第321話 これも俺たちの1ページ

「やべー、20時超えちゃったなー」

「誰かさんがアイスの前で立ち止まるから~、さっきも食べたじゃんね~」

「で、でもみんなだって買ったじゃないっ」

「ははっ、でもここでも男気見せるとは、倫は今日で男気増し増しなんじゃね?」

「う、うっせーなっ。とりあえず、まだ向こうからも連絡来てないけど急ぐぞっ」


 そんな、全員アラサーとしてはどうなの、みたいな会話をしつつ、俺たちは行儀悪くアイスを食べ歩きしながら、帰る人の方が明らか増えている夢の国の入場ゲート方面へと進んでいた。

 ちなみに舞浜駅の改札を出て左手の、モノレール乗り場なんかも併設されてる建物内で夕飯を取った俺たちの食事が終わったのが19時58分。

 ハッキリ言ってその段階でもう20時の再集合は間に合わないの確定だったんだけど、店を出て戻る途中に見つけてしまったジェラート屋に、思わずだいが足を止めてしまったのが運の尽き。

 ほんと、本人は「見てただけ」って主張してたけど、その表情は完全に「食べたい」って訴えてたように俺には見えた。

 そして今日は俺とだいが迷惑かけた部分もあるけど、だいにおつかれって気持ちもあったのだろう。

 合わせてぴょんとゆめも立ち止まり、何の合図もなしにぴょんがじゃんけんを仕掛けてきた結果、まぁみんなで食う流れになったわけである。

 そのじゃんけんの意図はもちろん言うまでもない。今大和が言った通り、俺が男気を見せる場面が増えただけだ。


 ということで、そんな寄り道があったから現在20時10分。

 幸いにもまだ真実たちからは連絡ないけど、もちろん向こうがただ待っていてくれている可能性もある。

 一応飯食ってる時に「集合遅れそう」とは伝えといたけど、真実からは「おっけー」って返ってきた以外の連絡はなし。

 まぁ、こっちのメンバーは年長者も多いし「まだ?」とは言いづらいだろうしな……。

 心の中では謝ります。


「でもなんか、大学生なった気分だね~」

「あー、そうな。飯食ってみんなでコンビニでアイス買って、近くの公園で家帰るの惜しんでくっちゃっべてたの思い出すわー」

「いいわね、そういう思いであるの……」

「あ、地雷踏んだ~」

「いーじゃねーかよ、だいは帰れば愛しのゼロやんと毎日会えてたんだから!」

「い、愛しって……っ」

「その頃当のお相手さんはだいのこと男と思ってたみたいだけどね~」

「しょ、しょーがねーだろっ」

「はははっ、でも俺ら大学時代に会ってたら、こんなラフな関係なれてねーだろうけどな。ゆめなんて俺とぴょんと倫が4年の時の1年だろ? いやぁ、1年の頃の4年とか、大人すぎて軽々しく話しかけらんなかったわー」

「あ~、そう言われるとそだね~」

「そうね、学校の先輩として出会ってたら、私も敬語使ってると思う」

「そう考えっと、オンライン上での出会いだからこそだなー」

「いや、ほんとだよ。あれだぞ、ゆきむらなんか俺と大和が社会出た時まだ高3だぞ?」

「あ、なんか犯罪臭がするよ~?」

「いや、しないから! LAで会った時はもう成人してんだろゆきむら!」


 とまぁ、遅れてはいるもののアイスを食べながらだからそこまで急ぎ足になることも出来ず、俺たちはある意味ちょっと年齢を感じさせる会話をしちゃったり。

 でもたしかにLAで出会ったからこその関係、ってのはほんとそうだと強く思う。

 真実は別として、あーすなんかは住んでるエリアも全然違うんだから、普通にしてたら知り合うこともなかったと思うし。

 だいと大和とロキロキは同じ職業だから、LAなしでも知り合ったかもしれないけど……っつーかだいと大和は知り合ったけど、ぴょんは校種が違うし、ゆめは所属の都道府県も違うから、きっと知り合うことはなかっただろう。ゆきむらは……高校採用なったら出会ってたかもしれないけどね。

