第309話 それはまるで一陣の風

「ちょ……え? なんでその名をっ!? てか、えっ!? LAユーザーなの!?」

「あーもう、そうだよ察せよ馬鹿!」

「いやいや、えっ!? ゲームとか全くやらねーっつってたじゃん!?」

「そんなん昔のことだろーが! 時間出来たから……暇でやってみたらハマっただけだわ!」

「あれ? 古河さんも教員なんすよね? 逆に時間できた、なんすか?」

「あ、めぐちゃんはねー、今夜間の定時制高校で働いてるから、深夜とか割と時間出来たらしいんだよー」

「ほうほう。夜間ってそんな感じなんすか」


 あ、そうなんだー。ほーほー。

 と、大和とともに頷く俺。

 って、そんな大和みたいに簡単に割り切れないよね!

 久々に会話入ってきたと思えば、なにそれ来年我が身かもっていう後学のためか?

 ……まぁそれは置いといて……ううむ、そういやたしかに古河さんは練商離れた後どっかの定時制に異動だったけど、ゲームとかの話欠片もしたことなかったじゃん。

 むしろ俺が普段家帰ったらゲームしてるっつった時、「引きこもってんじゃねーよ。あたしの晴れ女パワー分けてやろうか?」ってって言ってたくらいだし。

 どんな心境の変化なんだって話よな。


 でも。


「LA始めたのはゼロさんの影響なんすか!?」

「ゼロ?」

「あ、えっと、北条さんす!」

「あ、北条がゼロなのか。……そういや、キャラと本人似てね? え、まさか自分に似せて作ったのかよ!?」


 同じLAユーザーと出会えたことで緊張も全てほぐれたのか、なんだかテンション高めなロキロキが、ついつい俺の名前をオフ会モードで言ってしまう。

 そしてその名を聞いた古河さんの反応を見るに、どうやら彼女は〈Zero〉を知ってることが判明。ってことは、【Teachers】の動画を見たことがあるってことなんだろうか。

 たしかに〈Zero〉は俺に似せて作られてるけど、でもキャラメイクしたのは亜衣菜だからな? そして逆もまた然りっていう。

 あ、いや……うん、やっぱこれは人には言えない秘密だね!


「別に、どう作ったって自由じゃんかよ」


 ということで、俺が自キャラの見た目について苦笑い混じりに答えるや——


「古河さんも【Teachers】の動画見ましたっ!? 特にあれ!」


 俺のグラフィックを知ってたことから動画を見た仲間と判断し、感覚を共有したかったのか、ずいっと前に出て古河さんを見上げるロキロキが。


 おいおい君さっきまでビビってたよね?

 いやぁ、すごい身長差である。


「え、ああ。6人攻略?」

「そっす! 俺あれ見てこのギルド入りたいって思ったんすよね!」

「なるほどな。たしかにあの動画は驚いたけど、次の新ギミック動画もびびったな」

「あっ、分かります! あれ見つけた本人に会えた時もめっちゃテンション上がりましたもん!」

「でもあの本人が実は北条だったと思うと、あたしからすりゃなんかありがたみが薄れた気分だけどなー」


 見上げるロキロキと見下ろす古河さん。

 なんともまぁ不思議な構図だがその二人が織りなす会話は、【Teachers】の動画がメインテーマなので、実はそこまで悪い気はしない。いや、ありがたみ薄れたってのは心外だけど。

 でも、あの動画の凄さが分かるって、本当にLAやってんだな……。

 ううむ、いまいちピンとこないままだけど。


「あ、古河さんも01サーバーっすか?」

「おうよ。去年の秋頃に移転したぞ」

「おおっ、じゃあうちのギルド入りますか!? ……って、新参の俺が急に誘ったらダメっすよかね? すみません、調子乗りました」

「え、あー、いや。別に誘うのとかは自由、だと思うけど……とりあえずロキロキは落ち着け。夜間の定時制ったら、うちのギルドきたって火曜は一緒に出来ないし、そもそもすでにどっかのギルド入ってる場合もあるだろ?」

「あ、そっすよね……」


 でも予想通りに古語さんが動画見た仲間であることが分かったからか、やたらテンション高いロキロキだけど、ふと調子乗ってごめんなさいってなったりするその様子にね、俺はもうただただ苦笑い。

 なんていうか、昨日の続きじゃないけど弟を鎮める兄気分なのは否めない。


 ちなみにロキロキと古河さんの会話にかかりっきりの俺なわけだが、気づけば大和は大和で澤北さんと何か仕事の話をしているみたいだが、あれだな、どっちが危険なエリアかの判断をした上で、ってことなんだろうな。

 くそう……。


「ま、そうな。せっかくの誘いだけどうちのギルドも実は同業がいてさ。そこのギルドも案外悪いとこじゃなくてねー。ギルド移ることは考えてねーや」

「ほうほう。どこのギルドにいるんだ?」

「【The】って知ってるか? 〈Hideyoshi〉っつーのがリーダーやってんだけど」

「いや、俺は知らないっすね」


 で、大和はもう無視しながら、うちのギルドに入る意思を見せなかった古河さんにちょっとほっとしつつ、俺は何気なく彼女の加入しているギルド名を聞いてみた。

 すると、返って来た答えにロキロキはピンと来てないみたいだったが。


「……なんか、どっかで……」


 その名前に聞き覚えがあった俺は少し思案。

 なんだっけ、何かいつぞや誰かから聞いた記憶あるんだけど……どこで聞いたんだったかな……。


「“LAノススメ”っつーサイト運営もやってるんだけど、ま、LA情報はほとんどの奴がLAC使うだろうし、知らねーか」

「……ん?」


 あれ、“LAノススメ”……?

 それ、あれだよな。最近ちょくちょく話題に聞く、真実も参考にしてたってサイトだよな。

 ……あー、誰から聞いたんだっけ……?


「とはいえサイト運営は〈Hideyoshi〉と〈Messiah〉っつー奴に任せっきりだからさ。あたしは基本そいつらの指示に従うだけなんだけどな」

「……〈Messiah〉?」


 ……あ。


 思い出した!!

 〈Messiah〉ったら、あれじゃん! 俺が亜衣菜のコラムに名前出された時、しつこいくらいウザいメッセージ送ってきたやつじゃん!

 で、俺らがキングサウルス倒すよりも先に、【Vinchitore】と【Mocomococlub】に続いて撃破に成功したっつーギルドか、【The】って!

 【Vinchitore】のギルドハウスに呼ばれた時に聞いたんだよな。

 でもあの時の話じゃ、正直いい話なかったけど……。


「あ、あのさ」

「ん?」

「そのギルド、変な噂聞いたんだけど」

「あ?」


 色々な記憶が蘇った俺は、おずおずとその真偽を確認すべく古河さんに話を切り出したわけだが、変な噂ってフレーズはさすがにいい気分にはならなかったのだろう。

 見下す感じで睨まれる形になり、俺はちょっとだけ委縮する。


「海外サーバー経由でのRMT運営してるって、マジな話?」

「はぁ? 何その噂?」

「いや、風の噂でね、そんな話聞いたことあったんだけど」

「別にそんなリブラ稼ぎメインやってることもねーし、デマじゃねーの?」

「そうか、うん。ならいいんだ」

「ま、〈Hideyoshi〉も〈Messiah〉もログアウトすることなくずっとキャラインさせてるみたいだからなー。あたしがインしてない時に何やってるかは知らねーけどさ」


 ……ふむ。

 とりあえず古河さんが嘘を言っているようには見えないし、さすがに噂程度の話だった、ってことなのかな。

 となると、ルチアーノさんやモコさんが聞いた噂の出所ってのが今度は気になるとこだけど、まぁそればっかは考えてもしょうがあるまい。


「いや、変なこと聞いて悪かったな。忘れてくれ」

「ほんとだよ、ったく」

「RMTは規約違反っすもんね。そういうのやる奴は俺嫌いっす!」

「だよな! うし、じゃあ一緒に回りながらもっとLAの話しようぜ!」

「え?」

「あ、でもめぐちゃんめぐちゃん、もうすぐグリーティングの時間だよ?」

「え、マジ!? それはやばい、行かなきゃ!!」

「え、グリーティング? え?」

「わりぃな北条! また会ったら次は何か一緒に乗ろうぜ!」

「え、いや、別に――」

「北条くん田村さん岩倉さん、じゃあまたね!」

「あ、またっす! LAで会ったらよろしくっす!」

「おうよ! あたし〈Gumiぐみ〉ってキャラでやってっから! じゃあな!」

Have a nice day良い一日を!」


 そして。

 向こうから一緒に回ろうとか言い出してきたくせに、結局わけもわからぬままに走り去って行った二人に取り残された俺たちである。

 でも、あの古河さんがLAユーザーで、話だけは聞く【The】の一員だったとは。

 ううむ、ほんと世の中はわけわからんことばかりだな。


「なんか旋風つむじかぜみたいな人だったなー」

「そっすね! でも、優しそうな人だったっすね!」

「え、そ、そうか?」


 そんな風に俺が結局なんだったんだ、みたいな表情で走り去った二人の方向を見ていると、さも達観した雰囲気を醸し出した大和と、どこをどう判断したのか分からないロキロキの言葉に、俺はなんかどっと疲れた気分になるのだが。


「とりあえず、肉だけじゃ物足りないから何か食いに行かね?」

「あ、いっすね! って、俺とゼロさんまだ食ってないのに、せんかんさんずるいっすよー!」


 その疲れはね、どうやら俺だけのもののようで。

 変わらぬマイペースな仲間二人を前に俺はただただ苦笑いをするしか出来なかった。


「とりあえず俺とロキロキが食ってる間に大和は何か飲み物買ってこい」

「あっ、名案っすね!」

「ええっ!?」

民主主義多数決の決定だっ」

「お願いしまーっす!」


 時刻はまもなく13時。

 思わぬアクシデントに班行動開始からほとんどなにもしてない俺たちだが、代わりに情報という対価はあったからね、とりあえず今はそれでよしとしよう。

 【The】ってギルドも、そんな悪いとこじゃないみたいだしな。


 でもとりあえず、腹が減っては戦は出来ぬ。


 ということで、まだまだ暑い日差しの中、俺とロキロキはその光の下に大和を送り出しつつ、すっかり冷めてしまった肉を頬張りながら、次は何を食べに行くか、俺のスマホで一緒に園内の地図を眺めるのだった。

 







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以下作者の声です。

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 くっついてくる、と見せかけた情報回でした。

 ちなみに古河さんが数学科で、澤北さんは英語科らしいですよ。


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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停中……!


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