第300話 明日もきっといい日になれ
「たっだいまー!」
「おかえり~~」
23時より少し手前、俺たちは再びジャックの家に戻って来た。
で、元気よく声を上げたぴょんを先頭に、家の中に戻る俺たちを迎えてくれたのは風呂上がり感あるラフな格好になったジャックのみ。
ロキロキあたりが「おかえりっす!」って言ってきそうな気がしたんだけど、その元気な声がなかったのは、どうしたんだろうか?
あ、ちなみに銭湯からの帰路は、俺は仲良くだいと並んで歩いたからね。
前を行くみんなからちょっと、ほんのちょっとだけ距離を置いた最後尾を、ゆっくりと。
特に何か話したってわけでもなく、他愛ない会話しかなかったけど、うん、落ち着く時間でしたよ、と。
「ロキロキとくもんさんは~?」
「今くもんがログインしてるからね、くもんの部屋にいるよ~~」
ほうほう、となると……。
「だいも行ってきたら?」
「いいの?」
「いいのって、こんな機会そうそうないだろ。くもんさんの装備とか見せてもらっておいで」
「うん、わかった」
だいと話す前の俺なら、すっとこんなこと言えたか分からないけど、今はもう平気だから。
それに何より、だいにとってくもんさんとLAの話をするのは、今回のオフ会の中でも楽しみだったろうからな。ロキロキも相当に知識豊富だけど、そのロキロキをも凌ぐのがくもんさんだろうし、今日の勉強は相当にタメになるだろう。
ということで、ぴょんたちみんなが先にリビングの方に戻る中、律儀に俺に許可をもらっただいは、ジャックに案内されて少し嬉しそうにくもんさんの部屋へ移動していった。
ああいう姿見ると、やっぱあいつもゲーマーなんだなぁって思うね。
「一件落着~?」
「そうだな。うん、色々ありがとな」
「そかそか。どういたしまして~」
で、だいを見送りがてら玄関先に残ってた俺だったわけだが、一緒に残っていたゆめもやはり色々気にかけてくれていたのだろう、みんなが先に行ったあと、少しニヤニヤした感じで俺にそう言ってきた。
ほんとね、くもんさんが北に足向けて寝られないように、俺も横浜方面には足向けらんねぇな。
「ゆめ! ゼロやん! 飲み直すぞー!」
「は~い、でも明日も一日遊ぶんだからほどほどにだよ~?」
と、俺がゆめと話していると、早くも先にいったぴょんから俺たちを呼ぶ声が。
その声に応えてね、俺もゆめもリビングに移動して、宴会の続きに参加するのだった。
「片付けありがとね~」
「いえいえ~~。ロキロキがたくさん動いてくれたから助かったよ~~」
「いやー、でもほんと住みやすい街だなー」
「でしょ〜〜? 他のとこ住んだことあるわけじゃないけど、あたしはこの街が好きだな〜〜」
「都心もアクセス悪くないもんねー。うーん、僕ももしこっち戻るなら、この辺にしようかなー」
そんな感じののんびりした会話の中再開した宴会後半は、とりあえずリビングのテーブルを囲んで車座の形で始まった。
MAX12人いたメンバーも、1人帰宅に3人が別室なので8人に。なのでなんとかテーブル囲めてる、って感じ。
とはいえ、酒を飲んでるのはオーバー27メンバーのみで、ぴょんはもちろんのこと、俺、大和、ジャックの4人のみ。残りの4人はお茶だったりノンアルコールでおしゃべりに興じてるようである。
というかあれだな、真実のやつとか、すでにちょっと眠そうじゃんな。
「ぴょんはいつからせんかんのこと好きだったのっ?」
「おいおい、その話はもう先週終わったぞー?」
「えー、だって僕はいなかったじゃーんっ。せんかんは? いつ好きになったのー?」
「話したいくせに〜」
そんな、俺がうつらうつらなりかけてる妹に気を取られてると、さっきまで全然違う話をしていたと思ったあーすがぴょんと大和へアタック開始。
それを受けて口ではめんどくさがってるものの、ゆめの言う通り聞かれたぴょんは満更でもなさそう。
そしてあれだな、大和もそんなぴょんを見て、悪い気はしてないって感じなんだろうな。
ということであーすの質問に答える形で、ぴょんと大和とあーす、それにゆめを加えた4人会話がスタート。
でもあいつらの惚気チックな会話は、他のメンバーは既に聞いてたから。
「いっちゃん眠そうですね」
「そんなことないよー……」
「いや、半分寝てんだろ」
「寝かせてあげよっか〜〜」
俺らは俺らで、眠そうな真実を中心に。
で、寝かせてあげようって言ったジャックが席を立って、おそらく寝室の方からだろう、持ってきたのは夏用ではなさそうな掛け布団、だった。
「こんなのしかなくてごめんね〜〜。とりあえずこの上に横になってもらってていいかな〜〜?」
「いやいや、ありがたいって。しかもこの布団、たぶん今日までしまってたやつだろ? 引っ張り出させちゃってごめんな。……ほれ、お前はこっちだぞー、っと」
「ふにゃ〜〜……」
時期が時期だし、収納されていたに違いない布団の登場に俺はジャックへ礼を言いつつ、とりあえず真実をお姫様抱っこしてその布団の上に移動させる。
場所的にはリビングにあるソファーの裏側、テーブルとかテレビとは反対側って感じね。
もちろん電気はついてるし、みんなも静かなわけじゃないけど、横にしてやった真実は疲れがあったのか、俺が運んでる時はまだ多少意識があったものの、あっという間に動かなくなった。
ま、明日元気に遊ぶためにはね、早寝は大切だもんな。
「お〜〜、いいお兄ちゃんしてるね〜〜」
「いやー、さすがに幼すぎると思うけどな、こいつは」
「甘やかしてくれる人がいたからじゃないの~~?」
「う……いまいちそれは否定できないけど……」
で、横になった真実を見ながら、俺はジャックとゆきむらと、その周辺に着席。
そんな中でね、ジャックが真実の幼さの原因は俺だろ、と冷やかしてくるわけだが、一概にもそれは否定できないのも事実。
年の差は4つだけど、小さい頃からいつも俺の後ろついてくるような子だったし……そんな姿が可愛くなかったわけでもない。
「仲が良いのはいいことですね」
「あたしは一人っ子だから羨ましいや~~」
「ふむ。でもジャックはもう家族増えたじゃん?」
「うん~~、同棲始めたのは最近ってわけでもないけど、やっぱ一人より二人の方が、色々安心だし楽しいよ~~」
「改めてご結婚おめでとうございますね」
「あはは、ありがと~~」
なぁんて、寝てる子どもを見ながらってわけでもないのに、俺たちは俺たちでなんとも朗らかな会話をしちゃったり。
でも、こんな会話も普段じゃなかなかできないしな。
たまにはいいか。
「じゃ、あたしらも飲もうか~~」
「ん、そだな」
「お付き合いします」
とはいえ、飲み物はテーブルの方に残したままだし、眠ってる妹を起こすわけにもいかない。
ということで俺らもジャックの言葉に従い、先ほどからやいやいと盛り上がってるぴょんたちの方へ移動。
するや否や――
「だからさ、まずは絶叫系から行くに決まってんだろー」
「えー、苦手な子もいるかもしんないじゃーん。しかもそういうのはすごい混んでるだろうし、僕はゆったり出来る系の中心がいいなー」
「いやショーとかパレード見るのは捨てがたいだろ」
「ん~、あたしはぴょんに賛成かな~」
と、あれ? 君たち大和とぴょんの経緯を話してたんじゃなかったの? と思わずにはいられない話題で盛り上がっているではありませんか。
パッと聞いた限りだと、絶叫系中心か、ゆったり座ってみるのを中心に回るか、ショーやパレードを見たい派、って感じ?
でも意外だな大和くん。君そういうの好きだったんだね……。
「あっ、ゆっきーは明日乗りたいのあるー?」
「え、私は今まで行ったことがないので、分かりません……。そもそも遊園地自体も、ほとんど行った記憶がないですし」
「えっ、そうなのっ?」
「となると、これはやはり夢の国ならではのショーやパレードを――」
「いやいや、だからこそ絶叫系だろー」
「ジェットコースターなら富士山の方のでも乗れるじゃーん」
で、そっちに合流するや埒があかないと判断したのか、あーすがゆきむらに乗りたい乗り物を尋ねるも、聞かれた本人ははてな顔。
まぁね、行ったことないとこじゃそうなるよね。
「ゼロやんは乗りたいのある~?」
「んー、俺は真実が乗りたいの優先できればいいかな」
「おーおー、いい兄貴だなー」
「となると、明日いっちゃんにプレゼンするしかないか」
「いや、あれだな!」
で、ゆきむらに代わって今度は俺にもゆめから質問がきたけど、俺の答えは今言った通り。
正直夏休み中にだいと行ったし、その時に色々乗ったからね、明日は俺の希望なんか気にしてもらわなくていいのだ。
そもそも、何乗りたいってのも特にないしな。
……キャストの恰好が可愛いお化け屋敷チックなのに行くか、この前だいに負けた射的はやりたいけど。
で、そんな俺の答えを聞いた大和が明日の朝に真実にプレゼンするって意気込んだけど、それを遮る女が一人。
そして高らかな宣言をしたぴょんへ、全員の視線が集まると――
「じゃんけんで班分け一発勝負すっか!」
「え~?」
「一発勝負は危険じゃないー? 僕とぴょんかなっちゃんが二人とかなったら、さすがに二人に申し訳ないよー」
「ソロなったら目も当てられねーな!」
ぴょんから発せられたのは、宇都宮オフの時に2台の車のどちらに乗るかで決めた時のような、じゃんけんを使った班分け宣言だった。
でも、さっそくそれを聞いたメンバーたちから上がる不満の声。
大和の言うぼっちになったら悲しすぎるし、俺もあーすの言うことには正直賛成。
10人で分かれるんだから、ソロや二人ペアになる確率は低いとはいえ……俺や大和が彼女以外の女子と二人になるとか、色々リスキーすぎるだろ。
特に明日は亜衣菜もいるしね、亜衣菜と二人とか、辛すぎる。
「んー、さすがに誰か一人だったらやり直すかー」
「いや、二人もきつくない~~?」
「くじ引きで3・3・4は~?」
「いやいや、ゼロやんとだいと3人なるとか、あたしはその方が気まずいって」
「あー……それも気まずいね、たしかに……」
で、彼氏だからかは分からないが、大和の意見だけは聞き入れつつも、どうやら我らが仕切り役のぴょんはペアについてはやむを得ない、という考えをお持ちのようで。
たしかに俺も大和とぴょんに割り込むのは、なんか申し訳ない気がするけど……。
「素直にぴょん、大和、あーすが班長的に、行きたいやつのグループに行きゃいいんじゃないのか?」
ということで、僭越ながら俺も意見を表明すると――
「それはダメだ」
ばっさりと切り捨てられる俺の意見。
「なんでだよ?」
一も二もなく切り捨てられたからね、さすがに俺もそれに言い返すが。
「ゼロやんはいっちゃんが行くとこにいくだろ?」
「まぁ、うん」
「となると、そこにだいとゆっきーとセシルもいくだろ?」
「いやゆきむらと亜衣菜は――」
「いきますね」
「え?」
「そしたらそれだけで5人じゃん? で、もしいっちゃんがあたしのとこ選んだらさ、ゆめもいるわけだから全女子メンバーがそこじゃん? そうなるとゼロやんのスーパーハーレムじゃん? しかもせんかんとあーすのどっちかぼっちだぞ?」
「……そうやって聞くと倫が腹立たしいな」
「いやいや!?」
だいは分かるとして、ゆきむらと亜衣菜は別だろって思ったのに、ゆきむらがぴょんの意見に同意したせいで、完膚なきまでに論破された俺の意見。
その上大和に至っては想像上でヘイト高めちゃってるしね!
「ゼロやんは男の敵だなー」
そんな論破されて慌てる俺に、笑いかけるあーすはいつも通りだけど。
「ロキロキも絶叫系好きだったらせんかんとあーすはぼっちで、ゼロやんは傍から見たら何あいつ状態だね~~」
ジャックまでその状態に笑ってくる始末。
……ううむ、やはり希望制は無理か……?
「呼びました!? 何の話っすか!?」
「おっ、ちょうどいいとこに!」
と、俺が明日の班分けに苦悩していると、自分の名前が出たとこが聞こえたのか、ちょうどよくくもんさんの部屋から出てきたロキロキとだいの姿が。
くもんさんは出てきてないみたいだけど。
「ロキロキは明日乗りたいのあるか?」
「俺っすか? そっすね、俺絶叫系好きっすよ!」
「だいは明日乗りたいのある~?」
「私は真実ちゃんと一緒に遊べればいいなって思ってたけど」
「はい! ということでゼロやんの意見は却下決定です!」
「え、えっと、どういう流れっすか?」
「うん、全然分からないけど……」
「明日の班分けについて話してたんだよー」
やってきた二人に対し、大和がロキロキへ、ゆめがだいへそれぞれ尋ねたところ、なんともまぁ予想通りすぎる答えが返って来たので、ぴょんの言う通り俺の意見の却下が決定。
聞かれた側の二人はそりゃよく分からないだろうけど、うん。これはもう抗えないな。
「明日の班分けは、グー・チョキ・パーの一発勝負な!」
「2班でもいいんじゃないのー?」
「いや、ここはあえて3班で!」
「でもそれじゃ、さっき言ってたリスクの確率上がるんじゃ……?」
で、わけの分かってない二人を置き去りに下されたぴょんの決定。
それに対しあーすと俺は少し食い下がり、なりたくない班があることを訴えるが――
「ハイリスクハイリターンなんだよね~?」
まとめきった! みたいなドヤ顔を浮かべるぴょんへ、ニヤニヤした顔でゆめが一言。
でも、それどういう意味だ……?
「3班の方が、デートになる確率上がるもんね~?」
「お、おいっ!?」
あ、なーるほど……。
そしてゆめの含みを持った言い方に、ぴょんは一転して顔を赤くして言い返すが、時すでに遅し。
ゆめの言った言葉の意味を理解した奴らは、俺含めてみんな慌てるぴょんへ
「ズルはダメだよー?」
「し、しねぇよ!」
「ははっ、ま、明日はみんなでの遊びなんだ、公平な勝負といこうぜ? 倫たちもズルすんなよ?」
「分かってるよ」
で、ゆめの言葉を受けてあーすが楽しそうにぴょんへ
ま、俺らは行こうと思えば行ける距離に住んでるんだし、そんなつもりもなかったけどね。
「でも終日同じメンバーだとあれだから、途中途中で班チェンジもしよっか~」
「そうだねっ。その方が色んな子と遊べるねっ」
で、気づけば仕切り役はぴょんからゆめへ変わるっていうね。
いやぁ、大和っていう弱点が出来たぴょんは脆いもんですなぁ。
「えっと、つまり明日は全員で動かないで、班分けするってことっすよね?」
「そだよ~」
「そうね。10人でご飯食べるとなると、席空いてるか分からないもんね」
「……まずそこに頭がいくお前、さすがだな」
「べ、別にいいでしょっ」
ということで、ロキロキとだいも話を理解したようで、これにて一件落着。
すぐ食べ物のことに頭がいくだいに、俺は笑っちゃったけど。
「楽しみだねっ」
「明日は開園から乗り込むからなー、寝坊すんなよ!」
「じゃ、宴もたけなわですが、そろそろ就寝準備しよっか~~」
で、あーすが締めた感じの流れを何とか持ち直したぴょんが奪い取り、ジャックがそろそろ寝ようかって言ってきたのでね、俺らはてきぱきと宴会の片付けを開始。
その間に女性陣はジャックの部屋で寝ることに決まったので、そっちの準備も完了したみたい。で、さすがに女性の部屋には入れないから、真実はぴょんとだいに運んでもらいましたとさ。
ちなみにあれね、布団の数は2枚ってことなので、そこは2枚とも女性陣に渡したから、俺たち男集は文字通りリビングの床で雑魚寝って感じみたいです。
ま、今さらそこに反論を言うような俺たちじゃないしな。
しかし、こういう片付けやら手際の良さはね、普段指導してる側だから、やっぱ早いね、俺たち。
「じゃ、寝るぞー!」
「おやすみ~」
「おやすみなさい」
「また明日ね」
「おやすみねっ」
「おやすみなさいっす!」
「おーう」
「おやすみ」
「ごゆっくり~~」
ということで、みんなでわちゃわちゃと歯磨きしてから、女性陣がジャックの部屋の方へ行き、男たちはリビングに残留。
ジャックは電気を消したあと、くもんさんの部屋に行ったみたいだけど、まぁくもんさんには明日の朝また挨拶はできるか。
だいとロキロキがどんな教えをもらったのか、ちょっと気になるけど、それも明日にするってことで。
「楽しかったねー」
「はいっ! 社会人なってからこんな楽しい日、初めてっすよ!」
「ほんと、不思議な縁だよなぁ」
「ま、明日も楽しもうぜ?」
そしてリビングのテーブルをどかし、カーペットを背に大和、あーす、俺、ロキロキと川の字+1本の陣形になった俺たちも、最初こそあれこれ会話を続けたが、それも次第に消えていき。
ジャックんちを舞台にしたオフ会の夜は、みんなの寝息と共に更けていくのだった。
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
班次第では地獄なのは否めませんね。
しかし、気づけば300話ですって……恐ろしい……!
(宣伝)
本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます