第319話 自分の価値は自分には分からない
だいと一緒に、
いや、それは俺だけならわけないというか、元よりそのつもりだけど、だいにもそれを求めろっていうの? えっと、でもそれを言ってきてるのがだい本人なんだから……。
「倫は欲張りなんだよなぁ。人間が一生かけて本当の意味で幸せにできる人数なんて、一人いれば十分だろ?」
「え?」
「そりゃその時その時はさ、付き合ってる相手のこと本気で好きで、そいつを幸せにしてやりたいって思う気持ちは分かる。
だいの言葉に何と返すか、なかなか言葉が喉を通らない俺を見かねてか、正面に座る大和が俺に話しかけてくる。
その声に俺は大和の方へ視線を移したわけだが、俺を見る大和は、優しく笑っていた。
「でも、誰かと付き合うってことは、誰かを選ぶってことは、他を選ばないってことだろ? 倫が出来るだけ多くの人を幸せにしたいって思う奴なのは俺も知ってるけどさ、人間には腕は2本しかないし、目だって2つしかないし、脳なんて1個しかない。それに身体の大きさには限界もある。神様じゃねーんだ、出来ることには限りがあるだろ?」
「そりゃ……そうだけど」
「みんなで遊んでる時にさ、なかなか仲間に
「……うん」
「ならそこで倫が出す答えは一つじゃん? で、その問題はそれで終わりました。じゃあ次は、ってなった時、次の話は二者択一の話じゃない時もある。仲良かった仲間の中から一人が抜けるって言いだした。でも仲間たちは抜けて欲しくないって思ってる。そんな時こそお前の欲張りの出番だろ?」
「あ……」
違う問題。
はっきりとは俺の話こととは言わずに、でも誰の目からも明らかな例えでそう言ってくる大和の言葉が、すっと俺の心に突き刺さる。
考え方を変えれば、見え方も変わる。
確かに今の考え方をすれば……。
「そんな状況を見た倫なら、その仲間に何て言う?」
「……一緒にいた方が楽しいぞって、引き留めると思う」
「だよな」
そして俺の答えを聞いて、ニカッと太陽のように笑う大和は、俺のことなんかお見通しのようで……改めてこいつが友達でよかった、そう思わせた。
「でも、さっきの例えの一つ目の問題の答え、倫はまだ口にしてないからな。だいが答え待ってるとこに口挟んで悪かった。ほら、答えてやれよ」
「……うん」
そう言われて、俺は改めてだいへ向き直る。
だいは俺が大和と話してる時も、黙ってそれを見守ってくれていた。
ほんと、なんでみんなこんなにいい奴らなんだろう。
それに比べて、俺はなんてダサいんだろう。
情けなさすぎて、ほんと自分が嫌になるけど。
こんな俺を、だいは好きだと言ってくれる。
大和もぴょんも、仲間だと言ってくれる。
あ、やばい。ちょっと泣きそう。
いかん、耐えろ俺……!
「……だいにお願いされるまでもないよ。その覚悟はもうしたんだから、大丈夫。俺はもうあいつのことは忘れる」
危うく、ってところから耐えること数秒、何とか自分落ち着かせた俺は、じっとだいを見ながら、そう言った。
大切な人と仲間たちの気持ちに応えることは、俺が望む生き方、だから。
だが。
「おいおい、その言葉はだいぶ前にあたしらだって聞いてんだっつーの」
「え?」
聞こえたのはだいの返事、ではなく「やれやれ」と言うように頭を振りながら話すぴょんの声。
その言葉に俺は思わず聞き返してしまったわけだが。
「さっきのだいの言葉、ちゃんと聞いてたのかよ? 思い出“を”捨てろったんじゃない。思い出“だけ”捨てろっつってただろーが。そこ、一番大事なとこだぞ?」
「あ……」
そ、そうか。
大和との会話で、そっちはもうOKかと思ってたけど、大和の話は例え話だったわけだもんな。
それに順番としてはまずだいの話ありきで、そこを踏まえて次の話ってことか。
ぴょんの指摘に何とも間の抜けた声を出してしまった俺に、ぴょんは呆れつつもだいも大和も笑ってる。
「捨て“ろ”、じゃなくて捨て“て”、だけどな!」
「だーっ、ほんとこまけーなお前はっ」
そして大和とぴょんのやり取りからも、なんかもう答え出てるってことでいいんじゃないかって空気にも思えたけど。
「うん、言い直す。思い出“だけ”捨てる。思い出だけ捨てて、さっきの言葉を撤回する。軽はずみに「抜ける」なんて言って、ごめん」
そう、だいの目を見て俺が言うと、だいはニコッと笑ってくれた。
その笑顔は、俺にとって何より大切なもので、絶対に守りたいと思うもの。
その気持ちが、ぐっと胸に込み上げる。
そしてどちらから、というわけでもなくだいと共にぴょんと大和の方に向き直り。
「俺はだいやみんながいるこのギルドが好きだから、やっぱり俺もここにいたい。今回のことでゆめにも迷惑かけちゃったし、みんなの遊ぶ時間奪っちゃったけど、そのことについては俺とだいで謝るから……その、改めてこれからも俺たちをよろしくお願いしますって、言っていいかな……?」
そしてそう言って、座ったまま二人に向かって頭を下げる。
けじめは、つけないといけないから。
周囲のお客さんたちは、まさか俺たちがこんな真剣な話をしているなんて思いもよらないだろうし、はたから見たらダブルデートしてるカップル同士って風に映ってただろうから、この状況なんだよって見えるかもしれないけど、今この話こそが、俺にとって、俺とだいにとって欠かせない話なのだから。
何かを選ぶということは、何かを選ばないということ。
そんなことは
そんな分かり切ってたことから目を逸らしていた俺は、本当にどうしようもない奴だと思う。
どんな時でも自分の希望を叶えようと、土台無理な条件だとしても、何とか出来ないかともがくふりをして、目を逸らしていたのが俺なんだ。
でも、どんな時も同じ条件で考えるなんてのは大和の言う通り不可能だ。
特に人間関係ってものは、推し量るだけでは見えない部分が多すぎる。
俺は神でも何でもないただの人間なんだから、超えられない人間の分というものがあることくらい分かってる。
俺はだいと一緒にいたい。だからこそ、その条件を満たせない問題は考えるまでもない。
分かっていたふりをして、分かっていたつもりでしかなかった自分がほんと嫌になるけど。
「私からも、お願いします」
俺の言葉に合わせて、だいも一緒に頭を下げたのが、横目に入る。
いや、そんなことしてもらう必要ないんだけど――
「あー、いい、いい。そういうのはいいから。ほれ、顔を上げろって」
間髪いれず嫌がるぴょんの嫌がる声が聞こえたので、俺とだいは顔を上げざるを得なくなる。
そして顔を上げて見えたのは、やれやれって笑うぴょんの顔と、爽やかに笑う大和の顔。
「ま、偉そうなことも言ったけど、そもそもこのギルドあたしのもんじゃねーしな。抜けるも辞めるも、そもそもリダのとこ通せって話だよな」
「ははっ、まぁそれを言ったら俺も同じだわな。でも、この話聞いたのは俺らだけだしさ、倫が何言ったかも聞き間違いで終われるんじゃねーかな」
その二人の表情に言葉に、俺はたぶん、安堵を隠せなかった、と思う。
「……ありがとう」
だからこの言葉が、自然と漏れ出るように喉を通って行ったんだろう。
俺とだいだけじゃ何も見えなくなっていた中で、俺はだいだけを選ぶために全てを捨てるしかないと思っていた。
でも、ぴょんと大和が示してくれた道は違った。
一人で抱えきれない分を、みんなにも少しずつ抱えてもらう道。それでも全ては抱えられないから、持っていくものを選んだ上で、みんなと共に歩める道。
ぴょんと大和からすればそれ以外の道あんの? って感じだったんだろうけどさ。
許されることが、一緒にいていいって言ってもらえることが、こんなにも嬉しいことだとは……。
一度でもみんなから離れよう、離れなきゃいけないって覚悟した俺には、ほんとに嬉しかったんだ。
「言っとくけど、ほんとに大事なのはこれからだからな?」
でも、そんな安堵した俺を覗き込むように、ぴょんが言葉をかけてくる。
その言いたいことは、もちろん分かる。
「うん、出来ること出来ないことの判断なしになんとかしようと思うなんて、そんな高望みはもうしないよ。こっちのことはゆめから話聞いた上で、俺が責任持って対処する。つってもこっちから連絡取る気はないから、向こうから何か言ってこない限り、もう相手にしないつもりだけど」
「そうな、だいと言い合ったままの流れで終わらせるのが無難だろうな。向こうも倫の性格は分かってるだろうから、倫が何も言ってこないってことの意味は分かってくれるだろうし」
「あとは……物理的に遭遇しないために、俺はもう秋葉原は行けねぇや」
「あー、そっか。セシルそこ住んでんだっけ? となると、それも無難かー」
「後はあれだな。連絡先も消すか? って、それじゃあれか? 恋人できたからって異性の連絡先消させる
「いやー……電話番号は残しとくよ。かえって知らないままだと、知らずに取っちゃうかもしんないし。でも……フレリストからは消す、かな」
「おー、向こうからしたらLAはゼロやんとの繋がりみたいな部分もあったかもしんねぇし、それは無言の決意になるかもなー。だいもそんな感じか?」
「うん、そうだね。ちゃんと話したいって思いもなくはないけど、しょうがないと思う。せっかくみんなに支えてもらってるからさ、みんなに余計な心配をかけるような……火種は消しておく」
そしてぴょんの心配をきっかけに、今後の動きも何となく決めて……この話はひと段落。
亜衣菜のことを火種って表現するのは、だいにとってはなかなか辛いものだったのは、その表情が物語ってたけど。
しかしほんと、俺としても相当な覚悟を持って「ギルド抜ける」って言ったんだけど、それも必要ないって一蹴されるとはね……。ほんと、何て言うか、同い年だってのにこの二人には敵わねえし頭上がんねぇな。
「うしっ。じゃあ後はまたみんなで集合した時に、セシルがいなくなったことについて二人から話してもらって……まぁもしセシルを先に帰しちゃったことで誰かが迷惑被ったって言ったりしたら、一応罰として今月内くらいはゼロやんには活動日謹慎してもらうか」
「え?」
って二人に尊敬の念を抱いた矢先、謹慎なんて言葉がぴょんから発せられたので、俺は思わず聞き返す。
いや、たしかに抜ける覚悟はさっきまで持ってたけど、今さらの空気で言われたから、思わず聞き返しちゃったよね!
「おいおい、さっきあれだけ大見え切って「抜ける」つってたじぇねーかよ? それに比べりゃ軽いもんだろー?」
「え、あ、たしかにそうなんだけど……」
「でもやっぱさー、あたしらにとって大切な場所がゼロやんにとってはそうじゃなかったのかなー、とかも思っちゃったじゃーん? まぁ、あたしはいいんだけどさ、別に。でも他の誰かはそうじゃないかもしんないし、うんうん。もし誰かが先にセシル帰ったことに「えー」ってなったら、責任取って謹慎して、改めて【Teachers】のありがたみを知るべきだなっ」
「え、あ、いやー……」
だが、今の俺に反論できる資格も権利も、何もない。
だいも「抜ける」とは口にしたけど、それは俺が抜けるなら一緒に責任を取るって言う意味での後追いで、そもそも俺を抜けさせる気がなかったんだから、俺の言葉とは意味が違う。
でも俺は、自らの意志でその言葉をたしかに口にした。
だからこそ、何も言い返せない。
そんな困る様子の俺を。
「いやぁ、最古参の一人のくせに軽々しく抜けるなんて言うんだなーって、俺びっくりしちゃったなー」
「そうね。まさかゼロやんにとって
誰一人加勢することなく、むしろ笑いながら見てるっていうね!
大和はともかく、だいはひどくない!?
大事だからこそ、迷惑かけた責任って俺は思ったんだけど!?
