第333話 この世界は俺が守る

「俺にだってガンナーとして強い方って自負は、ある」


 3人からの視線が集まるのを感じながら、淡々と口を開く俺。

 この言葉に誰かさんはちょっと嬉しそうな顔になった、けれども。

 その表情は、たぶん正解じゃないと思う。


 あくまで俺に自負があるだけで、それは何物にも変え難い矜持なんかではないし、俺が守るべきものなんかでもない。

 そもそも自分が最強だなんて思うほど愚かじゃないし、少なくとも自分より強いガンナーを、俺は一人知ってるからね。


 もし風見さんがそいつよりも強いってなら、ちょっと話は変わるけど——


「でも、それを誇りに思ってるわけでもないし、別に一番になりたいって思ってるわけでもない」


 そう、たしかに風見さんの、【The】の強さが気になる部分がないわけではないが、関わるべきではない人たちと関わってまで、自分と彼らの強さを比べる必要はないのだ。

 俺は俺で、【Teachers】の一員としての居場所が、そしてあいつの隣にいられればいいのだから。

 古い言い方をすれば、ナンバー1じゃなくオンリー1でいいのである。

 昔ならいざ知らず、今はオンとオフの優先順位、言うまでもないからね。


 そう思って俺が続けた言葉で、嬉しそうにしていた顔は少しだけ不満げなものに変化していったけど……それを気にする必要は俺にはないから。

 

「最初に言った通りさ、俺は君と関わる気はないんだって。個人的な対決はしないし、ギルドの対抗もしない。そもそもギルドについては、俺は君と違ってリーダーじゃねぇから、そもそも決める権利を持ってないしさ」


 ということで、俺はしっかりと風見さんの目を見て、改めて彼女を拒絶する。

 そんな俺の態度と、完全に拗ねたモードっぽく「えー」なんて言ってる風見さんに、俺の言葉を聞くだけだった太田さんが何だか苦笑いを浮かべてたんだけど——


「あたしと付き合ってた頃も、それくらいキッパリとあの女のこと拒否ってくれればよかったのになー?」


 そ、そういう意味の苦笑いかーーーっ!!


 その記憶は、割と最近に引っ張り出して思い出してたところだから……10年も前のことなのに、簡単に意味が分かってしまい俺の心に突き刺さる。


「いや、俺としてはしっかり拒絶したつもりだったんだけど……」

「バス一緒に乗って帰ってきたくせに」

「いや、だって混んでたし!?」

「降りる時転びそうなったら助けてたくせに」

「それは人として当たり前だよね!?」

「……ちゃんと覚えてんのね、変なの」

「えっ? あっ、いやっ」


 苦笑いの風見さんがしかける口撃に、俺は劣勢を強いられるが……!


「あの頃は若かったから、うん。それももう時効ってことでっ」


 嗚呼なんて便利な言葉なの「時効」さん!

 特に元カノなんていう爆弾に対して便利極まりないじゃないか!


 ってなことで、風見さんに引き続き、俺はこの言葉の防御力により、太田さんの猛攻をいなしてひと段落。

 まぁ太田さんは太田さんで、ちょっと寂しそうに笑ってる気がするけど、これもうん、気にしない!


「ちょっとお手洗い行ってくる」


 その俺に向けられた視線に対し思うことはあるけど、何度も言うが二人のことは俺が気にすることじゃないから。特にほら、今日の色々でも、これは痛感したとこだしさ。

 とはいえ、何となく気まずい空気なのもまた事実なので……俺はそこで一度席を中座する戦略的撤退

 もし今あの二人と俺の3人だったらほんと気まずさの極みだったんだろうけど、今ばかりはあーすがいてよかったわ。

 ……色々ストレートに言ってくるようになったあーすに期待するわけじゃないけど、二人が愚痴ってきたのを聞くくらいは、やってくれるだろう。

 あいつほら、根はいい奴だし。

 っても、そもそもあーすが俺を誘ってなかったら、ってとこもありますけどね!


「北条さんていつもあんな感じなんすかー……」

「今日は色々あったみたいなのもあるかもー……」


 で、俺がトイレに向かう間、早速聞こえてきたのはそんな会話だったけど……どうか今日誰とトラブったのかだけは言ってくれるなよ、とあーすに祈るばかり。

 

 でも、なんて言うかほんとびっくりなことばっかだったな……。

 元同僚が【The】のメンバーで、お互い知らぬ間に元カノと同じギルドにいたことが発覚し、長年の隣人さんが【The】のメンバーで、そこをよく訪れる女が今カノだいの元同級生な上に【The】のリーダーで、その尊敬する【The】のプレーヤーがギルドメンバーロキロキの元同僚で。

 【The】自体も、相当な実力を持ってるギルドみたいだし。

 ……そんなギルドが……ふむ。


 用を足しながら、そんな風にさっきからの驚きの連続を振り返るけど……でもまだ俺には確認したいことがある。

 ここまではほら、まぁ言ってしまえば世間話、って感じの話だったけど、あの噂が本当なのだとすれば……場合によっては運営に通報も必要となるだろう。

 もちろん古河さんが全く知らなそうだったように、全くの濡れ衣って可能性も、もこさんたちが聞いた噂がデマだったって可能性もあるけど。

 ……実際水上さんはまだしも、風見さんがRMT規約違反に関わってるってイメージ、つかないんだけどさ。

 でもあれでも一応元行員って話だし、もしかしたらそういう経済的な話は強いのかもしれない。

 海外サーバー運用するとか、買取と販売の受給バランスとかそういうのは俺には分からないけど、もしかしたらって可能性はあるよな。

 もちろんこの話をしないって選択肢もあるけど、でもやっぱり本当なんだとしたら、LAに害なす存在ってことになるし、関係ない太田さんも面倒に巻き込まれてしまうかもしれない。

 古河さんとか〈Cider〉さんとかは俺と同業者だし、そんな人らが規約違反に該当してしまうかもしれないのはいい気がしないし。


 うん、やはりこの話は聞かないと。


 ……うし!


 既に時刻は27時15分ほどで、ここに来てからの時間が始発までの時間よりも長くなってきた。

 その分やはり疲労感はあるけど……でも不思議な高揚感もあり、眠いってわけではない。

 ここから先は、場合によっちゃさっきまでの比じゃなく気まずくなるかもしれないけど、それもやむなし。

 

 手を洗い、トイレに設置された鏡に映る自分の顔を確認し、改めて気合を入れ直す。

 そこに映るのは、我ながら頼もしいなとは思えない顔つきの、いつも通りの俺の声。

 ま、気合い入れたからって強面になれるわけないのとか、当たり前に分かってたけどさ。

 今だけはちょっと、普段の気を緩めた空気を、研ぎ澄ますのだ。

 

 そんな顔つきで、俺はトイレを出て店内で唯一話し声の聞こえる固まりの所へ、ゆっくりと戻るのだった。

 

 



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以下作者の声です。

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 時間がなかなか取れない&区切り的に、久々の3000字未満となりました。

 自宅勤務がしたいなぁ……!


 RMTは海外は規約違反じゃないこともあるみたいですが、他人のふんどしで商売するってどうなんですかね。


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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!


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