第330話 ポケットに突っ込んでたイヤホンレベルの絡まり方

「え、そんな驚くギルドなの?」

「僕はそのギルド聞いたことないけどー?」


 唖然とする俺、ドヤ顔の風見さん、よく分かってなさそうな二人。

 それぞれが多様な表情を浮かべる中、俺はまだこの話を飲み込み切れずにいた。

 いや、こんな自由人なのに攻略サイト運営してるって意外さは、ギリ認める。そのサイトは真実もお世話になったって話だし。

 事実なのだとすれば、妹に代わってお礼も言う。

 

 でもまさか、今そのギルドの名前を聞くなんて夢にも思ってなかったのもまた事実。

 だってあれだぞ、本日2回目だぞ? そのギルドに入ってるって人の話聞いたの。

 いやマジで太田さんが〈Kanachan〉だったとこも含めて今日の確率どうなってんの?

 俺を中心になんか確率バグってる?

 あ、もしかして今宝くじ買ったら当たる?

 ……って、こんな時間じゃ売ってねぇか。


 そんな風にもう色々理解できても心が追いつかなくて、俺はしばらく風見さんの方を呆然と見ていたのだが……。


「そこのギルド、ゼロやん知り合いいるのー?」

「あたしがやってた頃にはなかったギルドだよね?」

「あ、そっすよっ。結成は今年の年明けちょっとくらいっすかねっ。元々サイトの母体はメンバーのブログだったんすけど、今はうちのサブサブリーダーがサイト運営に切り替えたんすよー。で、そこに情報提供元も載せてるから、そこそこ知名度は上がってるかなって思ってたっすけど、北条さんもうちのギルド知ってたんすねっ」


 【The】を知らない二人は俺が何も言わないからか、また色々聞いてきたりしてたけど、俺はまだフリーズ状態なのでそれをスルー。

 すると太田さんの質問に風見さんが答え、その流れのままに彼女が俺を見る。

 その視線を受けながら、固まったままだった頭を動かし出すけど……。


 ……今こいつ、うちのギルドっつったよな。

 ってことは、本当にそうってことじゃんな!


「……マジでリーダーなの?」

「こんな嘘ついて何になるって言うんすか?」

「え、あ、いや……」

「去年の暮れに現サブのクズと知り合って、サーバーが01だっつーからあたしが移転して、結成したって感じっす。ゲーム自体はほら、ちょっと前に深夜アニメやってたじゃないっすか? そっから楽しそうだなーって思って始めた遅咲きなんで、プレイ歴は行員辞めてからの1年半くらいっすけどね!」


 風見さんの視線を受け数秒、ようやく硬直が解けたので、俺はおずおずと彼女の言葉の真偽を確かめにいったわけだけど、返ってきた言葉は聞いたこと以上のボリュームで、さらさらと語る雰囲気からも、どうやら彼女が嘘を言ってるようには聞こえなかった。


 ってか、サブリーダーのことをさらっとクズって言ってるけど……それ、つまり……前に聞いた話も含めて考えれば、水上さんお隣さんがギルドのサブリーダーってこと、だよな?

 いやほんとどんな世間の狭さだよ……。

 でもそうか、とりあえずそういう繋がりで風見さんはうちのアパート来てるのか。

 しかしあのお隣さんが、攻略サイト……か。人は見かけによらねぇなー……。

 失礼だけど、人にアドバイスするとか、そういうの無縁そうなのに。

 

 とまぁ、それ以外にも【The】については色々と聞いたことがあったし、それはあまりいい話ではない内容もあったけど……色々と聞きたいことの中から俺がまず聞いてみることにしたのは——


「なんかそのギルドさ、キングサウルス討伐、うちのサーバーで3番目の早さだったって話聞いたんだけど……」

「えっ、そうなのっ?」


 それはかつてもこさんから聞いた、キングサウルス実装中最強モンスターを、うちのサーバーの大手ギルドたちに次ぐ早さで撃破に成功したという話。

 俺の言葉に太田さんはなんのこっちゃみたいな様子だけど、その意味が分かったであろうあーすは多少はびっくりした模様。

 でもさ、正直彼女がリーダーって思うと信憑性どころかデマなんじゃないか、そうも思ったりしたんだけど——


「3番目なんてそんなそんなー」


 あ、なんだやっぱりデマだったか。

 ならうん、リーダーってのも分かるかな!


 笑って答えた風見さんの言葉に俺はちょっとだけホッとした気持ちになった、と思ったら。


「うちが1番早いんじゃないすかねー?」

「……え?」

「【Vinchitore】が倒したのって、実装から20日後くらいでしたよね? LACで撃破速報出したのそんくらいだった気がしますし。でも嘘じゃなく、うちら2週間くらいで倒しましたよ?」

「は?」


 ごめん、ちょっと何言ってんのかわかんない。

 俺の気持ちはそんな感じ。


「えっと、【Vinchitore】ってあれだよね? 最大手の廃ギルド、だよね?」

「う、うん。それは今も昔も変わってない」

「え、ってことはさ、リリのとこ相当すごいんじゃないの?」

「僕らはどんくらいかかったんだっけー?」

「一ヶ月ちょっと、だな……。あの日あーすはいなかったけど」

「あっ、そうじゃん! でも、そうなるとあれだよね? ゼロやんがギミック見つける前ってことだよね? その頃に、最速撃破したってこと?」

「そういうことになるんじゃないっすかねー」


 ほんと、俄には信じられない話、である。

 さすがにあーすや引退した太田さんでも知ってる廃ギルドが引き合いに出されたからか、二人もびっくりしてるみたいだし。

 でも、そんな二人の反応を淡々と受け止める風見さんの表情は、なぜか不思議とリアリティがあった。


「撃破した日のスクショ、もしかしたらメンバーの誰か持ってるかもしんないっすけど、うちらあれなんすよ。ただのブログじゃなくて、正式な攻略サイトやってるってプライドあるんで、ちゃんと攻略内容を分析してからサイトに情報アップしようとしたんすよ。でも動画の分析とか全部あたしとあのクズだけでやってるし、再検証のためまた戦ってとかしてたら、向こうが撃破速報出しちゃったんすよね」


 で、さらに淡々と語る風見さんは、後半ちょっと悔しそうな雰囲気も出したりしてたが、早く倒したけどそれが広まってなかった経緯を俺たちに教えてくれた。

 もちろんその証拠は今この場にはないので、真偽を確かめる術はないが、そもそも今ここで彼女が嘘をつくメリットがない。

 だから……やはりこれは、本当の話、なんだろう。


「……初撃破の編成は?」


 でもまだ心のどこかで、信じられない気持ちが、いや、【Vinchitore】が後塵を拝したということを信じたくない気持ちが、どこかにあった。

 だから、より具体的な話を求めて、俺は追質問をしたわけだ。

 かつてならそんなこと思わなかったかもしれないけど、今やそのリーダーたるルチアーノさんも知り合いだし、その実力を真横で見たこともあるのだから。

 ……まぁ、もう前みたいには話したり出来ないかもしれないけど、ね。


「あ、うちらは北条さんとこみたいに6人撃破とかえぐい挑戦じゃなかったっすからね? 基本に忠実に、盾1枚にアタッカー4のウィザード、サポーター各1で合計7人っすよー。そもそもうちら、それがギルドのフルメンバーですし」


 だが、その答えはかえって俺の心をくじく内容を帯びていて——


「7?」

「あっ、けっこう少ないんですねっ」

「じゃあ、あたしが復帰して入ったら8人目?」

「おおっ、カナさん前向きなのナイスっ」


 むしろ聞かなきゃよかったかな、って答えがそこにはあったのだった。

 

 いや、でもほんと……マジかよ……!

 だってさ、今でこそギミック判明に伴い少人数編成もある程度可能になったけど、初期情報で【Vinchitore】が推奨した基本編成は盾1枚に刀か格闘硬直役1枚、近接アタッカー2か3のウィザード1か2で火力役合計4枚。で、あとはヒーラーとサポーター各1の合計8人だぞ?

 つまりルチアーノさんたちはその人数で初撃破をしたってことだと思う。

 それを【The】は初撃破から7人だって?

 ……俺らはたしかにそれより少ない6人でやったけど、それもLACの攻略情報がある程度あったからの話である。

 ……この話が嘘じゃないとしたら……相当なプレイヤーの集まりだぞ【The】ってのは。

 特にヒーラーいれてないとかさ、ジャック級のサポーターがいる、ってことだよな、それ。

 しかもその中の一人が古河さん教員で、さらにもう一人同業者教員もいるんだろ?

 いやいや、うちも大概だとは思ってたけど、どうなってんのさ?


