第335話 チャンスを掴め
「何してもらおっかなー」
先ほどまでは仲間のことを想ってたからか割と熱くなっていたように思えた雰囲気を一変させ、何とも楽しそうな顔を浮かべる女性が一人。
「別にリンが何かしたわけじゃなくない?」
「いやいや、これあたしに言ってきたから釈明出来ますけど、知らない人に言ってたら風評被害じゃないっすかっ。きっとこうやって悪評って広まっちゃうんだろうなー」
そんな
たしかに聞いた話を他の人にもして、って流れで噂ってものは広まるとは思うけど……いや、でも俺は広めようとしたんじゃなく、直接本人のところへ確認しただけだぞ?
当然広める気なんてナッシング。
むしろ今後そういう話を太田さんとあーすが聞いた時、それを噂と聞き流せるだけの材料を与えたって風にも言えるんじゃないのこれ!?
って俺は思うのだが——
「第一北条さんあたしと関わる気ないって言うくせに、そうやって聞きたいこと持ってたのも筋違くないすか?」
「あー、それはそだねー。なんだかんだゼロやんも色々お話してるよねっ」
少し角度を変えて俺に切り込んできた風見さんへ、酔っ払ってんのか、なんかふわふわなってきてるあーすの
え、こいつ始発までには店出るんだよな? 大丈夫なんだよな? てかそもそもこの店閉店何時だよ?
って、とりあえずここらへんは置いといて、風見さんの言葉に話を戻せば……たしかに今聞かないで俺の胸の内に秘めるってか、あの話は聞かなかったことにしてスルーすることもできた。
つまりこの話を確認したのは、俺の判断に他ならないわけだが……。
「あっ、本音のとこ実はあたしとお喋りしたかったとかっ?」
「ない。違う。ストップ勘違い!」
「うわうぜー」
ご自慢の八重歯を見せつけるニッて笑顔を浮かべた彼女が臍で茶を沸かすようなことを言ってきたのでね、俺はそれに右手を突き出し制止するように否定してあげました。
するとコロコロと万華鏡のように変わる表情が少し前までの不機嫌顔になったと思えば——
「まー元カノの手前、若い子と話したがったりするのはさすがに——」
真顔というか苦笑いというか、これは本当に思ってることなんだろうな、って思わせる表情にまた変化。
いや、でもその発言……!?
「ん? リリアちゃんは何が言いたいのかな?」
「ああっと!? な、なんでもないっす! ほら、ちょっとしたおちゃっぴーですからっ! ちょまっ! カナさん! ハゲちゃう! ハゲちゃうっすって!」
ああほら、言わんこっちゃない……!
俺が君と話そうとしないのは元カノの前だからとかじゃないよ? ってことを伝えるまでもなく、「
その笑顔は「保育士っぽいなー」って感じのにこやかさなのに、そのにこやかさが逆に怖い。
しかも右手はね、風見さんの頭にありましてね、どうやらその手には相当な握力を込めたのか、風見さんが慌てて前言撤回するっていうね!
……そう言えば昔からふざけて叩いてくる時とか、何気ないツッコミも地味に痛かったっけ……。さすが元運動部……!
「あんただってアラサーなんだからね?」
「はいっ! そうです! 調子乗りましたごめんなさいっ!」
さすがに持ち上げたりとかそんなマー◯ルの方々のようなパワーは発揮してなかったけど、全力で謝る風見さんの様子からかなり痛そうだったのが見て取れた。
南無。
なんて思ってたら。
「僕もゼロやんの頭撫で撫でしてあげるねっ」
「ええいっ、どこに目ぇ付けとんじゃお前は!」
まさかのあーすの反乱アゲインっていうね!
ふわふわとした雰囲気でにこにこと笑いながら俺の頭に手を伸ばすあーすは、たぶん年上の方々とか働いてる学校のJKたちとかからなら、見た目だけならキャーキャー可愛いって言われそうな感じにも見えたけど、同性かつこいつの中身を知る俺からすればそんな風に見えるわけもなし。
ということで俺はあーすの右手首を掴んで、俺の頭に置いた手をどけてやりました。
何が悲しくて男に頭撫でられにゃならんのじゃ!
そういうのはやられるよりやる側がいいの。……まぁだいにならしてもらっても悪い気しないけどね……!
