第301話 夜、静寂、窓辺にて

 目を覚ませばそこには新しい一日の始まりを告げる柔らかな日差し。


 と、思いたいのに。

 

 聞こえる寝息。

 寝静まった夜。


 普段なら意識しない雑音が気になりだす静寂の中、眠れぬ俺。


 ……ぬぅ。

 床に雑魚寝って、思ったよりしんどいな……。

 

 大学1年の、まだ亜衣菜と付き合う前の頃とかに、友達の家で飲んでそのままみんなで床で雑魚寝って経験はないわけじゃないが、あの時はたぶん酔っぱらったまま寝たから何も気にならなかったんだろうけど。

 それに対して今日はさほど飲んだわけじゃないし……うん。素面って言っても過言じゃない。


 ただそれだけの差でこうも寝づらいとは……。


 そんな、なかなか寝付けない状態に俺が苦しんでいるというのに、右隣のあーすと、さらにその隣の大和はいびきこそかいてないが、ああ寝てるんだろうな、って呼吸音を発している。

 それにつられて俺も寝られたらどんなにいいだろうか。


 だが、寝よう寝ようと思えば思うほど、どうして目が冴えるのか。

 あれだな、眠くて眠くて、ベッドに移動して電気消した瞬間なんか眠くなくなることがたまにあるけど、そんな感じ。

 どうして空は青いのか、太陽は生まれたのかとか、考えたってしょうがないことを考えたりしちゃう、哲学タイム。

 いや、もちろん今日の振り返りとか、やっぱり笑ったあいつは可愛かったよな、なんてことも思ったりするんだけど。


 つまるところ、とりあえず俺は今寝たいのに寝れないという状態に苦しんでいるのだった。


 眠ろうと目を瞑るも、眠れる気がしない。

 そもそも人はどうやって寝るんだっけ?


 そうだ、ならあえて目を開けて、ぼんやりと天井でも見上げてみてはどうだろうか。

 

 今度はそう思って目を開き、ぼーっと天井を眺めるも……。


 そんな簡単に寝れたら苦労しない、か。


 たぶん枕の一つでもあれば違うのだろうけど……。


 ん? 枕?

 ……そうか。ちょっと明日の着替えでも畳んで敷いて、枕代わりにしてみるか。


 そう思って、俺が身体を起こすと――


「……なかなか寝付けないっすよねー……」


 ふと聞こえた、左隣からの声。

 もちろんそこに誰がいるかは、知っている。


「起きてたのか」

「っす。寝らんないんで、くもんさんとだいさんと話してた装備の組み合わせについて考えてたっす」

「ゲーマーだなぁ」


 何それちょっと興味深い。

 聞いてもわかんなさそうだけど。

 でもその答えに、俺は小さく笑うばかり。


 そういや大和とあーすは寝てるなって感じあったけど、反対隣のロキロキは、寝息って感じしてなかったもんな。


 俺が身体を起こしたことで声をかけてきたんだろうけど、俺は左隣から聞こえた囁くような声を耳にし、その声の主と同じように小さな声で返事を返した。


 それと同時に、ちらっと隣の様子を確認すると――


「まだソファーの方が休めそうじゃないっすか?」


 なんて言って、こっちを向いて笑いながらロキロキまで身体を起こすっていうね。

 

 ということで、暗順応により暗がりの中でもある程度見えるようになった視野を活かして。


「それも手だったか」


 と言って俺が立ち上がると、合わせてロキロキも立ち上がる。

 そしてそのまま、忍び足でそろそろとソファーへ移動し。


 ぼふっとな。


「やっぱこっちの方が背中楽っすねー」

「同意する」


 みんながいる時はなかなか空かなくて座れなかったソファーに座り、背を預けると柔らかなクッションが俺の背中を包み込む。

 さっきまでのカーペットとの差は言わずもがな。


 あれよな、ネカフェとかもフラットルームよりリクライニングチェアの方が寝やすかったりするし、そういうことなんだろう。

 もちろんそこはね、個人差あるだろうけど。


 ちなみに詰めれば4人くらいは座れそうな、テレビに対して向かい合う形のソファーの左端に俺、右端にロキロキが座っていて、床で眠る二人からは足を向けられてる状態ね。

 床の二人の頭がテレビ側でよかったよ。

 起きた時に頭のそばに人の足があったらやだろうし。


 そんなことを考えつつ、寝やすい体勢はどんなかな、ともぞもぞと身体を動かしていると。


「ゼロさんとだいさんって、どっちから告ったんすか?」


 移動したばっかりでさすがにまだ眠くないのだろう。

 俺が動いてるからか、ロキロキから小さな声での質問がやってきた。


 そういや、そこまで詳しくは話してないんだっけ。


「どっちからって言うと、一応向こうから……かな」


 別に隠すような話でもないから、俺はさらっと、懐かしい記憶を思い起こしながらロキロキに答える。

 すると。


「一応って……どういうことすか?」


 あ、気になったか。

 そんなことを思いながらふと隣を見ると、興味が沸いてしまったのか、端っこに座ったと思ってたロキロキは思ったより俺の近くにいた。

 とは言っても間に人0.5人分くらいのスペースはまだあるんだけど、そのくらいの距離なら暗くても表情が分かるくらいの近さだったので、ロキロキが純粋に不思議そうな顔をしてるのがよく分かる。


「俺も言おうと思ってたし、向こうに言われた直後、答える前に俺からも言ったんだ。好きです、って」

「なるほど。でも、先に言ったのはだいさんなんすね」

「まーそうな。そもそも俺は告白される時、あいつには他に好きな奴がいるって思ってたから、言いたくても言えなかったんだよ」

「そうなんすか?」

「おうよ。6年前から好きな人がいるって聞いてたからさ。それは俺のことだったみたいだけど。……でもさ、LAでフレなったのは7年前でも、リアルで初めて会ったのは3ヶ月くらい前だったわけだし、気づかんて」

「でもフレとして付き合ってて、こいつ俺のこと好きそうだな、とかなかったんすか?」

「ないない。そもそも俺あいつのことキャラ通りだと思ってたし」

「えー、あんな美人さんなのにっすか?」

「いや、それリアルで会わんとわからんだろ。マジわかんなかったんだって」

「鈍感っすねー」

「やかまし」


 と、俺が一通り俺とだいの話をしてやると、ロキロキはまさかー、みたいな感じで笑いながら、「鈍感っすね」って言った時には俺の肩を軽くバシッと叩いてきた。

 それを受け俺は苦笑いしかないんだけど。


「でも付き合えてよかったっすね」

「ん、まぁな」

「だいさんさっき、くもんさんにガンナーとの一番有効な連携ってありますか? って聞いてましたし、だいさんはゼロさんラブって感じっすよね」

「あ、そうなの?」

「最初はそこまで感じなかったっすけど、ゼロさんたちが風呂から戻ってきてからはご機嫌な感じですし……あ、なんかあったんすか?」

「ほう……まぁ、特にはなんもないさ。単純にくもんさんから話し聞けるのが嬉しかったから機嫌もよくなったんじゃないか?」

「そういうもんっすか?」


 で、俺を軽くいじったあとは、またいつもの感じのいい笑顔を浮かべるロキロキが俺とだいの仲について言ってきたけど、風呂前後の機嫌については、俺はあえてノーコメント。

 そもそも全て答えなきゃいけないなんてこともないしね。

 でも、やっぱりちょっとね、嬉しい話ではあるな。


「付き合ってからの写真とかないんすかっ?」

「え? いや……お前寝る気あんのかよ?」

「えー、いいじゃないっすか、どうせゼロさんもまだ眠くないでしょ?」

「まぁそうだけど」

「じゃあほら、見せてくださいよっ」

「あー、はいはい」


 時々ね、ちょっと声が大きくなったりもするから、その度に寝ている二人を起こしてしまわないかって心配もあるんだけど、とりあえず二人が起きる気配はなし。

 ということで、しょうがねぇなぁとは思いつつ俺も眠くないのは一緒なので、自分のカバンの方に置いてある、モバイルバッテリーで充電中のスマホを充電器ごと持ってきて、ロック解除。


「あ、ホーム画面はツーショットじゃないんすか?」

「そんな高校生みたいなことするかよ」

「でも、この猫可愛いっすね。ゼロさんのご実家とかの子っすか?」

「いや、この子はだいの実家の子。あいつが実家帰った時に写真送ってもらったからさ」

「ほうほう。そういう彼女との繋がり方なんすねっ」


 そしてロックを解除して表示された俺のスマホのホーム画面に写ってたのは、ひたすらに可愛いとしか言えないよもぎちゃんだいの愛猫

 で、その画面を覗き込むように眺めるロキロキ。

 さすがに我慢明るくしすぎるとブルーライトのせいで余計目が冴えそうだから、画面の明るさをそこそこ抑えた結果、正面ぎみにならないと見づらかったみたいでね、割と密着気味になったけど、まぁ気にしない。

 俺からすると顔のすぐ真下にロキロキの頭がある感じね。

 ただ、ふわっと香ってきた匂いは、俺の知らない香りだった。

 ジャックんちのシャンプーの匂いなんだろうか?


「で、カップルならではの写真はっ?」

「急ぐなって……ええと、付き合ってからだと、これかな」

「おおっ、夢の国行ったんすねっ。うわぁ、だいさん幸せそうっすねっ」


 付き合う前の一緒の写真もあるにはあるけど、猫カフェのはよくてもコスプレカラオケとかの写真はさすがに見せらんからね、とりあえず夏休み中にだいと行った夢の国でのキャラクターとの3ショット写真を見せると、ロキロキは楽しそうな声をあげてくれた。

 たしかにそこには満面の笑みを浮かべただい。俺なんか眼中に入らなくなるような、ほんともう女神かと言いたくなるような、そんな姿が写っていた。


「他には……」


 で、俺はロキロキの楽しそうな反応が嬉しくて、さらに何枚か写真をスライド。

 俺とのツーショットだけじゃなく、だいが楽しそうにしてたり、ご飯食べてるとこだったり、変な意味でなく彼氏にしか撮れないような写真を見せたりしてあげた。

 もちろん途中途中にはさ、LA関連の情報のスクショとか、他のみんなの写真とか、仕事関係の写真もあったりしたけど、俺の文化祭の写真なんかには吹き出しかけてたね。

 でもそれも、同業だからこそ理解を示してくれたけど。


「写真っていいっすよね。その時の気持ちとかも一緒に保存されてる気がして」

「あー、なんか分かるな」

「俺もせっかく皆さんに会えたんで、明日はいっぱい保存したいっすっ」

「だな。まぁどんな班なるかわかんねぇけどさ」

「あ、俺がだいさんと二人なったりしても恨まないでくださいよ?」

「それも時の運だろ」

「あははっ、そっすねっ」


 そして、一通り写真を眺め終わり、俺が画面を消して再び訪れた暗闇の中、ロキロキがちょっとだけ、ほんの少しだけ普段よりも落ち着かせたような声で、写真に対する自分の感覚を教えてくれた。

 友達多そうな性格してるのに、意外とそういう面もあるのかってね、少し意外だったんだけど、あえてそこに突っ込むほど俺も野暮じゃない。

 適当な感じでロキロキに合わせるのが、大人の対応だろう、ってな。


「あ、じゃあ記念すべき最初の一枚として今写真撮りましょーよっ」

「はあ?」


 冷静に、クールに、そんな対応してたつもりだったのに。

 まさか? と思うようなことを急に言われたもんでね、さすがにその言葉には俺も思わず理解不能って感じでね、聞き返しちゃったよね。


「こんな暗いとこで撮ったって意味ねーだろ?」

「あー、じゃあここでライトつけるのは悪いんで、ベランダ借りてっ」

「いや、明日でよくね?」

「あれっすよ、夜更かし仲間記念っすっ」

「いや謎い謎い」

「いや、俺決めたっす! みんなとそれぞれ写真撮るってっ」

「ねぇ聞いてる?」


 え、何この子!?

 どんな感覚なの!?

 

 状況が状況じゃなかったら、危うく大きい声でツッコミいれそうだったよね!!


「いいじゃないすか、友好の証にっ」

「いや、だとしても明日でよくねーか?」

「思い立ったが吉日っすよっ。ねっ、兄貴っ」


 いや、そこで兄貴使うなおい。

 でも深夜テンションなのかなぜかウキウキな感じのロキロキが俺の腕を掴んでくるではありませんか。

そんなロキロキを前に、俺は一度大きくため息をつく。


 スマホの画面を確認すれば既に時刻は25時27分。午前表記なら1時半くらいだってのに。


 でもこの上がったテンション見るに、撮らないと収まらないんだろうなぁ。

 うーん、変な奴め……。


「わかったわかった。撮ればいんだろ撮れば」

「そうこなくっちゃっ。あ、移動はお静かにお願いしますねっ」

「お前が言うなよ……」


 ということで、渋々って表現が最適解な気分で俺はソファーから立ち上がり、自分のスマホを取りに行ったロキロキと共にベランダに繋がる窓の方へ。

 そしてそろそろと窓を開き、置いてあったサンダルを無断でお借りしつつ、一時的に外に出る。


 しかしさすが8階。高えなー。


 眼下に広がる街並みには、基本的にポツリポツリとした灯りが見えないが、一際光ってるところは駅なのだろう、こんな時間でもその存在を主張していた。


 でも、やはり静か。

 物理的にも、音の発生源たちとは距離があるからかな。


「さすがにこの時間は涼しいっすねー」

「ま、冷える時間だしな。しかしそんな格好で寒くないのか?」

「大丈夫っすよ! スウェーデンに比べたら全然っす!」

「いや比較対象のスケールがでかすぎる」


 そして一緒にベランダに出た半袖姿のロキロキを心配した俺だったわけだが、ここは温帯の日本だぞ、とツッコミをいれたくなることを言われたのでその心配も取り越し苦労。

 

「じゃ、この夜景を背景に撮りましょっ」

「夜景……っていうにはちょっと寂しいけどな」

「くもんさんち記念っすからっ」


 いや、君はたしかにくもんさんリスペクトしてたからそうかもしれないけどね?

 俺からすれば、深夜に人んちのベランダでコソコソなんかしてる罪悪感の方が大きいぞ?


 だが、この時間を長く続けるのも変な話なので俺はさっさとことを済まそうとベランダの壁に背を向け、写真を撮られる準備を完了。

 そしてロキロキが肩を組んできたから、それに合わせて俺も肩に手を回して、ロキロキが構えるインカメに視線を送り——


 パシャって音がするのと、リビングと玄関側に繋がる廊下側との扉が開くのが見えたのは、ほぼ同時だった。


 そして開いた扉の奥の人影と目が合ったと思ったら——


 え?


「あざっすっ。これで思い出1つゲットっす!」


 インカメの画面ばっかりを見ていたからか、ロキロキは扉が開いたのには気づかなかったみたいだけど、俺は正直撮られた写真を見る気にならなかった。


 なぜなら……。


 扉開けたの、ゆきむらだったよな……?

 

 え、なんで?

 なんで今こっち来て、すぐ閉めてったの!?

 え、どういうこと!?

 俺とロキロキの姿見て、閉めたの!?


 俺と目、合ったよね!?

 え、幻? 幻覚?


 いや、いたよな……!?


「ゼロさんあれっすね、見た目よりけっこう筋肉あるんすねっ」


 そんな、実は見えたと思ったゆきむらは幻だったのではないかと疑う俺をよそに、肩を組むのをやめたロキロキが自然な感じで俺の上腕を触ってくるけど、正直俺は今見えたと思ったのがゆきむらだったのかどうかで頭がいっぱい。


 なのでロキロキに対してね、ちゃんとした返事は出来なかった。


「いいなぁ。俺ももっと筋肉欲しいなぁ」


 いや、ゲーマーのくせに何言ってんだ、と普通ならツッコミをいれるとこなのに、今はそれも能わず。

 だが、その後ずっと扉の方を見ていても、そこが再び開くことはなく。


 ……やっぱり見間違いだったのだろうか?


「じゃあゼロさんにも送っときますねっ」

「あ、おう」


 そう言って、日中の間にみんなとTalkの友達登録を済ませグループトークにも加わったロキロキは、手元のスマホを操作して俺の個人アカウントに写真を送っていた。

 

 まぁ見間違いかもしれないし、とりあえず考えても分からないことは、考えるのやめるか……。

 もし誰もいないのに扉開いたら、それはそれでホラーだし。


 時が静止したような一瞬、風呂上り後から着ていた白いTシャツとジーンズ姿の白い肌のゆきむらが見えた気はしたんだけど。

 

 とりあえず俺は一旦この思考を放棄し、送られてきた写真を確認。


 そこには、思ったよりもいい画質で、夜の街を背景にした俺とロキロキの姿が写っていた。

 短髪のロキロキはまるで少年のような爽やかな笑顔を浮かべていて、女顔の男にも見えなくはない。

 対する隣に写ってる俺は、シャッターを押す瞬間に扉の方を向いたから、微妙にカメラのレンズを見てなかったっぽいけど、レンズと扉の方向は一緒だったからか、ちょっと見るとこ間違えたかな? くらいの感じなので、特に違和感はなし。まぁ、笑顔ってわけじゃないけどさ。


「あ、そういや以前聞かれた俺の知り合いの女子ソフトの監督、学校分かりましたよ」

「え? ああ、そんな話もあったっけか」

「えー、ひどいっすね、自分でどこって聞いてきたくせに」

「いや、悪い悪い。で?」

「練馬商業って言ってたっすよ」

「え?」


 マジ?

 俺が扉の奥に見えた気がしたゆきむらについて考えることをやめ、送られてきた写真を眺めてる時にふと思い出したように話し出したロキロキの言葉に、俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。


「知ってる学校っすか?」


 そんな俺の反応の意味が分からなかったのだろう、ロキロキは不思議そうな顔を浮かべて俺の顔を見てきたけど。

 知ってるも何もさ。


「そこ、俺の前任校」

「え、そうなんすかっ」


 そう、練馬商業は俺が初めて教員となって4年間勤め、4年間監督を務めた女子ソフトボール部がある学校だ。

 ううむ、懐かしい。


「2年前までな。俺の後任の監督は俺が主顧問の時の副顧問の先生だったはずだけど、あの人は経験者じゃなかったから、出来る人来たってことで初任だけど主になったのか」

「世の中狭いっすねっ。じゃあもし練習試合とか組みたかったら、俺間に入りますよっ」

「そうな、その機会があったら頼むわ」

「うすっ。やよもまだ都立に知り合い少ないでしょうから、知り合い増えるならいいかもっすね!」

「やよ?」

「あ、俺の知り合いの名前っす。佐竹弥生さたけやよいって言って、2年間輝千学園で働いてたんで、今年25歳かな?」

「女の先生なのか」

「そっすよ。しかもですね、あいつもLAやってんすよっ」

「え、マジ?」

「そっす! さらにやよも01サーバーだから、俺が移転して来た時に一緒に【Teachers】入らないかって話はしましたけど、そこはフラれちゃいましたっ」

「まぁうちに入ると職業バレするからな。そこは個人の感覚だろうけど……名前は?」

「〈Ciderサイダー〉っす。知ってます?」

「いや、知らないな」

「どこのギルド入ってるかは知らないっすけど、たしかメインはアーチャーだったかな?」

「ほう。珍しい」

「弓はカッコいい、ってよく言ってたっすよ」

「でも、攻撃力あんま高くないじゃん?」

「そこは通常の速射性と消費MPの少なさでカバーなんじゃないすか?」

「まぁそうな。好きにやるのが一番か」

「そっすねっ」


 とまぁ、まさかその知り合いが俺の前任校で、俺の次の次の女ソフの監督とは驚きだったけど、さらにLA仲間なんてね、もうなんかこの情報にはびっくりを通り越した、って感じだね。

 

 ちなみにガンナーとアーチャーは同型の遠隔攻撃タイプだけど、細かい違いはもちろんある。

 うちだとあーすが弓使うけど、弓は正直全武器の中で一番不遇、ってイメージが強い。

 俺とロキロキが話した通り、強みは銃と同じく敵の攻撃範囲外から攻撃できることと、銃よりも通常攻撃の速射性が高いことと、各攻撃スキルの消費MPが少ないこと。逆に弱味は、ターゲットマークが小さいため命中性が銃より低く、何より攻撃力が低いこと。

 そんな武器なのだ。

 なのであの廃人の亜衣菜もね、銃と比べちゃうから弓はあんまりやらないって言ってるんだよな。

 もちろんタゲマ慣れすれば、銃よりも構えて撃つ、さらにまた構えるまでの間隔が短いから、好きな人は好きなんだろうけど。


 ま、人の好みに口出しするようなことは無意味だからな。

 結局はやりたいことやるのが一番だろう。


「今度LAで会ったらゼロさんのこと紹介しときます?」

「いや、いいよ。もし大会で当たったりしたら、それはそれでやりづらいだろうし。縁があれば、ってことで」

「なるほど、了解っす」

「じゃ、もう2時じゃん? さすがに寝ようぜ」

「うすっ。お付き合いあざしたっ」

「明日もみんなとの写真頑張れよ」


 ということで、何だかんだ写真撮るよりも話をしてる時間が長かったが、俺とロキロキはまたベランダに来た時同様、そーっと部屋の中に戻りつつ、すやすやと眠る大和あーすを起こさないように、再度ソファーにその身を預けた。


 もちろん最初に座った時同様、俺とロキロキの距離はソファーの端と端、ね。


「おやすみなさいっす」

「おう、おやすみ」


 そして聞こえた、ちょっと眠そうな声。

 その声を聞いて、なんだか俺にもその眠気が移ってきたような、そんな気がした。


 まぁ、弟分ってこんな感じなのかね。

 でもやっぱり、さっき見えた気がしたゆきむらは……ううむ、明日聞いてみようかな。

 リビングなんて行ってませんよ、って言われたらちょっと怖いけど。


 とりあえず、全部明日、ってもう今日だけど、起きてから、だな。


 そんなことを考えつつ、俺はようやく訪れてくれた睡魔に身を預け、そういやこうやって人は眠るんだよなぁ、なんて思いながら、翌朝の光の訪れを、今度こそちゃんと待つのだった。









―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 情報統合思念体、ではないと思います。笑


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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停中……!

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