第302話 勝負は時の運、なんだよね?

「え、なんでゼロやんたちそっちにいるのっ!」


 ……ん?

 あ、外が明るい……ってことは朝か。

 今何時だ……?


「ロキロキそれはずるいよーっ」


 ……ロキロキ?

 ああ、そうか。俺らソファーで寝たんだっけ。

 

 朝から元気なあーすの声で起こされるってのもあれだけど、おっきな声出すってことはもう起きる時間なんだろうし……起きるか。


「……ん?」


 まだ覚醒しきらない頭でそんなことを思いながら、まずは瞼を開け、伸びをしたところで、ふと気づく。

 

あれ? 俺の足こんな重かったっけ?

 筋肉痛?

 いやいや、そんなことなるようなことしてないし……。

 たしかに一昨日は部活やったけどさ。


「んー……あー、腰いてぇ……って、ん?」


 そして俺が自分の足に目をやったのと同時に聞こえた、大和の声。


「……いや待て倫。それは倫理的に、いや、人としてやばいだろ」

「いや変なこと言うな! ってか、お前これどんな寝相だよっ!?」

「僕もそっちで寝たかったな!!」

「いや、お前は朝から声でけぇわ!」


 なんかもう寝起きのくせにわざとらしく口元に手を当て、驚いた顔を浮かべる大和に、立ち上がって若干本気っぽい感じで怒りを露わにするあーすと、朝から鬱陶しいことこの上ないんだけど。

 それよりもだ。


 視線を下げて自分の足の方に目をやった先、そこには……俺の右足というか右ももに頭を乗せ、俺の下腹部側を向いて眠るロキロキが。

 その寝顔は何とも穏やかで、27歳って年齢を全然感じさせないちょっと可愛いっても言えるような様子なのだが、そんなことはどうでもいい。


 君、俺と反対側にいたよね!?

 なんで頭がこっちにきてんの!?


 そのせいで大和が朝っぱらなのに変なこと言ってきたわけだよね!


「おいロキロキ! 朝だぞ!」

 

 とりあえずこいつを起こさなくては!

 ということで俺はロキロキの肩を揺さぶる、が。


「んー……」


 昨日感じさせていた、朝強そうなはつらつとした雰囲気はどこへやら。

 起きる気配を見せないロキロキは、もぞもぞと動いて俺の腰に手を回し、むしろさっきより密着する体勢へ。

 っていうかもはやね、俺の身体に顔を埋めるレベルね!


「おお……ロキロキ大胆だな……!」

「いや、絶対違うだろ!?」

「いつの間にそんな関係になったのさー!」

お前あーすも変なこと言うな!」


 そんなロキロキの動きに鬱陶しいことこの上ない二人からの誤解しか生まない言葉が発せられるが、そんなやりとりをしてるのにロキロキは起きず。

 いや、ほんともう早く起きんかいこいつめ!!


「おい、あーさーだーぞっ!」


 と、俺が再度身体を離させ、起床を促すも――


「んだよ朝っぱらからうるせーなー」

「おはようございます……」


 ジーザス……。


 ロキロキが起きるどころか、ガチャっと廊下に繋がる扉が開くっていうね!

 そして向こうから現れたのは、俺たちの声がうるさかったためだろう、ちょっとした不機嫌を浮かべたぴょんと、少しだけ表情に驚きの色を浮かべているようなゆきむら。


「って、おお!? え、何禁断の関係!? ……あ、いやロキロキは一応身体はあれだから……? いやいや、だとしても大事なのは心だもんな。となるとやっぱり禁断の……」

「ええい! 大和と同じようなこと言ってんじゃねえ!」

「おいおい真似すんなよー」

「いや、言ったのは俺が先だからな?」

「僕もゼロやんの膝枕で寝たかったなー!」


 ……カオス!!


 ああもう朝っぱらなにこれ。俺が何をしたっていうんだって!

 俺はただソファーで寝ただけ。

 それだけだったのに!


「ん……」


 そんな、俺が絶望の淵で我が身の不幸を呪っていた矢先、僅かに訪れた一筋の光。


「あ、起きたか!?」

「ん……?」


 寝ぼけ全開半目開き状態で起きたかに見せたロキロキは、一瞬俺から身体を離し辺りを見回し――


「眠い……」


 再び元の姿勢へカムバック。

 いや全然カムバックじゃないけど!!


 っていうかなんでまたこいつは俺にくっついてくるのかね!!


「眠いじゃねんだわ! 夜更かししてたのはお前だろ!?」

「夜更かし……」


 そんなロキロキへ俺が全力でツッコむも、効果なし。

 そして俺の発した「夜更かし」という単語に、何やら反応を見せたのはゆきむら。


 ……そうだった!

 昨日の夜のべランダでの一件、見られたんだよね!?

 この反応、やっぱ見てたよね!?


 なんかもうどこから手を付けていいか分からない複数エネミーとの戦闘に、俺はどの順番に戦えばいいかも見通せず。

 これがクエストかなんかなら、失敗確定さようなら。


 いや、いっそゲームオーバーで仕切り直しならどんなにいいことかね!


「一線を越えた友情かー。いやぁ、さすが倫だわ」

「殺すぞお前!?」


 だが、四面楚歌な俺に対する救援イベント発生せず。

 とにかく俺に出来たのは、ロキロキの肩を揺らし続けることくらい。


 そしてそれを続けてる内に――


「おはよ~……あえ?」

「おはよう……む」

「おはようございますっ……ってええ!?」


 続々と現れる仲間たちゆめと真実と……俺の彼女だい

 三人して俺にくっついたロキロキの姿に驚くという見事なシンクロ。

 そら俺たちがどんな隊形だったか知らなかったらね、どうしてこうなったって思うのは当然だろうけど、俺だってそれは思ってるからね?


 ……でも、なんかもう言い訳するのも疲れたわ。


 ということで、大和やあーすがやってきた女性陣に挨拶なんかしてる間も、俺はロキロキに声をかけ続けて起床を促す。


 そしてだいたちの登場から10秒ほどを置いて――


「おはよ~~」

「おはよう、ゆっくり休めたかな?」


 最後にリビングに現れたのは、この家の家主たちジャックとくもんさん


 そのくもんさんの挨拶が聞こえたと思ったら――


「ぬおっ!?」

「……! おはようございますっ!」


 パッと俺から離れ、俺の足に手をついて身体を起こしたロキロキが、顔だけくもんさんの方に向かって首を動かし、元気な挨拶をするではありませんか。

 その急激な動きといきなり足に体重を乗せられたことにびっくりして間の抜けた声だしちゃったし……。

 え、てかそれくもんさんがトリガーだったの?

 だとしたらあれじゃん、俺にとってこれ負け確イベントだったんじゃん!


「ロキロキずるいよー?」

「え? 何のことっすか?」

「いやぁ、朝から愉快だな君たちは!」

「だから、何のこと……って、あれ!? ゼロさん近すぎないすか!?」

「おまいう!?」


 そしてあーすやら大和やらの言葉に疑問を浮かべていたロキロキだったけど、ふと俺の足に手を置いていることに気づくと、まさかの俺を責めるという行動に出るではありませんか。

 もちろんそんなロキロキに、俺は全力でツッコむわけだが……うわ、だいの奴めっちゃ引いてるじゃん!

 ああもうなんで朝からね!!


「朝から賑やかで何より~~。でも7時には出発した方いいだろうから、朝ごはん準備しちゃうね~~」

「あ、私もやるよ」

「手伝いますっ」

「私も」


 ほんとぐったりな展開だったけど、ジャックの朝ごはん準備宣言を受け、俺に冷たい目線を向けていただいに続き、真実とゆきむらもお手伝いを表明。

 ジャックを先頭に、4人がキッチンの方へ向かって行く。


「あ、俺も手伝うっす!」


 それに続き、ロキロキもさっとソファーから降りてジャックたちを追うが……何この子、寝起きからちゃんと動けるんじゃん!

 だったらさっきまでのは何だったのさ!?


 そんなロキロキに、俺はただただ虚しく呆れるばかり。


 朝からほんと、なんという一幕だったのかとうんざりだけど。

 こうして俺たちのオフ会2日目は始まっていくのだった。






「簡単なものでごめんね~~」

「いやいや、この人数だし、用意すんのも楽じゃねーだろー」


 騒がしい起床からおよそ30分後の6時半頃、ダイニングやリビングと食べる場所はバラバラだが、各々が朝食として用意してもらったトーストと卵焼きとサラダを頂いていた。

 ちなみに基本的にはリビングに男性陣、ダイニング側に女性陣って感じ。

 ただ、ゆめは起きたところからすぐ化粧しに行ったし、だいと真実は朝食を作りながら食べてたらしく、みんなの分の用意が終わったことで自分たちは化粧しに行ったから今は不在。

 ぴょんはだいたちが朝ごはん作ってる間に済ませたみたいだし、ゆきむらは……元々してないそうだが、さっき食べたらおいでってゆめに呼ばれてたけど。

 ということでダイニング側にいるのはぴょんとジャックとゆきむらの3人くらい。あ、でもコーヒーと紅茶の準備してくれたくもんさんもそっちだね。


「セシルには集合時間言ったの?」

「ん、ああ。8時に舞浜っては伝えたけど……なんでお前そんな近いの?」


 で、リビング側でもぐもぐと朝食を食べる俺たちだが、現在床に座って食ってるのが大和とロキロキ。場所決めじゃんけんで勝った俺とあーすはソファーに座ることが出来たのだが、思っていた以上にあーすが近い。

 というか左肩が俺の肩に当たるくらいで、正直邪魔。


「ロキロキには膝枕してたあげてたくせにっ」

「いやー、すみません、寝相悪くて……」

「倫の兄貴は弟たちに大人気だなぁ」


 でも、俺が言っても動く気を見せないあーす。

 そして恥ずかしそうに顔を赤くしつつ謝ってくるロキロキに、なんかもう相変わらずの大和。

 兄貴って言えば許されると思ってんじゃねえぞおい。


「なんかもう朝から疲れたわ……」


 4時間弱くらいの睡眠時間の俺に最早今戦う余力はなし。

 それに今日は一日がかりのイベントだし。


 そんな朝の一幕を過ごしながら、俺たちはぱっぱと朝食を取り、くもんさんが淹れてくれたコーヒーを頂いた後、片付けくらいはと男集で片づけや洗い物を済ませ、出発への準備を進めるのだった。






「じゃ、またLAで!」

「うん~~、楽しんできてね~~」

「くもんさんもお会いできてよかったです。ありがとうございました」

「会えて嬉しかったっす!」

「はは、今日は一緒に遊べなくてごめんだけどね。今後ともしずのこと、よろしくね」

「色々ありがとね~」

「楽しかったよ。また今度ね」

「お邪魔しました」

「ありがとうございましたっ」

「大阪来るときあったら言ってねっ」

「面白いネタできたら教えるなっ」


 ということで、出発の準備も整ったので、玄関先でわちゃわちゃと密集しながら俺たちはお世話になったジャックとくもんさんとそれぞれ挨拶を交わしていた。

 ロキロキなんかはくもんさんと握手してたけど、俺もくもんさんには色々とお世話になったので、しっかり感謝を告げるのも忘れない。


 でも玄関先でずっと集まってるのも近所迷惑だろうから、名残惜しい面もあるが二人を残し俺たちも出発。

 9人揃っていざ夢の国へ、ってね。


「エレベーターは8人乗りだっけ~?」

「んー、まぁ意外とプラス一人くらい乗れんじゃね?」

「とりあえず乗ってみるべ」

「うむ。ぶーってなったら、男に降りてもらうかー」


 そして先頭でぴょんとゆめ、大和が進み、俺たちはエレベーターホールへ向かい出す。

 3人の次にはだいと真実、ゆきむらが続き、最後尾は俺とあーすとロキロキね。

 もちろん俺が真ん中、って、もちろんってのも変な感じだけど、気づけばそのフォーメーションになっていた。

 

 ちなみにロキロキと俺が最後尾になったのは、家出る直前にロキロキがジャックとくもんさんと写真撮ろうとして、俺がそれを撮ってあげたから。

 ロキロキが写真を撮りたいってのを知ってた俺は、自撮りすんのも大変だろうから代わりに撮影役を買って出たのだ。

 あーすはその俺らを不思議そうに待ってたけど、みんなでの写真は何枚か宴会中にも撮ったりしてたからだろうな。


「ゼロさん写真あざっすっ」

「おう、あと8枚か?」

「そっすね!」

「あーすも今いるんだから、さっさと撮るか?」

「いやー、せっかく夢の国行くんすから、あーすさんとはそっちで撮るっす!」

「あれ……?」


 最後尾を歩きつつ、目的である写真を撮れて満足そうなロキロキと話す俺だったが、なぜかあーすとの写真は今じゃなくていいって答えが返ってきて、ちょっと変な感じなのは否めない。

 俺との写真だけ、場所不思議やんな。


「今日もみんな可愛いねー」

「そっすね! ゆめさんのピンク可愛いっすね!」

「だねー。あ、ロキロキも真似て女装してみたら?」

「いやー、俺そういう趣味はないっすよー」


 なんて、俺が少し不思議そうにしている間にあーすが前を行く女性陣の装いを楽しそうに見ながら話しかけてきたけど、そっか、ロキロキがゆめみたいな恰好するのは女装か。

 いやぁ、俺もロキロキを女って思わないようにしてるけど、あーすはほんと自然だなぁ……さすが。


 ちなみに天気予報で昨日も今日も大して天気が違わなかったからか、ほとんどのメンバーは昨日とだいたい同じような格好をしていた。

 なんていうか、みんな2Pプレイの時の色違い的な。


 俺は昨日着ていたTシャツだけを変えただけで、黒ズボンに英字の入った白地Tシャツの上から紺色のボタンシャツを羽織り、だいも昨日着ていたふわっとした青のワンピース姿から、少しウエストが細くなったシュッとした薄水色のワンピースに換装。

 真実も水色のブラウスが白になり、膝丈のスカートを合わせてる。

 ぴょんも昨日とは違う柄の黒Tシャツに、昨日と同じであろうハーフパンツ。

 大和も今日は黒のポロシャツにチェンジで、カップル揃って黒合わせって感じだな。

 あーすは……今日も派手にアロハシャツにデニム生地のハーフパンツか。

 ロキロキは俺とけっこう似てて、白無地のTシャツに青いボタンシャツを羽織り、下は昨日と同じジーンズ姿。でも今日はあれか、キャップはかぶってないんだな。


 で、ロキロキが可愛いって言ったゆめは、ピンクのオフショルワンピースで、腰のあたりのリボンが可愛い。


 でも俺の中でクリティカルヒットは、ゆきむらね。

 ちょっとレトロな雰囲気を漂わせる緑色のワンピースで、上半分には可愛らしい花の柄がちょこちょことあしらわれている。

 なんか、外国育ちの令嬢というか、そんな雰囲気で、まだ見慣れないことも相まってか、まだまだ新鮮な感じもあり正直めちゃくちゃ可愛い。

 いや、だいのシュッとしたワンピースも可愛いんだけど、やっぱり少しふわっとしてる方が可愛さを伝えてくる気がしてね……好みの問題だろうけど。

 でも今日も「似合ってますか?」って聞かれたら、「うん」って即答しちゃうレベルなのは間違いない。

 とはいえゆきむらにはまずは昨日の夜のこと確認しておきたいんだけどさ。

 変な誤解されてたらいやだし。


 とにかく、今日の俺たちはみんなそれぞれそんな恰好で、夢の国へと向かうのだった。






 そしてジャックんちからバスに乗り、電車を乗り継ぎ、舞浜にやってきたのは7時58分。

 チケットはここまでの道中にみんな電子チケットで購入したから、あとはゲートの方に進むだけだが……現地合流のあいつは……あ、いたいた。


「いやー、分かる奴が見たらすぐ分かりそうだなー」

「ん~、でも人いっぱいだし、大丈夫でしょ~」


 既にかなり多くの来園客でにぎわう舞浜駅改札の向こうで、こちらに向かって手を振る茶髪の女が一人。

 肩にフリルのついた開襟の水色ボタンシャツに、太腿を半分以上露わにしているベージュのショートパンツ姿にスニーカー。いつもと違うアクティブさを伝える恰好で、顔には変装用だろうレンズ大きめな伊達眼鏡。

 その眼鏡がアクティブさとちょっとギャップがあって、やっぱり可愛いなって思わざるを得ないんだけど、その姿は正直ぴょんが言う通り、セシルを知ってる奴には即バレしそうないでたちだった。

 いや、でもメイクとかはね、いつもの猫耳獣人状態に比べれば全然薄いんだけど、逆に素の良さが際立って、違う意味でも目を引きそう。


 そんな亜衣菜が、改札を抜けた俺たちの方に手を振りながら駆け寄ってきて――


「おはよっ! 楽しみすぎて15分前から待ってたよーっ」

「お待たせ」


 笑顔満開。真っ先にだいに抱き着きながら、だいもそんな亜衣菜に笑顔で答える。

 そんな光景にね、俺も悪い気はしないけど。


「昨日の作戦会議の結果、じゃんけんで班分けをすることになりました!」


 早速ぴょんが今日の動き方について切り出し、亜衣菜が「え?」みたいな顔を浮かべるではありませんか。

 たぶん全員でずっとわいわい動くと思ってたんだろうな、でもこれが俺たちのやり方なんだ。こうなった経緯は、班一緒になった奴に聞いてくれ。


「だいたい4時間刻みでまた集まって班変えてって感じで、3回班決める感じだって~」

「おー、なるほどっ」


 そしてゆめがぴょんの言葉を補足したけど、すぐにそれを受けいれた亜衣菜も、すっかり俺らに馴染んだってことなのかね。


 ということで、とりあえずまずは入場しようとゲートに進み、全員で園内に入って、迎えてくれたキャラクターたちを横目に、俺たちは円形にひと固まりとなって、いざ。


 希望とすればだいか真実とは同じ班になりたいけど、事前に打ち合わせるのはやっぱルール違反だからね。

 気持ちだけはと隣のだいに目配せをし、小さくにこっとしてくれただいと気持ちを通わせ――


「じゃんっ」


 俺の右手に気持ちを込めて――


「けんっ」


 だいの右手の気持ちを感じて――


「ぽんっ!」


 いざ! と気持ちを込めて、俺の気持ちを開放するように開いた手は……。


「おおっ、ハーレムきたーっ」

「おいおいあたしの前でそんな喜ぶのかよお前っ」

「横並びはあたしとゆめで乗ろうねっ」

「だね~。デートのお邪魔しないようにしなきゃ~」


 差し出した拳が一緒だったメンバーを見て喜ぶ大和にぎろっと睨みをいれるぴょんに、どちらも3人じゃなくてよかったとホッとしたような亜衣菜とゆめ。


「よろしくお願いしますっ」

「なんちゃってWデートだねっ」

「菜月さん一緒で嬉しいですっ」

「うん、一緒に楽しもうね」


 そして拳から2本だけ指を動かしたロキロキとあーすと真実とだい。


 ということで――


「すみません、来るのが初めてなので何も分かりませんが、よろしくお願いします」

「おう。ま、決まった以上楽しめるようにエスコートしてやるよ」


 残った二人、拳を開いたのは、俺とゆきむらのみ。

 正直俺と同じくパーを出したのが一人だった時点で、マジかよって思ったのは否めないけど、ここで嫌そうな顔を出すのはマナー違反だって分かってる。


 でもあれかね、さっき可愛いとか思い過ぎてたせいなのかね。


 同じ班になったということで、俺の隣にやってきたゆきむらが上目遣いに俺を見上げつつ、ぺこっと一礼した姿もその服装合わさって可愛らしいから、ちょっと悪い気もしなかったりなんだり。

 それにほら、ずっと二人ってわけじゃないしな。


 だから俺もそんなゆきむらに笑って応えるのみ。


「ゆっきーのことよろしくね」

「おうよ。だいは真実のことよろしくな」

「うん。……でも、午後は一緒なれるといいね」

「っ、お、おうっ」


 で、そんな俺とゆきむらを見ていただいが、そっと俺の方にやってきて、やっぱり一緒になれればよかったなって思うようなことを少し恥じらいながら言ってくる。

 ううむ、この恥じらい……好きです。

 ゆきむらも可愛いけれど、やっぱり心から可愛いってなるのはこいつだなぁ。なんつって。


「じゃ、12時くらいに真ん中の城の前で集合な!」


 で、そんなやり取りの間に各班は最初のルートを決めたようで、いざ出発。

 それとなく聞こえた話の感じだと、大和は結局ぴょんの希望に従うみたいだな。


 で、だいの班は真実が乗りたいって言った可愛らしいくまのアトラクションの方から行くらしい。


 じゃあ俺たちは……。


「とりあえず、混みそうなののファストパス取ってから、乗れそうな乗ってくか」

「ふぁすとぱす? ええと、ついていきますね」

「おう、はぐれんなよ?」

「善処します」


 今はファストパスもアプリで取れるとか、便利な時代だよね。

 事前にインストールしてた専用のアプリの使い方を指示してパスを取りつつ、同時に待ち時間もチェック。

 俺は「善処します」って答えるゆきむらに笑いながら、せっかくの初夢の国をエンジョイさせるべく、3班の中で最後になったが、まずは入口から見て対角線にあるジェットコースターのファストパスを取得してから、とりあえず時計回りに動くことに決定。


 はたから見たらデートにしか見えないだろうけど、考えようによっては昨日の夜のことを聞きやすい状況って思えばこれも何かの巡り合わせなのだろう。

 昨日から今までみたいにびっくりするようなこともしてこないゆきむらだし、うん、なんか今日はちょっと今までよりも気楽、かな。


 ということで。


「じゃ、行きますか」

「はい。お供します」


 ふわっと揺れる緑色のワンピース姿にやっぱり可愛いななんて思いつつ、俺はキョロキョロと非日常で彩られた園内を見回すゆきむらを引き連れ、いざ夢の国へと旅立つのだった。








―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 油断大敵、なんだと思うんですけどね……!


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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停中……!

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