第295話 会話続くよどこまでも
「お、これ美味い」
「おっ! だろー?」
「それはぴょんが作ったんだよ」
「え? そうなの?」
「うん。きっと、気持ちがこもってるからでしょうね」
夕食という名の宅飲み宴会がスタートし、料理を作ってもらった側がまずは色々と手をつけ始めたわけだが、大和が最初に頬張ったつくねを「美味い」と言うと、隣に立つぴょんが堂々たるドヤ顔って感じで嬉しそうな顔を見せた。
その反応を見た、大和を挟んでぴょんとは反対側にいただいが大和にその作り手を教えると、それに大和が驚いて、さらにぴょんの喜びが増加。
そのぴょんを見てだいも嬉しそうだし、いいね、なんかこれ、笑顔の連鎖って感じ。
「たくさん作ったね〜」
「そだね〜〜、12人分ってなると、ほんと未知の領域だったよ〜〜」
「でも、たくさん作ってくれてありがとねっ」
そしてずらっと並ぶ料理たちにゆめも「すごいな〜」なんて呟きながら、アース共々本日のシェフたちを賞賛したり。
それを受けたジャックも、なんだかんだ2時間弱に及んだ調理の疲労の色はあるみたいだけど、やっぱ褒められたり感謝されたりして嬉しそう。
そんな穏やかな空気の中だからか、今日はみんなアルコール消費のペースも落ち着いているみたいだな。
そんなことを思いながら俺も缶ビールを口にしつつ。
「お、美味い」
「でしょでしょっ。いやー、あたしってやっぱ
俺もさっき亜衣菜が「私が作ったんだよ」って教えてくれただし巻き卵を一つ掴んで頬張ると、ふわふわの卵が口の中で溶けていく感じで、予想以上に美味かった。
そんな俺の言葉に亜衣菜も嬉しそうなご様子。
……しかしこんな顔——
「そんな風に笑ってくれるなら、昔からもっと料理しとけばよかったなー……なぁんて」
っと。
亜衣菜が料理作ることも、それを俺が美味しいって言うことも、それで亜衣菜が喜ぶことも、そんなことなんか一回もなかったなー、なんて俺が思った矢先、ほぼ同じようなことを考えていたことが分かる言葉が返ってきて、俺は思わず苦笑い。
その呟きはたぶん隣にいた俺にしか聞こえなかったと思うけど、テーブルを挟んで対角にいるだいに聞こえなくてよかった、とは思うけど。
でも「今更だよ」なんてね、そう思うのは事実だけど口にするほど野暮じゃないから、それは心の中で留めておくとしよう。
「わっ、この野菜炒め、めっちゃ美味いっす!」
「ほんとだ。すごい美味しいね」
「いやー、さすが師範が作ったのは別格かー」
「大げさでしょ」
と、俺が亜衣菜と何とも言えない会話をしていると、俺らとは違う一角にいるロキロキとくもんさんもみんなが作ってくれた料理に対し感嘆の声を上げる。
その言葉を聞いたぴょんが作ったであろう本人を師範なんてふざけて言ってるけど、言われた側もね、照れてるけどまんざらでもなさそうです。
ふふふ、俺の彼女は料理上手だろう。
「お兄ちゃん、これ食べてー」
「ん?」
そんな遠巻きに彼女が褒められる光景を見ていると、今度は俺の隣に料理の盛られた皿を持った妹が登場。
その皿の上にあるのは、どうやら唐揚げのようだ。
「菜月さんのアドバイス受けながら、お父さんの真似して作ってみた!」
「ほほう。どれ」
ということで、俺は妹が持ってきた唐揚げを一つ掴んで、食べてみると——
「お、似てる」
「あっ、ほんとっ?」
「うん、てか父さんのより美味いかも」
「えへへ、よかったー」
最後に作ったからだろう、温め直す必要もなくまだ熱さを備えていたその唐揚げは、ちょっとばかし揚げすぎな色合いではあったものの、それもまた香ばしくて美味かった。
そしてその味は、真実が言う通り実家で食べる父さんが作る唐揚げに似ていた気もするけど、そこに俺の好みを知るだいのアドバイスが加わったのか実家のよりも美味い気がした。
だからこそね、俺は素直にその味を褒めたんだけど、素直に笑う妹が見れてよきかなよきかな。
「いっちゃんはお料理上手ですね」
「いやいやっ。ゆっきーの手際もすごかったよー」
そんな兄妹団欒の空気の中、ひょいっと真実の持ってる皿の上から唐揚げを一つ取り、それをもぐもぐし終えたゆきむらも登場。
ちゃんと食べ終わってから喋るあたりにゆきむららしさを実感させられるけど、それよりも俺は前回の恐怖からゆきむらが片手に持つ缶チューハイを見て、少しハラハラしてしまったのも事実。
「今日は飲み過ぎるなよ?」
「あ……はい。先日はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
「迷惑ー?」
「あー、まぁ色々あったんだって」
そんなゆきむらを見たからね、俺は軽く釘を刺したわけだが、ゆきむらによる噛み痕が消えるのは4,5日かかったからね。
もう勘弁していただきたい。
でも俺に迷惑かけたって話が聞こえたのか、真実とゆきむらとは反対隣にいた亜衣菜がこの話に首を突っ込んできたけど、とりあえず詳細はスルーということで。
ゆきむらの名誉にも関わるしな。
「でも、元気出されたみたいでよかったです」
「え?」
「あ、いえ。すみません、予測の範囲の話です。気にしないでください」
そんな俺からの注意を受けたゆきむらが、今度は何やら俺に元気出てよかったなんて、まさか気づかれていたとはと少しびっくりなことを言ってくるではありませんか。
俺が「どういうこと?」的な反応したからか、当の本人はすぐに発言を撤回したけど……あのゆきむらが、思ったことを言いとどまるようになるとは……。
こいつも、変わったなぁ。
「そういやゆきむらは何か作ったのか?」
「あ、はい。あちらの餡かけ豆腐は私です」
「ほほう」
「取ってきますね」
ゆきむらの成長を感じつつ、ゆきむらも後半はキッチンに立ってたことから何を作ったかを聞いた俺の言葉を聞いて、ゆきむらは少し離れたところに置いてあった料理を取りに行く。
「はい。お口に合えば嬉しいです」
「お、さんきゅ。……うん、美味いよ」
「なら、よかったです」
そして持ってきてくれたそぼろ餡かけの豆腐は、優しい旨味が伴っていて美味。
そんな俺の賛辞に、薄らゆきむらの表情に喜びが浮かんだのが見てとれ、なんとなく俺もね、いい気分になったよね。
「ゆきむらが料理上手なのは、前から知ってたけどさ」
「え、お兄ちゃんゆっきーのご飯食べたことあったのー?」
「うむ。いつぞやのオフ会後、終電逃したゆきむらとセットでゆめとぴょんがうちに泊まってってさ、その時朝食作ってくれたのがゆきむらだったんだ」
「えっ、りんりんのおうちに3人とも泊まったことあるのっ!?」
「成り行きでな」
「えー、いいなー」
そんな喜んだ様子のゆきむらに、俺が前から料理上手だったもんなって話をしたとこで、それを知ったきっかけを真実が聞いてきたから、それに答える俺。
そしたらまたしてもそんな思い出を羨ましがる亜衣菜が出てくるわけだが、さすがにそこに君の出番はありません。
どんまい。
「今度またうちお泊りおいでよー」
「えっ!? またっ!?」
「いや、泊まるために行ったみたいに言うなおい」
そして俺が心の中で「どんまい」と思った直後のカウンター。
なんともまぁ語弊のある言い方をしてくるもんだからね、真実だけでなく言葉なくゆきむらも「むむ」って顔をしていたが、勘違いさせないでくれるかな!
まったく……。
「あははっ、でもこうやってたくさんの人と遊ぶの、楽しいねっ」
「ですねっ。それに皆さん優しいですし、お会いできてよかったですっ」
元カノと笑い合う妹ってのもそりゃもう変な構図だが、とりあえず話の流れが変な方向にはいかなかったことをよしとしつつ、さてじゃあそろそろだいと話してこようかなと、俺が動き出そうとした時。
「そういえば、今日はみんなジャックんちに泊まるみたいだけど明日は何するのー?」
「あっ、私夢の国に行きたいんですよ!」
何気ない感じでね、明日の予定を亜衣菜が尋ねた直後、事前に俺に行きたいところを告げていた真実が少しテンションを上げて自分の希望を発すると。
「おおっ! いっちゃんそれいいな!」
「いいねっ! せっかくこっち来たんだし、僕も行きたい!」
「混んでそうだけど楽しそうだね~」
真実の言葉が聞こえたのか、ある程度の料理をリビング側に運んで座っての食事モードになってたぴょんやゆめ、ダイニング側でロキロキと一緒にジャックとくもんさんと話してたあーすがそれに反応。
しかしこの発言に同意ってことは、やっぱあれか、特に予定は決めてなかったんだな、ぴょんは。
「えっ、行くなら私明日の朝また合流したいっ」
「夢の国、私も行きたいです」
「みんなで行くのも楽しそうね」
「この年なって大人数で行くことって、引率の仕事くらいだしな、面白そうだな!」
「皆さん行くなら俺も行くっす!」
そしてさらに続く、賛同の声たち。
俺は元々、真実に「行きたいって言えばみんな行ってくるんじゃない?」って言ってたくらいだから、もちろん真実が望むなら付き合う予定だったが、亜衣菜も参加したいって言うのは予想外だったけど、なんともまぁノリのいいメンバーだね、ほんと。
「俺はちょっと明日仕事してるから行かないけど、しずは行ってきてもいいよ?」
「ん~~、ちょっと人混みを思うとあたしもパスして家にいようかな~~。でもみんなは行ってきなよ~~」
あ、人混みが苦手って言うジャックは不参加か。
でもたぶん、くもんさんの仕事を今日休ませてしまった分なんだろうな、きっと。
「ジャックたちは残念かー。でも他が行けるなら、いざ10人で出陣するか!」
「嬉しいですっ」
「楽しんでおいで~~」
ジャックの本音的な部分をぴょんも察したようで、あえてそこは粘らずにじゃあ10人で、とぴょんの決定が下り、これで明日の予定も決定。
うん、せっかく東京来たんだしな、真実の希望が叶えられて俺も満足。……いや、夢の国は千葉だけど。
「行けるようなってよかったな」
「うんっ」
何はともあれ、妹が嬉しそうなことに安堵しつつ、真実の笑顔に少しほっこり。
そしてみんなも明日の予定が決まって、それぞれ夢の国の思い出や好きな乗り物をそこかしこで話し出し、宴会もさらに盛り上がる。
ちなみに今はリビング側でだいとぴょん、大和、ゆめが座って食事したりお酒飲んだりし、ダイニングのキッチン側ではくもんさんとジャック、ロキロキが立食形式で話してて、その反対側に俺と真実、ゆきむらと亜衣菜が同じく立食状態になってるんだけど……あれ? あーすどこ行った、と思ってたら。
「ねぇねぇゼロやん」
「ん?」
気づかぬうちに俺に接近してたあーすが、アルコールのせいか少し顔を赤らめつつ、俺のシャツを引っ張っていた。
いや、普通に話しかけろ。顔赤らめてシャツ引っ張って可愛いのは女の子だけだから。
とか、ちょっとそんなことを思ったけど。
「明日さ、ゼロやんちに泊めてくれない?」
「へ?」
「僕帰りの新幹線、明後日なんだよねー」
「いや、ホテル取ってなかったんかい」
「えー、だってせっかくみんなに会いにきたのに、それじゃ寂しいじゃん?」
「いや大人だろお前……」
「お願いっ!」
そう言って両手を合わせて俺に頭を下げてくるあーすに、俺はちょっとどう答えたものか返答に迷った。
うちに泊めれるのは精々が二人、昨日と同じくだいと真実を泊めると思ってたのだが――
「泊めてあげなよー。そしたら私は、菜月さんち泊まりに行くからっ」
「え、いや、それはさすがに本人の了承取ってからじゃないと――」
「大丈夫だよっ、たぶん!」
まさかの真実のあーすへの援護射撃が発生する事態に、俺は困惑を隠せない。
ってかこいつ、我が妹ながら見切り発車が過ぎないか……!?
「だいさんのお家、この前私も泊めていただきましたよ」
しかし、さすがにだいの回答なく決められないよと思う俺をよそに、先週不慮の事態とはいえだいの家に泊まることとなったゆきむらがさらに続き、「それならいけそうだね!」と勝手に盛り上がるあーすたち。
いやこいつら……え、何全員もう酔ってんのかよ!?
「ほーんと、仲良いギルドだねぇ。……あ、じゃあ私もりんりんち行っちゃおうか?」
「ええい、悪ノリすんなっ」
「あははっ、でもほんと、やっぱ【Teachers】は羨ましいやっ」
そんな俺が一人困惑しつつ、平常モードっぽいゆきむらや少し顔の赤い真実とあーすを見ながら、正直そこまで酔ってなさそうな亜衣菜に俺はツッコミをいれるわけだが、こうなってくると俺の方がマイノリティな感じがしてくるけど、違うよね……!?
「とりあえずちゃんと後でだいに確認取ろうな?」
「はーいっ」
仲が良いのはいいことだけど、親しき中にも礼儀あり、これはさ、大切なことだから。
で、俺はそろそろだいと話しに行きたいんだけど――
「ゼロやんちでお宝探ししないとだねっ!」
「むむ、ゼロさんのお家にお宝が……?」
「いや、なんもねぇよ! ゆきむらも、変な想像すんな!」
「え、りんりん変なのって何ー?」
「ああもう、お前は分かってて冷やかすな!」
「お兄ちゃん慌ててるーっ」
そのままそこにいたメンバーでの話はなかなか途切れず。
なんかもう多勢に無勢で俺以外が笑ってるけど、会話が続くとね、やっぱなかなかそこから離脱することも出来ないんだよね……!
根っこの部分でね、好き同士って想い合ってるし、オフ会が終わればまた一緒にいる時間が増えるのは分かってるけど。
それでもやっぱ、だい成分は補給したい。
そう思ってはいたのだが……。
気が付けば俺は
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
続きのイベントが見えてきましたね!
(宣伝)
本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます