第332話 ゲーマーとして興味はあるけど

「何を思いついたのー?」


 そう間延びした声で尋ねるあーすの声。

 既に時刻は26:30頃で、何気にちょこちょこお酒も頼んだりしてたからすっかりあーすは出来上がり。

 ちなみに時々マスターがバックヤードに消えたりした時は、店員って意識はなくなってなかったみたいで、風見さんがドリンクを作ってる時もあった。

 とはいえもうテーブル席にいた人たちも帰ってるし、さっきからずっと俺らと喋ってるから最早店員要素は見た目だけなんだけどね。

 あ、もちろん俺はこの状況で、飲まずにいられるかー! なんてなるほど馬鹿じゃないので、現在置いてあるお酒は2杯目。

 え、でも飲んでるじゃんて?

 いやいや、最初の一杯は途中であーすが間違えて飲んじゃったから、その代わりにあーすが強制的にもう一杯注文おかわりしただけだから。

 なのでぶっちゃけ俺は素面と言っても過言ではない。

 バーで2時間近くいてこんな飲まない客いたら塩でも撒かれそうな気がするけど、この状況ということで勘弁してもらいたいね。


「今の流れでしょー? んー、何かゲームとか?」


 で、あーすに続き分かった、決まってる、の流れを予想しようとする太田さんだが、彼女も何気に割と飲んでる。

 特に段々注文がウイスキーロックとかそんなんになってきてるし、頬も少し赤みを帯びてきてるし……大丈夫なんだろうか?

 そんなお酒弱いイメージはないけど、この前のゆきむらアゲインとか、あんなことがもし起きようなら……って怖さはあるよね。

 まぁそうなったら三十六計逃げるに如かず、後のことは風見さん店員さんにお任せするけどね!

 ってか、マスターいない時の風見さんが注文を記録してる気がしないのも、気になるったら気になるんだけどな!

  

「とりあえず、何思いついたのかは知らないけど……君らとどっか行ったりはしないからな?」


 で、なかなか言葉を続けない風見さんに俺は嫌そうな目でそう言ったわけだが、そもそも今だってすぐに帰りたいんだよ俺は。

 あーすがいなかったらこっから時間かかったとしても歩いて帰っていいレベルだからね!

 いや、あーすも男なんだから置いてってもいいんだけど……さすがに大阪から来てくれてる仲間だし、俺が頼まれて引き受けて新宿に連れてきた以上、あーすを一人残すのはやっぱり気が引ける。それにそんなことしたらさ、真実に何言われるか分かんないしさ。

 せめてお店変えるとか、そういう配慮を俺にしてくれたら助かるんだけど、予想以上に二人と意気投合というか、普通に会話してるから、それも期待は出来ないだろう。


 でもほんとなぁ……やっぱお兄ちゃんはこいつはおススメできないぞ……?


 なんて、そんなことを考えていると——


「さすがにあたしだって北条さんが警戒しまくりなのは分かってますってー。固いなーって思うけど、北条さんってそういう人なんでしょうし」


 と、ちょっとは分かってきたじゃないか、ってなことを言ってくれる風見さん。

 だとしたら、じゃあ何を言うんだろうって感じでもあったんだけど——


「LAで遊びましょうよっ! いや、勝負しましょっ」

「LAで」「勝負ー?」


 その言葉を俺に代わって反芻してくれたのは、ほろ酔いかガチ酔い状態のお二人さん。

 あ、ちなみに風見さんは一応マスターのことを恐れてはいるようで、全然お酒は飲んでません。

 カクテルの味見かなんかの時にかき混ぜたスプーンについた一滴二滴くらいの、ほんのちょびっとを口にしてるくらい。

 だからあれは飲んでるうちには入らんだろう。

 普通に一緒に飲みそうな感じだと思ってたから、ちょっと見直……すかどうかは別な話だけどさ!


