第331話 脈絡のなさの定評がすごい
「あれ? リンどったの? 変な顔してるけど」
「え、あ…いや」
「どうしたのー?」
「うわっ、上村さんあざとっ。そこで顔覗き込むのあざとっ」
「なにがー?」
「でも綺麗な顔してるからこそ、ちょっと許されちゃう気もするけどね……!」
「えっ、カナさんそこアリなんすか!?」
「え、だってリンだってほら、可愛い顔してるし……」
「あっ、そういう顔がタイプだったんすかっ」
「えっ、あっ! ち、ちがうよっ!?」
……はぁ。
何かもう何から聞くべきか、話せば話すほどに聞きたいことが増えていく状況の中で、俺は普通に考え事をしてたはず、なんだけど。
そんな俺に太田さんは変な顔をしてると言ってくるし、あーすはあーすで俺の顔を覗き込み、そのあーすの行動に風見さんがなぜかテンションを上げる謎展開。
で、そこから右から左へとノールックで聞き流したくなるような話が聞こえたような聞こえなかったような、とりあえずスルー確定の話が聞こえてきたのでそれをスルー。
でも太田さん昔俺の顔タイプって言うてたやん。まぁ今はもう違うのかもしれないけど、ってまぁいいやこの話は。
そんな、とりあえずこのまま黙ってると話が余計変な方向にいきそうで、風見さんに向き直って俺の顔を覗き込むのをやめたあーすがまた俺の方チラチラ気にし出してきて鬱陶しいから、うん、とりあえず、とりあえず話題を変えようそうしよう。
「〈Cider〉さんてどんな人なんだ?」
って、聞いてみておいて実はその人のことは既にいくつか知っている。
かつてのロキロキの同僚で、たしか本名は佐竹弥生さん。
で、俺が以前勤務してた都立練馬商業の現女子ソフトボール部顧問で、俺らと同じ01サーバーのLAプレーヤー。
会ったことはないのに既にオンのこともオフのことも知ってるって変な話だけど、ロキロキが色々と教えてくれた人なんだよね。
ちなみにそんな分かってることが多々ありながらも彼女について聞いてみたのは、同業だし、俺と縁のある勤務先と部活だしってこともあったけど……何より一番は、さっきの風見さんの話の中で、彼女が相当な実力を備えているであろう【The】において不動の盾って呼ばれてることが気になったから。
だって昨夜のロキロキの話では、その人
ということで、そんな情報を整理するためにも俺は〈Cider〉さんについてどんな人なのか聞いてみたのである。
ちなみに別な予想として、この前だいが水上さんちに入ってく黒髪の女性を見たって言ってたのも気になってる。
「あれ? 北条さんと同じ遠隔アタッカーのあたしじゃなく、さっちゃんの話が聞きたいんすか?」
「んー、だってその人先生なんでしょ? リンも先生なんだし、そこは気になるでしょって」
「あっ、そっか」
「ってかさ、ギルドメンバーだからって勝手に人の仕事とか勤務先話しちゃダメだぞ? これからあたしも入るんだからさっ」
「いやー、北条さん同じ仕事してる人だしいいかなって思っちゃったんすよねー。気をつけまーすっ。で、〈Cider〉ことさっちゃんは今あたしらがやってる攻略サイトの母体になったブログやってた人で、あたしが色々とLAで参考にさせてもらった人なんすよっ」
……ほう。
風見さんが参考にした、ってことは……。
「その人が元々はアーチャーだったってことか?」
「えっ、何で分かったんすか!?」
「いや、まぁちょっとな。そもそもうちのギルドにその人のリアフレがいてね、名前は聞いたことがあったんだ」
「え、マジすか!?」
「え、それ僕知らないよー?」
「俺だって昨日ロキロキから聞いたばっかの話だって」
色々と頭の中で繋がった気がしたので、ちょっとした確信と共に俺が風見さんに〈Cider〉さんについての予想を投げかけると、風見さんは想像以上の驚きを見せていた。
特徴的な八重歯丸見えの、口を開けてびっくりって感じ。
「うっわー……なんかうちのギルドメンバー、半分以上リアルで知ってるとか、ちょっと怖いんすけど……」
「いや、俺の方が恐ろしいわ! どんな世間の狭さだよってレベルだろマジで」
で、唖然とした風見さんが俺からすれば濡れ衣でしかないことに恐怖を抱いてくるもんだから、俺は堪らずツッコミをいれるわけだが……。
これに
なんかここまで来るとさ、さっき話に出てきた〈Star〉って奴を知らなかった方が変な感じだわ、もう。
「ゼロやんはほら、奇跡を起こす人だからねっ」
「え、リンそんな宗教家みたいなことやってんの?」
「ええい、鵜呑みにするな鵜呑みにっ」
「なるほど、つまりあの日あたしたちが出会ったのも必然、と」
「お前も変なこと言い出すな!」
ってね、俺が改めて脳内で【The】のメンバーを整理してる間に発生したのは見事なまでのあーすの笑顔。
その笑顔が冗談抜きにやたら爽やかだったからか、その発言内容に太田さんが一瞬マジで信じた顔をしたので、俺は慌てて事実無根を主張する。
なのに風見さんも悪ノリして……これあれじゃん! 【Teachers】のオフ会と変わらんやん!
ええい!!
「それで、話戻すけどあれか? 風見さん仲良さそうだし、〈Cider〉さんとはリアフレなのか?」
ここは必殺パワープレイ!
あらゆる流れをぶった斬り、話の流れを元に戻す、職業柄の必須スキル発動である!
「えっ、何で分かるんすか……って、あっ、もしやクズんち入ってくの見たことあります?」
そしてこの作戦は功を奏し、俺は予想の答えを手に入れることに成功したわけだけど、つまりあれか、我が家の隣の部屋は、【The】幹部たちのオフの拠点、って感じなんだろうか。
でも来るのは女性ばっか……か。
……あれ? なんか、既視感あるような……!?
って、とりあえずこの感覚は無視無視!
「いや、俺が見たわけじゃないけど、風見さんじゃない女性が入ってくの見たって話は聞いたことあったからな」
「あっ、となると菜月かー。うーん、せっかく盛り上がってるのにその名前出されると萎えるなー……」
「いや……人の彼女に失礼な奴だなほんと」
「こればっかはそう簡単に割り切れないですってー」
「だからって前も言っただろうが、足を引っ張るよりも努力した自分を認める方がいいって」
「それはー……まぁ、はい。ごめんなさい」
「むむっ? 何の話ー?」
「内緒っす! これはあたしと北条さんの秘密の関係のとこなんでっ」
「ええい、紛らわしいことを言うなっ!」
で、〈Cider〉さんを見たのがだいってのが風見さんに伝わると、彼女は露骨に不機嫌さ全開って感じで唇を尖らせたわけだが、それに対し俺が注意し、この前同様どうあるべきを伝えると……予想外にも今日は素直に「ごめんなさい」が返ってきた。
正直この子、謝れない子かと思うところもあったけど、なんだ意外とそうでもないんだな。
ちょっとだけしゅんとした感じなったのも、それはそれでちょっと可愛かったな……って、いかん。脱線すんな俺。
しかもホントにほんの一瞬だったしな!
「えっと、つまりその〈Cider〉って人のブログを攻略サイトに移行させて、リリはその人からアーチャーの装備とかスキル教わって、今はギルドの盾役やってもらってる、ってこと?」
おお!
若者二人がほんとずっと脱線祭りみたいにしてくる中、なんと太田さんの頼もしいことか!
風見さんの「秘密の関係」発言に苦笑いを浮かべた太田さんが、〈Cider〉さんと風見さんの関係をまとめてくれたではありませんか!
そんな太田さんの発言に、聞かれた本人は。
「
聞いてきたのが太田さんだったからかボケることなく風見さんも答え、なんだったらあーすにも知ってるかどうかを聞いたりしてたけど。
「え? あ、僕は装備も攻略も全部自分で考えたり、回りについてくだけだからね!」
まぁこいつはそうだろうね。
あはは、と笑いながら答えるあーすの答えは、正直俺の予想通り。
風見さんもそれに対して特に何か思ったのもなさそうだから、まぁ軽く聞いたみた、ってとこなんだろうな。
「ま、今じゃあたしの方がアーチャーとしては上だと思いますけどね! でも去年の暮れにクズとさっちゃんとオフ会で会ったとこが、うちのギルドの始まりだったって感じっすかねー」
「けっこう重要人物なんだな」
「そっすねー。あたしの1個下っすけど、学校の先生やってるだけあってしっかりしてるし、あっ、それにあれなんすよ!
