第292話 自分の敵は自分っていうのはきっと真理

「うしっ、じゃあそろそろ夕飯作り始めるかっ!」

「そうね。人数も多いし、そろそろ始めないとね」

「あっ、あたしも手伝うでありますっ」

「自分ちのキッチンだしね~~、あたしも~~」

「俺も手伝うっす!」

「あ、じゃあ僕も手伝うよー」

「私も手伝いますっ」

「いや、多すぎんだろー。キッチンは26歳以上の女性限定でーす」

「ええっ」


 そしてぴょんと大和のいじりを含めたたい焼きおやつタイムを終えた、16時30分頃。

 しばらくほんと雑談が続いてた感じだけど、この間俺とだいの会話なし。

 みんなでいる時は元々二人での会話って多いわけじゃないけど、それを差し引いても、なんかもうね、逆に笑えるよね。

 まぁさっきの件も、気にしてるのは俺だけなんだろうけどさ……。


 っと、そんなおれのことは置いておいて、ぴょん仕切りの下だいの指導による夕飯作りが始まりそうになった中、ぴょんの伝えた制限条項により、手伝いますアピールしたメンバーたちらのキッチンに向かおうとした足にストップがかけられた。

 たしかにだいとぴょん、ジャックと亜衣菜の4人もいたらそれだけでキッチンもいっぱいいっぱいだろうけど……女性限定って言われた手前、年齢はクリアしてるロキロキも引き下がってるみたいだね。

 他にも引き下がったのが、あーすと真実とゆきむら。

 ゆきむらは発言こそなかったけど、普段から料理してる子だからな、役に立つと思ったのだろう。


 とはいえ、ダイニングテーブルのとこに座ってりゃキッチンの方は見えるからか、ゆきむらと真実は、この家に来た当初男たちで座ってたダイニングの椅子に座って、料理作りを見物する様子。

 となると、女子チームはみんな……じゃないか。


 ただ一人、そちら側に参加する様子を見せなかったゆめは、俺らと同じくリビング側にいるんだよね。


「ゆめはあっち参加しなくていいのか?」

「ん~、わたしは食べる側でいいや~。ぴょんみたいに、料理作ってあげたいって思う相手もいませんからの~」


 ……おおう、地雷だったか。

 何気なしに声かけたけど、その返って来た返事に俺はリアクション取れず。


 でもまぁ、作ってあげたい相手ができたら頑張るってことなんだろうし、うん。

 女の子なんだからやりなさいよ、なんて言えるわけもない。

 そういうのはほら、時代遅れだろ?


「あ、じゃあ待ってる間ゲームでもするかい?」

「お、何かあるんすか?」

「しばらく動かしてないけど、この家に越す時にこんなこともあろうかと……ほら。とりあえず動くか、接続してみるね」


 そんな、料理を作るでも見学するでもないメンズチーム+ゆめの6人に向かって、「ゲームがあるよ」と言ってくるくもんさん。

 そしてくもんさんが引っ張り出してきたのは、最近ではめっきり出番のなくなった、家でテレビに接続するタイプの家庭用ゲーム機と、ハンドル型のコントローラー4つ。

 となれば、やるのはあれってことか!


「おおっ、懐かしいですねっ」

「俺、やるの初めてっす!」

「あ、わたしはいいです~」

 

 そしてゲーム操作のためのコントローラーを自分で持ち、他のコントローラーをあーす、ロキロキ、ゆめと渡そうとして、ゆめが断ったので代わりに渡されたのは俺。

 たぶん、俺と大和で俺に渡したのは、俺がゆめの隣にいたからだろうけど。


「ゆめはレースゲームとかやんないのか?」

「専門外だよ~。格ゲーとかならやる感じかな〜」

「え、意外」

「え~、ゆめちゃんはこう見えてけっこう武闘派なんだぜ~?」


 そして俺がゆめに断った理由を聞くと、どうやら同じ任〇堂のゲームでも、カートで競うより、キャラ本人が戦う方のゲームがお好みの様子。

 そう言って全然様になってないファイティングポーズをゆめがとったわけだが、「シュッシュ」と拳を繰り出すフリをするのはね!