「うちのギルドもみんな上手いなーって思ってたけど、リリさんのとこもみんな上手いんだねっ」

「そっすねー。あたしもそれなりに自信ありますけど、あのクズが大概っすねマジで。あとはうちの盾とグラップラーがしっかりしてるのもあって、崩れないのが強みかなー」

「あ、あのさ」

「はい?」

「君がギルドリーダーってのは、うん。分かった」

「あっ、ようやく信じてくれたっすかー?」

「ってことはさ」

「なんすか?」

「つまり……風見さんが〈Hideyoshi〉で、水上さんが〈Messiah〉ってこと?」

「あれ? あたしの名前いつのまに……ってか、水上って誰っすか?」

「えっ、家まで行ってるくせに君も本名知らないの!?」

「あっ。あのクズ水上って言うんだ! 初めて知ったっす!」


 そんな名前だったのかー、ってその名前を口の中で転がしながら覚えようとする風見さんだが、そんな彼女に俺は呆然と空笑い。

 リアルで何回も会ってるのに名前を知らないとかどんだけだよって思うけど、そういや水上さんも風見さんの本名知らなかったんだよな。

 ほんとにLAだけを通じた関係なんだなってのがそこから推測することができたけど、そうか。彼女が噂の〈Hideyoshi〉で、水上さんが〈Messiah〉、か。

 あの〈Cecil〉のコラムで俺に悪意あるメッセージが来た時、これでもかとバッシングしてきたのがまさか隣人だったとは……驚くべきことなのに、なんかもうこの程度じゃ他人事気分なのは、俺のメンタルの成長か?

 

「じゃあ、たぶん【The】に〈Gumi〉ってのがいると思うんだけど」


 だから、今ならこれも案外さらっと聞けるなって判断で俺は風見さんに日付的にはすでに昨日だが、聞きたてほやほやと言っても過言ではない古河さんからの情報を確認してみると。


「えっ、メンバーも知ってんすか!? うちらは参考動画の時メンバーの名前消してるから分かんないと思ってたのに。よく分かったっすね!」

「あー、いや、そいつからは自己申告で聞いた」


 で、風見さんにちょっと勘違いされたけど、【The】の動画なんて上がってることすら知らなかったから、俺はどういう経緯でメンバーと知り合ったかを簡単に説明。


「えっ? 何繋がりっすか?」


 すると風見さんがやたらと不思議そうな顔をしたけど、そんな変なキャラなんだろうか、〈Gumi〉古河さんは……。


「仕事の繋がり、かな」


 でも、そんな疑問はあえてスルーして、俺は端的にその繋がりを説明したけど、大和かロキロキがいたらさ、これも説明しやすかったね!


「あっ、そういうやさっちゃんとたまに仕事の話してる気がするし……そう言われると、ぐみもさっちゃんと同じ仕事してるって言われても違和感ないっすねっ」

「……はい?」


 だが俺の答えに返ってきたのは、ちょっと意味の分からない言葉で。

 というかうん、さっちゃんって誰やねん。


「さっちゃんー? でも、それつまり、さっちゃんって人がゼロやんと同じ仕事してるってことだろうから、さっちゃんって人も先生なのー?」


 と、どうやら俺と同じことを思ったあーすが、見事に俺に代わって質問してくれたけど……それにプラスして加わったあーすの言葉に、あ、たしかに……とちょっとびっくり。

 で、この流れを受け太田さんは太田さんで。


「なんか今日はどんどん知らない名前出てくるけど、どうせ入るギルドだしリリ全部説明よろしく!」


 ってな感じでもう確定事項っぽい復帰に向け準備を始めようって感じを出すけど——


「今上村さんが言った通りっす! さっちゃんこと〈Cider〉は練馬区で高校の先生やってるうちのギルドメンバーで、うちの不動の盾っす! あと出てきた名前だと、〈Gumi〉ぐみがギルドの大剣使いで実力はそこそこ。クズことサブリーダーの〈Messiah〉はメインがサポーターっす。ホント人として終わってるっすけど、プレイヤースキルはうちらの中で断トツっすね。あとめっちゃ上手いグラップラーの〈Starスター〉ってのもいるっすよ! ちなみにあたしはアーチャーメインでやってまーす」

「うん、聞いといてあれだけど、やっぱインしてから覚えるわっ」


 流れるように語られたその名前たちに、太田さんはさっそくいい笑顔覚えるのを諦めたみたいです。

 ……いや、っていうか、さ。


 あれ? 〈Cider〉って……あれ?

 それ、ロキロキから聞いた名前、だよね……?


「あっ、あーちゃんもアーチャーやることあるよっ」

「あっ、そうなんすか? じゃあ上村さんあたしと仲間っすねー」


 なんて、そんな会話も聞こえるが……。


 なんかもう何から聞けばいいか分かんねぇな!!







☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 ゲーム情報回になりました!

 せっかくのメンバーなのに……でもまだ夜は長い、ですからね……!


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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!






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