「あっ、そうなんだっ。あたしもその話でリリと盛り上がったことあったけど、ソフトの競技人口そんな多い気しないのに、やってたことある人と会えるって珍しいね」
「あっ、そういえばカナさんも昔やってたって言ってましたねっ」
ふむふむ。
まさか〈Cider〉さんがそんな重要人物だったとは思ってなかったけど、部活のくだりは知ってた話だから驚くことはなし。
でもまさか同じ業界の人がそこまでガッツリLAやってたってのは意外だったので、ちょっとどんな人なのか気になり出し、今度ロキロキに間に入ってもらって練習試合でもしてもらおうかな、なんて俺が思ってると。
「あれ? ゼロやんもなっちゃんとやってるの、ソフトボールじゃなかったっけ?」
そう言えば、って感じであーすが俺にそう聞いてくる。
それについては言わずもがな。
週明けには合同練習とかも再開予定だし、当たり前なのだよって感じで俺があーすに答えようと思ったら——
「えっ、それどういう意味っすか!? 北条さんもソフト!?」
「え、ああ。そうだよ。俺は大学からのスタートだけど、今も顧問って形で女子ソフト部の顧問やってソフトやってるんだよ。で、だいも別の学校の女子ソフトの顧問やってんだけど、あっちもこっちも9人届かないから、だいの学校と合同チーム組んでんのさ」
「えっ!? そんなことあるんすか!? うわー……あの菜月が、顧問かー……」
「顧問同士が付き合ってるとかあたしだったらやだわー。部員やりづらそー」
なぜかあーすの言葉に素早い反応を見せたのは風見さん。
そんな彼女に俺は淡々と事実のみを伝えたわけだが、その内容に風見さんはやや絶句で、太田さんは……言葉通りちょっと引いてるよね。
いや、まぁ俺だってもし自分が部員だったら……って思うと何とも言えない部分もあるけど、こればっかは、ねぇ?
しょうがないじゃん?
「じゃあ今度一緒に
って、何が「じゃあ」なの何が!
「あっ、いいねっ! 久々に行きたいっ」
「えー、いいなっ! 今度とか言えてっ」
「いや、俺はいれなくていいからっ! 二人で行って来いってっ」
「いやいやみんなで行った方がそういうのって楽しいじゃないですかっ」
「あっ、じゃあリンの彼女と、リリのお友達も呼んで5人は?」
「あっ、それいいっすねっ」
「いや何もよくないよくない!」
それ何の罰ゲームってメンツだよ!
そりゃ〈Cider〉さんこと練商で働いてる佐竹先生の話は聞いてみたいけど、それに合わせてこの二人もいるってなるんだったら、そんなん絶対行きたくないもんね!
「でも久々にリンとバッティング勝負したかったなー」
「いや、急にやったら怪我すんぞって……」
「えっ、心配してくれんのっ?」
「普通普通! 普段運動してないと気づけなくなるけど、俺らもうあの頃みたいに若くないんだからな?」
「うわ、その言い方はうざー」
「はいはい、何とでも言ってくださいよ」
で、風見さんたちの提案を断った俺に太田さんがちょっと色々思い出しながら話してくるから、俺はそれに冷やかしをいれながら対応する。
でも実際怪我が怖いのは間違ってないし、あの頃よりも治りにくく重症化しやすいからね?
「わかったっす!」
そんな会話をしてた俺に、いきなり大声をかます風見さん。
その表情はご自慢の八重歯を見せつつ、とても楽しそうに笑ってるんだけど。
「何が分かったのー?」
「決まってるじゃないすか!」
そんな風見さんに首を傾げて質問するあーすを、答えになってない答えで一蹴した彼女の視線は、まっすぐ俺。
うん、これあれだな。
さっきの「じゃあ」然り、とりあえず明確なことは何も言えないけど、胸に浮かぶ思いは一つ。
そう、君が楽しそうであればあるだけ、俺は何だか嫌な予感がするってことだよね!!
☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
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混乱された方多かったみたいで……そのうち簡易版に、LAプレイヤーズを分類します!
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!
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