「それ、どういうことだ?」


 で、話を本題に戻して俺は二人同様風見さんにその言葉の意味を聞いてみたのだが——


「簡単っすよ! お互い同じ編成で、キングサウルスタイムトライアルしましょうよっ」

 

 返ってきた言葉は……これだそうで。

 それはたしかにちょっと楽しそうというか、【The】の実力を知る上でこの上なく分かりやすいなって思うところでもあったけど……。


「いやいや、聞いてる感じじゃそっち相当なプレーヤー揃いじゃん? うちもみんなちゃんと仕様とか理解した上でやってるメンバー多いけど、スキルキャップ持ちは二人しかいないし、ガチられたら敵わないと思うぞ?」


 たぶんうちと【The】とじゃ火力攻撃力が違うのは、話を聞いてる中で想像出来た。

 まだ安定攻略情報がアップされる前にキングサウルスを撃破したってことは、その段階で既に火力が相当にあったんだと思うから。

 LAでの火力に関する1番の要因は武器だけど、それに付随してスキル値も当然影響する。

 スキルキャップで解放されるスキルもあるし、やはり火力におけるスキルキャップの影響は大きいと言わざるを得ないのだ。

 もちろん俺らもスキルキャップ持ちがジャックしかいない時にもキングサウルスは倒してるから、あれの攻略にあたってはマストではなく、そうだったらベストってだけなんだけど、やはり高ければ高い方がね、撃破までの時間は短いだろうね。

 うちのギルドだと最近はスキルキャップ持ちとしてロキロキも加わってるけど、ジャックは役割がサポーターだから火力そのものにはなり得ない。


 そういう意図でね、俺は風見さんにうちに勝ち目がないってことを伝えたんだけど。


「あ、そうなんすか? 北条さんと誰すか?」

「いや、俺もまだキャップはねーよ」

「えっ、そうなんすか!?」


 何を勘違いしたのか、この子は俺をスキルキャップと思ってたみたいじゃないですか。

 まぁ、最近のだいとの修行を続けてれば、そう遠くない頃にキャップには至ると思うけど、でもまだ俺がスキルキャップではないのは事実である。


「あれ、そうなの? 昔はすぐキャップまであげてなかった?」

「いや、あの頃とは入ってるギルドも違うし、スキル上げが義務化されてないからさ。キャップじゃなくても何とかなってきたし、まだあとちょっと上げないといけないんだよ」


 と、俺がキャップじゃないことに太田さんも少し不思議そうな顔を浮かべていたから、俺はそこに対しても状況の違いをちゃんと説明すると。


「それでもゼロやんかなっちゃんが、うちのギルドだといっぱいダメージ出す担当じゃないかなー?」


 優しさなのか何なのか、あーすによる俺(とだい)へのフォローが送られる。

 まぁ、それはそれで事実、ではあるけど、今は……ロキロキが1番ダメージソースなんじゃないかなぁ……まだそこまで一緒にやってないから、何ともってとこはあるけどさ。


「おっ、相変わらずガンナーのくせにダメージソースにはなってんのかー」


 でもそんな俺の思いとは裏腹に、あーすの言葉を聞いた太田さんが少し懐かしそうな顔をしてそんなことを口にすると——


「いやいや、あたしだってギルドのダメージソースっすよ!」


 ガンナー遠隔アタッカーディスに聞こえたのか、俺に代わって風見さんが頬を膨らましながら太田さんに反論。


「アーチャーでダメージソースったら、そらすげえな」


 でも正直アーチャーってガンナーよりも火力劣るってイメージしかなかったので、俺は素直にそう言い切る彼女に賞賛の言葉を送ってやった。

 まぁそれが古河さんみたいな大剣とかの近接アタッカーたちと比べて、誤差の範囲内のダメージソースっぷりだとしてもさ、そもそも仕様としてタメ張れる性能じゃないんだから、立派だと思うわけよ。

 俺だってあーすの言う通り【Teachers】のダメージソースになってる自負はあったけど、ミスを重ねると武器スキルレベルが下のゆめ斧使いにDPS簡単に抜かれちゃうから、いつも必死だし。

 ……え、だいとはどうなんだって?

 いやいや、あいつは近接。俺は遠隔。比較対象にはならんのよ。

 って、え? 今はまさにゆめと比べてたって話してたじゃんて?

 やだなぁ、もう。そんな話してないってー。


 ……うん、虚しくなってきたけど、まぁだいのロバーと俺のガンナーの比較は、大差ではないけど誤差でもないくらいの、違いなんじゃないかな……!

 だってしょうがないよね!? あいつ基本ミスんないんだもん! 攻撃避けたりとかもしてるくせに、アタックチャンスに貪欲すぎんだよほんと。

 はぁ、まぁ味方である分には頼もしいことこの上ないんだけどさ……。


「……あんま信じてなくないっすか?」


 で、俺が一人脳内で【Teachers】内比較とかをしていたら、俺の言い方に何か不服があったのか、じとっとした目で風見さんが俺にそう聞いてきた。

 それは今までの彼女とは違う、割と本気の不機嫌って感じで、彼女がそれだけアーチャーという役割に心血を注いできたってのが伝わってくるような、そんな表情だった。


 ……なんか、地雷だったのか……?


「いや、別にそんなことないけど……」


 ということで俺は改めて彼女の言葉を否定する気はないってことを伝えるが——


「そりゃたしかにうちのアタッカー陣はあたし以外あんま強くないっすよ? さっきぐみのことそこそこって言ったけど、まだスキル250くらいだし、もう一人のアタッカーも短剣スキル270くらいのロバーだし、何だったらサブ盾の〈Star〉格闘使いの方がDPS高いくらいっすけど……」


 なんか急にまくし立てるように話し出し、しかもちょっとネガティヴになっていく風見さん。

 いやでもその話って逆にさ、他に飛び抜けたアタッカーいないのにキングサウルスを削り切ったっていう、そういう考え方が出来るんじゃないだろうか?

 ……っていうかこの子LA初めて1年半っつってたよな……?

 その期間で、むしろそれだけ自信持って強いって言える方がどうかしてるんじゃないか?


「……ちなみにさ、風見さんは他の武器何か鍛えてんの?」

「何言ってんすかー。弓だけキャップの他は1未経験に決まってるじゃないっすかっ」


 ……だろうな!

 何という全振り。

 弓まっしぐらって感じだったのね。


 ……ふむ。


「あっ、じゃあ北条さんあれっす! あたしとタイマンしましょっ!」

「って、へっ!? タイマン!?」


 おいおい急に物騒だな!

 何々!? 決闘罪は罪に問われるぞ!?


 なんて、またしても脈絡なく言われた言葉に俺が思わずテンパるも——


「いや、どうせLAでのDPS勝負ってことでしょ?」

「あっ、さすがカナさん! ご名答っ」


 俺に代わって呆れ顔の太田さんがそう風見さんに聞き返し、その内容を聞いて笑う風見八重歯さん。

 あ、なるほど。そういうことか。


「北条さんもガンナーとしてのプライドがありそうじゃないですかー? しかも弓の強さ舐めてそうだし、ここで目に物見せてあげますよっ」

「おー、でもゼロやんすっごい強いよっ」


 で、ちょっと俺に挑発めいた視線を送る風見さんに、なぜか俺の代わりに胸を張るあーす。


 ……ふむ。


 一ゲーマーとして、その勝負は興味ある。

 それだけじゃなく、【The】全体の強さも気になるし。ほら、この前ルチアーノさんたちと一緒にやってみて、そういう攻略もあったのかってのが分かったじゃん? だから今回も、って思いがあるんだけど……でも、なぁ……。

 二つ返事で答えられない理由も、色々ある。


「どうするのガンナーさん? アーチャーからの挑戦状だってさ」


 風見さんの提案に、なかなか返事を返さない俺を見てか、太田さんがニヤニヤしながらそんなことを言ってくるけど……。


 その提案に、俺は——


 




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以下作者の声です。

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 最近まとまった時間が取れず、もっぱらスマホ執筆につきパソコンで書いてないので、LAプレイヤーズまとめはもうしばしお待ちください……!


 ちなみにDPSはDamage Per Secondの略で、「単位時間当たりの火力」、簡単に言うとアタッカーとしての強さを数値化したもの、ってご理解ください。


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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!

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