第307話 本日はお日柄もよく

「よし……じゃあここは恒例の」

「あれか、よかろう」

「え、なんすかなんすか?」

「決まってんだろー。男気の戦いだ……っ」

「おおっ!?」


 みんなと別れ動き出したメンズチームが真っ先に向かったのは、夢の国に行くと何だか食べたくなるターキーレッグ。

 なんだろう、あれとチュロスってなぜか食べたくなる不思議。

 映画館だとさほど、って感じなのに夢の国だとなぜか食べたくなるんだよね。

 あれはきっと某超大手ハンバーガーチェーンのポテトと同じくらい中毒性があるのではないかと踏んでいる。

 ってもあれだなー、だいと付き合ってから食ってねーなー。

 医食同源を大事とするだいはファストフードを好まないような気がするして、付き合ってから一緒に食ったこともないんだよね。

 亜衣菜と付き合ってた頃は割と利用してたけど……ま、あの頃は俺らも学生だし、懐事情と胃年齢が全然違うってのもあるか。

 って、いかん話がすごい逸れてるな。


 ということで俺たちが今やってきたのはスモークされたターキーレッグが売られている露店の辺りで、そこには20人くらいのお客さんが並んでいた。とはいえ販売の回転もよさそうだし、そんなに待つこともないだろう。

 しかしまぁ、もう開園から4時間だもんな。そりゃ人も増える頃か。

 改めて辺りを見渡せば、そこにはもうどこもかしこも人、人、人。


 何万人いるんだろ?

 そして1日でいくらの金が動いてるのだろう?

 入場料を平均6500円と見積もって、来園数を7万人としたら……あ、この段階で億余裕超えやん。それにお土産やらキャラクターグッズ、食事代も増えたら……。

 利益率は分からんけど、1日で俺の生涯賃金の2回分以上が動いてるのは間違いない気がする。

 うん、やめよ、これ考えるのは。


「で、つまり?」

「じゃんけんで勝った奴がみんなに奢るのさ」

「え、勝ったら奢るんすか?」

「おうよ。勝てば自分の男気を見せつけられるチャンスなんだぜっ」

「あ、なるほど……!」

「ちなみに男気じゃんけんとなると倫は地味に強いぞ」

「おおっ、さすが兄貴っ!」

「いや、そのくだりはもういいからっ」


 とまぁ、頭の中ではあれこれ関係ないことを考えたりしつつも、ロキロキに俺と大和がよくやってる男気じゃんけんの説明をすると、ロキロキも理解を示してくれた。

 昨日もやってたしかに俺が勝ったけど……あの時はロキロキいなかったもんな。


 ちなみにあれね、俺と大和の戦いは、普段は学校の自販機で飲み物奢りとか、帰り一緒なったら駅近のコンビニで飲み物かアイス奢りとか、ほんと高校生レベルの戦いが基本ね。

 そういや、この戦いを目撃してる生徒がそれなりにいるため、校内でも俺と大和は仲が良いって思われてるんだよな。

 いや、仲が良いとは俺も思う。

 前の学校で同期採用だった奴らよりも、圧倒的に大和と飲んでる回数多いもんな。

 前の学校は4年間いて、今の学校はまだ2年目だというのに、だよ。

 まぁもちろん大和が同性だからってのが1番なんだけど。

 前の学校の同期は俺含めて3人で、残る2人が女だったから。

 むしろ2人いてくれたから、何回か3人で飲むことがあったって話だけど、もし同期が女1人だったらね、きっと同期会なんて一回もやらなかっただろうね。

 ロキロキのことをどうこういうわけじゃないが、やっぱり性別ってのは意識せずにはいられない部分だし。

 客観的に見たらって部分もさ、当然あるじゃん?

 まぁ同期の件については、片方はまだよくても、もう片方は正直性格が合わなかった、ってのもあるんだけど。


 っと、こんな話は今どうでもいいか。


 とりあえず今は、誰が男気を見せるかの戦いだ!

 とういうことで、俺たち3人は互いを見合って。


「男気じゃんけんじゃんけんしょっ!」


 大和が加速気味に勢いよく出した掛け声に合わせ、俺もロキロキも己の手を差し出した、その結果——


「くそー、やっぱ筋肉には勝てないかー」

「その筋肉は伊達じゃないっすね!」

「あれ……? あ、ああ! まぁな!」


 何という茶番。

 いや、俺の棒読みも大概だと思うけど、一瞬あれ? って顔をした大和は、パーを出した俺とロキロキを見事にチョキで蹴散らしていたからね。

 いやはや、昨日は勝てたが今日は勝てなかった。

 うん、ほんと男気ってのは時の運だなぁ。


 とこれ以上ないほどどうでもいいことは置いといて。


「ほい。じゃあ買ってらー。あちーから、そこの木陰あたりいるわ」

「えっ、一緒に並ばないのっ!?」

「せんかんさんあざっす!」

「ロキロキまでっ!? 何だよつめてーな!」

「男気ある奴がガタガタ言うなよー? じゃあ、俺らはそこで待ってよーぜ」

「うす!」

「どっかいくなよ! ちゃんと待ってろよ!」

「いや、寂しがってんじゃねーよ……」


 まぁたぶんネタなんだろうけど、そんなわざとらしく喚く大和を列に向かわせ、俺とロキロキは露店の近くにあった木陰ゾーンに移動。

 しかしほんと、どこぞに凄まじい晴れ女がいるな今日は。もはや夏みたいだぞおい。


 晴れ女っていや——


「いやー、暑いっすねー」

「ん? ああ。ほんとにな。さすがに屋外部活やってるとはいえ、この人混みだしあちーな」

「あ、お茶飲みます? っても、だいぶぬるくなってるっすけど」

「お、さんきゅ。俺も後でなんか飲み物買わないとなぁ」

「むしろ、せんかんさん戻ってきたら食べる前に飲み物買いに行くのもありっすね」

「だな」


 前の職場の同期がえらい晴れ女自称してたなぁなんてことを思っていると、ロキロキも暑さに物申したい気分だったのか苦笑いしつつ話しかけてきたので、俺は思い出す作業を一旦止めてロキロキの方に視線を向けた。

 そして話題に出せば出すほど感じる暑さに汗を拭い、Tシャツの首元をパタパタした俺にロキロキが気を遣ってペットボトルのお茶を差し出してくれたので、俺はそれをありがたく一口頂戴し、ロキロキに返還。

 飲んでからちょっと、あ……とも思ったけど、まぁ口は付けてないし、ロキロキも気にした様子もないし、うん。

 ゆめの時みたいにね、俺は慌てたりはしないからね!

 朝の色々はあったけど、その後ロキロキに変な様子もないし、きっと昨夜はあれだな、純粋に枕を求めた結果だったのだろう。


 改めてロキロキを見れば、額いっぱいに汗を浮かべながらも、どこか楽しそうな表情はやはり少年のような無邪気さを感じさせてくる。

 とはいえ、比較的大きな瞳と割と長めのまつ毛、シュッとした小顔な輪郭に薄くて可愛いらしい唇と、パーツパーツを見れば、正直ゆめクラスの美女に化けるのじゃないかとも思う。

 髪の毛が刈り上げのベリーショートでも、やっぱ見た目は、うん。

 隠し切れないとこあるよなぁ。


 とはいえ本人が男って自認してる以上、少なくとも仲間の俺らからすればロキロキは男に違いないけどね。


 だからね、ロキロキが俺と同じくTシャツの首元をパタパタして涼を得ようとしてるからって、別に見たりなんか——


「あっ、やめてくださいよっ、色白なの恥ずかしいんすからっ」


 してしまいました。

 いや、ほら、あれだよ!

 見えないものが見えそうなるとさ、人はそちらに意識を向けちゃうじゃん?

 そういうことなのだよ!


「でも、ゼロさんも地肌白いっすよね!」

「いや、お前も見てたんかい」


 ほらね!

 俺がさっきパタパタしてた時ロキロキも見ていた。

 やはり人間ってそういうものなのさ。


 と、そんなしょうもないやりとりをしていると。


「お待たせっ」


 と、元気よく黒くてデカい男が3人分のターキーレッグが入った箱を持ってやってきた。

 思ったより早かったなー。


「あざー」

「あざっす! あ、じゃあ3人で肉持って写真撮りましょーよっ」


 そんな大和に俺もロキロキをお礼を言ってさぁ食うか、と思ったら。


 ほんと写真好きなんだなぁ……。


「構図は?」

「俺が撮るんで、映る位置でそれぞれかぶりつく感じにしましょっ」

「はいよっと。かぶりつく感じね」


 ま、ツーショットじゃなくスリーショットだし、ここで面倒くさがるのも可哀想だもんや。

 ということで、俺は大和が持ってる箱から割とあちあちな肉を一本掴んでロキロキへ渡し、もう一本を自分で持つ。

 で、3人で木陰の端の方に寄りつつ、大和も一旦箱を地面に置いて、ロキロキが構えたスマホの画面に3人が写るように立ち、カメラ目線で肉を齧ったところで……パシャリとな。


「おおっ、いい写真じゃないっすか!?」

「あ、そういやゆめがやってたけど、20度くらい腕上げると可愛く撮れるらしいぞ」

「いや、男だけの写真で可愛さ拘ってど——」

「そうなんすね! もっかい撮りましょっ!」

「ええっ!?」


 いや、さっきのでいいからもう肉食おうぜってね、思ってるのは俺だけのようで。

 どのナリで可愛いとか言ってたんだと大和に思いつつも、大和の言葉にロキロキが乗り気なので2:1。民主主義の原理で言えば折れるのは俺の方。

 しょうがねぇなと思いながら、再び構えられたスマホの画面に視線を向けるけど……。

 いや、男3人で揃って上目遣いするってどんな状況よこれ。

 そんな気恥ずかしさが募る中、やっとシャッター音が聞こえたので一安心した、その時だった。


「あれ? 北条くんじゃね?」


 どこかで聞いたことがあるようなないような、そんな声が俺の耳に届く。


「うわ、ずっと口つけてたから口べたべたっすねっ。何か拭くもの持ってるっすか? ……あれ? ゼロさん?」

 

 でもその声に気付かなかったのであろうロキロキは肉を齧ってたポーズをやめ、口についた油分で唇をテカテカさせつつ俺の方に話しかけてくるも……俺の視線はそちらには向かず。

 俺の名を呼んだ相手もそこに立ち止まりながら、俺の方を向いている。

 

「おひさっ」


 照りつける日差しは相変わらず眩しく、力強い。

 そんな光が夢の国を包む中、そう言って笑った顔は、そう。

 たしかに俺の方を向いていたのだった。

 







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以下作者の声です。

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 オール通勤電車内にて執筆してみました。

 誤字脱字あればお教えください!


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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停中……!



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