第310話 妄想は自由

「さて……とりあえず何から行くかね」

「俺は午前中はメインのジェットコースター3本全部乗ったからなー、出来ればそれ以外の鑑賞する系希望!」

「俺も午前中はジェットコースター2つと、お化け屋敷のやつ行ったっすよっ」

「あー、俺も滝から落ちるのは乗ったから、じゃあ絶叫系じゃないの行くか」


 突風のような人たちが過ぎ去ってから20分ほどが経過した13:20頃、とりあえず俺たちは西部開拓時代をモチーフにしたゾーンのレストランで、各自購入したカレーライスを頬張っていた。

 そんな中でこの後の動きについて話していると、午前中何に乗ったかって話題になったので、俺もみんなに合わせて乗ったのを教えたけど……ロキロキのとこお化け屋敷のやつ行ったのか。

 あれ、3人でも乗れるけど……班的に2・2に分かれたはずだよな。となると、だいは誰と乗ったんだろうか……。

 いや、別にね、今さらあーすとだったらやだなとか、そんなこと思ってるわけじゃないけどさ?

 でもほら、あれ他のアトラクションと違って薄暗いし、大人数で乗るじゃなく2,3人の少人数乗りじゃん?

 だから、うん。なんとなくね。

 ……後で真実に聞いとこっと。


「そこらへん歩いてたら昼パレードとかやってねーかな?」

「待ってる人も見えなかったし、タイミング違うんじゃね?」

「ならばランダムエンカウントよりも、固定POPの方が狩りやすいか」

「いや、狩るって……まぁいいや。とりあえず大和が行きたいところでいいよ。ついてくからさ」

「そっすね! 俺もついてくっす!」


 で、話を戻し今後の俺らの動きについて話し合う俺たちなわけだが、これにて方向性はまとまった。

 あとは具体的な目的地、なのだが。


「あ、13時50分からってショーがあるみたいだぞ」


 隣に座るロキロキのトレイと俺のトレイの間にスマホを置いて、食事の手を少し緩めつつ一緒に専用アプリを覗きながら、適当に園内プログラムやらイベントやらを確認すると、あと30分後ほどに始まるショーがあることが判明。

 場所はここからだと反対方面だけど、間に合わないような距離ではない。

 というかね、いくら広いったって、さすがに30分あったら園内どこでも行けるからな。


「そこ行ってみるっすか?」

「だな。せっかくだし」


 で、俺らの行動時間である16時までには、他に目ぼしいイベントはなさそうで。

 テーブルの向かいに座る大和も異論は無さそうだったから、じゃあ食ったらそっちに移動ってことだな。

 ……念のため、グリーティングやってるゾーンに近づかないように、そのエリアの前通らないように移動しよっと。

 でもさ、大和に任せるったのに何で俺が仕切ってんだって話なんだけどな!


「お二人は、彼女さんともここ来たりしたんすか?」


 そんな今後の予定も決まり、後は食って移動するのみ、ってなったタイミングで。

 元々持ってた飲み物を飲みきり、ついさっき大和に買って来させたお茶を紙コップに注ぎながら、ロキロキがそんなことを尋ねてきた。


「いや、俺はぴょんとは二人で来たことはないぞ。そもそも付き合ったの先週からだしな!」

「あっ、そんな最近だったんすか!」

「おう。だからデートらしいデートも付き合ってからはまだなんだよな」

「交際最初の連休を、オフ会に使うお前らさすがだよ」

「いやー、まぁオフ会で始まったわけだしな。それに付き合う前からこの予定は決まってたし、楽しければお互いおっけって感じだな」


 そんなロキロキの質問に先に答えた大和だけど、その答えの内容は想定の範囲内。

 ぴょんありきって言ってもおかしくないのが俺らの集まりだし、他の誰でもぴょんにはなり得ないからな、俺からすればぴょん様々ってとこだよね。


「まー、人生経験で言えば初めてってわけじゃないけどなっ」

「あっ、昔の彼女さんすか?」

「おうよ。割と長く付き合ってた子でさ、別れる年の前の年までは、毎年来てたっけなー」

「おお、せんかんさんにはそんな方がいたんすね!」

「うむ。結婚すんのかなーっても思ってたけど、そんな簡単に考えていい話じゃなかったってこった」

「ふむふむ。でも、今幸せならいいじゃないすかっ」

「だな!」


 そして続けた大和の言葉は、珍しく自分の過去を語るものだったけど、こいつなんでこのタイミングでそんな話を?

 普段自分のこと全然話さないくせに珍しく喋るじゃんと、俺が不思議に思ってると。


「せっかく東京で彼女出来たりしたらな、倫だって来たことあったんだろ?」


 って、そういうことか!!


「おいやめろ。俺は現在進行形の話だけで十分だ」 

「むむっ?」


 ほんと、油断するとああもうって感じだな!

 俺にも昔の話しろってのかよこいつ……にやけ顔、むかつく……。


「あっ、倫はだいとも来てたんだっけか?」

「だいさん、とも……? あっ、そっか! ゼロさんはセシルさんとも来たことあったんすか?」


 そして最初こそ意味が分かってなかったようなロキロキも、大和の意図的な言い回しでその事実に気づき、俺に過去の話を聞いてくる。

 大和と違って純粋な疑問って顔してるけど、いやそれはそれで話しにくいからな?


「だいとはこの前一緒に来たし、亜衣菜ともそりゃ学生の頃付き合ってたんだから、こんなテンプレみたいなデートスポットあったら来るだろ」


 とはいえ、さすがにこうなっては俺ももう言い逃れも何もないので、大和のことを少し忌々し気に睨みながら、俺もだい以外とも来たことある過去を告げる。

 まぁ男同士だからいいけどさ、俺はお前と違って今日その元カノも一緒に来てるっていう爆弾抱えてんだからな?

 くそ、大和め面白がりおって……!


「初めて一緒に来た時はまだあたしもりんりんも10代だったなぁ、なんて言ってたぞセシル」

「いや、何聞いてんのおい」

「いやいや、向こうから話し出してたんだって」

「……はぁ」


 なんかもう、ため息しかでないよね。

 いや、まぁあの当時の気持ちだったらね、楽しかった思い出ではあるんだけど……今となっては……ってものでもあるし、結論としてはあんまり、もう思い出したくはないかな。


「ははっ。まっ、ここはそういう場所ってことだわな。そういや、ロキロキは帰国してから彼女出来たりしたことあんのか?」

「あ、そこは残念ながらないんすよっ」

「ほうほう。なかなか出会いがないって感じなのか?」

「そっすねー。日本って、あんまりそこらへんカミングアウトする文化ないじゃないすか? だからオープンな俺って目立つみたいで、大学の時はオープンにしすぎたせいか、実はみんなちょっと引き気味だったんすよねー」

「あー、まぁたしかにこの国はそういうとこあるなー」

「LGBTって言葉自体、ここ数年で広まり出した言葉だしな」

「でも俺もいつか、好きな人とデートしにきたいっす!」


 そして俺があんまりいい反応を見せなかったからか、あっさりと話題の対象を変えた大和だったが、その質問はけっこうズバッといったなぁと正直感心というか、驚きの言葉だった。

 まぁね、臭い物に蓋をするって話でもないし、ロキロキがオープンに俺らに自分のこと話してくれたんだから、何も気にしないのが正解って、昨日話し合ったとこでもあるけど……。


 なんかこう、昨日からの距離感とかからさ、男って感じもあんまりないんだよなぁ、正直。


 びっくりした時なんかはくっついてきてたし、ちょいちょい可愛らしいというか、そんな反応も見せるし。

 ……いや、可愛いって言われても嬉しくないだろうから、これは俺の胸の内に秘めとくけどさ。


「ちなみにロキロキはどんな子がタイプなんだ?」

「俺っすか? そっすね、やっぱり大和撫子じゃないっすかね! 奥ゆかしくて、守ってあげたくなるような子っす!」

「ほうほう」

「んー……でもうちのギルドだと、そんなタイプの奴いるか?」

「この仕事やってると、何だかんだ気が強いか信念強そうなのが多いしな。んー……しいていえば、だいか?」

「あー……まぁ、うん。奥ゆかしいってか、他の女子と比べたらたしかに前に出ないタイプではあるけど……でも信念っつーか、譲らないとこは譲らないぞ? あいつも」

「そうなんすか? でもたしかにだいさんは綺麗だし穏やかだし料理上手だし、素敵な人っすよね!」

「否定はしない」

「セシルとは全然タイプ違うけどな」

「それは聞いてない」


 そして気づけば今度はロキロキのタイプについての話題になったけど、大和撫子ね、たしかにそういう奥ゆかしいのもいいよね。

 一歩下がってついてくる的なやつ。

 って、でも実際世の中は女の方が強いことが多いし、結婚するなら男が尻に敷かれる方が上手くいくなんて話もよく聞くけど。


 俺とだいなら……なんとなく尻に敷かれてく気は、する。ってことは、うまくいくかな。うん、それなら嬉しい。

 亜衣菜とだったら、俺が振り回されて大変だったろうし……まだカナの方が合ってたかな。

 その点ゆきむらは何だかんだ歩調合わせていけるかも……って、いやいや俺は何でゆきむらのこと考えてんだおい。最低限付き合ったことある子くらいだろ、こういう時の脳内シミュレーションは!


「ちなみにゼロさんは、だいさんがタイプだったんすか?」

「へ?」


 そんな妄想をしていると、不意に隣に座るロキロキが俺の顔を覗き込むように少しだけ首をかしげてこちらを見ていた。

 あ、今の印象だと一歩下がってついてきてくれそうチャンピオンはロキロキかも。うん、なんだかんだアクティブなところあっても、周りはよく見てるし……って、いやいやいやいや!

 これは1番あかん。まだゆきむらの方がマシってレベルの妄想だろおい!

 ロキロキは男。ロキロキは男。ロキロキは男……よし。


「あれ? 俺変なこと聞きました?」

「ああいや、大丈夫! こっちの話だから気にすんな!」

「こっちの話って、ゼロさんまだ何も話してないじゃないっすかー」


 そして自己暗示をかけた俺はロキロキからすれば意味不明な「大丈夫」を伝えたわけだが、当然意味なんて分かるわけなく、ロキロキは笑いながら俺の肩を叩いてツッコできた。

 変なこと考えてたせいで、おおうボディタッチ! とか思ってしまったとこもあったけど、うん、大丈夫、バレてない。


「で、えっと、俺のタイプだっけ?」

「アレがでかい人だよな!」

「ええっ!?」

「おい変なこと言うな!」


 じゃあ改めて答えるか、そう思った矢先に放たれる正面に座る男の言葉に、俺は呆れロキロキが少し顔を赤くしながらびっくりする。

 って、なんで君は自分の胸部触ってんのさ。大丈夫、なんか潰すの巻いてんだろ? ちゃんと潰れて、ないように見えてるからね?


「あ、でもたしかにセシルさんも……」

「うむ! しかも倫は倫の倫もデカい方だし……この男の敵がっ!」

「いやいや!? 俺何も言ってないよね!?」


 下ネタはやめろ!!

 さすがにそれはロキロキ顔赤くしてんじゃん!


 ったく……。

 でも、今はあーすがいないけど、何だかんだこんな会話になる辺り、やっぱりロキロキも我らが【Teachers】メンズチームの仲間に違いねーな!

 なんだかんだ、いつも攻められるのは俺ばっかなのも同じだし。


「つかさ、そろそろ行かねーとショー間に合わねーぞ?」

「っと、もうそんな時間か! さすが倫の兄貴、視野が広いな!」

「あ、さすが兄貴っすね!」

「いや、それはもういいからっ」


 とね、結局最後までこの感じ。


 ショーまでもうあまり時間がない、そんな状況にも関わらず片付ける時までボケ倒す大和にはもう脱帽です。


 で、その後の移動中も、ショーの次のに行く時も、俺以外によるボケと天然が度々炸裂し、俺はツッコミコマンド使用に伴いじわじわと体力が削られるのを感じながら、ショーやら何やらの鑑賞中に回復させるという流れを繰り返した。

 

 そして終始笑いに包まれたような、終わってみれば平和だったなー、なんて感想を持ちながら、まだまだ日の高い16時少し手前の15時45分頃、俺たちは女子班待たせたらやばいよなってことで、全班の中最速で集合地点に戻り、他の班の奴らを待つのだった。





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以下作者の声です。

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 満員電車の中で書いてると、覗かれないかなんか不安なる作者です。


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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停中……!


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