「……あー、ハゲるかと思った」
で、俺とあーすがそんな持ってる小銭の製造年確認して年代順に並べて眺めるくらい不毛なやりとりをしてる間に、ようやく風見さんが解放されたらしい。
風見さんの頭を握ったまま笑顔を浮かべる太田さんの迫力たるや、昔も怒らせたら怖かったんだろなーって思ったりもしたけど、何とか手を離してもらった風見さんは、ちゃんと髪が残ってるか確認したりしながら自分の頭に手を当ててました。
まぁ今のは自業自得だしね。どんまい。
女性に対するNGはね、社会常識として覚えとかないとこうなるからね、気をつけようね。
「リンからすればさ、偶々リリが居たから聞いただけでしょ? ……あっ。もしかしたら……あたしが復帰するところの清廉さを確認しようとしてくれたりした?」
で、風見さんへのアタックを終えた太田さんが俺にそんなことを聞いてきて——
「えっ、カナさんのためだったんすか!?」
風見さんがびっくりというか、焦ったようにそんなこと聞いてくるけど——
「えっ、あー……まぁ既にリアル知り合いもいるし、そこのギルドが規約違反してんのはやだなってのは、思ってたけど」
太田さんのため、だけではないけど、そこもなかったわけではない、なんてことは言う必要がないから言わないよ?
ということで俺は風見さんに代わって俺に質問してきた太田さんの問いに少しだけねじれつつも、当たり障りない回答を提示する。
でもその答えだけでもなぜか太田さんは少し嬉しそう、なような?
いやいや、喜ばせることは俺言うとらんからな?
でも——
「そう言われると、ゼロやんが何かしたり聞いたりするのはLA絡みか誰かのためだよねー」
「むー」
やっと俺の答えをフォローするあーすくん、ナイスです! いや、でもなんか俺がLAを相当人生のベースに置いてそうな発言な気もするけど、とりあえずそれは気にしないでおいてあげるかね!
で、それを聞いた風見さんが今度は頬を膨らませるけど、何この子、情緒不安定かよ。
「でもあたしは自分のとこのギルドに対して変なこと言われて傷つきましたー」
「いや、駄々っ子かよ……。それに変なこと聞いたって、そこは謝っただろって……」
「ごめんで済んだら警察も
「いやGMは関係ねぇだろっ!」
……はぁ。
改めて向き合ったけど、マジでこの子と話すの疲れるな……!
だいのこと好きじゃないのは分かるけど、それに対して足を引っ張るようなことしようとすんなって話をした時には一定の理解を示してたし、そうやって話せば分かってくれる時もある。
だからこそこの子が何を求めてるのかマジで分からん……!
「聞かれたこと、あたしは素直に答えてあげたんだからもっと優しくしてくれても罰は当たらないと思うんすけどー?」
「いや……その言い方すれば、俺からしたら自分の彼女嫌いな奴が罰当たりだわ」
分からない子だけど、迎合することは出来ないから。
俺はまたしても俺に何かを要求しようとする彼女を跳ね除ける。
すると。
「そもそもなんで風見さんはなっちゃんのこと好きじゃないのー?」
「そだね。リンと変な関係なってんのもそこが関係あるっぽいし話せる範囲で教えてよ」
「いやー、これは話すと根深いっすよー?」
なんて風にね、そもそもなんでだいと風見さんの関係がよくないのか、あーすと太田さんも気にしだす。
それに対して風見さんは意味深く「根深い」って言ってるけど、俺から言えば根深さ皆無のただの逆恨みでしかないからな?
話したところでそれがより白日の下に晒されるだけだと思うよ?
……ってなると、むしろ話してもらった方が好都合か。
「僕も話せる範囲でいいから聞きたいなっ」
「しょうがないっすねー」
そして、そんな俺の願いが通じたのか、ふわふわあーすがまたしてもファインプレーをかましてくれるではありませんか。
時刻はまもなく
こんな時間まで起きてたのいつぶりだ?
でもあと1時間もすれば始発も動き出すだろうし、最後にこの話をして、みんなで君が間違ってるよってなれば、これいい流れで終われそうじゃない?
おお、ついに俺に風向きが……!?
……よし!
さぁ風見さんよ
そう思いながら、俺はなぜかドヤ顔チックにいざ話そうとしている風見さんへ、期待を込めた視線を向けるのだった。
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以下
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握力の強さは平均以上らしいですよ。
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!
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