 ほんと、色んな巡り合わせの星の下で、今があるんだなって思うよ。


「でもやっぱ、趣味の繋がりだから気楽なんだろね~」

「だなー。それプラス、同じ仕事選ぶ集まりだしなー」

「ちなみに隊長、次のオフ会はいつの予定にするでありますか~?」

「あー、まぁ無難に中間テストあたりがいんじゃねーか?」

「えっと、となると……10月17日の土曜らへんか?」

「お、カレンダー確認はえーのやるじゃんっ」

「さすが倫。みんなに会いたくてしょうがないってか」

「いや、別にそういうわけじゃ……ないわけでも、ないけど……」

「あれ~? ゼロやん昔のだいみたいなツンデレじゃ~ん?」

「わ、私はこんなのじゃなかったわよっ」

「こ、こんなのっ!?」

「こんなのっ! こんなのって!! あははっ! いいねー、だい。よく言った!」

「わ、笑ってんじゃねぇよ!?」

「ま、じゃ次回はそのへんで、普通のオフ会でもやっかー」

「え、無視!?」

「ジャック来れるかどうかで、また新宿らへんかな~?」

「だなー。なんだかんだみんな集まりやすいしなー」

「ったく……。でも、新宿だと俺は近くてすげー楽でいいな」

「お、それで倫はまたゆっきーお持ち帰りか?」

「いや、変な言い方すんな!」

「でも、そう言われると新宿に集まった時は2回ともゆっきー帰れてないのよね」

「逆に言えば、新宿だと誰か死んでもゼロやんかだいんち行けるから楽ってことか。うむ。ありだなー」

「いや、前提にすんなしっ!?」


 ってね、ほんとこいつらとならずっと喋ってられそうだなって空気で歩く俺たち。

 まぁ、内容には色々物申したい部分もあるし、なんでツッコミ俺しかいないのって思いもあるけど……俺の人生で出会った仲間たちの中で、今一緒にいるこいつらが一番気楽で楽しい、お世辞じゃなくそう思うんだよね。

 純粋な遊び仲間で、大切な仲間。うん、ありがたいことだなぁ。


「じゃ、ぼちぼちみんな食べ終えたこったし、そろそろ急ぐとするかー」

「お~」


 気づけば夢の国の中心にあるお城もだんだんと大きくなり、ライトアップで綺麗に輝いているのが見て取れる。

 そして俺たちはぴょんの号令に従い、残る4人の仲間たちがいるであろう集合場所へと、少し駆け足に向かうのだった。






「あっ、おかえりー!」

「やー、待たせてわりーなっ」

「おかえりなさいっす!」

「遅くなってごめんね」

「待ってましたよー。もうすぐ花火もあるみたいですし、間に合ってよかったですっ」


 20時23分、けっこうな時間遅刻してしまったが、俺たちがお城近くの集合場所に着くと、そこにはちゃんと固まって俺らを待っていた別班の4人がいた。


「ぴょんさんがいなくなられてびっくりしましたけど……むむ? そういえば、皆さんは一緒になってますけど……セシルさんは?」

「あ、ほんとだっ! セシルどうしたの!?」

「あー、色々あってな。あいつは帰った」


 そんな俺たちを迎えてくれた4人だったのだが、真っ先に違和感に気づいたのはゆきむら。

 いや、そもそも俺とだいと亜衣菜、大和とゆめがそれぞれの班だったわけだが、今はその2つがまとまって、亜衣菜が抜けてぴょんが加わった5人になってるんだもんね。そりゃ気づくよね。


 そんな、亜衣菜がどこへいったのやらと不思議そうな顔をする4人に真っ先に答えたのは俺。

 これは俺が言わなきゃいけない、そう思ったからこそ、真っ先に矢面に立つ覚悟でみんなに説明することにしたのである。


「え、帰っちゃったんすか!? まだ一緒に写真撮ってもらってなかったのになー……」

「でも、セシルどうしたの?」

「ちょっと、俺たちの班でいる時に喧嘩しちゃってさ」

「えっ、お兄ちゃんと喧嘩!?」


 そして俺が亜衣菜が帰ったことを伝えると、ロキロキなんかは全員とのツーショット写真撮影という目標達成まであと一人だったからか、ちょっとテンションダウンという感じの表情を見せ、あーすも少し不安そうな顔を浮かべていた。

 そんな二人に、あえて喧嘩という言葉を使って説明した俺だったが、俺と喧嘩という言葉のイメージが結び付かなかったのだろう。真実がすごいびっくりした顔を見せる。


「あー、俺っつーかなんつーかだけど、自分で言うのもなんだけど、やっぱあいつ俺のこと好きって部分があったみたいでさ。でも俺はだいの彼氏だし、その気持ちには応えられないから。浮かれるあいつに釘を刺して、揉めちゃったんだ。でもこれはしょうがないと思う。俺にはだいがいて、亜衣菜の気持ちには応えられない。それが現実だから」

「あ……そう、だよね。うん、菜月さんと仲が良いって思ってたけど、そこはどうしようもないもんね」

「うーん、たしかになっちゃんからすれば、気持ちいい話ではないもんねー」


 そして続けた俺の説明にだいが何か言いたそうだったけど、そちらに話を振らずに俺は説明を続ける。

 実際釘を刺したってか、揉めたのはだいで、俺は情けなくもおろおろしてただけだけど。

 でもほら、帰ってもらった責任は、悪者なるのは俺だけで十分だから。


「だいさんは引き留めなかったんですか?」


 だが、全ての攻撃は俺が受ける。そんな盾の気持ちで話をしていた俺をかいくぐり、ゆきむらがだいにそう尋ねてしまう。

 くっ、ヘイト不足だったか……!

 いや、そもそもゆきむら相手にヘイト管理とか不可能な気もするけど……!


「うん。ちょっと今日の亜衣菜さんは、我慢できなかったから。ごめんね、ゆっきーはすごく仲良くなってたみたいだけど、バイバイの挨拶もさせてあげられなくて」

「あ、いえ……。そうですか。我慢できなかった、ですか……」


 そしてそんなゆきむらに答えただいの言葉に、ゆきむらは少し表情に影を落として何か考える仕草をするけど……元々外暗いからね、影落としたかどうかは、正直定かではない。

 でも、ちょっと楽しそうだったみんなの空気に、水差しちゃったかな……。


 と、全体が少し暗くなったと思いきや。


「ま、元々男女関係ってのは1対1のもんなんだ。ゼロやんのハーレムなんて現実的じゃねーんだよ。目の前で彼氏にいちゃついてくる女がいるだいの気持ちも考えてやれよ?」

「うん、そだね。なっちゃんからすれば嬉しくないもんねっ」


 さすがぴょん、割り切るべきところをピシッと告げて、みんなの空気を変えてみせた。

 そしてその時の視線をゆきむらに向けてたのはぴょんなりの優しさ、なんだろな。

 当の本人は何やら考え事中って様子みたいだけど。

 でもそんなぴょんにすぐ「そうだねっ」って明るく答えるあーす、うん、やっぱいいやつだなー。


「ごめんなさい菜月さん、お兄ちゃんのせいでご迷惑かけて」

「あ、別にゼロやんのせいじゃ……」

「……あれ? この流れってゼロさんが悪いんすか?」

「あー、まぁあれじゃん? 倫がモテるせいで、ってことでいんじゃね?」

「は?」

「えっ、そう言われるとなんかズルくない!?」

「たしかに男の敵っすね!」

「男の敵だー、やっつけろー!」


 って、俺がさすがぴょんだなー、なんて風に思ってると、真実がだいに謝ったことからなぜか会話が変な方へ。

 その糸を引いた大和の発言に俺が唖然としている内に、あーすとロキロキが俺に向かって攻撃を開始。

 いや、痛くないレベルに殴んなよこいつら。何歳児だって?


 でも。


「まー、あいつを帰したことへの文句があればどんと来いよ。好きなだけ言わせてやるよ」


 この流れに、俺はあえて乗る。

 迷惑かけたって思う奴が一人いれば月内謹慎って話は、もう条件満たしてるしね。

 怖いものなんてないのだ。


 なので俺はつい先日演じた魔王気分になって、殴ってくる二人にちょっと偉そうにしてみると。


「あーちゃんとLAでツーショット撮ってもらう約束したかった!」

「俺まだ写真撮ってないっす! ゼロさんは俺の目標知ってたくせに!」


 間髪いれずに攻撃から口撃に切り替えた二人の対応の早さには正直びっくり。

 しかもこっちはあれだな、本音なんだろうなって迫力込みっていうね!

 笑って今はやり過ごすけど、うん、後で個別にはちゃんと謝っとこうっと!


 だが。


「……一言、改めて色々教えていただきましてありがとうございました、とは言いたかったです」

 

 みんなが見守る中、堂々と文句言ってくる二人に対して一人、小さな声でそう言ってきたのは——


「いや、うん。ごめんな。でも引き止めなかったことは後悔してないんだ」

「いえ、私もそれくらいは分かりますから。……でも、もう前みたいにお話したりはしないんですか?」


 そう言ってきたのは、いつも通り……よりも少し落ち込んだような空気を感じさせる視線を向けるゆきむらだった。

 そんなゆきむらに少し罪悪感も募ったが、でもここは引くわけにはいかない。

 前みたいに戻るのは……少なくとも今は想像つかないから。


「しないよ。……もしあいつが誰かと結婚報告でもしてきたら別だけどさ」

「結婚報告、ですか」

「ゆっきー……ごめんね」

「あ、いえ……。ただちょっと、もし私がだいさんとゼロさんと喧嘩することになって、もう話したくないって言われたらと考えたら……やだなって思っただけですから」


 そして俺はゆきむらに亜衣菜との関係が前みたいに友達って間柄に戻るか尋ねられたので、それは今はない、ってことをはっきり告げる。

 その答えにもゆきむらは少し元気なさげだけど、そんなゆきむらにだいから入るフォローで、ゆきむらが辿々しく心の内にあった感覚を教えてくれた。

 ……ゆきむらと喧嘩、か。


 あんまり想像はつかないけど、でももしだいが今と心境が変わることがあれば……その覚悟は必要、か。

 とはいえだいとゆきむらを喧嘩させたいかどうかなんて、考えるまでもないし。

 上手く立ち回っていかないと、だな。

 ゆきむらも大切な仲間の一人には違いないんだし。


「そこは、ゆっきーが何を優先するかにかかってるんじゃない?」

「いっちゃん……」

 

 そんな元気なく話すゆきむらに、俺もだいもさてどう話したもんかと迷ってると、そこに手を差し伸べたのは……真実。

 そんな真実へゆきむらが視線を移すと。


「詳しく聞いてないけど、お兄ちゃんが誰かと喧嘩したって話、私は生まれて初めて聞いたんだ。正直びっくりしてるけど、それだけ菜月さんのこと想ってるのかなっての思ったの。だから、ゆっきーもいつかは選ばなきゃいけない時が来ると思うよ」


 ……いつの間にこんなしっかりしたんだろうなって、兄としては驚きなんだけど、ゆきむらに選択の時は来ると告げる真実は、俺とだいが言いたいことを言ってくれて、正直助かった。

 年も近い第三者の意見の方が聞きやすそう、な気がするし。

 ……でもあれだね、ゆきむらの話、聞いたのね……!


「ま、恋愛トーシロのゆっきーにすぐ何か決めろなんて言わねーさ。そこらへんは、恋愛ベテランのゼロやんたちが分からせてくれるだろうしなっ」

「いや、ベテランて……」


 迷うゆきむらを見かねてか、とりあえずこの話はぴょんが一旦終わりにしてくれたけど、ううむ、俺がベテランなんておこがましい。

 だからこそ、今日、ねぇ?


「ってかさー、ゼロやんゆっきーと僕らへの態度違いすぎじゃない!?」

「そっすよ! 冷たいっすよ!」


 なんて俺が軽い自己嫌悪モードに入ろうとするや否や、そんな隙与えねーぞとばかりにご機嫌斜めなあーすとロキロキが再度俺に詰め寄ってくるではありませんか。

 いや、いい年してむくれんな。

 君らたしかに見た目二十代前半に見えるけど、本物のゆきむらと違ってアラサーだからね?


「今日の夜は優しくしてくれないと許さないからね!」

「おおおおい!? 言い方!?」


 そんな二人を俺は苦笑いでへらへらしながら「まあまぁ」と両手で抑えてたけど、急に飛び出したあーすの発言に、俺はテンパり何人かが盛大に吹き出して爆笑。

 というかあれね、笑ってんのはだい以外のさっきまで一緒だったアラサー組ね。

 大和はこの言葉の重さ、分かってねぇくせに……!


「え、今夜ゼロさんとあーすさん、何かあるんすか?」

「あ、僕帰りの新幹線明日だからさ、今日はゼロやんちに泊めてもらう約束なんだー」

「えっ、いいっすね! 俺も行きたいっす!」

「いや待てお前は——」

「ダメっ!」


 そんな爆笑を生んだあーすの言葉に、きょとんとした顔を浮かべたのは事情を知らないロキロキくん。

 で、理由をあーすが説明するや、なんとも面倒くさいことを言い出したので、色々泊めたくない理由だらけの俺が制止しようとしたら。

 俺の言葉の言い終わりより早く、ロキロキにダメを言うあーすである。

 そんなあーすに、ロキロキは少し驚いたようだけど。


「ロキロキは朝くっついてたから、今日はダメでーす」

「ええっ!? だってそれ俺も知らない内っすよ!?」

「事実だからダメでーす。それにさー、ロキロキは東京なんだから、僕より簡単に会えるじゃん? だから今日は僕がゼロやんを借りるのっ」

「むぅ……そこまで言うなら、分かったっすっ。俺は次回でっ」

「いやなんでだよ!?」


 いや、何かもうどこからツッコめばいいか分かんねーけど……。

 何で俺が取り合われてる感じなってんの?

 謎すぎぬか君ら?


 いや、だいVS亜衣菜や、VSゆきむらと比べたらなんか平和な気もするけど……いや、やっぱうん、あーすが入ってくるのは生理的にちょっとやだな……!


「モテモテね?」

「いや……お前までそういうのはやめてくれ……」

「でも変な気起こしたらダメだよ?」

「しねーよ! っていうか真顔で言うなや……」


 はぁ。

 まさかだいまでいじってくるとは……。

 でもま、そのくらい復活した、ってことで、まぁいいか。うん、俺もう疲れたよ。


 そんな、何かもうてんでバラバラな反応を見せる我がギルドの仲間たちに、疲労感をMAX感じた、その時。


 バァァァァン!!


