第12章

第322話 帰りの電車って少し寂しい

「じゃあまたね~」

「お先に失礼します」

「またなー」

「おつかれっしたー」

「うん、みんな気を付けて帰ってね」

「ほんと楽しかったよっ! ありがとねっ!」

「皆さんに会えて嬉しかったっす!」

「またこっちに来たら遊んでくださいねっ。今後とも兄をよろしくお願いしますっ」

「ん。じゃ、またLAでな」


 夢の国で最後まではしゃぎ切り、急ぎめにお土産を買い、舞浜駅からみんなで東京駅に戻って来たのは、だいたい22時半過ぎ。

 俺やだいはここから中央線で中野まで行って、そこから総武線に乗り換えるけど、わざわざ新宿まで行かなくてもいいメンバーもいるからね、ここから横浜に向かうゆめと、大宮に向かうゆきむら、新板橋に向かう大和とぴょんとはお別れなのである。

 まぁぴょんは本当は一緒に新宿に出るのが自分ちルートだけど、明日も祝日だからだろう。今日は大和んちにお泊りらしい。いやぁ、熱いね!

 ちなみにバイバイの場所はゆきむらが乗る京浜東北線のホームにて。

 本人は大丈夫ですよって言ってたけど、ここは過保護なだいが送ると言って聞かなかったのでみんなで送ったって感じである。

 ゆきむらはね、最後までちょっと考えごとしてる感じが強くて、少し気になるところはあったけど、俺から何か言うべきことはないからな。

 これも勉強だということで、俺はそっとしておくのみだった。


 で、他の帰るメンバーもそれぞれの帰路についていき、俺は新宿経由組の最年長メンバーとして残る4人を引率して中央線に向かうわけだが……。


「あーすさんお兄ちゃんのことよろしくお願いしますねっ」

「おっけー、任せといてっ」


 ってな具合に話す二人と。


「だいさんはどこ住んでるんすか?」

「私は阿佐ヶ谷だよ。ゼロやんが高円寺で、歩いて15分くらいの距離なの」

「え、マジすかっ? ……たまたま?」

「うん。初めて知った時は、びっくりしちゃった」


 って感じに話す二人がそれぞれ並んでるので、俺は一人先頭をウォーキング。

 べ、別に寂しくなんかないからね!

 ほら、みんな年下だしさ、ここは俺がしっかりしないといけないし?


 ちなみに帰りの電車なんかでは、ゆめが俺に亜衣菜の様子をこっそり教えてくれたけど、一言で言えば「かなり食らってたね~」って感じだったとのこと。

 やっぱりガンナーだから装甲は紙……ってのは冗談だけど、それを聞いた時は、やっぱりさすがに少し心が痛んだ。

 でも、回復魔法を使ってあげられない。

 ここはなんとか自力で立ち上がってくれることを願うばかりだから。


 でもあいつはほら、見た目はかなりいいからな。

 その気になればいい人なんて簡単に見つかるとは思う。大学時代だってすごいモテてたのは知ってるし。

 きっとなんとかなるだろう。


 そんなことを思いながら、辿り着いた中央線のホームから東京駅発の電車に乗り込み、あーす、真実、俺、だい、ロキロキという順番に着席。

 で、乗り込んでから少しの間は、乗車前同様俺の両サイドでそれぞれ会話があったのだが……。


「ん?」


 電車が動き始めた頃になると、気づけば聞こえていた会話の声がなくなり……同時に両肩に感じた、軽やかな重み。

 いや軽やかな重みって何か変だな。でも何だろう、うん、そんな感じなんだよ。

 でもまさか、両方からとはね。


「みんなおつかれだねー」

「あ、あーすは起きてたか」

「まーね。でも何だかんだいっちゃんはお兄ちゃん子だねー……いや、これはなっちゃんの真似をした、お姉ちゃん子ってパターンかな?」


 そして俺が左右から寄りかかってきただいと真実をそれぞれちらちらと確認すると、ドミノ倒しの如くだいに対してロキロキももたれかかっていたのだが、その反対はそうではなかったようで。

 俺が起きてるのに気付いたあーすが、楽しそうに笑いながら小さな声で話しかけてきた。そんなあーすへ俺もなるべく身体を動かなさいように、そーっと顔だけ向けてみる。

 そういや宇都宮オフの時も寝る時はスパッと寝てたけど、普通に行動してる時のあーすは、あんま疲れてる様子見せたことないよな。

 ……思ったより体力あんのかなぁ、細っこい身体してるくせに。


「昨日今日と真実の面倒たくさん見てくれてありがとな。だいぶあーすに懐いたみたいだし」

「懐くって、ペットじゃないんだからさー? それにもう面倒見なきゃいけないような年じゃないでしょー? もういっちゃんは立派なレディさんだよー?」

「あー……悪い悪い。でもやっぱさ、俺が上京した時こいつまだ中学生だったからさ、まだまだ子どもってイメージが今でもあるんだよなー。帰省して会っても甘えてくることばっかだしさ」

「でもそうやって甘やかしすぎると、離れてった時寂しいんじゃない?」

「え、あー……どうだろな? でもこいつが選ぶ道の邪魔はしないさ。そこは俺だって分かってる、つもりだし」

「あはは、でもいっちゃんは何だかんだ見守ってて欲しそうだけどねー」

「……そうかー?」


 とりあえず眠る様子を見せないあーすに俺は昨日今日のお礼を告げ、もし真実があーすのこといいなって思ってたら……なんてことも少しだけ想像しつつ、寝ている3人を起さないように話をしてみたけど、残念ながらあーすから真実に対する感情は引き出せず。

 返って来た答えは何というかやっぱり普通にいい奴って感じの返事。

でもいい奴なんだけど……こいつは腹の底がいまいち分かんないんだよなー。

 悪意ってものは欠片も待ち合わせてないんじゃないかって、そんな風には思うけど。

 サシで話してるとよく分からんものを感じる時があるんだよな。


 と、俺が密かにあーすを分析していると――


「でも僕ら1回も同じ班なれなかったねー」

「え、なりたかったの?」

「そりゃせっかく東京来たんだし、全員と1回は同じ班なれたらいいなって思ってたよ?」

「あー、そうなるとまさか同じ奴3連続は予想外、だったか?」

「まぁね。でもいっちゃんがいい子だったから僕も楽しかったけど、ゼロやんとせんかんとは同じ班なれなかったからねー。2回目のロキロキ羨ましかったなぁ」


 いや2回目とか華もなんもなかった班やん。

 ……いや、ちょいちょいロキロキが可愛いとこはあったけど……って、あ、何でもないよ。


 ……ううむ、しかしあーすが言うと、意図が……意図が難しい。

 意味深な気しかしないし……!

 うん、こういう時は……当たり障りなく……!


「まー、勝負は時の運だろ」


 って、かわしたつもりだったのに。


「あはは、だねぇ。……運もタイミングも、人生にはおっきいよねぇ」

「タイミング?」


 なんだか何か言いたげな表情を浮かべるあーすに、俺は運はまだしもタイミングという言葉の意味を計り切れず。

 なので素直に聞き返してしまったのだが。


「うん。だってほら、あの日もし僕が言った嘘をなっちゃんが聞いてなかったら、歴史は違ったかもよ?」

「え?」

「歴史って言い方は大袈裟だけど、ほら、聞いてなかったらなっちゃんはショック受けることもなく性格も変わらなかったかもしれないじゃん? そしたら今は全然違う未来になってたかも。バタフライ効果っていうんだっけ、こういうの?」

「え、あぁ。たしかそんなだった気がするけど……」

「でも結果的よかったのかもね、あの時なっちゃんが僕の嘘を聞いて色々あったから、今幸せそうになれてるみたいだし。あの頃とは全然違うけど、今のなっちゃんの笑顔も素敵だよねー」


 そう言ってあーすはにっこりと笑うんだけど……なんかこの話は、納得いかないところが多くて。


「だいがお前の話を聞いてようが聞いてまいが、こうなる運命だったって可能性もあるぞ?」


 俺がそう運命論的に反論すると。


「あ、ゼロやん運命はもう決まってる派なの? 僕はその場その場の行動で未来は変わるものだと思ってるけどなー」

「いや、そこはどっちでもいいけど……なんつーか、だいが傷ついてよかった、みたいな言い方はやめろよ。傷ついたけどだいがたくさん頑張ったから今があるんであってさ、傷ついたことそのものがいいことってわけじゃないだろ」

「あ、そっか。ゼロやんはそういう人だったね、ごめんねっ。うん、これは僕が悪かったよ」


 俺の反論にさらに反論してきたかと思えば、あっさりと謝ってくるあーすにちょっと拍子抜けしたりって気分でもあるんだけど……。


 なんだ?

 あれか? だいがあの日あーすの言葉聞いてなくて、あーすが遠距離になったとしてもだいの気持ち受け入れてたら、俺とだいは付き合ってないんだよ、的なことでも言いたいのか……?

 

 ……いや、そんな悪意にまみれたことを言う奴じゃないし、そもそもだいに対する矢印はほんとにもう微塵も感じないんだよな。


 ううむ、分からんこいつ……!


「あ、そろそろ中野だけど、ここで乗り換えるんだっけ?」

「あ、そうだな。ちょっと真実のこと起こしてやって。俺は二人起こすから」

「おっけー。いっちゃん降りるみたいだよー」


 正直よく分からんあーすに少し困惑しつつ、間もなく中野駅に着くということで、乗り換えのために俺はあーすに真実を頼み、俺はだいを起こし、だい越しにこのまま乗っていくであろうロキロキにも一応声をかけることに。


「だい、そろそろ乗り換えるぞ。ロキロキも、俺ら起きるからまた今度な」

「ん……ごめんね、寝ちゃった」

「ん~……眠いっす……」


 で、俺が肩をとんとんしたことでだいはなんとか起きたものの、ロキロキはまだ半分寝ぼけ交じりって感じだが。


「俺ら降りるから、ちゃんと気を付けて帰るんだぞ?」

「ロキロキまたね」

「また遊びましょうねっ」

「ばいばーい」


 だんだんと減速し、停車した電車はいつまでも待ってくれないので、寝ぼけたままのロキロキを置いて、あーすが起こした真実共々俺ら4人は立ち上がり、各々ロキロキに挨拶を。

 でも今朝と同じくらいに寝起き悪そうなロキロキは「ん~……」って返すばかりで俺らが降りることに気づいたかどうかすら怪しかった。

 大丈夫かよってちょっと思ったけど、まぁなんだかんだロキロキも子どもっぽいけど俺の1個下で、何だかんだこの5人なら上から2番目なんだからな。

 うん、きっと大丈夫だろう。


「ロキロキ大丈夫かしら?」

「まぁ八王子まであと40分くらいあるし、それだけありゃもうちょっと回復はすんじゃねーか?」


 降りたホームでだいが少し心配そうに電車を見送ってたけど、俺らが席を立ったところにはすぐに別な人たちが座ってたから、あの様子だと隣の人に迷惑かけるかもしれないけど、それはそれってことで。

 それにロキロキは会おうと思えばいつでも会える距離だしな。

 次のオフ会でもまた会えるだろう。


 ってことで俺は頭を切り替えて。


「じゃ、とりあえず俺んち戻って真実の荷物取ってから、真実のことだいんちまで送るか。だいは先に戻って準備とかするか?」

「あ、ううん。私もみんなと一緒に歩くよ」

「ん、おっけ。あ、あーすは俺んち着いたらそのまま待っててくれてもいいけど、どうする?」

「ん~、一人でゼロやんち探検も楽しそうだけど、やっぱ一人ぼっちは寂しいからね、僕もついてくよー」

「いや、探検しようとすんなおい」


 今後の方針はこれにて決定。

 昨日は最大12人もいたメンバーも、今ではもう4人。

 なんか祭りが終わってくみたいでちょっと寂しいようなそんな気もするけど、実際後夜祭的なあーすと二人の夜がまだ待ってるからな。

 少しでもあーすが何考えてんのか、探れればいいなぁ。


 そんなことを思いつつ、中野駅から総武線に乗り換えて一駅移動し、到着した高円寺で下車して、俺たちは何とも不思議なメンバーで、少し懐かしの我が街を歩き、一路我が家を目指すのだった。







☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 新章スタートでゲームしてないのはいつぶりでしょうか。

 さぁ前半戦はついにあーすがメインヒロインに……!?


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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!

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