 相変わらずあざと可愛いです、ありがとうございます。


「あ、そっちもあるけどやる?」

「ん~、でもとりあえずせっかく起動させたので、そっちやってくださ~い」


 そんなゆめの言葉を聞いたくもんさんが気を遣ってゲームを変えるか聞いてきたけど、さすがにくもんさんには気を遣うようで、それは丁重に断るゆめであった。

 話し方のせいで、あんま丁重感伝わりづらかったけど。


「あっ、マ〇カー! 懐かしいっ! あたしもやりたい!」

「ダメよ。亜衣菜さんはこっち」

「ええっ、ちょっとだけ……」

「ダメ」

「うう……菜月ちゃんスパルタだよう……」


 そして懐かしのオープニング画面のBGMが聞こえたのか、キッチンにいるナンバー1ゲーマーがこちらに反応を示すも、その望みは指南役によって木っ端微塵。

 ……どんまい亜衣菜。


 そういや、このハードの1個前のハード、学生時代のアパートにあったからよく亜衣菜と勝負してたっけな。

 たしかあの時は……6,7割で亜衣菜が勝ってたっけ。

 ううむ、負の記憶が蘇ったが俺もやるのはその頃以来だし、うまくできっかなー。


「負けた奴が俺と交代なっ」

「おっけぃっ」

「えっ、じゃあ俺確定じゃないっすか!」

「いや、俺もやるの10年ぶりレベルだぞ?」

「あ、じゃあゼロさんに勝てるよう頑張ってみるっす!」

「じゃ、最初は一番シンプルなコースでやってみよっか」


 ということで、ゆめと大和を観客に、いざ第1レースがスタートし……。


 曲がる時にコントローラーと一緒に身体も曲がるあーすに笑ったり、アクセルとブレーキを間違えて全然動かず困惑するロキロキに笑ったり、真剣な表情でドリフトからのターボをパーフェクトに決めていくくもんさんに唖然としたりと、初っ端から色々笑いだらけの中、レースが終了。

 もちろん勝ったのはくもんさんで、2位が俺、3位があーす、4位がロキロキという結果になりました。

 ちなみに俺は、ザ・無難って感じにやったからね。


 そしてロキロキと大和が交代した第2レースは、意外にもかなり上手かった大和が善戦の2着で、勘を取り戻したあーすが俺に甲羅をぶつけた隙を突いて最終ラップで逆転し3着。

 1位は言わずもがななので割愛するけど、悔しくも俺がロキロキと交代する結果となりました。


「うしっ、次は上手くやるっす!」

「おう、頑張れよ」


 で、交代する時ロキロキに笑ってコントローラーを渡した俺だけど……なんていうかね、その純粋なまでの屈託のない笑顔が受け止めきれなくて、俺はちゃんと笑ってコントローラー渡せたか、怪しかったかもしれない。


 って、いつまで引きずってんだって話なんだけどさ。

 俺が一人気にしてるだけなんだから、さっさと忘れてしまえばいいだけなのに。


 ……なんか、うまくいかねーんだよなぁ。


「コーヒー飲みたくなったんで、ちょっと外で自販機探してきます」

「あっ、それなら俺が淹れるけど」

「いえいえ、くもんさんはみんなのお手本ですから、やっててください」

「そうかい? 自販機は外に出て、右手に少し行くと公園があるんだけど、そこにあったと思うよ」

「ありがとうございます。じゃあちょっと行ってきます」


 ということで、ちょっと外の空気が吸いたくなった俺は、コーヒーを口実に少しこの場を離れることに。

 いや、コーヒー飲みたいのは間違ってないから、100%嘘ってわけでもないんだけどさ。


「いってらっしゃいっす!」

「気を付けていくんだよっ」

「あっ、倫! 俺にもブラックよろっ」

「パシリかっつーの」


 そしてスマホをいじってるゆめは俺をスルーだったけど、くもんさんとゲームで盛り上がる3人の見送りを受け、俺はスマホと財布だけ持って、いざ外へ。

 外出る時にキッチン側の方も見たけど、何やらみんな包丁を持つだいの方を見てたから、あっちはあっちでだいが色々教えてたのだろう。

 誰も俺に気づくことなかったのは、逆によかったかもな。


 じゃ、とりあえずちょっと外で切り替えよっと。

 ロキロキは何も悪くないのに、このままだと俺の都合でうまく笑えないままな気がするから。とにかくそれだけは避けないと。


 人生歴も、先生歴も、LA歴も、全部俺が上なんだからね。

 ここは俺がしっかりしないとな。


 そんなことを考えながら、エレベーターで階下へ降り、俺はくもんさんが言っていた自販機の方目掛けて、一人知らない街を歩いてみるのだった。






 目的の自販機は、すぐに見つかった。

 そしてブラックの缶コーヒーを買ってすぐ引き返……さない。


 くもんさんが言ってた通り自販機があったのは、ベンチが少しとブランコと砂場があるくらいの、南北に入口がある小さな公園内。

住宅街の中にあるから、日中とかなら子どもが遊んでたのかもしれないね。とはいえ、今はまだ夕日を感じるような時間ではなくとも、17時が近いからか遊んでる子どもの姿はなし。

 なのでこれ幸いとね、俺はちょっとゆっくりしていくべく、公園内のベンチに腰を掛けたのだ。

 ちなみにまだ大和のコーヒーも未購入。


「……ぴょんとは違う人間だってのは、分かってるけどさ……」


 そして誰もいないのをいいことに、気づけば自分の心の声がぽつりと発露。

 もちろん言い聞かせたいのは……自分の心。

 今俺が倒すべきは、この心、だから。


「別に羨ましいわけじゃないけど……」


 いや、これは嘘だな。


 ぴょんが好きそうだったからカスタード選んだって大和が言った時のぴょん、嬉しそうだった。

 そんな風に自分のしたことで彼女が喜んでくれたら、そりゃ彼氏としては嬉しいだろう。

 その後付き合ってることがみんなに知られて、恥ずかしそうにしつつも大和との距離を詰めたぴょんも、いいなぁって思ったし。


 そりゃ俺だって、だいとぴょんが違う人間なのはよく分かってる。

 というか会った時から、いや、ギルドにぴょんが入って来た時から違うタイプだってのは知っていた。

 知っていたけど。


 ぴょんみたいに彼氏の行動にみんなの前でも嬉しそうにするとか、そんな風にして欲しいと願ってしまうのは、俺のエゴなのだろうか。

 

 もちろんさ、出会った時のだいがツンデレっつーか、みんなの前ではクールな仮面かぶったようにしてたのは知ってるし、あいつが人前でわがまま言うことにトラウマがあるのも知っている。

 それはよく分かってるし、だからその分二人きりの時は甘えてきてくれてるんだろうし、そうやって甘えられるのが俺も嬉しい。

 今まではこのオフ会内外での差があれば十分だった。たぶん、今日みたいな出来事も、笑い飛ばせてた気もする。


 でもどうして今日に限って、こんな風に思ってしまってるのか。


「……これだったら見た目通り女だったほうが、まだよかったなー」


 ……こんなこと思うのは、最低だって分かってるけど。


 これまでと今日で何が違うかって言ったら、明確な違いは一つ。


 初めてロキロキとLA内で会った時、だいは落ち込んでいたっつーか、不安を覚えていた。

 だからそれを俺が溶かした。


 でも昨日、初めてロキロキとパーティ組んで、その実力を理解し、ロキロキ自身はいとも簡単にだいの中のイメージを向上させてた。

 ゲーム内でも、今日会って話しても、それがロキロキの人間性ってのは俺だって理解してる。

 さっきだって、だいに半分こを持ちかけたのも俺とだいの会話が聞こえたからこその善意だったって思うし。

 そして、結果的に見れば、あれがだいの性格を考えれば最適解だったんだろう。

 ロキロキの善意と選択が、偶然的に上手くいった、そういうことなんだと思う。


 でも俺はあいつの彼氏で、あいつの好きなもの知ってるわけじゃん?

 だったら彼女に好きなものあげたいって思うじゃん?

 ……俺、間違ってるか?


 ロキロキに悪いところは何もないし、俺の中で何か引っかかってるのは、嫉妬以外の何者でもないって分かってるけどさ……。


「狭量かなぁ……」


 だいに笑って欲しかった、喜んで欲しかった、ただそれだけ。

 でも笑わせたのが俺じゃない、ただそれだけ。


 頭の中を整理させれば、とどのつまりこういうこと。

 あの屈託ない少年のような笑顔を純粋に嫌うことが出来れば、もう少し気が楽だったのだろうか。


 ……出来るわけないよな。

 悪意のない相手に敵意向けるなんて、クズすぎるし。

 それは人として最底だ。

 ロキロキだって、今日初めて俺らとリアルで会って、まだ俺らのこと分からないことだらけだろうから、そんなあいつを邪険にすることは出来ない。

 

 そんな俺は俺じゃない。

 そんなことしたら、それこそだいに見限られそうだし。


 ……結論、俺が慣れるしかないんだろうな、だいに。

 知り合って7年もあるんだ。

 むしろもっとドンと構えろって話か。

 

 ……亜衣菜やカナだったら、誰がいても俺にくっついてきてくれて彼女アピールしてくれたから、そういうのが普通って思ってただけなんだろう。


 うん、だいはだい。

 そして俺はあいつの彼氏。

 こんなことでうだうだ悩んでる方が馬鹿らしい。


 こんな風に女々しく、うじうじしてたらさ、またあの時みたいに――


「あっ、ゼロやんいた~」

「え?」


 ようやく気持ちの整理もついて、このままじゃあの日怒られた日みたいに、あいつに怒られるぞって一人苦笑いした矢先。

 ちょうどまさしく、今思い出していた人物の声が聞こえたではありませんか。


「なかなか戻ってこないから、わたしも来ちゃったじゃ~ん」

「え、もうそんな……って、おおう」


 「なかなか戻ってこない」って、そんな時間経ってると思わなかったけど、気が付けばね、もう夕日がその存在感を示し始めてるではありませんか。

 そんな時の経過に驚く俺の隣に、いつかのあの日、うじうじとした俺を怒ってくれた、黙ってればお嬢様育ち全開の、可愛らしい女性が腰かける。


「せんかんがくもんさんに勝ちたいって張り切ってるからさ~、わたしもちょっと暇だったんだよね~」

「あー、大和のやつそんな燃えてんのか」

「ちなみにロキロキは上達早くて、さっきあーすに勝ってたよ~」

「ほほう。すごいセンスだな」

「元々ゲーム好きなんだろうね~」

「まぁ、俺らもそこは人のこと言えない集まりだと思うけど」

「あはは、それもそっか~」


 そして俺の隣に腰かけたゆめは、自然体に笑っていた。

 夕日が差し込む初秋の夕暮れ。とはいえ、まだまだ晩夏の気配は絶えることなく、肌に感じる温かさは暑いと言っても過言ではない。


「考え事~?」

「え、ああ。まぁそんな感じ」


 優しい夕日を浴びながら、少しだけ首を傾げさせてこちらを向くゆめの表情は、俺を心配するような色を浮かべるわけでもなく、本当に暇だったから出てきたって感じで、それが逆になんだか心地よい、そんな気がする。


「今カノと元カノが一緒にいるんだもんね~。なんだかんだ居づらいか~」

「あ、あはは……」


 だが、どうやらゆめが予想した俺の悩みの種は見当違いだったんだけど……その件についても困ってないって言ったら嘘になるから、それを否定することもなく、とりあえず笑う俺である。


「わたしも彼氏いた頃、元カレと会っちゃった時気まずかったな~」

「あ、そんなことあったの?」

「うん。もう両方元カレだけどね~」

「…………」

「いやそこは笑うとこでしょ~?」

「え、あ、ごめん」

「ダメだなぁ、ゼロやんは~」

「うっせぇなぁ」


 そして昔を思い出すかのように話し出したゆめにうまく合わせられなかった俺に出されるダメ出し。

 でも、そのダメ出しはゆめ持ち前のあざとさのない、自然な感じで伝えられて、気づけば俺もゆめも笑っていた。


「でさ〜、その時元カレがわたしに話しかけたせいで彼氏が嫉妬しちゃってさ~、ちょっとめんどくさかったな~」

「嫉妬?」

「うん、嫉妬。まぁ気持ちは分かるけどね~、わたしも逆の立場だったら、同じだったかもしれないし」

「……ふむ」


 ちょうど、自分の中では整理がついた気がしてたけど。

 こういう相談というか、俺の愚痴みたいなの聞いてもらうのは、もしかしたらギルド内で一番恋愛経験豊富なゆめが適任なのかもしれない。

 ……いや、年下の女の子に何頼ってんだって話なんだけど、でも。


 ちょっと話だけ、聞いてもらおっかな。


 そう思って、おそらく思い出と向き合いながら、ベンチで足をぷらぷらさせる可愛らしい女性に向き直る。


「あのさ」


 そして、こちらを向いたゆめと目を合わせながら、どんどんと落ちていく夕日の中、自らの口を開くのだった。







―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 ゆめのターン!!

 

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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!

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