 と、背中側から聞こえた大きな破裂音に、俺を初め全員が同じ方向を見上げ出す。

 

「わぁ……」

「綺麗……」


 そして聞こえる感嘆の声。

 それは誰の声かも分からなかったけど、周囲の人々からも同じような声が、あちらこちらからと聞こえてくる。

 皆が等しく同じ方向を向いて、同じ思いを抱く。

 これって、すごいことだよな。


「……色々ありがとね」

「ん? いや、そっちこそ。色々悪かったし、ありがとな」

「ううん。今は、きっとこれでよかったんだって思ってるから」

「……そっか。うん、自分がそう思えるなら、それが正解ってことだよな」

「……うん。そう信じる」


 そして気付けば俺の真横には、1番大切な人の姿。

 打ち上がる花火の音や周囲のざわめきで、きっとこの会話は俺たちにしか聞こえなかったと思うけど、今日のことは俺ら二人でしっかり抱えて、生きてこうと思う。

 ……ま、生きる死ぬの話じゃないしな。

 生きてれば、また普通に話せる日が来るかもしれないし。

 うん、今はそう思っておくことにしよう。


 そんなことを考えながら——


「あ」


 隣に立つ女性の手を、みんなにバレないようにそっと握ってみたりってね。

 驚く声は聞こえたけど、俺はそちらには視線は送らない。

 たぶん見たら、照れて顔が赤くなるかもしれないから。


 そしてそっと、握り返される手。

 温かいのは、手よりも心かな、なんつって。


「いい日だったなー!」

「はいっ! 楽しかったです!」

「いっちゃん楽しめたみたいでよかったよ〜」


 そうやって手を繋いだまま花火を見終えて、周囲の人々が動き出す中で、俺たちも動き出す。

 さすがに動き出してからは手は離したけどね?


 でもほんと、色々と、笑えることだけじゃなかったけど、最後にこうやって笑えてよかった。

 今こうして9人が笑えてれば、あれだよ。これが俺らの最大多数の最大幸福ってやつだよな。


「うし! じゃあ最後みんなでジェットコースター乗って、土産買って帰るか!」

「あっ、いいっすね!」

「いやこっからかよっ!?」


 そんな俺らは、最後まで俺ららしく。


「ゆっきー嫌がってるわよ?」

「え、あ、いえ。皆さん行くなら頑張ります」

「じゃあゆっきーは私と手繋いで乗ろっ。……花火見てる時のお兄ちゃんたちみたいにさ?」

「「え?」」

「おいおいこっそりイチャイチャかー?」

「いやー、悪いな! 俺気が利かなくてっ」

「いや、求めてねーから!」

「そんなこと言ってほんとは〜?」

「ねーっつってんだろ! でも最後一緒乗るくらいは、してやってもいいけどなっ!」


 ……こうなったら、俺も悪ノリ、だな!


「なら最後だし、俺もだいの隣乗るからなっ」

「え? あ、う、うん……っ」

「あ、じゃあわたしはロキロキ一緒に乗ろっか〜」

「いっすよ!」

「って、あれ? そうすると僕は……?」


 そして巻き起こるみんなの笑い声。

 うん、やっぱ俺はこいつらといるのが好き。

 LAが終わっても、こいつらとはずっと遊んでたいって、ほんと思う。


 そんなことを思いながら、俺たちは最後のアトラクションにみんなで乗るべく、みんなで揃って移動開始。

 そして並ぶ時も、頭につけてたカチューシャたちを交換したりしながら、みんなで写真撮ったり撮られたり。


 ほんと、毎回毎回色々あるけど、結局終わって見れば楽しかった、それがこいつらとのいつもなんだよなぁ。

 

 夜空に浮かぶ下弦の月が、優しく俺たちを見守っている。

 次回も、その次も、またみんなで笑ってられますように。


 そんな願いは口には出さないけど。

 みんなが浮かべる笑顔にたしかな満足感を抱きながら、俺は2日間に及んだオフ会を締め括るのだった。







☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 これにて長かった11章終了。

 次回から12章に入ります。

 開幕はもちろん、ドキドキの夜☆ に、なるか、なぁ?

 

 さぁGWだーーー。


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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!


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