目は全然悪くないってか、むしろ美人だし、ちょっと生意気そうな感じとか好きな人は好きだろうな、ってレベルなんだけどね。
でもだいが相手となると……うん。好みもあるだろうけど、やっぱだいに軍配が上がるよね。
結果としてこの子がだいを嫌ったエピソードも共感は得られるものじゃなかったし、うん。
これに懲りて色々と手を引いてくれればいいんだけど……。
そんなことを考えながら、何気なく見やったテーブルの上に置いてある俺のスマートフォン。
視線を送っただけで時刻を見せてくれたら万能だったけど、まぁさすがにそこまでツーカーな機能なんてないからね。
どれどれそろそろ駅向かってもいいかな、今何時かなって時刻を確認しようとした、その瞬間。
俺が触れるより先に光が灯る俺のスマホ。
それと同時に響く振動音。
自然と皆の会話も止まり、視線もそちらへ移るわけだが、光った画面が示す、その先には——
ある人物の名前が、書かれていたのだった。
☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
この状況でややこしいからと、ロキロキのことはスルーで決めたっぽい女性たちみたいです。
(宣伝)
本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます