第296話 何だかんだの縁続き
18時半ころからスタートした宴会も、気づけば90分ほどが経過した20時頃、居酒屋の飲み放題だったらラストオーダーを聞かれそうなタイミングで――
「っと、あたしはそろそろ帰らないとだー。うう、もうちょっと居たかったなー」
「あっ、もうそんな時間ですか?」
「早いなー。でもまた明日も遊べるねっ」
「明日もお待ちしてますね」
ちらっと時計を気にした亜衣菜の発言に、何だかんだダイニングテーブルの椅子に腰かけのんびり食事とおしゃべりを続けていたメンバーたちが反応。
そして一足先に帰らねばならぬ亜衣菜が席を立つと。
「じゃあ車出すよ。駅まで送るから」
「えっ、くもちんいいのっ?」
「もちろん。俺はお酒飲んでないし」
「やったっ。ありがとーっ」
合わせてダイニング側にいたくもんさんが席を立つ。
たしかにくもんさんはお酒飲んでなかったけど、このためだったのか、それとも単純にお酒が飲めないのかはわかんないけど、送ってもらえることが分かった亜衣菜は、少し赤くなった顔に相変わらずの笑顔を浮かべ、くもんさんにお礼を言っていた。
ちなみに立食で食事するのもさすがに疲れたからか、宴会スタートから4,50分ほどでメンバーはダイニングとリビングとで半々になっていた。
ダイニング側にいたのは俺、くもんさん、亜衣菜、真実、ゆきむら、あーすの6人で、残りのメンバーがリビング側。
料理の大半はダイニングのテーブルにあったから、時折だいに頼まれてリビング側に運んだして「はいよ」、「ありがと」なんてくだりがあったから、全くだいと話をしなかったわけじゃないけど、ちゃんとした会話はなかった感じ。
向こう側はだいを中心とする料理トークや、ジャックの新婚旅行の話、ロキロキの海外生活の話なんかで盛り上がってて聞きたかったのもあったけど、こっちはこっちでくもんさんと亜衣菜を中心とした【Vinchitore】トーク、あーすの大阪の話、そして俺と真実の兄妹の思い出なんかが話題になってたから、何となく抜けづらくてね、座った後は結局ずっとメンバーの入れ替えがなかったのだ。
でも今日は珍しく誰も飛ばして飲んだりする奴もいなかったから、終始和やかって感じで、いい宴会だったと思う。いつもこうならいいんだが。
って、亜衣菜が帰ってもまだ宴会は続くと思うけど、とか、そんなことを思っていると。
「じゃあ、くもちんが帰り一人だと可哀想だから、りんりん一緒についてきてー」
「え、なんで俺?」
「えー、いいじゃんっ。女の子と帰り二人じゃくもちんも気まずいかもしれないし?」
「いや、ならジャックでいいだろ?」
「いやいや、さすがに家主二人とも不在はダメでしょー」
「ううむ……」
「お兄ちゃん行ってあげればいいじゃーん」
「そうだよー、ゼロやんご指名なんだから行ってあげなよー」
「あー、わかったわかった」
まさかの亜衣菜の同行依頼に、それをバックアップする真実とあーす。
しょうがねぇな、と思いつつ俺も席を立ったところで。
「あ、亜衣菜さん帰るの?」
「うんー。残念だけどまた明日っ。くもちんが駅まで送ってくれるって言うからお言葉に甘えるけど、帰りくもちん一人なっちゃうから、菜月ちゃん、ちょっとだけりんりん借りていいー?」
「あ、うん。どうぞ」
ダイニング側の動きに気づいただいが亜衣菜に向かって声をかけ、それに答えた亜衣菜が俺についてきてもらいたい旨をだいに伝えると、あっさりと下される彼女の了承。
……いや、まぁだいと亜衣菜は友達だし、断らないとはね、思ってたけどね……。うん、これは俺への信頼があるから。そうに違いないのさ。
で、そんなやり取りがあったから、ダイニング側のメンバーも時計を見たり、こちら側を気にしたところで。
「じゃあ一旦中断ってことで、みんなはお風呂行って来たら~~? さっきのスーパーからもうちょっと行ったところにスーパー銭湯あるからさ~~」
「えっ、マジ!? いいねっ!」
「たしかにみんなで順番にお風呂借りてたら、すごい時間かかっちゃうもんね~」
ジャックから銭湯に行ってきたらという案が提出され、ぴょんとゆめがナイスアイディアと言わんばかりの反応を示す。
たしかに順番に風呂をローテーションするのも大変だし、今日はみんなそんな深酒してる奴もいないから、銭湯があるなら行ってもいいとは俺も思う。
あ、でも。
「あたしはロキロキと片付けしてるよ~~」
「あっ、はいっ! 俺も片付け手伝うっす!」
さすがに銭湯とかね、本人が男だと自認してても、見知らぬ人からすればそれは理解できるものではないだろうから、ジャックの提案にちょっとどうしようという不安そうな色を浮かべてたロキロキへ、すぐさまジャックの救援の手が差し伸べられ、ロキロキの表情に笑顔が戻る。
片付けの相方として指名された方がロキロキも気楽だろうし、見事な気遣いだったな。
「じゃあ、俺はセシルを送ったらゼロくんを直接つれてくね」
「あ、ありがとうございます」
「うしっ、じゃあその流れでいくか!」
ということで、ぴょんの言葉を契機に元々身軽だった亜衣菜と、おそらく銭湯には行かないであろうくもんさん、家に残るジャックとロキロキ以外が着替えやらの荷物を用意し始める。
しかしほんと、ぴょんを頂点とする指揮系統がしっかりしてきたなぁ、俺たちも。
で、その決定から2,3分後。
「場所はぴょんに送っといたけど、スーパーからも看板見えたと思うよ~~。困ったら電話してね~~」
「おー、さんきゅ! 戻ってきたらまた
「行ってらっしゃいっす! セシルさんはまた明日!」
「おうっ。ロキくんまた明日ねっ。ジャックも会えてよかったよー。また遊ぼっ」
「こちらこそ~~。
家に残るジャックとロキロキへ亜衣菜が挨拶し、他のみんなも「行ってきます」をして、俺たちはジャックんちの玄関から出発。
で、エレベーターのところまで移動し。
「8人乗りかー。あたしら次ので行くから、ゼロやんたち先に降りていいぞー」
「分かった。じゃあまたあとでな」
「今日はすっごい楽しかったっ! 明日も楽しみにしてるねっ」
「じゃあまたあとでね」
「亜衣菜さんのことよろしくね」
「おうよ」
ぴょんの言う通りエレベーターが8人乗りだったので、10人での移動となった俺たちは銭湯に行く7人を残し、先に亜衣菜を送る俺とくもんさんでエレベーターに乗り駐車場へと向かうことに。
とりあえず一旦のお別れに、みんなそれぞれに亜衣菜に向かって笑顔で「バイバイ」をしたわけだが、だいだけはなんか、やっぱ過保護感が否めない様子だったのには俺は苦笑いかな。
亜衣菜よりお前の方が年下なんだぞってね、やっぱり思っちゃうよね。
「こんな大人数で遊んだの初めてで楽しかったなー」
「だね。俺もこんな大人数は初めてだったよ」
「あ、そうなんすか?」
そんな、3人で駐車場へと向かうエレベーターの中で、自然なトーンで聞こえてきた亜衣菜とくもんさんの言葉たち。
高校時代までの亜衣菜のことはよく知らないけど、たしかに大学時代に亜衣菜が大人数でのなんかに参加してるって俺の記憶にはないけど、くもんさんだったとは、社交的な雰囲気なだけに意外である。
ちなみに俺はね、学生時代のサークル仲間や同じゼミ、学科の仲間と集まって飲むこともあったし、今も職場の飲み会もあるから、人数に何か思うことはなかったけど……まぁ二人の仕事考えたら、こういう機会はなさそうか。
「ほんと、いいギルドだね。【Teachers】は。しずが楽しそうにしてるのもよく分かったよ」
「そっすね。職業柄もあるかもしんないすけど、みんな優しいなって思います」
「うちらなんてねー、幹部会は淡々としてるし、たまに喧嘩するよねー」
「喧嘩って……あれは一応意見交換のはずなんだけどね」
「そうなんすか?」
そして【Teachers】が褒められて、俺もまんざらではない気持ちになっていたところ、予想外にも【Vinchitore】の幹部たちがよく喧嘩してるって亜衣菜の言葉が出てきて、俺はちょっと意外ですって顔を浮かべた。
でも、あれか。もぶくんとかあの辺が揉めるのかな――
「目下は秋のPvPに向けた
「え、そこで? でも推奨されてるって話ですよね?」
「んー、
「そこは俺も意外だったなぁ」
「ほうほう」
「リチャードはお義姉ちゃん除けば、LAでお兄ちゃんと一番付き合い長い右腕役だからさ、お兄ちゃんに反対意見出すなんてまさかって感じだよー」
「ふむ……まぁ意外とうちのギルドみたいに、キャラと中身で性別一致してないのかもよ?」
「いやー、さすがにリチャードは男だと思うよー? トイレとかほら、戻ってくるの早いし?」
「いやそこで判断してんのかよ。……まぁ、そこはたしかに分かりやすいとこではあるけど」
俺もね、だいに昔言ってしまったことあるらしいしね!
しかし〈Semimaru〉さんと〈Richard〉さんか、ほとんど話したことないけど、なんかあんのかなー。
「もちろん吃音で喋りたくないとかさ、言いたくない事情があるかもしれないから、結局無理強いはしないってとこで話はついたんだけどね」
「りんりんたちはいいね、みんなリアル知り合いなら、何のハードルもないもんねー」
「まぁ、うちはそうだな。前は『俺』って自称してた奴らも、今じゃみんな何も隠さなくなったしな」
ま、よそはよそ、うちはうち。
この辺についてはたしかに俺らは有利、か。
とまぁそんな話をしつつ、エレベーターが到着したので俺らはくもんさんを先頭に、駐車場へ移動開始。
で、くもんさんの愛車である白いハイブリッドカーに案内され、亜衣菜が迷うことなく後部座席に着席し、俺に「りんりんこっちね!」なんて隣に座れと促すので、それに従い俺も亜衣菜の隣に着席した。
「じゃ、いこっか」
「お願いしまーすっ」
そしてくもんさんがエンジンをかけ、運転開始。
……いやぁ、やっぱ車っていいな。
俺も買ったら、だいと色んなとこ行きやすくなるかな……って、普段そんな乗ることなさそうだけど。
とりあえず一緒に暮らすとか、そういう風になってから考えるかなー。
俺は密かにそんなことも思いつつ、車内で亜衣菜の今日の楽しかった思い出なんかを聞きながら、俺たちはすっかり暗くなった街並みを進むのだった。
「じゃあ、またLAで」
「うんっ、くもちんまたねっ!」
「俺はここにいるから、ゼロくんは改札までセシルをよろしくね」
「了解っす」
そしてジャックんちを出発し、15分ほどで千葉駅に到着。
駐車場にわざわざ停めるのもなんだからね、一般利用用のロータリーに車を停めたくもんさんから亜衣菜を見送るように仰せつかった俺は、この後の銭湯用の荷物を車内に残し、亜衣菜とともに車を降りた。
ちなみに外に出たから、亜衣菜はまたあの
「じゃ、行くか」
「おうよっ」
そしてくもんさんを残し、俺と亜衣菜は駅改札目指し歩き出したわけだが、さすが連休中日、駅にはまだまだたくさんの人がいる様子で、活気に満ちていた。
おっきな駅だしな、そりゃそうなんだけどさ。
「しかし相変わらず、人と仲良くなるのはえーのな」
「ん~、可愛さの賜物?」
「自分で言うな自分で」
「えー、だってりんりんも昔いっぱい可愛いって言ってくれたじゃん?」
「昔の話だろうが」
「むぅ、じゃあ今は思ってないのー?」
「いや、思ってない、わけじゃない」
「ほんとっ?」
「おわっ! 近い近いっ」
そんな活気ある駅を進みながら、俺が亜衣菜がみんなとすぐに打ち解けたことを褒めるや、まさかのこいつは自分の可愛さ自画自賛したあげく、俺にも同意を求めてくるではありませんか。
いや、実際可愛いとはね、今でも思ってるから言葉にせずとも否定しなかった俺なわけだけど、俺の言葉にパッと嬉しそうに目が笑った亜衣菜が俺に顔を寄せてきて、伊達眼鏡の奥の大きな瞳で俺の顔を覗き込んできたから、さすがにそこは肩を押して引き離させていただきましたけど。
まったく……。
「聞かれればそりゃ答えるけど、こっちから「可愛い」って言って喜んで欲しいかどうかは別な話だろって」
「えー、減るもんじゃないじゃん?」
いや減るから。だいの俺に対する信頼度。
ギャルゲーなら確実に好感度ダウンの選択肢だろそれ。
……いや、ギャルゲーやらないから分かんないけどさ。
「昔は昔。今は今なの。
「はーい。でも、なんだかんだりんりんはりんりんだよね」
「は? 何が?」
「んー、人気者ってとこ」
「いやなんだそれ」
「バイト先でも人気だったもんなぁ」
「いやだから何の話だって……」
「でも、あたしはそんなりんりんを昔から知ってるんだけどさっ」
そしてとりあえず現状をちゃんと理解させるべく今と昔は違うってことを伝えたはずなのに、返って来たのは予想外の言葉たち。
「菜月ちゃんは大物だね。あたしが菜月ちゃんなら、みんなと上手く仲良くなれたかわかんないよ」
「…………?」
でも、やっぱり亜衣菜の言う言葉の意味はいまいち分からない。
だがそんな俺の気など知る由もなく、当の亜衣菜謎の苦笑いなんだけど。
「ま、とりあえずまた明日ねっ! りんりんと夢の国とか、昔に戻ったみたいだよー」
「いや、みんなもいるけどな?」
「同じ耳つけよーねっ」
「みんなでか? それはぴょんに言ってくれ」
「あははっ! じゃ、送ってくれてありがとねっ。バイバイっ」
「おう。気を付けてな」
とりあえず会話の流れは分からなかったが、改札前までやってきたところで俺は再び笑顔に戻った亜衣菜に合わせて手を振り返す。
そして三鷹行きの総武線ホームへ消えていくまでに何度かこちらへ振り返り、その度に手を振る亜衣菜に、律儀に手を振って……その姿が見えなくなったところで、お役目終了。
さて。
くもんさんを待たせてるし、俺も戻るとしますか。
で、戻ったら大和とあーすとまた一緒に風呂か。
あーすもあーすで、真実と話すこと多かったみたいだから、何話してたのか聞いてみようかな。
だいとも、風呂が終わって寝るまでの間、少しは話せたらいいな。
こんなにだいが近くにいないオフ会とか、初めてだし……やっぱりちょっとね、物足りないんだなぁ。
なんて、そんなことを思いつつ。
俺はさっさか来た道を引き返し、くもんさんの車のところへと向かうのだった。
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
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くもんの愛車はプ〇ウスです。
あ、本日ホワイトデーですが、特に何もありません。あしからず!
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