「あー、もう分かったよ! 誰かがそう言ったら俺は今月内活動日を一人寂しくプレイしますよ!」
でも、この空気を変える力は俺にはないから。
というか、亜衣菜に対する思いも少なくとも0ではないけれど、これからもみんなと変わらず一緒にいられるなら、だいと過ごしてきた【Teachers】で変わらずみんなと過ごせるなら、俺にとってそれ以上のことはないのだ。
ゆきむらのことも、みんながフォローしてくれるって言ってたし、うん。
「ま、でもほんと離れて分かることってあっから。せんかんは復帰間もないから別として、ゼロやんとだいは割と安定して活動日ログインしてきただろ? でも、あたしたまに仕事のせいで休むじゃん? そういう時になんかみんなが盛り上がってたり楽しかったりした話聞くのって、けっこうつらいんだぜ?」
「う……」
たしかに、いつも一緒のメンバーが俺がいないところで何かしてるってなったら、絶対に気になる。
俺がそんなことを思いながら、少しだけ真面目な顔つきになって離れてみることの大切さをわざとらしく語るぴょんの方を見ていると。
「ロキロキが6人攻略の動画に感動しました! って話して盛り上がってた時、こいつ俺に電話かけてきて『その動画あたしいねーんだけどなー』ってずっと愚痴ってたんだぞ」
「あっ、おい!」
「え、そこが本音!?」
「うっせーな! あたしがいなかったおかげでバズったんだろうが!
「そうね。ぴょんがいたら7人で、ただの普通の攻略動画だったものね」
「え、だいそこ普通に認めちゃう!?」
「え?」
どうやらぴょんの真意は別なとこにあったようで、それを暴露した大和の発言やらツッコむ俺やら荒れるぴょんやら天然をかますだいやら、気づけばなんともいつも通りの俺たちの会話が、そこにはあった。
「はい! ということでこの流れで決定! とりあえずあたしらはゆめの連絡待つぞ! で、ゼロやん、君は今日が何の日か知ってるかね?」
「え?」
「おいおい、何で今が四連休なってるか知らないのかい?」
そんな、何ともいつも通りな、そして不思議と落ち着く会話を一方的に切り上げたぴょんが、今日が何の日かなんて急に聞いて来る。
えっと9月の連休で、今日は祝日だけど……えっと、何の日だっけ?
パッと浮かばず俺が答えに迷っていると。
「今日は敬老の日よね」
「そう! さすがだい!」
俺に代わってだいが正解を告げ、その言葉に大げさに頷いてみせるぴょんがいた。
「つまり今日は年長者を敬う日なんだよ。で、時にゼロやん、君は今何歳だ?」
「え、27だけど……」
「うむ。知ってる」
「いや、でも俺らタメ――」
「いやいや倫くん。俺もぴょんももう28歳なんだなこれが」
「いや、それ数か月差じゃん!?」
「馬鹿野郎、27より28が大きいなんて小学生でも分かんだろーがっ。それでも数学の先生の彼氏か? あーやだやだ文系」
「いや、お前ら二人とも文系は同じだよね!?」
「はい、ということで。君はここでの相談料含めて、あたしらになんか甘いもん買ってこい」
「え、でも年齢で言ったら私はまだ25だけど……」
「だいはいいの。一番若いから」
「いや、それどんな論理……って、まぁいいや。分かった分かった。買ってきますよっと」
まぁあれか、これがぴょんなりの、俺への落とし前ってことなんだろうな。
そう考えれば……あまりにも安い気がするけど。
もしいつか、大和とぴょんが困ることがあれば、その時はいくらでも力を貸そう。
うん、俺とだいの背中を支えてもらってる分、俺たちも二人のために出来ることは何でもやろう。
「あたしアイスとセットのやつな! チョコレートソースので!」
「あー、じゃあ俺は一番シンプルなので」
「あ、私は一緒にメニュー見に行くね」
「はいはいっと」
そしてだいと共に席を立ち、一緒に注文カウンターへの列に並ぶ。
ほんと、この店にやって来た時とは心持ちが全然違うけど、これも全部あの二人のおかげ、か。
「このギルドのメンバーで、よかったよね」
そんな感謝の念を抱きつつ、俺がカウンター上にあるワッフルのメニューを見ていると、隣から俺に話しかける控えめな声が聞こえてきた。
「ん? ああ。ほんとそう思うよ。……ごめんな、いきなり変なこと言い出して」
その声に答え、合わせて俺がさっきの会話で口にし、結局撤回した覚悟のことを謝ると。
「うん。泣くかと思った」
「え?」
さらっとした言い方ながら、予想外の返事がくるではありませんか。
「冗談じゃなく、ほんと。というか今の話、二人の時にされてたら泣いて私も帰ってたかも」
「え、マジか……」
でも、どうやらその言葉は冗談でなく本気のようで、それが伝わったからこそ、俺の胸に募る罪悪感。
それは亜衣菜に対して感じるものの比ではなく、危うく俺はだいまで傷つけて、ほんとにすべてをぶっ壊すとこだったんだなって恐怖がよぎる。
いや、ほんとあいつらがいてくれてよかった。トッピングでアイスとか増やせるかな? いや、今度の出勤の時大和にぴょんと二人でどうぞって酒でも買ってくか……!
とか、そんなことを思う俺を、だいはじっと見つめて。
「うん。私が言えるような立場じゃないけど、ゼロやんはさ、もっと自分に自信持っていいと思うよ? みんなゼロやんのことが好きなの、分かってる?」
話題を変えて、そんなこと言ってきたけど。
「え、そう、か?」
正直俺はその言葉にあまりピンとくるものがなく、濁す形で返事を返す。
俺の立ち位置ったら、基本ツッコミのいじられ役くらいなもんで、そりゃLAの知識とか経験はギルド全体でも上の方って自負はあるけど、好かれてるかどうかとは別、な気がしたから。
「うん。たぶん今日みたいな班分けで誰と二人になっても大丈夫なの、仲良しギルドの私たちでも、ゼロやんだけだと思うし」
でも、だいはそんな俺を過大に評価……というわけでもなく、どうやら冗談ではなく本気でそう言ってきた。
話しかけてくる目がね、本気なんだよね。
「いやいや、ぴょんとかあーすだって大丈夫だろ……?」
でもやはりそれは俺からすれば過大評価な気がしてならないから、他にも大丈夫なやついるだろって返したけど。
「そうは言うけど、じゃあその二人が二人っきりでどんな話してるか、イメージつく?」
「え、あー……うーん……仕事の話、くらい?」
返された言葉に、俺は自信が持てなかった。
たしかにぴょんとあーすが二人でなんか話してるのは、ほとんどというか全然記憶にはない、けど。
「それ、ずっと続く? ぴょんもさ、みんながいる時は前に立って仕切ってくれるけど、誰でも彼でも平気ってわけじゃないと思うよ。昨日の夜みんなで話してたんだけど、大地くんと二人はきついなーって言ってたし」
「あ、そうなんだ……」
「うん。もちろん女同士で話してたから、女の子の名前は出なかったけど、私もゆめも、ゆっきーも真実ちゃんも、男子メンバーのあの人と二人なったら何話せばいいか分からないって相手はいたんだけどさ、せんかんもロキロキも名前があがる中でね、ゼロやんの名前だけは誰からも出なかったの。私からすればそれは私の彼氏すごいだろって思うとこだしさ、これがゼロやんが何を大切にしてみんなと接して来たかっていう結果なんじゃないかな」
「あー……」
たしかに俺は、なりたくない二人班があったとしても、たぶん誰と二人班なっても4時間一緒にいるくらいは、出来たと思う。
そりゃだいと真実以外の女子と二人とか、あーすと二人は避けたいって思うけど、そうなったとして話が続かないってことはなかっただろう。
ゆきむらとだってね、二人班やったわけだし。
でも、他のメンバーなら……。
「もちろんゼロやんが一番みんなとの付き合いが長いのもあるだろうけど、みんなゼロやんには不思議な安心感を持ってるんだと思う。ゼロやんってね、みんなの中心にいるんだよ」
「ふむ……」
「むしろゼロやんが謹慎して、ゼロやんの大切さに気付くのは他のみんなかもよ?」
「いやー……それはないだろ、って、何それもう規定路線?」
「ふふ、どうかしらね? でも、だからさ、簡単に抜けるなんて言わないで。もしほんとに抜けたくなったら、必ず私に先に言ってね? その時は一緒に抜けるからさ」
「え、あ、うん……分かった」
「うん。ゼロやんと一緒なら、噂の47サーバーにだってついてくよ」
「いや、そこには行かねーよっ。……でも、うん、ごめんな、色々と」
「ううん。私にはゼロやんがいるし、みんなもいる。亜衣菜さんのことは……しょうがないって思うし。今思い出してもさ、やっぱり今日のこと受け入れられるかって言ったら、無理だもの」
「うん……そう、だよな」
「うん。だからこれからも、いつかの終わりが来る日まで、ここのみんなと一緒に遊ぼうね」
「ん、そうだな。ここが俺らの居場所、だからな」
そして、話すうちにだんだんと穏やかになっていくだいの表情は、俺の心を落ち着かせてくれた。
起きたことは、しょうがない。
でもおかげで、改めて気づけたこともある。
この気づきがたかだか2,000円ちょっとで済むとは、ほんと安い授業料だったな。
もちろん亜衣菜から話がいけば、【Vinchitore】も【Mocomococlub】も、俺とだいに対して風当りが強くなるかもしれない。その絡みでジャックにも迷惑がいく部分があるかもしれないけど、そうなった時は出来る限りの対応をしよう。
亜衣菜の身内であるルチアーノさんやもこさんには分かってもらえなくても、くもんさんなら話は通じるだろうし。
今日のことは、いつか通らなきゃいけない道だった、そう割り切ることにしよう。
ちらっと店外に目をやれば、既に外は暗く、時刻は19時を回っていた。
その後真実から連絡もないし、真実たちの班は4人でちゃんと遊べているのだろう。
ぴょんとゆめと大和は……17時前から俺らのことに巻き込んでしまって申し訳ないけど、後でゆめにもお礼しないとな。
でも、俺がみんなから好かれてる、俺が中心、か……。
いや好かれてるかは置いといて、さすがに中心なのはリダじゃねぇのかなって思うけど……。
店外から隣に立つだいに視線を戻せば、俺との話を終えたからか、真剣な顔つきでメニューの方を見ながら「むむむ」って風に悩んでいた。
そんなだいに「やっぱギルドの中心はリダだろ」なんて言うのは、野暮ってもんか。
じゃあ俺も真剣に何頼むか、候補2つ選んどくかな。
え、なんで2つって、そりゃだいとかぶったら別々なの頼むために決まってんだろ。
好きな人とお互いのをシェアする楽しみってあるじゃん?
そう、俺が選ぶ好きな人は、
こういう時はだいが選ばなかったものを、俺が選ぶんだ。
隣で真剣に何を頼むか悩むだいを見ながら、改めて好きだなって気持ちと、悲しませてごめん、一緒にいてくれてありがとう、そんな色々な感情を抱きながら、俺は自分たちの順番が来るまで、だいと一緒に列に並ぶのだった。
☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
ゼロやんギルド抜けないにベットしていた方、正解でした!(もはや賭けにすらなってなさそうでしたが!)
作中、まだ2020年9月21日ですって……。おかしいな、始まった時はほぼほぼリアタイと連動してたんだけどな……。
さて、長くて長くて時計ぶっ壊れてんじゃないのと思えたこの2日間のオフ会も間もなく終了。
とみせかけて、あの展開もそう遠くない時期に執筆予定です。
日が変わるまではオフ会の日、ですからね。笑
執筆の中で夢の国のワッフルのお店のメニュー見ようと思ったら、今営業してないんですね。けっこう好きだったんだけどなぁ。
コロナが落ち着いたら再開してくれることを願います。
今回訪れたモデルはグレートアメリカン・ワッフルカンパニーさんでした。
(宣伝)
本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!
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