第316話 君の手を取るのは俺
「俺――」
「あっ、ごめんね」
「え?」
覚悟を決めて俺が口を開いた、その瞬間。
少し慌てたようにだいが俺から視線を外し、下に向け手を動かす。
そこにあったのは、だいの鞄。
で、そこから長方形の物体を取り出しただいは――
「もしもし?」
それを耳に当てて控えめに声を出すではありませんか。
な、なんてタイミング……!
え、このタイミングで電話来るとかある!?
え、えっと……!
喉から出て行こうとした覚悟が行きどころを失い逆流する思いに耐えながら、俺は誰かからの連絡を受けるだいを見守るが――
「え? ほんと? ……うん。ちょっと色々あって……うん、ごめんね。後で説明するから、ごめんね」
……なんだ? 誰に謝ってんだ?
でも、謝り倒してるし、色々あってって今言うってことは、ギルドの誰か、っぽいよな。
俺がそんなことを思いながら、誰かと電話するだいを見ていると――
「む?」
奇しくも感じた、俺の右ポケット内の振動。
その震えはすぐに終わらなかったから、メッセージの着信通知じゃなく、電話だって分かったから、ポケットからスマホを取り出して着信相手を確認して——
「どうした?」
『あ、お兄ちゃん! どうしよ!?』
「いや、落ち着け。どうした?」
俺の呼び方からも分かる通り、そう着信相手として表示された名前は
当然無視するわけにもいかない相手からの電話を受けると、その第一声は何やら心配になるような、切羽詰まった感じが込められていた。
『え、えっとね! 今みんなでジェットコースターのとこ並んでるんだけど、いきなりぴょんさんが野暮用が出来たってどこか行っちゃったの!』
「ぴょんが?」
そしてその焦った声に俺が聞き返すと同時に。
「うん、じゃあぴょんたちの方に私たちも行くね。……ごめんね。……ううん、ありがと」
そう話しながら、俺の言葉も聞こえたのだろう、あっ、みたいな顔をしながら通話を終えただいと俺の目が合う。
でも今、だいも「ぴょん」って言ったよな?
「ちょ、ちょっと待ってろっ」
『う、うん』
よくわからんが、こういう時はまず情報の整理。
色々だいと話したいこともあったけど、それらは一旦全部置いておく。
ぴょんがどっか行ったことよりも、真実が困ってるのが俺にとっては問題だし。
とにかく今は目の前のことを処理しようそうしよう。
ええとまず、ぴょんがどっか行ったってことは、今真実と一緒にいる班のメンバーは、あーす《お上りさん》と
……うん、夢の国慣れしてるメンバーいなそうだし、もし誰かがぴょんを追いかけたりしたなら、二次災害発生の予想も難しくない。
ならば真実たちは状況が分かるまで列に並んでてもらうのが上策、か?
「えっと、真実からぴょんがどっか行ったって電話きたんだけど」
でも何か決めるなら一人より二人。
ちょうど向かい側でもタイミングいい名前も出てきてたし、もちろんだいの話を聞かないわけにはいかないよね。
「あ、うん。色々あって、今せんかんと合流するところみたい」
「大和と?」
む、どういうことだ?
そう思ってだいに続けてって、目で合図を送ると。
「うん。ぴょんが合流したら、私も合流しようと思う。……あ、ゼロやんの了承もらってないけど、大丈夫よね?」
「それはもちろん。だいが行くなら俺も行く」
「うん、ありがと。……ごめんね、バタバタさせちゃって。真実ちゃんには心配しないでいいよって、伝えてもらえる?」
なるほど。よくわかんないけど、ぴょんの場所が分かってることは分かった。
これが分かればまずは一安心、っと。
「おっけ。……もしもし? とりあえずこっちが連絡取れてるから大丈夫。真実たちはそのまま並んで、時間まで遊んでな」
そして俺とだいでぴょんについての共通認識が得られたので、安心するように真実に伝える俺。
でもそうか、俺らも大和たちと合流か。
もう少しだいと話してたかったけど……しょうがないか。
『あっ、ぴょんさん大丈夫なの?』
「おう。だいが連絡取れてるってさ」
『そっか、よかった!』
「ん、だから真実たちはそのまま遊んでこいよ」
『わかったっ! あーすさん大丈夫みたいで——』
と、そこで切れる電話。
何というか、俺に「わかった」を言った直後に明るい声であーすの名前を呼んでたのは気になったけど……まぁそれは後回し!
よし、これで真実たちは一安心だから……こちらはこちらであとは……って考え出してふと思う。
バタバタしてたせいでスルーし続けてたけど……そもそもどうしてぴょんが大和と合流するんだ?
大和とゆめと合流、じゃなく、大和と合流、なんだよな。
となると大和からぴょんへ連絡があった、ってことか?
ま、まさか……ゆめと大和が喧嘩した……!?
「えっと、それでぴょんのやつはどうしたんだ?」
俺が言うことじゃないが、これ以上仲間内の揉め事は勘弁してほしい。
そんな思いを抱きつつ、さっきの会話の続きをしたかった気持ちを抑え、俺はだいにさらなる現状把握のための話を振ってみる。
でも、もしかして……みたいなことが浮かんでたからちょっとドキドキ。
そして返ってきた返事は——
「ゆめがね……」
「う、うん」
ゆ、ゆめが……!?
な、なんだ?
なんでそこで一旦切った!?
言葉を溜めるだいの表情は明るさとは無縁で、どこか疲れたような、そんな様子が見てとれた。
でも、教えてもらわないと分からないから俺は答えを待つばかり。
そして。
「追いかけたんだって」
「追いかけた? え、誰をって……あ……」
「うん、たまたまか分かんないけど、出口の方に行く亜衣菜さんを見つけたから、追いかけてったって。せんかんからぴょんがそう聞いたって言われたよ」
「……なるほど」
よかった、大和とゆめまで喧嘩したわけではなかったか……。
でも、まさか俺らの班から去ってった、帰る直前の亜衣菜をたまたま見つけたのか?
たしかにまだ夕日が落ちかけくらいで、暗いってわけじゃないけど……これだけの人混みだぞ? マジでよく見つけたな……。
「何かゆめからは連絡なし?」
「うん。ゆめからは何もないし、電話も出ないって」
「となると、ゆめは亜衣菜と合流したって思っていいか」
「うん、そうだと思う。……ごめんね、みんなにも迷惑かけちゃった……」
「いいからいいから。だいは気にすんなって? だいが感じたことは普通のことだからな? 悪いのは俺。とにかく俺のせいって思っとけ!」
「……うん」
「それであれか、ぴょんが話聞きたいってなったわけだな?」
「うん」
「なるほどね」
度々落ち込むだいの姿には心が痛むが、とりあえずこれで状況はわかった。
まさか他の班にまで影響するとは思わなかったけど、なってしまったものはしょうがない。
だいもそこに責任を感じて落ち込んでるんだろうけど、ホントだいが気にする必要はない。
これについても責任は取る。
さっき決めた覚悟は、もちろんまだ俺の中に残ってるし。
みんなに迷惑かけちゃって申し訳ないけど、これが最後ってことで勘弁して欲しい。
そんな覚悟は、何か俺の心にスッとしたものを与えてくれた。
「じゃあ、大和のいるってところ向かうかね。って、そういやあいつはどこにいるか分かる?」
「あ、聞いてないけど……ぴょんが合流したら連絡するって言ってたから」
「ふむ。でも俺らのいたエリアから出口に向かう人の流れが見える位置、だろ?」
「うん、そのはず」
「たしかゆめと二人班なった時さ、座って話せるところ行こうって言ってたじゃん? ってことは何かアトラクション乗ろうとはしなかったはず。だったらそこらへんのベンチってこともないだろうし、どっかのお店に入ったと考えて……俺らがいたところから、出口までのルートも考えればたぶん……この辺じゃないかな」
そして、じっとしてる気にもならなかった俺は、大和のいそうな所を予想しアプリを開いて地図を示しながらだいに説明。
その説明をだいは少し戸惑いながら聞いてたけど、俺のしたい話をしてる最中にぴょんから連絡来て中途半端なとこで移動ってなるのも嫌だからね。
なら今は早め早めで動いていこう。
動いてた方がだいも鬱々となることもないだろうし。
うん、少しでも気を紛らわしてあげられるなら、それに越したことないしな。
「違ったら違ったで笑ってくれればいいから。行こうぜ?」
俺のしたい話も先にだいに伝えようかと思ってたけど、ぴょんと大和なら一緒にいても平気だろうし。
あいつらは頼りになる存在だから、色んなことを任せられるし。
まだまだな俺とは違って、さ。
そして俺は力ない表情のままのだいに向かって、立ち上がって右手を差し出す。
もちろん表情は努めて笑顔に、ね。
「さ、行こうぜ?」
言葉は念押しにもう一度。
そして、少しの間を置いてから、俺は伸ばされただいの手をしっかりと握るのだった。
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以下
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緊急事態宣言ですね。早く収まりますように。
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停中……!
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